2021年12月28日

仕事納め 2021

弥生は今日で仕事納めです。毎年のことではありますが、今年も実に速く過ぎ去った一年でした。年初には想像していなかったことですが、今年も新型コロナウイルスの影響を受け続けた一年となりました。

ただ、影響は受けつつも、それなりにやりたいことをできた一年でした(もっとも海外渡航だけはまだ目処がたっていません)。じっとしていられない貧乏性ゆえ、プライベートでは3つの目標を掲げていましたが、一番大きなチャレンジであったトライアスロンも無事完走することができ、この年末までに目標を3つとも達成できそうです。

仕事という意味でも充実した一年でした。昨年の新型コロナウイルス禍の初期の頃は、皆が仕事のペースをつかめず、結果的に私のスケジュールに結構余裕があったのですが、今年は容赦なくスケジュールを詰め込まれた一年でした(苦笑)。移動も少ないため、朝から晩まで打合せに参加しているだけで体力というよりは「脳力」がヘロヘロに。ただ、スケジュールが詰まり過ぎて、じっくりと考える時間をあまり取れなかったことは反省点でしょうか。

スケジュールが埋まり過ぎたというのは様々な要因が複合した結果ですが、最大の要因は間違いなく、電子インボイス推進協議会関連です。昨年末にPeppolを採用する方向性が固まり、この1月から日本版の標準仕様策定に取り組んできました。社内からも社外からも、周りからは、よく社長がここまで時間を使うな、と思われていたことかと。歩みとして十分とは言えず、まだまだやるべきことは残っていますが、先日お話しした価値観の変化、すなわち、「会計ソフトには入力が必要ないのが当たり前」への価値観の変化のためには欠かせないものですから、引き続きしっかり取り組みたいと思います。

そして年末には株主が変わるというビッグニュース前回もお話ししましたが、グローバルな投資ファンドから今後の成長性を評価いただき、さらなる成長に向けて伴走いただけることになりました。

来年は電子インボイスをはじめ、ここしばらく取り組んできたものが形になる年。今からワクワクが止まりません。

来年ワクワクしながら走り続ける(含むトライアスロン)ためにも、年末年始はしっかりと休みたいと思います。皆さま良いお年をお迎えください。
posted by 岡本浩一郎 at 13:05 | TrackBack(0) | 弥生

2021年12月27日

KKRとは

10日ほど前に、弥生の株主がオリックス株式会社から、グローバルな投資会社であるKKRに変わることを発表しました。まずは、オリックスとKKRの間で弥生株式の譲渡に関する契約が締結された段階であり、実際に弥生の株主がKKRに変わるのは来年春の予定です。

このKKRという会社、知っている人は知っている、特にグローバルな金融業界で言えば知らない人はいない存在ですが、その一方で、初耳という方も多いかと思います。「KKR」とググってみると、まず出てくるのはこちらですから、共済が弥生を買収するのか???と思われるかもしれません。私の地元でKKRというと、港の見える丘公園の隣という最高のロケーションにあるこちらになります(笑)。

今回弥生の株主となるKKRの正式名称はコールバーグ・クラビス・ロバーツといい、ニューヨークを本拠とする国際的な投資会社です。Kohlberg, Kravis, Robertsというのは、創業者3名の名前です。この3名によって1976年に創業された、投資ファンドの元祖とも言える歴史のある会社であり、KravisさんとRobertsさんは、今年共同CEOの座からは降りたそうですが、今でも現役なのだそうです。投資ファンドの元祖でもあると同時に、規模としても世界有数。運用資産は今年の9月末時点で4,590億ドル。えーっと、ざっくり50兆円という途轍もない規模ですね。同時に(PEファンド部門)の投資先110社の売上高は合計2,690億ドル、ざっくり30兆円だそうですから、こちらも桁違いです。

