2021年12月08日

会計ソフトを変えるもの(その4)

もうこれで4回目と随分と長くなってしまっていますが、前回までに、中央集中から分散、そして進化した中央集中というテクノロジーの循環サイクルこそが、私が弥生の社長に就任した13年前から、クラウドに取り組み続けている理由であるということをお話ししました。

流行り言葉ではなく、技術の進化という明確な要因に裏付けられた循環サイクルの一環としてのクラウド。そしてそのクラウドは確かに、会計ソフトを変える要因の一つです。ただ一方で、それは技術という観点での要因の一つでしかありません。技術という観点で、クラウドであり、中央集中が望ましくても、実際に使う人たちにとってメリットがなければ普及はしません。いわゆる供給サイドのシーズはあっても、それを需要サイドが求めている(ニーズ)とは限りません。

ここでようやく最初のお題に戻りますが(前置きが長くてスイマセン)、会計ソフトのあり方を本当に変えるのは、クラウドや中央集中といった技術要因ではなく、「私の履歴書」で吉野さんが言われる通り、お客さまの「価値観の変化」だと考えています。銀塩写真が廃れ、デジカメ、そしてスマホへと変遷する際には、「写真は撮ってプリントする」から「撮ってメールで送る」とという価値観の変化がありました。

では、会計ソフトにおける価値観の変化とは何なのでしょうか。

それは、「会計ソフトは入力することが当たり前」から、「会計ソフトに入力は必要ないのが当たり前」への価値観の変化です。入力が必要なのであれば、当然入力の使い勝手は非常に重要です。多くの会計事務所がデスクトップ版の弥生会計に拘り続けるのは、会計ソフトには入力が必要であることが当たり前であり、その際の入力効率を重要視しているからです。弥生会計ならサクサク、仕事が捗る。ですが、入力が必要なくなればどうでしょうか。入力のしやすさ、サクサク感というものは意味を持たなくなります。

同時に、入力をなくすためには、クラウドと常時つながっていることが必要になります。電子インボイスや電子レシートが当たり前になり、それらが常時何もしなくても自動的に取り込まれる。クラウドと常時つながっているからこそ、様々な取引がデータとしてリアルタイムで連携され、それを基に仕訳が自動的に生成される。だから入力はいらない。

お気付きかと思いますが、弥生が今、電子インボイス推進協議会(EIPA)の発起人であり、代表幹事として日本における電子インボイスを当たり前のものとするための活動に取り組んでいるのはまさにここに理由があります。つまり、クラウドによって会計ソフトを変えるのではなく、会計ソフトに入力は必要ないのが当たり前、という新しい価値観を創造することによって会計ソフトのあり方を変えようとしているのです。(いよいよ次回は最終回)
posted by 岡本浩一郎 at 21:19 | TrackBack(0) | 弥生