2021年12月01日

会計ソフトを変えるもの(その2)

私が10年以上前にこれからはSaaS/クラウドと言い切ったのは、テクノロジーは一定の循環サイクルによって進化しており、このサイクルに基づくとテクノロジーの主流はSaaS/クラウドになると当時から考えていたからです。ここで私が言うサイクルは、技術の浸透を示すTechnology Adoption Lifecycleではなく、循環サイクルです。

循環サイクルと言えば、経済で有名ですよね。クズネッツとかキチンとか。これらの循環サイクルは何年から何十年という時間軸で社会の動きがあり、それが景気に影響を与えるとしています。主要なものとしては、技術革新を原因とする40〜50年周期のコンドラチェフ、人口・建設関連の15〜25年周期のクズネッツ、設備投資の8〜10年周期のジュグラー、在庫循環の40ヶ月前後の周期のキチンといった循環サイクルがあるとされています。

この循環サイクルという概念はテクノロジーにも当てはまります。残念ながら定説となっている景気循環サイクルに対し、テクノロジーの循環サイクルというのはメジャーではない(主張しているのは私だけ?)のですが。

私が唱えるテクノロジーの循環サイクルは、中央集中と分散の間での循環サイクルです。そしてそのサイクルを生み出しているのは、コンピューティングパワーとネットワーク帯域の増大です。

初期のコンピューターと言えばメインフレーム・コンピューターでした。日本でコンピューターの活用が始まったのは、1960年代終わりごろから1970年代ぐらいで、当時は三井銀行や野村證券が先進的ユーザーとされていました。利用されていたのはメインフレーム。性能面で言えば今のiPhoneの方が桁違い(どころではなく圧倒的に)優れていますが、この時代のコンピューターはとても貴重なものであり、とても高価でした。貴重で高価でしたから、一人一台なんてことは夢のまた夢(というか物理的に大きすぎて無理です)。

結果として、メインフレームは中央に設置し、それを皆で使うという形態にならざるを得ませんでした。当初はメインフレームがあるところに行かなければ使えませんでした(そもそも入力方法は紙のカードに穴をあける、パンチカードという仕組みでした)。ネットワークにつながったとしても、その帯域は極端に狭く(kbpsになるかどうかの世界)、できることは極端に限られていました。つまりメインフレームの時代は、コンピューティングパワーが希少であり、なおかつネットワーク帯域も限られていたので、技術的に中央集中にならざるを得なかったのです。

その状況が変わってきたのは1980年代から1990年代。その原動力となったのはPCです。MS-DOSが登場したのは1981年。PC-9800シリーズの登場は1982年です。当初は高価でごく一部の人が使うだけだったPCですが、1995年のWindows 95の登場で一般的なものになってきました。価格面でも一人に一台が視野に入るレベルになってきました。ただ、この時代はまだまだネットワーク回線の帯域は限られていました。公衆回線を使った通信は高速化してきたといえども28.8kbpsといったあたり。また家庭内はもとより、事務所内でもLANを敷設することもまだそこまで一般的ではありませんでした。

PCでコンピューティングパワーは向上し、一人一台も視野に入ってきた。しかしネットワーク帯域が限られる中で、結果的にそれぞれをバラバラで使う分散にならざるを得ませんでした。EUC(エンド・ユーザー・コンピューティング)というのはこの時代の表現ですが、エンド・ユーザーができることが格段に拡大したということでもありますし、同時に、分散の結果、管理が行き届かなくなったともいえます。

再び状況が変わってきたのが2000年代です。事務所内でLANの敷設は一般的になってきましたし、外部との通信もADSLの技術により、一気にMbpsの速度が実現されました。孫さんがYahoo! BBでADSLモデムを配りまくったのが2001年のことです。コンピューティングパワーは引き続き向上する中で、ネットワーク帯域が広がることによって、コンピューターに関わる歴史上初めて、中央集中か分散かが選べるようになったのです。