KKRは、2006年から日本で活動を開始しており、日本ではPHCホールディングス(元パナソニック ヘルスケア、本年東証一部に上場)や西友などに投資をしています。

弥生は、来年春から、このポートフォリオの一部をなすことになりますが、これはとても光栄なことだと考えています。弥生はかつて(2000年代初頭)は、アドバンテッジパートナーズという日本の投資ファンドが、そして2000年代後半から2010年代前半はMBKパートナーズというアジアの投資ファンドが株主でした(私が弥生の社長に就任したのはこのタイミングです)。ついに今回、舞台はグローバルとなり、真にグローバルな投資ファンドから今後の成長性を評価いただき、投資先として選んでもらったということです。日本、アジア、グローバルときて、さすがに次は宇宙規模の投資ファンドというのはありませんから、投資ファンドをパートナーとしてというのは今回が最後になるのかと思います。

今後については色々な選択肢がありますが、一つのオプションとしては、KKR傘下でさらなる成長を実現した上で、証券取引所への公開を目指すというのがメインのシナリオとなるのかと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 18:02 | TrackBack(0) | 弥生

2021年12月22日

弥生の価値

先週金曜日に、弥生の株主がオリックス株式会社から、グローバルな投資会社であるKKRに変わることを発表しました。現段階では、オリックスKKRの間で弥生株式の譲渡に関する契約が締結された段階であり、実際に弥生の株主がKKRに変わるのは来年春の予定です。

今回の取引に関しては、10月から一部で報道がされており、直近では先々週末にも報道がされていました。これらは正式決定および正式発表前のいわゆるリーク記事です。正式な決定もされておらず、また、弥生はもとよりオリックスとしても正式に発表したものではありませんので、私としても対外的に何らコメントしようがなく、扱いには苦慮しました。この種の話は徹底した秘密保持義務が課されているはずなのですが、何なんでしょう、というのが私の率直な気持ちです。

これらリーク記事はそれなりに注目を集めたようですが、注目を集めた一つの理由はその取引価格でしょうか。10月の報道では2,000億円以上、12月の報道では2,400億円とされています。正式な取引価格は公表されておらず、私も正確には知りません(取引はあくまでもオリックスとKKR間のものですから)。ただ、オリックスからは子会社株式売却益が1,632億円であると発表されていますので、まあ当たらずと言えども遠からずと想像が付くかと思います。

この金額をどう見るか、ですが、私としてはKKRに弥生を高く評価していただいた結果だと考えています。一連のプロセスの中で(上でお話ししたようにプロセスは基本的に売主であるオリックスと買手候補間のものです)、私も限られた時間ではありますが、弥生の現況について、そして今後の成長戦略についてお話しをしています。そういったやり取りを通じ、弥生の現状での収益性であり、その安定性への評価に加え、将来に向けて高い成長性、その蓋然性に関する評価が合わさった結果だと考えています。

事業の利益は売上 - コストであり、利益を伸ばそうとすれば、売上を上げるか、コストを下げるか。当然のことながら、弥生は健全な成長のためにはしっかり投資する(結果的にコスト増となる)べきだと考えており、コスト削減で利益をひねり出そうという発想はありません。次に、売上は顧客数×顧客単価と分解することができますが、売上を伸ばそうとすれば、顧客数もしくは顧客単価、あるいはその両方を伸ばす必要があります。先ほど成長性と書きましたが、弥生はお客さまの数をこれまで以上に増やしていくことによって、充分に高い成長を実現できると思っています。

逆に、弥生は自分たちの都合だけで価格を引き上げ、それによっていわゆる顧客単価(ARPU)を引き上げ、無理やり売上増を実現しようとは思っていません。もちろん提供価値を向上させる中で、価格を見直すこと自体は否定しませんが、価値があると認めるのはお客さまですから、自分たちの都合でできるものではなく、お客さまの納得感ありきです。ですから、弥生のお客さま、パートナーの皆さま、ご安心ください。

より多くのお客さまがデジタル化のメリットを実感できるように。そのためには、今足元の売上にはつながりませんが、電子インボイス推進協議会を通じて法令改正対応だけでなく、業務の効率化を実感できるインボイス対応を進めています。また、もっと足の長い話ですが、デジタル化を通じて年末調整のあり方を根本から見直すということにも取り組んでいます。

