2015年09月10日

本当の狙いは別のところに?

昨日お話ししたマイナンバーを利用して2%分の消費税を還付する制度ですが、冷静になって考えるほど、疑問が湧いてきます。本当にこの制度が実現可能なのか、実現は可能だとしても特に費用対効果という観点から妥当性のあるものかどうか。

まずは実現可能かどうか、ですが、技術的に実現可能かどうか、と言われれば可能でしょう。ある意味、Tポイントカードのようなポイントの仕組みと同様と言えば同様ですから。購買履歴に対し、2%(正確に言えば税込価格の2/110)のポイントを蓄積し、それをあるタイミングで現金として振り込む。後述する費用の観点を一旦脇に置けば、販売者が準備しなければならないICカードリーダーも技術的には問題ありません。インターネットに接続していないお店のために、ICカードリーダー自体に通信機能を付与することも可能でしょう(ただし、電波の届かないところもゼロではないですよね)。

とはいえ現実的には課題は山積みです。まずは準備の時間。軽減税率は2017年度に導入するとされていますが、「軽減ポイント蓄積センター(仮称)」の構築は何とか間に合わせるにしても、ICカードリーダーを全国津々浦々に存在するお店(対象は酒を除く飲食料品を扱うお店に限られますが)に行き渡らせることができるかというと、これはまず不可能でしょう。とりあえず強制的に送りつけることはできるかもしれませんが、そもそもPOSレジもないような個人商店で実際に使えるようにするには時間が足りません。

もっとも、時間に関しては、2017年度の導入を諦めるとすれば何とかなりそうな気もします(10%引き上げからこの制度導入までの期間は簡易的な給付措置など暫定的な対応を行う前提で)。

ある意味、時間以上に課題が大きいのはセキュリティでしょう。還付を受けるためには個人番号カードを常時持ち歩かなければならない(落としたらどうする?)。また、ICカードリーダーで読み取る際にも、カード上に記載されている個人番号を店員に見られないように(店員も見ないように)しないといけない。さらに、飲食料品をネットで購入する場合には、購入時に(もしくは予め)個人番号を入力しなければならない、そして販売業者はそれをありとあらゆる手段を使って秘密に保たなければならない。

実はこれらは課題としては本質的ではありません。以前本ブログでも書きましたが、個人番号はあくまで個人を特定するIDであって、その個人であることを証明するパスワードではありません。情報セキュリティの観点では、秘密に保たれるべきはパスワードであって、IDではありません。一方で、個人番号は法律によって特定個人情報として極めて秘密性を高く保たれることが求められており(それができない場合には懲役刑すらありうる!)、それがマイナンバーを今回の制度に活用することを極めて難しくしています。

ただ課題が山積みの中で、最大の問題は費用対効果でしょう。前回もお話したように、今回、還付には一人年間4,000円程度の上限が定められるそうです。となると、人口を1億2千万として、還付される額は、約5,000億円。一方で、購買金額を記録する「軽減ポイント蓄積センター(仮称)」の整備に約3,000億円かかるそうです(第二の国立競技場ですとか、新たな天下り組織と否定的な意見が早速聞こえてきています)。さらに、ICカードリーダーを広く普及させるために数百億円使うと言う話も聞こえてきます(ただ、個人商店に行き渡らせることはできても、実際に使えるようにするためにはもっとお金がかかるでしょう)。5,000億円を還付するために、3,000億円以上かける。もちろん還付される額は毎年で、整備費用は一過性ですので、apple to appleではありませんが、整備されたシステムの維持費用もありますし、少なくともかなりコストのかかる仕組みであることは事実でしょう。

ある意味この制度の最大の難点は、同様の効果を持ちえて、なおかつ、上に挙げたような課題がほとんどない代替制度がありうるということでしょう。それは前回もお話した給付付き税額控除です。

今回の制度では、一人年間4,000円程度の上限が定められると書きましたが、これは酒を除く飲食料品で年間20万円ほど支出するという計算になります。一人年間20万円、すなわち月2万円以下ですから、確かに誰でもがこの制度のメリット(還付)を受けることになるでしょう。ただ、逆に、誰でもメリットを受けるのであれば、面倒くさい仕組みを導入することなく、単純に一人当たり4,000円を支給するという発想が生まれます。

このアプローチでは、支給するのではなく、税金(所得税)から差し引く(税額控除)というやり方も可能です。以前行われたこともある定額減税がこのやり方ですね。ただ、税金から差し引くやり方の場合、そもそもそこまで税金を払っていない人はメリットをすべて受けることができない、という課題があります。つまり税金を10,000円納めている人は4,000円の控除を受けて負担が6,000円(4,000円のメリットを受けた)になりますが、税金を1,000円納めている人は、1,000円しか控除を受けられない。

この課題を解消しようとするのが給付付き税額控除で、税金を10,000円納めている人は4,000円の控除を受けて負担が6,000円(4,000円のメリットを受けた)というところまでは同じですが、税金を1,000円納めている人は、1,000円控除を受けて税額が0円になった上で、さらに3,000円の給付を受けられる(合計4,000円のメリットを受けられる)という仕組みです。

この給付付き税額控除の場合、マイナンバーで還付方式と異なり、大掛かりな仕組みの整備は必要ありません。基本的にこれまでの税金計算/納付の仕組みの延長線上で実現できます。つまり給付付き税額控除は圧倒的に費用対効果が高いということになります。

では、ほぼ同じようなメリットを提供でき、なおかつ費用対効果が高い制度が存在するのに、なぜ今回課題が山積みのマイナンバーで還付方式が急浮上してきているのでしょうか。それは、後者は政権公約である軽減税率の一種だ、と主張できるから、ということでしょう。

ただ、実は、今回の仕組み、飲食料品に関する軽減税率を実現する仕組みとしてではなく、もっと壮大な社会的なインフラとして考えれば、首を傾げざるを得ない仕組みから、極めて合理的な仕組み(賛否両論だとは思いますが)に180度変わりうるのです。その極めて合理的な仕組みを既に実現しているのが、韓国の現金領収書の仕組みです。次回は、この現金領収書についてお話してみたいと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 21:43 | TrackBack(0) | 税金・法令