中央集中か分散か選べるようになった中で、どちらが望ましいか。少なくともコンピューターの管理の観点からは答えは明確です。それは中央集中。分散は、それぞれが使用している端末の管理が極めて難しいことは、一定規模の会社のIT管理者が皆、痛感していることです。また、分散の場合、稼働している端末もあれば稼働していない端末もあり、全体として利用率は高くありません。つまりコンピューティングパワーを無駄にしていることになります。これらは全て、メインフレームの中央集中の時代にはなかった問題が、分散になることによって生じてきたものです。ですから、中央集中か分散か選べるようになった時代において、コンピューターの管理の観点では答えは一択で、中央集中になります。

つまり、コンピューティングパワーとネットワーク帯域の増大によって、中央集中から分散、そして再び中央集中というサイクルができているということです。だからこそ、2008年、私はクラウドという言葉が一般的でない時代に、これからはSaaS(クラウド)と宣言できたのです。(続く)
posted by 岡本浩一郎 at 18:49 | TrackBack(0) | 弥生

2021年11月29日

会計ソフトを変えるもの(その1)

少し前に、ノーベル賞受賞者である吉野彰さんの日経新聞の名物連載である「私の履歴書」について取り上げました。私にビビビッと強烈に響いたのが、技術によって当たり前のものとなる「三種の神器」に対し、廃れていく技術としての「三種の鈍器」(これは吉野さんの造語)についてのくだり。いわく、三種の鈍器の一つである銀塩写真が廃れた理由は、性能面でデジカメに劣るからではなく、価値観の変化であると。

確かに、カメラ付き携帯電話が登場し、「写真は撮ってプリントする」から「撮ってメールで送る」と、価値観が一変しました。写真は撮るけど印刷はしない。家族や友人と共有したり、SNSで共有したり。私自身、写真を撮る枚数は銀塩写真からデジカメ、そして今はスマホになって飛躍的に増えました。一方で、印刷する枚数は激減しています。

技術面の優劣以上に重要なのは価値観の変化。技術に関わるものとして、これはまさに私が常日頃から考えて続けていることです。弥生の手掛けている会計ソフトについても、まさにこの考え方が大事だと思っています。

会計ソフトも大きく変わってきていますし、今後さらに変わっていきます。その要因は何でしょうか。会計ソフトの動向に詳しい方であれば、クラウドが会計ソフトを変えると答えられるかもしれません。事実として、クラウド会計ソフトは徐々に普及してきています。特に個人事業主で新たに会計(申告)ソフトを使い始められる方に関しては、クラウドアプリケーションが過半を占めるところまで来ました。確かにクラウドは、会計ソフトを変える要因の一つではあります。ただ、それは要因の一つでしかありません。私は、会計ソフトのあり方を本当に変えるのは吉野さんの言われる「価値観の変化」だと考えています。

誤解のないようにお話しすると、弥生はこれまでもこれからもクラウドに否定的ではありません。実際問題として、弥生はクラウド会計(申告)ソフトの市場において、既にずっとNo. 1ですから

弥生は私が弥生の社長に就任した13年前から、クラウドに取り組み続けています。当時はクラウドという言葉自体が一般的ではなかったので、SaaS(Software as a Service)と言っていましたが。私が弥生の社長に就任した際には、就任の記者会見を行ったのですが、その場で私は、「弥生をSaaSの会社にする」と宣言しています。当時取り上げていただいたあるメディアでは、この会見を「弥生がYaaS宣言」とまとめていただきました。YaaS, Yayoi as a Serviceって、いいですよね。

なぜ私が10年以上前にこれからはSaaS/クラウドと言い切ったか。それは、テクノロジーは一定の循環サイクルによって進化しており、このサイクルに基づくとテクノロジーの主流はSaaS/クラウドになると当時から考えていたからです。テクノロジーのサイクルというと、Technology Adoption Lifecycleが有名であり、これはもちろん極めて重要な考え方ですが、私がここで言うサイクルは循環サイクルです。(続く)
posted by 岡本浩一郎 at 16:40 | TrackBack(0) | 弥生

2021年11月26日

コロナ禍での税務調査

日経で「シェアリングエコノミーなど申告漏れ201億円 国税庁」という記事が掲載されましたが、これは国税庁が公表した「令和2事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」という資料に基づいたものです。この資料を見てみると、新型コロナウイルス禍によって、税務調査がどのような影響を受けたのかがはっきりわかり、なかなか興味深いです。