弥生は5年どころか、10年先を見据えて種を蒔き、じっくりと育てています。従業員やお客さまを犠牲にしての無理のある急成長ではなく、幸せな従業員がお客さまにしっかりとした価値を提供し続けることによって、5年先も10年先も、安定的に継続的に成長することを目指しています。こういった弥生の考え方を、理解、そして支持いただくことが、今回の高い評価につながっています。

まだKKRの皆さんとじっくりとは議論できてはいないのですが、弥生の成長戦略に賛同しており、それを確実に実現するために最大限の協力をしたいと言っていただいています。KKRという強力なパートナーを得て、これから実現できることにワクワクしています。
posted by 岡本浩一郎 at 13:00 | TrackBack(0) | 弥生

2021年12月17日

株主が変わります

本日、弥生株式会社の親会社であるオリックス株式会社とグローバルな投資会社であるKKRは、KKRによる弥生株式会社の株式取得に合意したことを発表しました。

当社の株主変更に関するお知らせ(弥生のプレスリリース)

つまり弥生の株主が、これまでのオリックスからKKRに変わるということです。ただ、逆に言えば、変わるのはその点だけです。弥生の製品やサービスが変わることはありませんし、事業コンシェルジュを目指すという弥生の方向性も変わりません。私を含め、弥生の経営体制も変わりません。

電子インボイス推進協議会社会的システム・デジタル化研究会といった社会全体をデジタル化し、効率化する取り組みも引き続き行っていきます。

今回、KKRという強力なパートナーを得ることにより、弥生自身のみならず、業務ソフトウエア業界、さらには日本社会全体のダイナミックかつ革新的なトランスフォーメーションを実現したいと考えています。
posted by 岡本浩一郎 at 18:15 | TrackBack(0) | 弥生

2021年12月15日

会計ソフトを変えるもの(その5)

随分と長い間引っ張ってしまいましたが、これまで4回に渡って、何が会計ソフトを変えるのかについてお話ししてきました。

吉野さんが言われる通り、銀塩写真が廃れたのは、必ずしもデジカメに性能面で劣ったからではありません。しかし事実として銀塩写真が廃れ、デジカメ、そしてスマホへと変遷した裏には、「写真は撮ってプリントする」から「撮ってメールで送る」とという価値観の変化がありました。

会計ソフトを変えるのは技術ではありません。クラウドやAIといった技術は今後も進化しますし、会計ソフトを変える一因ではあるでしょう。

しかし本当の意味で会計ソフトを変えるのは、価値観の変化です。具体的には「会計ソフトは入力するのが当たり前」から「会計ソフトには入力が必要ないのが当たり前」への価値観の変化です。

だからこそ弥生は、会計ソフトに入力は必要ないのが当たり前、という新しい価値観を創造しようとしているのです。

入力を不要にする仕組みとしては、現在でも弥生スマート取引取込によって、銀行口座の情報を取り込んで自動で仕訳を生成することは可能です。ただ、残念ながら当たり前のように利用される状況にはなっていません。そこには、特に法人の場合、費用がかかることもあってインターネットバンキングの利用が進んでいないという問題もあれば、銀行口座の情報には消費税という概念がない、そのため、軽減税率の導入によって複数税率になった今、正確な税率の判定ができないという根源的な問題もあります。

電子インボイスや電子レシートはそういった状況を変えられる可能性を有しています。電子インボイスや電子レシートには、いつ、誰から誰に、いくらで、どんな商品/サービスが販売されたのか、その際の税率・税額は、といった情報が全てデジタルデータとして含まれます。そのデータを活用すれば、正確な記帳を自動で行うことが可能になります。つまり、電子インボイスや電子レシートが一般的なものになれば、もはや会計ソフトに入力は必要なくなります。

事業者にとって会計ソフトで帳簿を付けることは面倒くさいこと。それに対して、見積書や請求書を発行することは嬉しいことです。お客さまに価値を提供し、それに対して対価をいただくことそのものですから。お客さまに価値を提供し、それに対して対価をいただくために、見積書や請求書を発行すれば、それが裏で自動で帳簿に反映されるようになっていきます。結果として会計ソフトはいわば表から見えない存在になります。それでも、帳簿は随時作成されていますから、入力はなくとも、いつでも必要な時に、今の売上の状況や利益の状況、キャッシュフローなどを確認できるようになります。

