2023年03月31日

永遠の都にて

私は3月末をもって退任するものの、約1年前から3月末にプライベートでの旅行を予定しているとお話ししました。実は私は今、永遠の都、Romeにいます。

Romeは、2019年7月以来。ただ2019年はあくまでも仕事でしたから、ゆっくりと観光することはできませんでした(一方で、イタリアにおけるデジタルインボイスに関する取り組みが、その後のEIPAの活動につながったという意味で、極めて重要な出張となりました)。

今回はプライベート(命の洗濯・特別版)ということで、前回は外から眺めるだけだったColosseoVatican Cityをじっくりと見学しています。ColosseoやVatican Cityもただただ圧倒されるだけなのですが、私が一番圧倒されるのはPantheonです(今回は宿もPantheonが見えるところにしました、笑)。Pantheonは2世紀(118~128年)に建造された巨大なコンクリートの建物です。ドーム上の屋根の頂上にOculusという開口部があることで有名です。

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2世紀といえば日本では弥生時代ですが、そんな時代にここまでの巨大な建物が作られたということに驚かざるを得ません。さらに、その建物がそのまま現代に残っていることは実に驚異的です。まさに永遠の都を象徴する存在です。

2世紀にPantheonを建造したのは古代ローマの五賢帝の一人であるハドリアヌス帝です。ハドリアヌス帝と同じように歴史に名を残すことはできそうにありませんが(笑)、技術が人間の進化を加速している、場合によって技術が人間の進化を超越しそうなこの時代に、自分が何をすべきなのかを考えます。

2010年代からAIの第3次ブームが到来しましたが、ここ数ヶ月間でChatGPTに代表される新たな波がやってきているように思います。一方で、ChatGPTは、万能ではありませんし、いわゆる強いAIではありません。あくまでも、こういった入力があったら、こういった出力をすればいいということを、膨大なデータから学んでいるだけです。猫とは何かを答えることはできますが、猫を理解しているわけではありません。知識は持っているが、知能や意識は持っていない。

一方で、では人間が普段どこまで知能を発揮しているのか、という疑問もあるかと思います。人間も一定のデータに基づいて判断をしているだけなのであれば、実はそれは弱いAIと変わりません。例えば、Romeで美味しいご飯を食べようとすると、今時はインターネット上の情報を頼ることになります(日本では食べログですが、海外だとTripadvisorが多いですかね)。Tripadvisorの情報を元に、食べに行くお店を選ぶ。そこに人間の創造性があるかというと、どうなんでしょうね。

そういった意味では、今のAIは所詮弱いAIでしかないけれども、実は人間の活動の90%程度はカバーできるのかもしれません。

Pantheonは永遠の都の過去約2,000年を見つめ続け、今でもその威容は健在です。おそらくこの先も永遠の都のシンボルであり続けるでしょう。一方で、人間の1,000年後、1,000年後と言わず100年後でも、どうなるのでしょうか。正直どうなるのかわかりませんが、それが娘やさらにその先の世代にとって明るいものになるよう、まだまだやるべきことはあるように思っています。

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弥生社長の愚直な実践は、今回で更新を終了します。これまで長い間、愛読 & 応援を有難うございました。今後は場所を変えて、何らかの発信を続けていきたいと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 14:51 | TrackBack(0) | パーソナル

2023年03月27日

最終出社

3/24(金)は、私にとって忘れられない一日となりました。これまでにお話ししたように、私は3月末をもって退任しますが、実は約1年前から3月末にプライベートでの旅行を予定しており、結果的に3/24が弥生の社長としての最終出社日になりました。

私の最終出社日の仕事は概ねオフィスの片付け。さすがに15年もやっていると、色々なものが溜まります(とはいえ片付けてみると90%はいらないものなんですけどね)。17時過ぎ、片付けも終わっていないのですが(苦笑)、チーム弥生の皆さんによる送別会を開催していただきました。新型コロナウイルス禍の影響を受けて約3年になりますが、弥生の本社にこれだけ人が集まったのは約3年ぶりになるのではないかと思います。もちろんリモート勤務や全国のチーム弥生もいますから、Zoomでつないでの送別会。

