2021年12月15日

会計ソフトを変えるもの(その5)

随分と長い間引っ張ってしまいましたが、これまで4回に渡って、何が会計ソフトを変えるのかについてお話ししてきました。

吉野さんが言われる通り、銀塩写真が廃れたのは、必ずしもデジカメに性能面で劣ったからではありません。しかし事実として銀塩写真が廃れ、デジカメ、そしてスマホへと変遷した裏には、「写真は撮ってプリントする」から「撮ってメールで送る」とという価値観の変化がありました。

会計ソフトを変えるのは技術ではありません。クラウドやAIといった技術は今後も進化しますし、会計ソフトを変える一因ではあるでしょう。

しかし本当の意味で会計ソフトを変えるのは、価値観の変化です。具体的には「会計ソフトは入力するのが当たり前」から「会計ソフトには入力が必要ないのが当たり前」への価値観の変化です。

だからこそ弥生は、会計ソフトに入力は必要ないのが当たり前、という新しい価値観を創造しようとしているのです。

入力を不要にする仕組みとしては、現在でも弥生スマート取引取込によって、銀行口座の情報を取り込んで自動で仕訳を生成することは可能です。ただ、残念ながら当たり前のように利用される状況にはなっていません。そこには、特に法人の場合、費用がかかることもあってインターネットバンキングの利用が進んでいないという問題もあれば、銀行口座の情報には消費税という概念がない、そのため、軽減税率の導入によって複数税率になった今、正確な税率の判定ができないという根源的な問題もあります。

電子インボイスや電子レシートはそういった状況を変えられる可能性を有しています。電子インボイスや電子レシートには、いつ、誰から誰に、いくらで、どんな商品/サービスが販売されたのか、その際の税率・税額は、といった情報が全てデジタルデータとして含まれます。そのデータを活用すれば、正確な記帳を自動で行うことが可能になります。つまり、電子インボイスや電子レシートが一般的なものになれば、もはや会計ソフトに入力は必要なくなります。

事業者にとって会計ソフトで帳簿を付けることは面倒くさいこと。それに対して、見積書や請求書を発行することは嬉しいことです。お客さまに価値を提供し、それに対して対価をいただくことそのものですから。お客さまに価値を提供し、それに対して対価をいただくために、見積書や請求書を発行すれば、それが裏で自動で帳簿に反映されるようになっていきます。結果として会計ソフトはいわば表から見えない存在になります。それでも、帳簿は随時作成されていますから、入力はなくとも、いつでも必要な時に、今の売上の状況や利益の状況、キャッシュフローなどを確認できるようになります。

弥生は、入力が当たり前のものである今の会計ソフトのあり方には満足していません。弥生自身が牽引して、入力がいらない会計ソフトを実現していくべきだと考えています。そのためには会計ソフトだけを開発しているのでは十分ではありません。電子インボイスや電子レシートといった社会的な仕組みの成立と普及を先導する。その中で、お客さまであり、会計事務所の価値観が変わっていきます。そして価値観が変わる中で会計ソフトのあり方も変わっていきます。もちろんその会計ソフトはクラウドのメリットを最大化できるものでなければなりません。

技術はもちろん重要ですが、本当に物事を変えようとすれば、変えるべきなのは技術以上に、価値観です。価値観が変わるからこそ、技術が普及します。弥生は、技術だけでなく、価値観を変えることによって、会計ソフトのあり方を変えていきます。
posted by 岡本浩一郎 at 23:53 | TrackBack(0) | 弥生