弥生は、入力が当たり前のものである今の会計ソフトのあり方には満足していません。弥生自身が牽引して、入力がいらない会計ソフトを実現していくべきだと考えています。そのためには会計ソフトだけを開発しているのでは十分ではありません。電子インボイスや電子レシートといった社会的な仕組みの成立と普及を先導する。その中で、お客さまであり、会計事務所の価値観が変わっていきます。そして価値観が変わる中で会計ソフトのあり方も変わっていきます。もちろんその会計ソフトはクラウドのメリットを最大化できるものでなければなりません。

技術はもちろん重要ですが、本当に物事を変えようとすれば、変えるべきなのは技術以上に、価値観です。価値観が変わるからこそ、技術が普及します。弥生は、技術だけでなく、価値観を変えることによって、会計ソフトのあり方を変えていきます。
posted by 岡本浩一郎 at 23:53 | TrackBack(0) | 弥生

2021年12月10日

与党税制改正大綱 2021

つい先ほど、与党税制改正大綱が公表されました。この先の税制がどのように変わっていくのか、毎年ワクワク(?)しながらその公表を待つのですが、今回は、全事業者に直ちに影響を与える内容が含まれているということもあって、かなりハラハラ(?)しながら公表を待っておりました。

全事業者に直ちに影響を与えるというのは、誇張ではありません(来年1月からですから、直ちにというのは少し誇張ですかね)。それは、本ブログでも取り上げてきている改正電子帳簿保存法に関するもの。その影響度を鑑みるとひっそりとという感じではありますが、大綱も終盤のP90「六 納税環境整備」「5 その他」に記載されていました。

(8)電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存への円滑な移行のための宥恕措置の整備
電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度について、令和4年1月1日から令和5年12月31日までの間に申告所得税及び法人税に係る保存義務者が行う電子取引につき、納税地等の所轄税務署長が当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存要件に従って保存をすることができなかったことについてやむを得ない事情があると認め、かつ、当該保存義務者が質問検査権に基づく当該電磁的記録の出力書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力されたものに限る。)の提示又は提出の求めに応じることができるようにしている場合には、その保存要件にかかわらず、その電磁的記録の保存をすることができることとする経過措置を講ずる。
(注1)上記の改正は、令和4年1月1日以後に行う電子取引の取引情報について適用する。
(注2)上記の電子取引の取引情報に係る電磁的記録の出力書面等を保存している場合における当該電磁的記録の保存に関する上記の措置の適用については、当該電磁的記録の保存要件への対応が困難な事業者の実情に配意し、引き続き保存義務者から納税地等の所轄税務署長への手続を要せずその出力書面等による保存を可能とするよう、運用上、適切に配慮することとする。

ああ、よかった。これで全事業者が泣いた、ではなく、全事業者がホッと来年の一月を迎えることができます。事前の報道でその可能性が示唆されていた事前の届け出も「手続を要せず」と明確にその必要性が否定されています。詳細は、今後、弥生の「電子帳簿保存法あんしんガイド」でお伝えしたいと思いますが、要はこの先2年間は、これまで通りの運用(紙出力して保存)でも問題はないということです。

もちろん、業務の効率化の観点で電子化、そしてデジタル化は進めるべきもの。来年1月という無理なスケジュールではなく、もう少し時間をかけながら、弥生はお客さまが無理なく対応でき、なおかつ業務効率化を実感できるようにしていきます。
posted by 岡本浩一郎 at 18:12 | TrackBack(0) | 税金・法令

2021年12月08日

会計ソフトを変えるもの(その4)

もうこれで4回目と随分と長くなってしまっていますが、前回までに、中央集中から分散、そして進化した中央集中というテクノロジーの循環サイクルこそが、私が弥生の社長に就任した13年前から、クラウドに取り組み続けている理由であるということをお話ししました。