2021112601.png

まず端的にわかるのは、実地での税務調査の件数は減ったということ。今回の資料の対象期間は令和2事務年度(2020年7月〜2021年6月)となっていますが、一年前と比べて、実地調査は6万件から2.4万件と約6割減少しています。実地調査というのは、実地に臨場して行う調査ですから、接触そのものを避けなければならない環境下では例年よりも件数が減らざるを得なかったのかと思います。ただ一方で、納税者宅等に臨場することなく、文書、電話による連絡又は来署依頼による面接による「簡易な接触」の件数は、37.2万件から47.8万件に増加しています。実地調査がやりにくい分、簡易な接触を増やしたということでしょう。結果的に簡易な接触も含めた広義での税務調査の件数は43.1万件から50.2万件にむしろ増えています。

調査対象となった50.2万件のうち、申告漏れ等の非違があった件数は27.9万件。つまり率で言えば55.6%。結構な確率で何らかの問題は見つかるということですね。特に実地調査では2.4万件中2.1万件、率で言えば87.4%というかなりの確率です。

ちなみに、私も税務調査(実地調査)を受けたことがありますが、結果はお咎めなし。無事に「更生決定等をすべきと認められない旨の通知書」を受け取ったことを本ブログでお話ししています。ですので、一度実地調査が入れば、何らかの問題が見つかる可能性は高いものの、決して100%ではないことは私が身をもって証明しています(笑)。

今回の資料では、トピックスとして、富裕層に対する調査状況、海外投資等を行っている個人に対する調査状況、シェアリングエコノミー等新分野の経済活動に係る取引を行っている個人に対する調査状況、そして無申告者に対する調査状況を深掘りしています。要は税務署としてどの領域に特に目を光らせているか、ですね。海外投資等を行っている個人も含め富裕層というのはわかりやすいターゲットですし、そもそも申告すべきものを行っていない無申告者というのも同様です。その中で、シェアリングエコノミー等新分野の経済活動に係る取引を行っている個人について取り上げているのは注目に値するかと思います。

シェアリングエコノミー等というとわかりにくいですが、注記としてシェアリングビジネス・サービス、暗号資産(仮想通貨)取引、ネット広告(アフィリエイト等)、デジタルコンテンツ、ネット通販、ネットオークションその他新たな経済活動を総称した経済活動のこととされています。要はインターネットを介し、一般的には捕捉しにくい経済活動ということになります。

これらの領域については、重点的な税務調査の対象になり始めているということはこれまでも言われていましたが、今回の資料からも、税務署としてかなり本気で取り組んでいることがわかります。この領域での実地調査は1,071件、そのうち89.9%にあたる963件で申告漏れ等が指摘されています。一件当たりでは、申告漏れの所得金額は1,872万円、これに対して追徴税額は494万円だそうです。

一件当たりで1,872万円というと随分儲けているんだな、と思われるかもしれません。随分儲けている人だからこそ、実地調査を受けるんだろうとも思われるかもしれません。ただ、実はこれは一年分ではありません。私が調査を受けた時は3年分の所得に対する調査でしたし、一般的には5年程度の申告漏れは指摘されうるとされています。仮に3年分だとすると、一年600万円強ということになります。

これは(意図したかどうかは別として)申告漏れがあったとして、一年間何も言われなかったら安心していいという訳ではないということです。むしろ、怪しくても、何年間かは泳がせて、その後に税務調査に入るともいわれています。調査を行う立場からすると、一回の調査で一年分の申告漏れを指摘して終わりよりは、数年分の申告漏れを指摘した方が効率はいいですからね。

弥生をご利用の方はちゃんと申告をされている方ばかりなので、安心してこういった記事を書けますが(笑)、身に覚えがある方は、早めに自発的に申告されることをおススメします。
posted by 岡本浩一郎 at 18:17 | TrackBack(0) | 税金・法令