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私自身最後は泣くかと思いましたし、おそらくそれが期待されていたようにも思いますが、結果的には明るい送別会にすることができました。札幌や大阪でもそうですが、心のこもったプレゼントもいただき本当に嬉しかったです。ここ数年、Yosettiというオンラインの寄せ書きサービスを利用することが増えましたが、人数上限の300人を超えてしまったとか。私の人生の宝物になります。

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最後にご挨拶をする機会がありましたが、もうすでに多くのことを語り尽くしたため、最後に伝えたかったのは、ただ一つだけ。それはチーム弥生の皆への感謝の気持ちです。15年間、皆が支えてくれたからこそ、今の自分が、そして弥生があります。あれ、その場では泣かなかったのですが、今こうして書いていると少し涙ぐんでしまいます。本当に有難う。
posted by 岡本浩一郎 at 17:57 | TrackBack(0) | 弥生

2023年03月24日

卒業式

まもなく卒業する私ですが、昨日は卒業式に参加してきました。私の…ではなく、娘の卒業式です。

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小学校の卒業式が3年前。新型コロナウイルス禍の影響で、親は小学校の卒業式にも、中学校の入学式にも参加できませんでした。娘の中学校生活は新型コロナウイルス禍の影響を受け続けた3年間。入学してからも当初は登校できず、登校できるようになってからも少人数に分かれてなど様々な制約を受けてきました。楽しみにしていた研修旅行も、2度の延期を経て結局行くことができませんでした。

それでも制約はありつつも、素晴らしい先生方の指導の下、仲間たちととことん満喫できた中学校生活だったのではないかと思います。中止になった研修旅行の代わりの小旅行を生徒たちで企画して実現しました。また、3年生には無事に修学旅行に行くこともできました。娘の部活でArkansasで開催されたロボット競技の大会に出場できたことは、引率役兼コーチ兼通訳兼買出係兼何でも屋として同行した私にとってもいい経験になりました。先日は今シーズンの日本大会が私の母校で開催され、部門賞を受賞することができました(私としては娘に母校を見せられたのが嬉しかったです)。親ばかなのは重々承知ですが、素敵な人に育ってくれました。

今回の卒業式は、ようやく親も参加することができ、娘とその仲間の中学校3年間での目覚ましい成長を改めて実感しました。娘の学校は中高一貫校なので、卒業しても、皆同じ高校に進学します。ですから、今日でお別れといったしんみりした部分はなく、安心して見守ることができました(でもやっぱりうるっときましたが)。

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さて、私のではなく、と言いましたが、実は先日、札幌で私の卒業式を開催していただきました。今週月曜日は札幌で、そして水曜日は大阪で、皆さんから心のこもった、なおかつ、札幌/大阪それぞれの個性のある送別の場を設けていただきました。本当に素晴らしい仲間と過ごしてきた15年間。卒業証書も感謝状も嬉しいのはもちろんですが、この15年間という時間そのものが私にとっての宝物です。
posted by 岡本浩一郎 at 16:28 | TrackBack(0) | パーソナル

2023年03月22日

これから

挨拶回りの中でもよく質問をいただくので、私のこれからについて少しお話ししたいと思います。私は4月以降も一定期間は、弥生の顧問として活動します。顧問って何?という感じですが、私的には、必要なことを必要なだけ活動する、と理解しています。必要なこととしては大きく二つの領域があります。

一つ目は、弥生が引き続きしっかりと活動できるよう、しっかりと引継ぎをすること。4月5月を中心に、会計事務所への挨拶回りということで、全国を回ります(なお、この関係で4月は東京にいるタイミングが限られているため、今いただいているアポのご依頼については5月以降になる可能性があります。ご理解いただければ)。弥生の各事務所にも普通に出没しますし、弥生の皆が何か相談したいだったり、あるいは単純に飲みに行きたい(笑)という時にお応えするのも顧問の役割だと思っています。二つ目は、デジタルインボイス推進協議会(EIPA)の活動です。ご承知のように今年10月にはインボイス制度がいよいよスタートします。今回弥生のリーダーとしてのバトンはこの春に渡すわけですが、インボイス制度が円滑に、なおかつ単なる法令改正として済ますのではなく、業務デジタル化の大きなチャンスとできるように、インボイス制度のスタートまではもう少し関わり続けたいと思っています。