流行り言葉ではなく、技術の進化という明確な要因に裏付けられた循環サイクルの一環としてのクラウド。そしてそのクラウドは確かに、会計ソフトを変える要因の一つです。ただ一方で、それは技術という観点での要因の一つでしかありません。技術という観点で、クラウドであり、中央集中が望ましくても、実際に使う人たちにとってメリットがなければ普及はしません。いわゆる供給サイドのシーズはあっても、それを需要サイドが求めている(ニーズ)とは限りません。

ここでようやく最初のお題に戻りますが(前置きが長くてスイマセン)、会計ソフトのあり方を本当に変えるのは、クラウドや中央集中といった技術要因ではなく、「私の履歴書」で吉野さんが言われる通り、お客さまの「価値観の変化」だと考えています。銀塩写真が廃れ、デジカメ、そしてスマホへと変遷する際には、「写真は撮ってプリントする」から「撮ってメールで送る」とという価値観の変化がありました。

では、会計ソフトにおける価値観の変化とは何なのでしょうか。

それは、「会計ソフトは入力することが当たり前」から、「会計ソフトに入力は必要ないのが当たり前」への価値観の変化です。入力が必要なのであれば、当然入力の使い勝手は非常に重要です。多くの会計事務所がデスクトップ版の弥生会計に拘り続けるのは、会計ソフトには入力が必要であることが当たり前であり、その際の入力効率を重要視しているからです。弥生会計ならサクサク、仕事が捗る。ですが、入力が必要なくなればどうでしょうか。入力のしやすさ、サクサク感というものは意味を持たなくなります。

同時に、入力をなくすためには、クラウドと常時つながっていることが必要になります。電子インボイスや電子レシートが当たり前になり、それらが常時何もしなくても自動的に取り込まれる。クラウドと常時つながっているからこそ、様々な取引がデータとしてリアルタイムで連携され、それを基に仕訳が自動的に生成される。だから入力はいらない。

お気付きかと思いますが、弥生が今、電子インボイス推進協議会(EIPA)の発起人であり、代表幹事として日本における電子インボイスを当たり前のものとするための活動に取り組んでいるのはまさにここに理由があります。つまり、クラウドによって会計ソフトを変えるのではなく、会計ソフトに入力は必要ないのが当たり前、という新しい価値観を創造することによって会計ソフトのあり方を変えようとしているのです。(いよいよ次回は最終回)
posted by 岡本浩一郎 at 21:19 | TrackBack(0) | 弥生

2021年12月06日

さらに一歩前進

既にご存じの方も多いかと思いますが、今朝の日経新聞朝刊一面で「電子保存義務化 2年猶予」という記事が掲載されました。これは先月お話しした改正電子帳簿保存法(電帳法)に関するものです。記事によれば、「政府・与党は2022年1月に施行する電子帳簿保存法に2年の猶予期間を設ける」とのこと。

全事業者に影響があり、なおかつ来年1月には対応しなければならない、つまりあまりにも時間がないという改正電帳法の問題点については以前お話しした通りですが、それに対して先月半ばに国税庁のQ&Aが更新され、この中で、書面保存を継続しても直ちに青色申告の承認取り消しとはならないことが明確化され、一定程度解消されました。ただ、Q&Aというのはあくまでもガイドラインであり、法的な拘束力はありません。その点、今回報道された「近くまとめる22年度与党税制改正大綱に盛り込み、年内に関連の省令を改正する」というのはさらなる前進です。

とは言え、より具体的な内容については、早合点するのではなく、税制改正大綱を待ちたいと思います。今回の電帳法改正は大部分が要件緩和であり早期の施行が望まれるものですから、全体としての改正電帳法は予定通り来年1月に施行されるものと思います。この施行によって、電子取引に関する改正事項(具体的には適正な保存を担保する措置)に関しては、これまで認められていた措置(申告所得税及び法人税における電子取引の取引情報に係る電磁的記録について、その電磁的記録の出力書面等の保存をもってその電磁的記録の保存に代えることができる措置)を廃止されるが、それが猶予される。つまり結果的にこれまで通り出力書面等を保存すれば問題はないということかと思います。