2021年11月24日

弥生PAPカンファレンス 2021秋終了

前回少しふれましたが、先週金曜日で7会場+オンライン2回に渡る弥生PAPカンファレンス 2021秋を無事に終えることができました。初回が名古屋で10/13に開催でしたから、1ヶ月ちょっとということになりますが、あちこちに出張すること自体が久し振りということもあって、結構長丁場に感じました。

個人的に今回のPAPカンファレンスで嬉しかったのは、全国7会場で無事に開催することができたということ。この6/7月に開催したカンファレンスでは新型コロナウイルスの感染拡大状況を踏まえ、仙台札幌の2ヶ所以外は会場での開催を断念せざるを得ませんでした。その前、昨年の秋は、会場開催を早期に断念せざるを得ず、オンラインのみでの開催。さらにその前の昨年の初夏はまだ状況が流動的であり、カンファレンスの開催自体を断念せざるを得ませんでした。ということで、仙台と札幌以外の会場では、2019年の秋以来、実に2年振りとなりました。多くの皆さんと久し振りにお会いでき、本当に嬉しかったです。

一方で、オンライン開催も完全に定着したように思います。一回目では軽く1,000名を超える方に参加していただくことができ、どのリアル会場もはるかに超える参加者数となりました。先週開催した二回目も500名弱の方に参加いただきました。

リアル会場の方は、感染拡大防止の観点からかなりキャパシティを絞っての開催となりましたが、お申込みに対する実際の参加率が高かったのがとても特徴的でした。楽しみにしていました、という声もかけていただき、本当に開催できて良かったと実感しました。

オンラインとリアル会場を合計すると、2,000名弱の参加者となりました。これは過去最高の参加者数です。

足元では新型コロナウイルス感染症は収束傾向に見えます。もっとも感染が減少した理由がわかっていない以上は再び拡大する可能性もある訳で決して油断はできませんが。ただ、仮にこのまま収束したとしても、今回確立したオンライン+リアル会場というハイブリッド開催は今後も続けていくものと思います。オンライン開催もリアル会場開催もそれぞれの良さがあります。可能な限り選択肢を提供する。それが弥生の選択です。
posted by 岡本浩一郎 at 21:54 | TrackBack(0) | 弥生

2021年11月19日

弥生 22 シリーズ

すっかりタイミングを逸してしまいましたが、約1ヶ月前、10/22(金)に弥生が提供するデスクトップアプリケーションの最新版である「弥生 22 シリーズ」の発売を開始しました。10/14(木)に開催した記者発表会でも、タイトルとして「弥生 22 シリーズ発表および事業概況説明会 - 弥生の現況と業務デジタル化への取組み -」となっているだけに、弥生 22 シリーズについてもお話ししました。

もっとも、弥生の活動領域が広がっているだけに、発表資料(パワーポイント)45枚中、「弥生 22 シリーズ」に直接関係するページはわずかに4枚でした。だからといって、弥生にとって、弥生 22 シリーズの重みが失われているということは決してありません。個人事業主ではクラウドアプリケーションの利用が一般化していますが、法人のお客さまの場合、まだまだデスクトップアプリケーションの方がニーズが高いのが現実ですから。

2021111901.jpg
2021111902.jpg

さて、ここしばらくは弥生PAPカンファレンス 2021秋のために出張が多かった(今日ようやく7会場+オンライン2回の開催を無事に終えました)のですが、自分のオフィスに戻ってみると、いつの間にか弥生 22 シリーズ仕様に模様替えされていることに気が付きました。昔も今も、家電量販店店頭での陳列は弥生のブランド力の根底を成しています。最終的にはクラウドアプリケーションを利用されるお客さまであっても、まずは近所の家電量販店でどんな会社/製品があるのかをチェックされる方も多いのです。そこで、ああやっぱり弥生がNo. 1なんだね、と一目で見てとれるようになっていることが重要だと思っています。

ちなみに新型コロナウイルス禍の中でも、特に地方の家電量販店の業績が底堅かったことは、弥生の販売データからも見ることができます。やはりそれだけ日本においては家電量販店が生活に密着したインフラになっているということだと思います。