とはいえ、必要なことを必要なだけ、の必要は徐々に減ってくると思いますし、結果的に6月ぐらいからはだいぶ自由な時間が増えるのではないかと思っています。15年間走り続けてきたので、少しは骨休めをしたいと思っています。ただ、何もしないで骨休めというよりは、この機会にしっかり勉強をしたいとも思っています。実は昨年夏から、娘がクラスメートのお父さんを講師にAIを学ぶことになったので、私も参加させてもらいました。一から体系的に学ぶということで、とても有意義な学びになったのですが、レクチャー&少し自分でもいじるだけでは、なかなか自分のものにはなりません。一度しっかり時間をとって納得のいくところまで取り組んでみたいと思っていました。最近はChatGPTが話題になっていますが、エンジニア出身としては、やはりその仕組みを自分なりに理解したいと思っています。

ということで、顧問として活動しつつ、骨休みもしつつ、勉強もしつつ。貧乏性なので、早いタイミングでまた何かをやりたくなってしまう可能性(リスク?)も十分にあるのですが、今の予定では、来年の頭か遅くとも来年の春ぐらいに本格的に再始動しようと思っています。現時点では、どんな領域で何をするのかは全くの白紙です。おそらく色々とお声がけはいただけると思いますが、それらの中で、私が日本の将来に最も役立つことができることを選択したいと思っています(ただ念のためですが、よく言われるものの、政治の世界に踏み込むつもりは全くありませんので、その点は明言しておきます、笑)。ビジネスをしていると「ご縁」を感じることは多々あるとお話ししたことがありますが、おそらくこの先、ああこのために私は弥生を卒業することになったのだと思えるご縁があるのではないかとワクワクしています。
posted by 岡本浩一郎 at 22:05 | TrackBack(0) | パーソナル

2023年03月20日

圧倒的感謝

先週から会計事務所を中心に、今月末での退任のご挨拶にお伺いしています。いただく反応としては、びっくりしました、驚きました、というのが圧倒的です。確かに15年間やってきて、特にここ5年は、退任を匂わせるような発言を控えてきたというのもありますから、まだまだ続けるのではと思われていても不思議ではありません。

今回本当に有難いと感じているのは、訪問先の皆さんから、弥生にはずっと支えてきてもらった、という感謝を伝えていただけていること。感謝しなければならないのは、もとよりこちら側なのですが、それでも弥生があって良かったと言っていただけることは本当に嬉しく、有難いことです。事業者のお手伝いをという想いを弥生と共有するパートナーとして、一緒にお客さまを支えてきた会計事務所の皆さまには感謝しかありません。弥生PAP会員の数も12,000を超えるところまで増えており、全てのPAP会員をお伺いして直接お礼を申し上げられないのは残念ですが、それでも今後4月から5月にかけて全国の会計事務所をお伺いする予定です。なんでうちには来ないの、というパートナーの皆さま、担当営業にお申し付けいただければ、スケジュールを調整致します。複数拠点での利用など、より高度な案件の導入を支援いただいているビジネスパートナー(YBP)の皆さまにも本当にお世話になりました。インボイス需要でかなりお忙しい時期だと思いますが、4〜5月にお会いできることを楽しみにしております。

感謝したい方はまだまだいらっしゃいます。家電量販店の皆さま、弥生と家電量販店をつないでいただいているソフトバンクさん、家電量販店の売り場を見れば、ああやっぱり弥生がNo.1だよねという売り場作りをお任せしているフィールド・スタッフの皆さま、主要家電量販店の店頭でのお客さまのお手伝いをお願いしているデモ・スタッフの皆さま。クラウドアプリのお客さまは増えつつも、デスクトップアプリにもまだまだ根強いニーズがあります。同時に、スモールビジネス向けの会計ソフト、業務ソフトといえばやっぱり弥生だよね、というブランドは、日頃多くの方が利用される家電量販店において、弥生が明らかなNo.1としてブランドを確立できているからこそです。家電量販店は、地域に密着した私たちの生活に欠かせない生活インフラであるということは、新型コロナウイルス禍の中で再確認されたように思います。