もっとも、その際にどういった条件が付くのかは明確になっていません(記事では事前に届け出が必要とも読める表現がありましたが、わざわざ届け出を求める必然性はあるでしょうか)。これらは例年通りであれば今週後半にも公表される与党税制改正大綱でより明らかになるでしょう。

そういった意味で、現段階では具体的な内容よりも、2年間という明確な期間が示されたということが非常に大きな前進だと思います。この2年間の中で、以前お話ししたより本質的な課題、1) 構造化デジタルデータによって業務の効率化を実現すべきという点、2) 保存したデータの移管が一定のルールで認められるべきという点、に確実に取り組みたいと考えています。
posted by 岡本浩一郎 at 18:28 | TrackBack(0) | 税金・法令

2021年12月03日

会計ソフトを変えるもの(その3)

前回は、コンピューティングパワーとネットワーク帯域の増大によって、中央集中から分散、そして再び中央集中という技術の循環サイクルができているとお話をしました。だからこそ、2008年、私はクラウドという言葉が一般的でない時代に、これからはSaaS(クラウド)と宣言できたのです。

もっとも、中央集中か分散かは、使い勝手の観点からは答えはそう単純ではありません。ユーザーは、既に自分のPCで色々とできることに慣れています。それが、中央集中の時代になった(戻った)から使い勝手は犠牲になります、ではユーザーは納得しません。これまで通りの使い勝手は維持しなければならない。そうなると、分散の良さを活かした中央集中ということになります。

例えば、分析そのものは使い慣れたExcelで、でもそのデータはクラウドに保管し、チーム内でも共有できるという組み合わせになります。また、スマホアプリもまた分散の良さを活かした中央集中です。Gmailにせよ、Twitterにせよ、Slackにせよ、Webブラウザーで使うことができます。ただ、そうすると使い勝手としてはイマイチ。だからこそ、スマホアプリを使うわけです。スマホアプリは、端末であるスマホのリソースを使って動いていますから、本質的に分散の仕組みです。ただ、常にクラウドとつながっていることにより、データの観点では中央集中になっています。つまり、やはり分散と中央集中の組合せです。

2021120301.png
(社内資料を思いっきり公開、笑)

実は、テクノロジーの循環サイクルは、振り子のように中央集中と分散の間を行ったり来たりという訳ではありません。実際に起こっているのは、スパイラル、すなわち、進化しつつの融合です。中央集中(メインフレーム)から分散(PC)へ、そして再び中央集中(クラウド)へ。しかし、ここで言う「再びの中央集中」は、以前の「中央集中」と同じものではありません。上でお話ししたような分散の良さを活かした中央集中、言い換えれば進化した中央集中です。

ちなみに、中央集中→分散→中央集中の次として、再び分散を意味するエッジ・コンピューティングという概念があります。重いデータを中央に送ることなく、分散して処理する。例えば自動車の自動運転では大量のデータをリアルタイムに処理する必要がありますから、エッジ・コンピューティングは欠かせません。ただ、これも、PCと同じような分散に戻るということではありません。分散と中央集中がそれぞれの良さを活かしつつ融合していくということです。

だいぶ長くなってしまいましたが、これが私が弥生の社長に就任した13年前から、クラウドに取り組み続けている理由です。(まだまだ続く)
posted by 岡本浩一郎 at 18:39 | TrackBack(0) | 弥生

2021年12月01日

会計ソフトを変えるもの(その2)

私が10年以上前にこれからはSaaS/クラウドと言い切ったのは、テクノロジーは一定の循環サイクルによって進化しており、このサイクルに基づくとテクノロジーの主流はSaaS/クラウドになると当時から考えていたからです。ここで私が言うサイクルは、技術の浸透を示すTechnology Adoption Lifecycleではなく、循環サイクルです。

循環サイクルと言えば、経済で有名ですよね。クズネッツとかキチンとか。これらの循環サイクルは何年から何十年という時間軸で社会の動きがあり、それが景気に影響を与えるとしています。主要なものとしては、技術革新を原因とする40〜50年周期のコンドラチェフ、人口・建設関連の15〜25年周期のクズネッツ、設備投資の8〜10年周期のジュグラー、在庫循環の40ヶ月前後の周期のキチンといった循環サイクルがあるとされています。

