2021年05月18日

インボイスの便乗商法に注意

2023年10月開始のインボイス制度に向けて、昨年7月に電子インボイス推進協議会(EIPA)を立上げ、活動を進めています。弥生は言い出しっぺということもあり、代表幹事を務めており、私自身も自分の時間の25%ぐらいはEIPAの活動に費やしています。

昨年12月には平井卓也デジタル改革担当大臣を訪問し、Peppol(ペポル)と呼ばれる国際規格をベースとして、日本標準仕様を策定し、日本における電子インボイスの普及を図るべきと提言し、平井大臣からは全面的な賛同をいただけました。今年1月からは、業務ソフトウェアベンダー数社から精鋭が集まり、Peppolをベースとした日本標準仕様について日々議論を行っています(私もほとんどの打合せに参加していますが、本当にいいチームです)。日本標準仕様の完成までにはまだ時間もかかりますが、今年半ばにはもう少し具体的に成果をお示しできるかと思います。

そんな中で、とてもびっくりする、そしてとても悲しい気持ちになる出来事がありました。私はFacebookで様々な税理士の方とやり取りさせていただいているのですが、ある先生がこんな投稿をされていました。

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弊所クライアントに下記のようなメールが届きました。インボイス制度と電子化は関係のないお話しです。ある意味、詐欺メールですので気を付けてください。
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今回、〇〇〇株式会社様へ、新たな税額控除についてのご連絡になります。
2023年から電子での請求書に対して、税額控除されるのはご存知でしたでしょうか?
すでに対策済みの企業様もいらっしゃいますが、まだ対策がお済でない企業様が多かったので、勝手ながらご連絡させていただきました。
ご請求書の電子化がまだでしたら、このままだと適格請求書発行事業者【インボイス制度】に認定されなくなります。その結果、仕入れ税額控除が受けられなくなり、消費税の負担が増してしまいます。

これはこの先生が言われる通り、ある意味詐欺メールです。「2023年から電子での請求書に対して(のみ)、税額控除される」ということはありませんし、「ご請求書の電子化がまだでしたら、このままだと適格請求書発行事業者【インボイス制度】に認定されなくなります」というのも事実ではありません。

事実としては、2023年10月からは法的要件を満たしていれば、電子での請求書でも仕入税額控除は認められるようになりますが、これは紙の請求書に加えて、ということです。また、仕入税額控除ではなく、一定のIT投資に対して税額控除が認められる制度は従前からあります。しかし、それは汎用的な投資促進税制であり、電子での請求書に固有のものではありません。また、この10月から予定されている適格請求書発行事業者としての登録を行わなければ、2023年10月以降、請求書を受領した側が仕入税額控除を受けられなくなります(免税事業者からの仕入税額控除については、一定の経過措置あり)。しかし、請求書の電子化と適格請求書発行事業者として認められるかどうかには一切の関係性はありません。

つまり、部分だけ取れば嘘とは言い切れない部分もありますが、全体としては明らかに誤解を招き、自社のビジネスにつなげようという意思を持ったものです。詐欺的な便乗商法と言っていいかと思います。

EIPAは、日本の事業者が法令であるインボイス制度に確実に対応できるように、そしてそれ以上に、事業者の業務をデジタル化することによって、業務の圧倒的効率化を実現するために、多くの会員が全て手弁当で活動しています。結果的にそれは会員各社のビジネスにとってプラスになることは期待されますが、それはあくまでもお客さまである事業者の皆さまが法令対応ができ、そして業務効率化を実感できて初めて正当化されることだと考えています。

今回のメールの発信者はEIPAの会員企業ではないことは確認していますし、仮にEIPAの会員企業がこのような事実に基づかない便乗商法を行った場合は、会則で定められた除名基準に該当しうるものと考えています。

世の中には様々なビジネスがありますし、ビジネスには基本的には貴賤はないと考えています。しかし、世の中には、人を欺いてまで儲けようとする人たちがいるのはとても残念なことです。ある意味、インボイス制度はそれだけ注目されるものとも言えるのかもしれません。EIPAでは誰もが廉価に電子インボイスを活用し、業務効率化を実現できるように、まずは日本標準仕様の策定に注力しますが、こういった便乗商法を防ぐためにも、電子インボイスに関する正しい広報活動にも力を入れていきたいと考えています。
posted by 岡本浩一郎 at 19:22 | TrackBack(0) | 業務