2015年10月21日

消費税か社会保険料か

この1週間ほどで軽減税率をめぐる議論は急展開し、昨日には自民党の宮沢洋一税制調査会長の(2017年4月の軽減税率導入は)「目指すと言うよりは導入する」という発言も報道されました。あっという間に2017年4月の軽減税率導入が既定路線になってきています。

前回、立場的に発言が難しくなる前に書いておこうということで、私は軽減税率には反対です、と書きました。少なくとも現状で想定されている消費税率10%の際の軽減税率8%という前提では。つまり条件付きの反対。ただし、前提が変われば、すなわち、将来的に消費税率が10%以上に引上げになるようであれば話は変わってきます。

前回お話しした通り、消費税率のさらなる引上げに関しての私の意見は消極的賛成です。つまり、引上げずに済むのであればそれに越したことはない、一方で、おそらく引き上げざるを得ないだろう(そしてそれを考えると、軽減税率もタイミングは別として必要となってくるであろう)と考えています。

誤解のないようにお話しさせて頂くと、もちろんまず優先されるべきは、(無駄な)歳出の削減のはずです。歳出削減によって、消費税率のさらなる引上げを避けるというのが本筋だと思います。ただし、歳出削減が進まない、追い付かないことによって、歳入を増やさざるを得ない(税金もしくは社会保険料を引き上げざるを得ない)とすると、それは消費税にならざるを得ないと考えています。

昨年4月の消費税率の8%への引上げは景気に大きな影響を与えたとして報道されていますが、実は、そこまで注目はされてこなかったものの、過去10年以上に渡って、考え方によっては消費税以上に景気に影響を与えうる引上げが行われてきました。それは、社会保険料、なかでも厚生年金保険料です。厚生年金は、平成16年の年金制度改正によって平成16年から毎年保険料率が上がっており、この先平成29年まで上がることが決まっています。この制度改正前の料率は、13.58%。それが平成29年には18.3%にまで上がることが決まっています。

料率ですとピンとこないので、例として、月の給料(正確には標準報酬月額)が300,000円の方で考えると、平成16年初は、月々20,370円の負担(会社負担分もあわせると40,740円)だったものが、平成29年末には、27,450円(会社負担分もあわせると40,740円)と、実に7,080円/月、年間で84,960円上昇することになります。会社負担分とあわせた総額では、14,160円/月、169,920円/年の上昇です(シンプルにするため、賞与はなしという想定ですが、賞与がある場合にはさらに負担が増えることになります)。

ここで注目して頂きたいのは、消費税はお金を使わない限り発生しませんが、社会保険料負担はお金を稼ぐ段階で発生しますから、同じ率であれば、実は消費税よりも負担が重いということです。例えば、月収(額面)が36万円で手取りが約30万円(扶養家族1名の想定)、うち家賃(これは消費税非課税)と貯蓄で10万円とすると、消費税がかかる消費は20万円です。仮に厚生年金保険料率が1%上がると、36万円×1%の3,600円の負担増(ただし、会社と折半で負担)、一方で消費税率を1%上げると、負担増は消費税がかかる20万円×1%の2,000円です。

上でお話ししてきたように、厚生年金保険料率は平成16年から着実に上がってきており、平成29年までには5%弱(4.72%)も上がることになります(さらに健康保険料も着実に上がってきています)。これらは見方によっては消費税率で5%以上に相当する負担増と言えます。10年以上かけてのじんわりとした負担増ですからあまり注目されてきませんでしたが、実は10年以上にも渡る景気の下押し要因になってきたのではないかと考えています。

ちなみに、これだけ保険料が上がっても、まだおカネは足りません。高齢化が進むことによって社会保障給付費、すなわち、年金の支給や医療費が爆発的に増えてきているからです。平成になる頃には40兆円を超えるぐらいだった社会保障給付費は、直近では100兆円を軽く超えるところまで膨らんでいます。100兆円を超える社会保障給付費のうち、実は保険料では半分程度しか賄えていません(平成26年の予算ベースでは、社会保障給付費が115.2兆円に対し、保険料は64.1兆円に過ぎません)。足りない部分は国や地方公共団体が負担しています。と言っても、国や地方公共団体は税金で成り立っていますから、結局税金で穴埋めしていますということです。

ここで注目が必要なのは、平成16年の年金制度改正によって決まった年金保険料率の引上げが平成29年で打ち止めになること。つまりこれまでは社会保障給付費の伸びを(ある程度)保険料の引上げで補ってきた訳ですが、それができなくなるということです。それでも伸びていく社会保障給付費は税金で補うしかありません。年金保険料率の引上げ終了が平成29年、すなわち2017年。消費税の10%への引上げは2017年。これは偶然でしょうか。

メディアは何が軽減税率の対象になるのかという話題で盛り上がっていますが、そういったわかりやすい(下手をすれば身勝手な)議論に留まるのではなく、今後の社会保障の費用負担をどう軽減するのか、軽減努力をしたにしても増える分をどう賄うのか、そういった本質的な議論がなされて欲しいと願っています。
posted by 岡本浩一郎 at 19:45 | TrackBack(0) | 税金・法令