この循環サイクルという概念はテクノロジーにも当てはまります。残念ながら定説となっている景気循環サイクルに対し、テクノロジーの循環サイクルというのはメジャーではない(主張しているのは私だけ?)のですが。

私が唱えるテクノロジーの循環サイクルは、中央集中と分散の間での循環サイクルです。そしてそのサイクルを生み出しているのは、コンピューティングパワーとネットワーク帯域の増大です。

初期のコンピューターと言えばメインフレーム・コンピューターでした。日本でコンピューターの活用が始まったのは、1960年代終わりごろから1970年代ぐらいで、当時は三井銀行や野村證券が先進的ユーザーとされていました。利用されていたのはメインフレーム。性能面で言えば今のiPhoneの方が桁違い(どころではなく圧倒的に)優れていますが、この時代のコンピューターはとても貴重なものであり、とても高価でした。貴重で高価でしたから、一人一台なんてことは夢のまた夢(というか物理的に大きすぎて無理です)。

結果として、メインフレームは中央に設置し、それを皆で使うという形態にならざるを得ませんでした。当初はメインフレームがあるところに行かなければ使えませんでした(そもそも入力方法は紙のカードに穴をあける、パンチカードという仕組みでした)。ネットワークにつながったとしても、その帯域は極端に狭く(kbpsになるかどうかの世界)、できることは極端に限られていました。つまりメインフレームの時代は、コンピューティングパワーが希少であり、なおかつネットワーク帯域も限られていたので、技術的に中央集中にならざるを得なかったのです。

その状況が変わってきたのは1980年代から1990年代。その原動力となったのはPCです。MS-DOSが登場したのは1981年。PC-9800シリーズの登場は1982年です。当初は高価でごく一部の人が使うだけだったPCですが、1995年のWindows 95の登場で一般的なものになってきました。価格面でも一人に一台が視野に入るレベルになってきました。ただ、この時代はまだまだネットワーク回線の帯域は限られていました。公衆回線を使った通信は高速化してきたといえども28.8kbpsといったあたり。また家庭内はもとより、事務所内でもLANを敷設することもまだそこまで一般的ではありませんでした。

PCでコンピューティングパワーは向上し、一人一台も視野に入ってきた。しかしネットワーク帯域が限られる中で、結果的にそれぞれをバラバラで使う分散にならざるを得ませんでした。EUC(エンド・ユーザー・コンピューティング)というのはこの時代の表現ですが、エンド・ユーザーができることが格段に拡大したということでもありますし、同時に、分散の結果、管理が行き届かなくなったともいえます。

再び状況が変わってきたのが2000年代です。事務所内でLANの敷設は一般的になってきましたし、外部との通信もADSLの技術により、一気にMbpsの速度が実現されました。孫さんがYahoo! BBでADSLモデムを配りまくったのが2001年のことです。コンピューティングパワーは引き続き向上する中で、ネットワーク帯域が広がることによって、コンピューターに関わる歴史上初めて、中央集中か分散かが選べるようになったのです。

中央集中か分散か選べるようになった中で、どちらが望ましいか。少なくともコンピューターの管理の観点からは答えは明確です。それは中央集中。分散は、それぞれが使用している端末の管理が極めて難しいことは、一定規模の会社のIT管理者が皆、痛感していることです。また、分散の場合、稼働している端末もあれば稼働していない端末もあり、全体として利用率は高くありません。つまりコンピューティングパワーを無駄にしていることになります。これらは全て、メインフレームの中央集中の時代にはなかった問題が、分散になることによって生じてきたものです。ですから、中央集中か分散か選べるようになった時代において、コンピューターの管理の観点では答えは一択で、中央集中になります。

つまり、コンピューティングパワーとネットワーク帯域の増大によって、中央集中から分散、そして再び中央集中というサイクルができているということです。だからこそ、2008年、私はクラウドという言葉が一般的でない時代に、これからはSaaS(クラウド)と宣言できたのです。(続く)
posted by 岡本浩一郎 at 18:49 | TrackBack(0) | 弥生