私の部屋の模様替えですが、今回もYさんがやってくれたようです。若手に任せたのかと思いきや、若手が忙しくしていたので、自分でやりました、ただKさんとNさんにも手伝ってもらいました、とのこと。ちなみにKさんはベテラン、Nさんは大ベテランです。これは誰々の仕事ではなく、やれる人がさっさとやる、というのも弥生らしいな、と感じました。Yさん、Kさん、Nさん、有難うございました!
posted by 岡本浩一郎 at 21:24 | TrackBack(0) | 弥生

2021年11月17日

改正電子帳簿保存法の課題と解消の方向性

前回は来年一月に施行される改正電子帳簿保存法について強い懸念を抱いていること、それに対し直近で懸念を一部解消する動きがあったことをお話ししました。ここでの懸念は全事業者に影響があり、なおかつ来年1月には対応しなければならない、つまりあまりに時間がないことでした。この懸念については、国税庁のQ&Aによって、書面保存を継続しても直ちに青色申告の承認取り消しとはならないことが明確化され、一定程度解消されました。

しかし一方で、今回の改正電子帳簿保存法には、より本質的な課題もあります。それは、1) 全事業者に影響を与えるものの、ほとんどの事業者にとってメリットがないこと、そして2) データの移管の仕組みが整備されていないことです。これらはいずれも解消すべきですし、官民が協力すれば解消は可能だと考えています。

まず1)ですが、今回の改正電子帳簿保存法は、その大半が帳簿や証憑を電子的に保存したい事業者にとっての要件緩和であり、電子的保存を希望される方には明確なメリットがあります。しかし一方で、電子取引に関しては、これまで認められていた措置(電子取引の記録を紙に出力して保存すればいいとする措置)を廃止するものであり、これは全ての事業者に影響を与えます。しかもこの措置の廃止は何ら明確なメリットはありません。紙で出力しない代わりに保存すべきものとして想定されているデータは、PDFであったり、場合によって画面のスクリーンショットです。これらは構造化されたデータではない(画像のようなもの)ので、このデータを使って後続業務の自動化・効率化を実現することはできません。所詮紙の電子化に過ぎないということです。

本来は、売手は構造化されたデータを提供する、買手はそれを保存することにより、そのデータを経費精算や会計処理に直接的に活用できるようにすべきです。これによって、単なる紙の電子化ではなく、業務の効率化を実現できます。そういった意味では、今回の改正電子帳簿保存法は、買手に電子データとしての保存を義務付けている訳ですが、本来は、売手に構造化されたデジタルデータとしての提供を義務付ける(少なくとも促す)ことが先であるべきだと思います。

これは(画像ではなく)構造化されたデジタルデータとしての電子レシートの普及を図ることと同義です。2023年10月にはインボイス制度が導入されますが、この際の対象はいわゆるB2B取引だけではなく、B2C取引も含まれます。弥生はEIPA(電子インボイス推進協議会)の代表幹事として主にB2B取引で活用される適格請求書のデジタル化に取り組んでいますが、同時に、B2C取引で活用される簡易適格請求書(簡単に言えばインボイス制度の要件を満たしたレシート)のデジタル化も必要だと考えています。簡易適格請求書がデジタルで一般的に提供されるようになれば、買手としてそれを保存するだけではなく、その後の後続処理の効率化が実現できるはずです。

次に2)ですが、今回の改正電子帳簿保存法は一度電子的に保存したデータの移管を想定していません。結果として事業者の選択の余地を極端に狭めることになります。実務上は、当初は自社でファイルサーバーなどに保存していただけども、その後クラウドベースで保存するシステムを導入することも考えられ、その際には当然、自社で管理していたデータをクラウドのシステムに移管したいというニーズがあるはずです。あるいは、クラウドベースのシステムにしても、A社のシステムを利用し始めたものの、使い勝手が悪い、あるいはコストが高いなどの理由でB社のシステムに移行したい、その際にはA社で保存していたデータをB社のシステムに移管したいということもあるでしょう。

逆にデータから紙にせざるを得ないケースもあると考えています。具体的には事業を廃業する際です。事業を廃業するからといって、帳簿や証憑をすぐに廃棄していい訳ではありません。一般的には廃業後も7年間は保存しなければなりませんが、事業を廃業した以上、コストをかけてクラウド上に保管し続けることは現実的ではありません。このため、一定の条件下で、データを紙出力し、紙での保存を認める必要もあるのではないかと考えています。