そしてもちろん、お客さまにも感謝です。パートナーの数と比較しても2桁も規模が異なりますので、直接お礼を申し上げることは困難なのですが、お客さまなしには弥生は成り立ちません。弥生のビジネスの原動力であることは言うまでもありませんが、同時に私自身をドライブする原動力でもありました。私が弥生の社長に就任した2008年。その夏に始めて家電量販店の店頭(地元のヨドバシカメラ マルチメディア横浜店)に立ちましたが、一番最初に弥生会計 08 スタンダードをお買い上げいただいたお客さまのことは今でもよく覚えています。起業直後ということで、会計ソフトを買うかどうか迷われていましたが、私が弥生の社長であることをお話しすると、「これも何かのご縁だから」と即決し、お買い上げいただきました。私の指導役としてスタッフが同行していたのですが、彼の手前、実績を上げられて大変に助かりました(笑)。以降、何年にも渡って繁忙期を中心に家電量販店でのイベント等を開催してきましたが、多くのお客さまにご参加いただき、それが実は私自身の励みにもなりました。

起業イベントなど様々な機会でも多くのお客さまとお会いすることができました。今をときめく日本のユニコーン圧倒的No.1の某社(バレバレ?)の創業者には、「弥生しかないでしょ」と言っていただきました。おそらく今は事業の成長と共に弥生は卒業されていると思いますが、その成長を支えることができたことは弥生の誇りです。また、Twitterなどでも様々なお客さまとやり取りすることができました。

本来はお客さまへの感謝の念で締めくくるべきだと思うのですが、このような機会もありませんので、今回だけは我儘を言わせていただくと、何よりも誰よりも感謝したいのは、弥生の社員の皆さんです。皆さんなしには弥生のこの15年間はありませんでした。皆さんと共にチーム弥生の一員として、そして皆さんのリーダーとして一緒に15年間の航海を続けることができたことは、本当に幸せなことでした。私がチーム弥生に加わった時点での社員数は400名ちょっと。カスタマーセンターを中心に契約・派遣社員が多く、正社員はわずか160名ほどでした。それが直近では、社員数は900名強、うち正社員が700名強とチーム弥生は大きく強くなりました。

様々な形で弥生を支えていただいた皆さま、本当に有難うございました。今後とも弥生を宜しくお願い致します。
posted by 岡本浩一郎 at 14:49 | TrackBack(0) | 弥生

2023年03月17日

やり残したこと

道は永遠に平坦にならない。山を越えればまた山。弥生にとっての山道はまだまだ続くわけですが、正直にいってやり残したことも、それこそ山ほどあります。

代表的なところでは、弥生シリーズのさらなる進化。弥生シリーズには、デスクトップアプリ(現行は弥生 23 シリーズ)とクラウドアプリ(弥生オンライン)があります。位置付けとしては、さくさく使え、機能も充実しており、税理士といったプロにもご満足いただけるデスクトップアプリに対し、気軽に使い始めることができ、誰でも簡単に使えるクラウドアプリといった(あくまでも目安ですが)違いがあります。15年前には影も形もなかった弥生オンラインを0から立ち上げ、多くの方にご利用いただけるようになったことは大きな成果だと思っています。特に個人事業主の方を中心に、今や新規ユーザーはクラウドアプリの方がデスクトップアプリを上回るようになっています。

お客さまは多様であり、そのニーズも多様。その多様なニーズにお応えできるよう、デスクトップアプリとクラウドアプリという選択肢を提供する。ただ、実はこれは、これまでの技術の限界の裏返しでもありました。これまでの技術では、さくさく使え、機能も充実しており、税理士といったプロにもご満足いただける、ということと、気軽に使い始めることができ、誰でも簡単に使える、ということを両立させることができませんでした。しかし技術は着実に(というよりは加速度的に)進化しています。技術の進化とともに、将来的には、デスクトップアプリとクラウドアプリを一本化し、誰でもが気軽に使え、さくさくと動き、同時にプロにもご満足いただける機能を提供できる次世代の弥生シリーズを提供していきたいと考えています。

実は、昨年リリースしたリニューアル版のやよいの給与明細 オンラインはその嚆矢となる存在です。お話しした通り、リニューアル版のやよいの給与明細 オンラインは、これまでとは全く異なる新しいクラウドプラットフォームを採用しています。ただ、現状では弥生が提供する価値領域のほんの一部が次世代に進化したに過ぎません。カバーする領域を広げ、何より、これであればプロでも使えるとお墨付きをいただけるようにしなければなりません。これにはまだ一定の時間はかかりますし、結果的にやり残したところということになります。

