2015年09月09日

マイナンバー活用で2%分還付?

去る3月31日に、2015年度税制改正の関連法が国会で成立し、これによって、今年10月に予定されていた消費税率10%への引き上げは、2017年4月に延期されることが正式に法律として決定しました。一方で、これは国会で成立した正式な法律にはなっていませんが、一昨年末に自公両党によって公表された平成26年度 税制改正大綱において、軽減税率について「税率10%時に導入する」とされています。

ここにきて急に報道されていますので、ご存知の方も多いと思うのですが、この軽減税率について、表面上の税率を変えるという(世界的に見て)一般的なやり方ではなく、軽減の対象となる飲食料品(酒を除く)の購買金額を記録し、消費税2%相当分を別途還付するという案が急浮上してきました。どうやって購買金額を記録するかというと、個人番号カードを販売店で購入する時にICカードリーダーにかざすのだそうです。

私は税制のあり方について、立場的に、その良し悪しを発言しないように(少なくとも公の場では、笑)しています。弥生の仕事は、税制の筋が良いものであろうが悪いものであろうが、それをキチンとサポートするソフトウェアを提供し、なおかつお客さまの業務が滞りなく進むようにお手伝いすることだからです。ただ、今回の案にはさすがに驚きました。正直、首を傾げざるを得ません。

色々な方から意見が出始めていますが、突っ込みどころ満載です。全国津々浦々、飲食料品を扱っているお店が、ICカードリーダーをくまなく備え付ける。POSレジを利用しているお店はともかく、POSレジのないお店はどうするのか。事業主の負担の軽減策も考慮するとのことですが、少なくとも2017年という時間軸で考えると現実的とは思えません。

また、利用するのが、個人番号カードです。絶対的に機密情報として扱わなければならない個人番号が記載されたカード。そのカードを常時持ち歩き、飲食料品を購入する際には必ず提示する。そしてお店としても、その個人番号を見てはならないし、記録してもならない。しかし、飲食料品を購入する場所は物理的なお店とは限りません。らでぃっしゅぼーやのような宅配ですとか、ネット販売。その場合は、サイトで個人番号を登録するのでしょうか。そして宅配業者、ネット販売業者は本当は扱いたくもない個人番号を、絶対的な機密情報として扱うことを求められるのでしょうか。

百歩譲って、ここら辺の問題は解消できるとしても、費用対効果は正当化できるのでしょうか。今回、還付には一人年間4,000円程度の上限が定められるそうです。となると、人口を1億2千万として、還付される額は、約5,000億円。一方で、購買金額を記録する「軽減ポイント蓄積センター(仮称)」の整備に約3,000億円かかるそうです。5,000億円を還付するために、3,000億円かける。もちろん還付される額は毎年で、整備費用は一過性ですので、apple to appleで比較することはできませんが、整備費用は一過性といっても、一般的にITシステムでは年間で、初期整備費用の20-30%ぐらいの維持費用がかかることも珍しくありません。また、この整備費用には、全国津々浦々にICカードリーダーを配備し、実際に使えるようにするための費用も考慮されていません。

費用対効果という観点では、単純に一人年間4,000円の給付を行った方が賢明に思えます。これであれば、還付(給付)額は同じ5,000億円でも、そのために必要な費用は桁違いに少なく済むでしょう。でも、所得の高い人も含めて全員に給付するのでは、逆進性の解消にならない? それであれば、所得制限を設けて、一定の所得以下の方に定額を給付しても良いでしょう。ただ、そうなると、それは軽減税率ではなく、給付付き税額控除という制度になります。

一方で、マイナンバーを利用して、購買履歴(裏返せば売上明細)を広く補足するということに意味はあるかもしれません。それを実際に行っているのが、韓国の現金領収書の仕組みです。しかし、今回の変形的な軽減税率の仕組みは、まるで思い付きのようで、韓国の現金領収書のように、非常に深くまで考えられた仕組みには見えません。

穿った見方ですが、まるで、「ほーら、このやり方では無理がありますよね。だから…」と別の落とし所に落とすための釣り餌にすら見えてしまいます。

今回の財務省案は報道ベースの情報のみで、その詳細を全て把握できるいるわけではありませんので、今日この場で是非を明言することは避けたいと思います。さらなる情報を収集しつつ、改めてそのメリット/デメリットを冷静に考えてみたいと思います。同時に、非常に興味深い仕組みである韓国の現金領収書の仕組みについてもご紹介してみたいと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 23:58 | TrackBack(0) | 税金・法令