これらのデータの移管については、今回の改正電子帳簿保存法で明示的に禁止されている訳ではありません。ただ、弥生から国税庁に問合せたところ、現時点では移管は原則として認められないという回答でした。もっとも、問題として捉えており、対応を考えているとのこと。

幸いにして1)にしても、2)にしても、解決できない課題ではありません。今回、直ちに青色申告の承認取り消しとはならないということが明確にされたことを活かし、官民連携で1)と2)の課題の解消を目指すべきだと考えています。1)と2)が解消されれば、事業者としても単に手間が増えるのではなく、デジタル化にとって業務効率化につながることになりますし、また、下手なシステムを導入してベンダーロックインに陥る懸念も解消されます。結果的に、事業者として安心して、むしろ積極的に対応しようとなるのではないでしょうか。
posted by 岡本浩一郎 at 23:01 | TrackBack(0) | 税金・法令

2021年11月15日

改正電子帳簿保存法

弥生は2023年10月に始まるインボイス制度に向けて、誰でもが容易に使える標準的な電子インボイスの仕組みを整備することにより、法令改正をむしろ業務効率化の機会にしようという取り組みを進めています。

一方で、実は来年1月にも全事業者に影響を与えうる法律が施行されることになっており、今のままでは事業者の対応が間に合わないと強く懸念していました。その法律とは、電子帳簿保存法(電帳法)です。電帳法とは、所得税法や消費税法といったメジャーどころと異なり、知る人ぞ知る法律かと思います。これは税務申告に必要な帳簿や証憑を電子的に保存したい場合に満たすべき要件を定めた法律であり、結果的に帳簿や証憑を電子的に保存したいという事業者のみに影響があるものでした。

しかし、実は来年1月に予定されている改正で、一部の事業者のみに影響があるものから、全ての事業者に影響が及びうるものとなっています。改正の多くは、電子的な保存の要件を緩和するものであり、その要件緩和を実際に活用するかどうかは事業者に委ねられています。しかし実は、改正のうち、電子取引に関する改正事項(具体的には適正な保存を担保する措置)に関しては、これまで認められていた措置(申告所得税及び法人税における電子取引の取引情報に係る電磁的記録について、その電磁的記録の出力書面等の保存をもってその電磁的記録の保存に代えることができる措置)を廃止するものであり、全ての事業者に影響を与えるものです。これまではとりあえず何でも紙で保存していれば万能だったわけですが、来年1月以降は電子取引に関しては紙での保存ではなく、電子データとして保存しなければならなくなります。

電帳法という知る人ぞ知る法律が、いつの間にか全事業者に影響を与えうるものになっていたわけです。しかもその改正が施行されるのは来年1月。弥生としても事業者の皆さまに告知すべく色々と準備を進めてきたものの、事業者の対応として来年1月は到底間に合わないと非常に強い危機感を持っていました。

今回、弥生PAPカンファレンス 2021秋において、多くの弥生PAP会員から改めて強い懸念を共有いただいたことから、弥生として問題意識を共有する3社(*)と共同し、10月から11月にかけて、財務省および国税庁に働きかけを実施しました。この結果、幸いにして、懸念を一部解消する進展が見られました。

11月12日(金)に国税庁より「電子帳簿保存法Q&A(一問一答)〜令和4年1月1日以後に保存等を開始する方〜」に関する「お問合せの多いご質問(令和3年11月)」(pdf)が公開され、この中で、以下のように記載されています。

補4 一問一答【電子取引関係】問 42
【補足説明】
電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存義務に関する今般の改正を契機として、電子データの一部を保存せずに書面を保存していた場合には、その事実をもって青色申告の承認が取り消され、税務調査においても経費として認められないことになるのではないかとの問合せがあります。
これらの取扱いについては、従来と同様に、例えば、その取引が正しく記帳されて申告にも反映されており、保存すべき取引情報の内容が書面を含む電子データ以外から確認できるような場合には、それ以外の特段の事由が無いにも関わらず、直ちに青色申告の承認が取り消されたり、金銭の支出がなかったものと判断されたりするものではありません。