あるいは、お客さまからは直接的には見えない弥生の土台となるシステムの進化。弥生では基幹システムとして、2007年に導入した販売管理システムを利用しています。一方で、サブスクリプションビジネスに最適化されたZuoraというシステムの導入も進めてきています。つまり現状では二つの基幹システムを併用しているということです。これもZuoraに一本化していくということで、その移行は徐々に進んできています。ただ、これも道半ば(正確にいえば半ばというよりは後半戦ですが)。やはりやり残したところです。

他にも色々とやり残したことはありますが、最大はやはりアルトアです。データとAIで金融のあり方を変える。やればやるほど、これは間違いなく金融のあり方を変えるとの確信は強まっています。そして今年10月からのインボイス制度を契機にしたデジタルインボイスの普及など、価値を生む源泉となるデジタルデータも着実に広がっていきます。金融機関へのサービス提供(Lending as a Service, LaaS)は、オリックスりそな銀行と進んできており、次の案件も秒読み段階(希望的観測)です。ただ、少なくとも現時点においては、ビジネスとして自立し、継続的な成長の目処が立ったかというと、それはまだであると言わざるを得ません。

やっぱりこう書いてくると、卒業していいのだろうかと思ってしまいます。本当にいいのだろうか。迷いがないといえば嘘になります。確かにやり残しはあります。ただ、全くの未着手というのは流石にありません。それぞれに着実に前進し、案件によって、芽吹き始めたところか、蕾が膨らんできているところかという差はあれども、やがては大輪の花が咲くでしょう。もちろん、自らの手で花を咲かせたいという想いもあるのは事実ですが、弥生にしてもアルトアにしてもGoing concernとして続いていくためには、どこかでバトンを渡さなければならない。それがいつなのか。もとより最初から決まった正解はありません。予め決まった正解はない以上、正解を選ぶのではなく、自分たちの行動によって、正解にするということなのだと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 12:38 | TrackBack(0) | 弥生

2023年03月13日

15年間

前回お話ししたように、私は3/31をもって、弥生株式会社の代表取締役社長を退くこととしました。私が弥生の社長に就任したのが2008年4月。実に丸15年ということになります。早くバトンを渡さなければと思いつつ、山を登り続けてきたら、あっという間に15年経ってしまったというのが実感です。

私が弥生の社長に就任した2008年4月は、リーマンショックが今まさに起きつつあるという状況でした。弥生自体は堅調と言えば堅調でしたが、それまでの急成長から一転、成長の踊り場に差し掛かっていました。さらに前年の買収によって、多額の負債を背負った状態で、リーマンショックの大波を被ることになりました。今だからお話しできますが、2008年4月に社長に就任してからの最初の最優先課題は、金融機関に引き続き支えていただくことでした。弥生は堅調です、引き続き支えてください、とお願いする金融機関向けの説明会の中で、とある外資系金融機関の方に非常に失礼なことを言われたことを鮮明に覚えています。当時は腹が立ってしょうがなかったのですが、大人ですからぐっと我慢(笑)。ただ、今であればわかるのですが、その方は怖かったのだと思います。それまで自分が信じてきた世界が急速に壊れていく。その怖さが失礼な発言につながったのだと今だからこそ理解できます。幸いにして弥生の業績は褒められたものではないにせよ、大きく崩れることはない、少し時間はかかっても再び成長軌道に乗るだろう、ということを理解いただくことができ、金融機関の皆さんに引き続き支えていただくことができました。

その後明確な成長軌道に乗り始めたのが2010年。しかしその後、2011年3月11日は多くの方にとってもそうであるように、私にとっても一生忘れられない一日です。これまで体験したことのない揺れ。当時弥生の本社は神田にありましたが、天井から鉄筋が飛び出してギシギシと揺れ続けていたことを覚えています。当日は帰宅できず。夕方ぐらいまではまあしょうがないか、とのんびり構えていましたが、その後東北から入ってきた衝撃的な映像を目にして、これはとんでもないことになった、日本はどうなるんだろう、弥生はどうなるんだろう、と不安しかない状態で夜を明かしました。その後明らかになってきた原発危機の中で、家族を海外に逃がさないのか、と周りからも言われ、どうすべきか悩みました。

