2021年12月01日

会計ソフトを変えるもの(その2)

私が10年以上前にこれからはSaaS/クラウドと言い切ったのは、テクノロジーは一定の循環サイクルによって進化しており、このサイクルに基づくとテクノロジーの主流はSaaS/クラウドになると当時から考えていたからです。ここで私が言うサイクルは、技術の浸透を示すTechnology Adoption Lifecycleではなく、循環サイクルです。

循環サイクルと言えば、経済で有名ですよね。クズネッツとかキチンとか。これらの循環サイクルは何年から何十年という時間軸で社会の動きがあり、それが景気に影響を与えるとしています。主要なものとしては、技術革新を原因とする40〜50年周期のコンドラチェフ、人口・建設関連の15〜25年周期のクズネッツ、設備投資の8〜10年周期のジュグラー、在庫循環の40ヶ月前後の周期のキチンといった循環サイクルがあるとされています。

この循環サイクルという概念はテクノロジーにも当てはまります。残念ながら定説となっている景気循環サイクルに対し、テクノロジーの循環サイクルというのはメジャーではない(主張しているのは私だけ?)のですが。

私が唱えるテクノロジーの循環サイクルは、中央集中と分散の間での循環サイクルです。そしてそのサイクルを生み出しているのは、コンピューティングパワーとネットワーク帯域の増大です。

初期のコンピューターと言えばメインフレーム・コンピューターでした。日本でコンピューターの活用が始まったのは、1960年代終わりごろから1970年代ぐらいで、当時は三井銀行や野村證券が先進的ユーザーとされていました。利用されていたのはメインフレーム。性能面で言えば今のiPhoneの方が桁違い(どころではなく圧倒的に)優れていますが、この時代のコンピューターはとても貴重なものであり、とても高価でした。貴重で高価でしたから、一人一台なんてことは夢のまた夢(というか物理的に大きすぎて無理です)。

結果として、メインフレームは中央に設置し、それを皆で使うという形態にならざるを得ませんでした。当初はメインフレームがあるところに行かなければ使えませんでした(そもそも入力方法は紙のカードに穴をあける、パンチカードという仕組みでした)。ネットワークにつながったとしても、その帯域は極端に狭く(kbpsになるかどうかの世界)、できることは極端に限られていました。つまりメインフレームの時代は、コンピューティングパワーが希少であり、なおかつネットワーク帯域も限られていたので、技術的に中央集中にならざるを得なかったのです。

その状況が変わってきたのは1980年代から1990年代。その原動力となったのはPCです。MS-DOSが登場したのは1981年。PC-9800シリーズの登場は1982年です。当初は高価でごく一部の人が使うだけだったPCですが、1995年のWindows 95の登場で一般的なものになってきました。価格面でも一人に一台が視野に入るレベルになってきました。ただ、この時代はまだまだネットワーク回線の帯域は限られていました。公衆回線を使った通信は高速化してきたといえども28.8kbpsといったあたり。また家庭内はもとより、事務所内でもLANを敷設することもまだそこまで一般的ではありませんでした。

PCでコンピューティングパワーは向上し、一人一台も視野に入ってきた。しかしネットワーク帯域が限られる中で、結果的にそれぞれをバラバラで使う分散にならざるを得ませんでした。EUC(エンド・ユーザー・コンピューティング)というのはこの時代の表現ですが、エンド・ユーザーができることが格段に拡大したということでもありますし、同時に、分散の結果、管理が行き届かなくなったともいえます。

再び状況が変わってきたのが2000年代です。事務所内でLANの敷設は一般的になってきましたし、外部との通信もADSLの技術により、一気にMbpsの速度が実現されました。孫さんがYahoo! BBでADSLモデムを配りまくったのが2001年のことです。コンピューティングパワーは引き続き向上する中で、ネットワーク帯域が広がることによって、コンピューターに関わる歴史上初めて、中央集中か分散かが選べるようになったのです。

中央集中か分散か選べるようになった中で、どちらが望ましいか。少なくともコンピューターの管理の観点からは答えは明確です。それは中央集中。分散は、それぞれが使用している端末の管理が極めて難しいことは、一定規模の会社のIT管理者が皆、痛感していることです。また、分散の場合、稼働している端末もあれば稼働していない端末もあり、全体として利用率は高くありません。つまりコンピューティングパワーを無駄にしていることになります。これらは全て、メインフレームの中央集中の時代にはなかった問題が、分散になることによって生じてきたものです。ですから、中央集中か分散か選べるようになった時代において、コンピューターの管理の観点では答えは一択で、中央集中になります。

つまり、コンピューティングパワーとネットワーク帯域の増大によって、中央集中から分散、そして再び中央集中というサイクルができているということです。だからこそ、2008年、私はクラウドという言葉が一般的でない時代に、これからはSaaS(クラウド)と宣言できたのです。(続く)
posted by 岡本浩一郎 at 18:49 | TrackBack(0) | 弥生