誤解のないようにお話しすると、弥生が一回申し入れしただけで今回の対応が速やかになされたわけではありません。今回の電帳法改正は大部分が要件緩和であり、その中に一部義務化(措置の廃止)が含まれていたわけですが、財務省/国税庁としても要件緩和と義務化を同じ期間で施行させることに無理があったという認識を既にお持ちであったということかと思います。既にそういった問題認識をお持ちの中で、弥生ほかによる働きかけがあったことから、まずはQ&Aの形で速やかにご対応いただけたものと理解しています。

ひとまず事業者の皆さまが来年1月に向けて付け焼刃的かつ非合理的な対応を強いられる、もしくは、青色申告承認の取り消しの危機にさらされるということがなくなり、ほっとしています。ただ、電子化にとどまらず、業務の効率化につながるデジタル化は、本来着実に進められるべきものだと考えています。本来あるべき姿に向かって、弥生として引き続きフォローアップしています。

(*) ご賛同いただき、ご協力いただいたのは、SAPジャパン株式会社株式会社オービックビジネスコンサルタントピー・シー・エー株式会社の3社です。
posted by 岡本浩一郎 at 21:40 | TrackBack(0) | 税金・法令

2021年11月11日

転勤の意味

前回は、福岡や広島のメンバーと久し振りに会えて嬉しかったと書きましたが、これにはやや特殊な事情もあります。というのは、この一年間で、大阪から広島、大阪から福岡に転勤になったメンバーがいたから。通常であれば、転勤元での送別会、転勤先での歓迎会があって、私もこれ幸いと駆け付ける(笑)のですが、この環境下では、それができていません。転勤になったメンバーがどうしているのかな、と心配していました。

今回久し振りに元気な顔を見ることができて安心しました。そういった意味では、名古屋でも東京から名古屋に転勤になったメンバーに会うことができましたし、逆に福岡から東京に転勤になったメンバーもいます。皆元気にやっていますが、これだけ日常の生活も制約を受ける中で、新しい環境というのはそれなりの苦労もあるようです。

こう書くと弥生では転勤が多いように見えるかもしれませんが、もともと拠点数がそこまで多くないこともあり、全体的には転勤は多くはありません。なおかつ弥生では、新型コロナウイルス禍を機に、転勤のあり方自体を見直しています。リモート勤務も当たり前となる時代。地方から東京オフィスの仕事をするのも可能と言えば可能な時代です。そういった時代において、明確な目的なしに単なるローテーションで転勤ということはありえないと考えています。これを受けて、現在では、本人の意向も踏まえて転勤を決定することを明確化しています。

転勤によって新しい立場で新しいチャンスを得る訳ですし、転勤自体が否定されるものではありません。転勤に際しては、本人と議論し、それが本人のキャリアアップにつながることを本人として納得した上で転勤するということとしています。つまり、転勤となった皆は、自らの意思でチャレンジすることを選んだわけです。だからでしょうか、今回各拠点で久し振りに会うことのできた皆の顔は輝いているように(少なくとも私の目には)見えました。
posted by 岡本浩一郎 at 22:27 | TrackBack(0) | 弥生

2021年11月09日

こちらも久し振り

10月半ばから弥生の会計事務所パートナー(PAP会員)向けのカンファレンス「弥生PAPカンファレンス 2021秋」を開催しています。今回は、オンラインとリアルのハイブリッド開催となりますが、10月末までにリアル会場が7会場中3会場、オンライン開催が2回中1回終了しました。

11月に入って、先週の金曜日からは後半戦(会計事務所向けのイベントということで、一般的に業務繁忙となりやすい月末/月初は避けるようにしています)。後半戦は、リアル会場が4会場、オンライン開催が1回。後半戦一回目となる先週の金曜日は福岡、そして昨日月曜日は広島での開催でした。両会場とも実に久し振りです。カンファレンスとして開催するのは実に2年振り。カンファレンス以外の出張としては、福岡は昨年の2月以来、広島は実に一昨年の12月以来です。