そういった意味で、2010年代の半ばから後半は比較的安定した事業環境でした。第2次安倍政権が2012年末に誕生し、政治が安定したということも大きいように思います。弥生の株主も2014年末にオリックスに変わり、大きな負債もなくなりました。クラウドアプリを続々とリリースすることもできました。

一方で、弥生にとっての良きライバルであるfreeeさんやMoneyForwardさんが登場したのもこの時期です。やっぱり楽はさせてもらえないということですね(笑)。先日freeeさんが10周年を迎えられたということで、その記念誌に協力をしたのですが、そこで私がfreeeさんの登場を予言していたことをお話ししました。これは紛れもない事実なのですが、とある取材で「今、もはや敵はいない。でもまた、やがてやってくると思っている。今はまだ名前も知らない会社が」とお話ししているのです。その後のfreeeさんやMoneyForwardさんの活躍は、弥生にとって大きな脅威ではありますが、一方で、デジタル化によって業務を効率化し、事業者が「お客さまに価値を提供する」という本当にやりたいことにもっと時間を割けるように、という想いでは実は同じ方向を向いていると考えています。

そしてこれはまだ記憶に新しいところですが、新型コロナウイルス禍が急速に広がった2020年、働き方も大きく変わらざるを得ませんでした。それでもお客さまを支え続けられるのか。ちょうど確定申告期でしたが、お客さまを支えるためにはカスタマーセンターを閉じるわけにはいかない。「あなたはお客さまを取るのか、従業員を取るのか」、と社内からも厳しい声がありました。新型コロナウイルス禍の中でもお客さまの事業が止まった訳ではない。むしろ、何をどうすればいいのか、お客さまも悩む中で、弥生へのお問合せはむしろ増えたということはお話ししたか通りです。

当初は変わらざるを得なかった働き方ですが、むしろ働き方をアップデートする機会になりました。今でも特に東京本社はリモート勤務が中心になっていますし、カスタマーセンターでの受電についても、必要があれば即座にリモートでの受電ができるようになっています。

思い返しても山また山。ただ山を登り続ける中で、より多くのお客さまにより多くの価値を提供できるようになりました。私が弥生の社長に就任した当時、ソフトウェア保守サービスのように継続的なサービスを提供しているお客さまの数は15万ちょっとでした。これに対し、直近では約90万のお客さまに対し、継続的に価値を提供しています。これには提供するソフトウェアがデスクトップアプリだけではなく、クラウドアプリにも広がったことも大きく影響しています。また、弥生が価値を提供する際のパートナーとなるパートナー会計事務所の数も3,500弱から直近では12,000を超えました

それでも、やはり道は永遠に平坦にならない。山を越えればまた山。弥生が成長すれば、それにともなって次に目指すべき山もさらに高くなるということです。
posted by 岡本浩一郎 at 19:17 | TrackBack(0) | 弥生

2023年03月09日

卒業

本日弥生からプレスリリースを行いましたが、私はこの度、3/31をもって、弥生株式会社の代表取締役 社長執行役員(およびアルトア株式会社の代表取締役社長)を退くこととしました。

私が弥生の社長に就任したのが2008年の4月。この3月で丸15年務めたということになります。私の弥生との関りの始まりは、2007年11月、コンサルタントとしてでした(その前は一ユーザーとして弥生に関わってきたので、それを含めれば23年近い付き合いということになります、笑)。コンサルタントとして弥生に関わって感じたのは、いい会社だけれども迷える会社でもある、ということ。当時の弥生は、それまでの急成長から一転、成長の踊り場に差し掛かっていました。そんなタイミングで社長として招聘されたのは、私にとっても人生の大きな転換点となりました。

招聘された際に言われたのは3年はやってほしいということ。私自身としても、引き受ける以上は途中で放り投げることはしない、だから3年は当たり前だと思っていました。一方で、まあでも5年ぐらいかな、とも思っていました。会社はGoing concern(永続が前提であるもの)であるのに対し、人はGoing concernではありません。ですから一人に極度に依存することは、場合によって害をなしかねない。適切なタイミングでバトンを渡していくことが自分の役割であると考えていました。実際に、このブログでも、社長の賞味期限ですとか、社長の引き際について色々とお話しをしてきました。それらはまさに自分事の悩みだったからです。

しかし言うは易く行うは難し。本ブログをまめにフォローいただいている方は、丸10年を前に一旦引き際発言撤回し、以降その種のお話しをしていないのをお気付きだったかもしれません。