リアル開催ではどの会場も定員を例年より減らしていますが、減ったは減ったなりに盛況。やはりリアルで話を聞きたい、コミュニケーションを取りたいというニーズはあるんだな、と実感します。広島会場はお申込みに対して、実際の参加率が驚異的な96%でした。久し振りの開催を楽しみにしていただいていたからこその数字だと思います。久し振りでありつつも面白いのは、2年振りであっても、いざお会いしたらそんなに時間が経っていないように感じること。毎回お越しいただいている方も多いので、すっかり顔馴染みというところでしょうか。

久し振りという意味では、福岡や広島のメンバーと会うのも実に久し振り。社内のイベントも全てオンライン化する中で、Zoomごしでは顔は見てはいましたが、やっぱりリアルで会うと嬉しいものですね。でも、こちらもいざ会うと意外に時間は経っていないように感じます。やはり既に関係性がしっかり構築されていれば、1年や2年会わなくても、関係性が崩れることはないということでしょう。例年カンファレンス終了後には軽く打上げを行うのですが、今回は、まだ油断できないということで、人数/時間を限定してほんの気持ち程度。次回福岡や広島に来た際にはもう少しくつろいで皆とワイワイやりたいものです。
posted by 岡本浩一郎 at 19:56 | TrackBack(0) | 弥生

2021年11月04日

私の履歴書: 吉野さん

日経新聞で私が毎日楽しみにしているのが、「私の履歴書」です。どれぐらい好きかというと、ざっと1面を確認したら、すぐにひっくり返して私の履歴書をチェック、その後1面に戻って、以降2面、3面と読み進めるというのが、私の毎朝のルーチンです。

もう終わってしまいましたが、先月はノーベル賞受賞者である吉野彰さんの「私の履歴書」でした。吉野さんと言えば、リチウムイオン2次電池の開発者。ノートPCにせよ、スマホにせよ、あるいは電気自動車にせよ、リチウムイオン電池があってこそ成り立つもの。私たちの生活を大きく変えた存在です。

一ヶ月間毎朝楽しみに読んでいたのですが、ビビビッと強烈に響いたのが、連載も最終盤の29回目。技術によって当たり前のものとなる「三種の神器」に対し、IT革命によって廃れていく技術としての「三種の鈍器」(これは吉野さんの造語)についてのくだりで、その一つとして銀塩写真について書かれていました。記事全体の一部なので、そのまま引用させていただくと…。

銀塩写真はなぜ廃れたのか。多くの人は「デジタルカメラが出現したから」と答えるだろうが、それは違う。銀塩写真は画質に優れ、100年以上も色あせず、価格も手ごろで、性能面でデジカメに劣るわけではなかった。

ではなぜか。価値観が変化したのだ。「写メール」の登場で銀塩写真は一気に窮地に追い込まれた。

2000年、カメラ付き携帯電話が登場した。これにより「写真は撮ってプリントする」から「撮ってメールで送る」と、価値観が一変した。アルバムではなく携帯電話に保存し、友達や知人同士で見せ合うようになったのだ。

技術に関わるものとして、これはまさに常日頃から考えていること。弥生の手掛けている会計ソフトについても、まさにこの考え方が大事だと思っています。デジカメ/銀塩写真と会計ソフトがどうつながるのか、大事なテーマなので次回じっくりとお話ししたいと思います(すごい前振り)。

それにしても私の履歴書、面白い人と、そうでもない人に正直わかれますね。吉野さんの前の山本耀司さんもそうでしたが、やはり自分で新しいモノを生み出してきた、世界を切り開いてきた方は面白いですね。それに対し、あくまでも傾向値ですが、サラリーマンとして積み上げてしっかり社長を務めたという方は、さらっと読んであまり印象に残らないように思います。新しいモノを生み出してきた、世界を切り開いてきた方は、それだけ失敗や挫折もされている訳で、読む立場からすると、ある意味失敗や挫折こそが面白いのかもしれません。

私が将来私の履歴書を書くような立場になるとは思いませんが、失敗や挫折こそ書き留めておくべきなのかもしれません(笑)。
posted by 岡本浩一郎 at 22:19 | TrackBack(0) | ビジネス