経営者というのも奥深い商売で、一つの山を登るとまた次の山が見えてきます。ここでいう山は登る対象でもありますし、同時に、課題の「山」でもあります(苦笑)。実際問題、私自身これまでに二つほど大きな山を登り切ったと自負していますが、ホッとするのも束の間で、また次の山が見えてきてしまいます。バトンは渡さなければならない、でも、今ここでという訳にはいかない。この山を登り切って、道が平坦になったら渡そう。

15年間やってきてわかったのは、道は永遠に平坦にならないということです(笑)。山を越えればまた山。Going concernとして、より多くのお客さまにより多くの価値を届けようとすれば、そうならざるを得ない。

そう考えると、今このタイミングで、というのは理想解ではないかもしれませんが、一つの選択肢ではあると考えています。この10月にはいよいよインボイス制度がスタートします。インボイス制度という山に向けてまさに登山中。一方で、やることさえやれば、結果が約束されているタイミングでもあります。もちろんこのやることさえやれば、というのもまさに言うは易く行うは難しで、簡単だ、ですとか、楽だというつもりはありません。むしろ険しい道のりでしょう。それでもやることさえやれば、結果が約束されているタイミングというのはそう多くはありません。

今回の社長交代で、弥生の経営陣は40代半ばが中心と大きく若返ります。もちろん年齢だけが全てではありませんが、これから先、さらに変化が激しくなる世界においても、Going concernとして、さらなる山の頂を目指していくものと期待しています。
posted by 岡本浩一郎 at 15:55 | TrackBack(0) | 弥生

2023年03月07日

スマホPayでの納税

確定申告期間も終わりが見えてきました。今年の確定申告の期限は3/15(水)です。

さて、皆さん徐々に確定申告は進んできているとの前提で、先週はe-Taxでの申告についてお話しをしました。弥生であれば、「確定申告e-Taxオンライン」とスマホとマイナンバーカードさえあれば、簡単に申告を済ませることができます。ただ、ちょっと待ってください。紙での申告にせよ、e-Taxにせよ、申告書を送った/送信した段階でホッとしがちですが、実はそこで終わりではありません。

申告期限である3/15(水)までに済ませるべきことが二つあります。一つは、今年は白色申告だったという方が対象になりますが、所得税の青色申告承認申請書を提出すること。今年の3/15までに申請をしておけば、来年の確定申告(=今年分の所得の申告)は青色申告とすることができます。前回は、弥生の「起業・開業ナビ」の新サービスとして提供を開始した「弥生のかんたん開業届」では、開業届と一緒に青色申告承認申請書も簡単に作成できるとお話ししました。

もう一つ、これは白色申告でも青色申告でも共通ですが、納税を済ませること。申告期限は、納税の期限でもあります。フリーランスのライターのように、源泉徴収の対象になる売上が大半という場合には、還付の申告となることもありますから、そういった場合は還付を楽しみに待っていればいいということになります。しかし、納付の申告となった場合には、期限までにきっちりと耳を揃えて(苦笑)納付する必要があります(厳密に言えば、利子(税)はかかりますが、延納という選択肢もあります)。

納付は税務署や銀行等で行うことができますが、2017年からはクレジットカードでの納付もできるようになりました。クレジットカードであれば、ポイントも付くし、実際の支払いのタイミングも遅らせることができるということで、有力な納付手段と言いたいところですが、納付額の少なくとも0.83%という手数料が発生するため、ポイントの観点では実は微妙です。少なくとも0.83%と書きましたが、厳密には納付税額10,000円ごとに手数料が83円増えるようになっていますので、実際に0.83%になるのは、10,000円の倍数の時のみ。極端な例で言えば、10,001円の納税では、手数料は10,001円〜20,000円が一緒で167円となるので、実質的に1.67%(=167/10001)もの手数料となりますので、注意が必要です。また、国税のクレジットカード納付については、ポイントの対象外、あるいは還元率が低くなるというカードもありますのでさらに注意が必要です。

そういった中で、もう一つ選択肢になるかもしれないのが、今年の申告から選べるようになったスマホPayでの納税。PayPayやd払い、auPayといったスマホアプリの決済手段でも納付ができるようになりました。しかもこちらは決済手数料はかかりません。となると、スマホPay側のポイントで少しはおトクになりそうです(が、実際にポイント対象になるかどうかは、各スマホPayサービス側で確認した方がよいと思います)。ただ、一点難点があって、それは納付しようとする金額が30万円以下(かつ利用スマホPayの限度額以下)の場合にのみ利用できるということ。そういった意味で、使えるケースは限られるかもしれませんね(ちなみに私は数年前から自動車税の納付にスマホPayを活用しています)。

もっとも手数料もかからず、金額によらず、確実に実際の支払いを遅らせることができるという意味では、口座振替での納税が一番確実というのは変わりません。今年の場合、口座振替は4/24(月)となっていますから、一ヶ月以上支払いを延ばすことができます。なお、一度手続きをすれば原則として翌年以降も振替納税が続くようになっています。

さあ、申告期限まであと一週間ちょっと。ここまで来たらラストスパートですよ。
posted by 岡本浩一郎 at 22:15 | TrackBack(0) | 税金・法令

2023年03月02日

弥生のかんたん開業届

前々回は事業所得と雑所得の扱いについて熱く(!?)語ってみました。本ブログでも度々お話ししてきたトピックとなりますが、節税という観点では、事業所得は雑所得(業務)に対し、明らかに有利です。事業所得では、青色申告が認められており、結果的に最大65万円の青色申告特別控除が得られること、また、仮に事業所得で損失が発生した場合には、その損失を例えば給与所得から差し引くことができる(損益通算)など、明確なメリットが存在します。逆に雑所得は、青色申告特別控除的なものは存在しませんし、雑所得が損失であっても、他の所得と相殺することはできません。

しかし、メリットがあるから、何でもかんでも事業所得にできるかというと、そうではありません。事業所得であるかどうかは、社会通念上、事業を営んでいると認められるかどうかという実態で判断されます。実態で判断されるということで、その基準は良くも悪くも曖昧でした。その基準がある程度明確になったのが昨年のこと。パブコメを経て、帳簿が作成され保存されているかどうかが事業所得として認められるかの判断ポイントになるということが明らかになりました。結果的に、副業であっても、あるいは収入が300万円以下であっても、帳簿を作成し、保存していれば、事業所得と認められ得るということになりました。

この考え方は令和4年分(今回!)から適用されるため、今回の申告において、本当に事業所得で良いのか(雑所得(業務)とすべきではないか)、あるいは逆に、本当に雑所得(業務)で良いのか(事業所得として認められうるのではないか)という点をしっかり考える必要があるとお話ししました。あくまでも個人的意見ですが、自分なりにこれは事業であると自信をもって説明できるのであれば、今回の確定申告を機に、ちゃんと帳簿を付け、事業所得として申告するというのもありなのではないかと考えています。

一方で、開業届を出していなかった〜というケースも多いのかと思います。これに関しては、実は開業届を出さなくても特に罰則はなく、開業届を出していなくても、事業所得として最初に申告をするとそれが開業届の代わりになるというのが実態とお話ししました。開業届を出したから事業所得と認められる訳でもありませんし、逆に開業届を出していないから事業所得として認められないという訳でもありません。ですから開業届を出していないから、と諦める必要はありません。

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でも、やっぱり開業届を出してすっきりしたいところですよね。ということで、話が回りくどくなりましたが、実はこの度、開業届を簡単に作成できる「弥生のかんたん開業届」というサービスを始めました。従前から提供している「起業・開業ナビ」の新サービスということになります。これまでも、法人の設立に必要な書類を簡単に作成できる「弥生のかんたん会社設立」を提供してきましたが、法人での起業・開業だけでなく、個人事業主としての起業・開業もお手伝いします。

弥生のかんたん開業届の特徴は、単純に開業届だけを作成するわけではないこと。開業届自体は正直それほど複雑な書類でもありませんしね。開業届はもちろんですが、所得税の青色申告承認申請書、給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書、源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書などを同時に作成することができます。特に重要なのが所得税の青色申告承認申請書。事業所得のメリットの大部分は青色申告だからこそ得られるものです。今回の申告は白色申告であっても、このタイミングで青色申告承認申請書を提出しておけば、来年の申告(今年分の収入)からは晴れて青色申告とすることができます。
posted by 岡本浩一郎 at 17:30 | TrackBack(0) | 弥生