2022年07月29日

デジタルインボイスの今

前回デジタルインボイス推進協議会(EIPA)の「デジタルインボイス推進の取り組み」がMM総研大賞で「話題賞」を受賞したことをお話ししました。また少し前には電子インボイス推進協議会からデジタルインボイス推進協議会へ名称を変更したこともお話ししました。

一方で、EIPAが実際にどういった活動をしているのかについてはお話しできていませんでした。EIPAは2020年7月に発足し、その年の12月にはグローバルな標準仕様である「Peppol(ペポル)」をベースとした日本におけるデジタルインボイスの標準仕様を策定すべきという提言を平井卓也デジタル改革担当大臣に行いました。これに対し平井大臣から全面的な賛同を受けたことから、実際の標準仕様の検討を進めてきました。昨年秋にデジタル庁が発足して以降は、デジタル庁が日本におけるデジタルインボイスの標準仕様の策定主体として活動を開始しており、EIPAは民間の立場からその支援を行ってきています。現時点では、この標準仕様がJapan PINT Invoice Version 0.9.3として、Peppol全体の運営主体であるOpenPeppolのウェブサイトで公開されています。Version 0.9.3ということで、まだ正式版ではないのですが、内容としてはほぼ固まっており、この仕様に基づいて、日本でPeppolのサービスを提供しようとするベンダーが各社開発に取り組んでいる状況です。

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EIPAでは、ベンダーが開発を進める際の補助資料として、開発者に向けた日本語でのリーダーズガイドである「テクニカルドキュメント」とデータのセット方法に関する「ガイドライン」という二つのドキュメントを作成し、EIPA会員向けに公開しています。これらのドキュメントもまだ正式版ではなくWork-in-progessなのですが、各社が実際に開発を進める中で活用いただきつつ、そこで生じた疑問などを取り込んで今後もブラッシュアップしていきます。

ご承知の通りインボイス制度(適格請求書等保存方式)は来年10月に始まりますが、事業者としては、来年10月1日から対応を開始すればいいわけではありません。来年10月1日の時点で、インボイスの発行、受領、保存が業務として既に定着している必要があります。これをデジタルで実現できるよう、デジタルインボイスのサービス自体はできるだけ早めに提供を開始したいと考えています。実際のサービス開始の時期は、サービスを提供する各社によって異なりますが、早ければ今年の秋にはサービスを開始する会社が出てくる見込みです。
posted by 岡本浩一郎 at 17:53 | TrackBack(0) | デジタル化

2022年07月27日

MM総研大賞 2022

MM総研が主催しているMM総研大賞 2022で、デジタルインボイス推進協議会(EIPA)の「デジタルインボイス推進の取り組み」が「話題賞」を受賞したということで、EIPAを代表して、シェラトン都ホテルで開催された授賞式に参加してきました。

MM総研大賞は、ICT分野の市場、産業の発展を促すことを目的に2004年に創設された表彰制度です。MM総研大賞では複数の部門で表彰されますが、最高賞となる大賞は「FIWAREを活用したスマートシティ」ということで、実際にスマートシティのサービスを実現している高松市、富山市と、オープンソースのデータ連携基盤「FIWARE」を活用してそれを支援しているNECが受賞されました。今回EIPAが受賞したのは、話題賞。話題賞とは、その名の通り、ICT産業に大きなインパクトを与え、大きな話題を集めた製品・サービスが対象となっています。

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授賞式では授賞者ごとに審査委員から表彰いただくのですが、審査委員の中に見慣れた顔が。そうです、弥生の社外取締役である林 千晶さん(当たり前ですが、林さんが弥生の社外取締役であることと、今回のEIPAの受賞は何の関係もないはず、笑)。表彰を林さんからしていただければ、すごい巡り会わせだと思いましたが、EIPAの表彰の少し手前でプレゼンターが交代。同じく審査員であるジャーナリストの西田さんに表彰いただきました(西田さん、有難うございました)。

今回は代表幹事として私が授賞式に参加しましたが、賞を受賞したのはあくまでもEIPA。EIPAはデジタルで社会を効率化するという想いを共有する会社が集まって活動しています。普段は競争することもある会社同士が同じ目標に向かって活動していることが、今回こうして評価されたことはとても嬉しいことです。今の時点ではまだデジタルインボイスというサービス自体がまだ提供されていないということもあり、今回は話題賞ということになりましたが、一年後にはデジタルインボイスのサービスも立ち上がり、利用しているソフトが異なっても自由にデジタルインボイスのやり取りができるようになっているはずです。

ということで来年は話題賞ではなく、是非大賞を受賞したいと思います。来年はMM総研大賞にとって20年目という節目の年。その記念すべき年に栄えある大賞を獲得し、(その時点で)目前に迫ったインボイス制度の運用開始に向けて勢いを付けたいところです。ということで、今回のタイトルは思わせぶりに「MM総研大賞 2022」としてみました、笑。
posted by 岡本浩一郎 at 22:33 | TrackBack(0) | デジタル化

2022年07月25日

モリゾウからの手紙

少し前になりますが、あの「モリゾウ」から直々にお手紙をいただきました。あ、このモリゾーではなく、こちらのモリゾウです。そう、トヨタの豊田章男社長です。直々にとは言っても、私だけに出された手紙ではなく、おそらく1万人以上の方に出された手紙ではあるのですが。

本ブログではあまり趣味の話はしないようにしている(その割には最近はトライアスロンとかトレーニングの話が多いですが、笑)ので、ほとんど触れていませんが、私はクルマが好きです。18歳で初めて自分のクルマを持つようになってから、もう30年以上。所有歴は10台以上ですが、ずっとそれなりに拘りの強いクルマ選びをしてきました。しかし実は、トヨタのクルマは所有したことがありません。

若い時のトヨタのイメージというとおじさんのクルマ。ある程度年をとってからのイメージは普通のクルマ。いずれにせよ、トヨタ車を欲しいと思ったことはありませんでした。そんな私ですが、ここ一年ほどかなり惹かれるクルマが。それがGRヤリスです。トヨタのコンパクトカーであるヤリスがベースではあるものの、モータースポーツで勝てる車両を目指してほぼ全てが新規開発されたクルマ。そしてそのGRヤリスをベースとしてそのまま競技に出れるレベルにまで強化されたクルマがGRMNヤリス。発売されるのは僅か500台という超限定車です。

この冬に申し込みが開始され、私もダメもとで申し込んだものの、抽選結果は残念ながら外れ(なんでも1万人以上の申し込みがあったようです)。そろそろ納車が始まるということで、最近GRMNヤリスの試乗記事が増えていますが、読むたびにああ欲しかったなあ、と涙目になっています(笑)。

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そんな傷心の主に届けられたモリゾウからのお手紙(親しみを込めてあえて敬称抜きの「モリゾウ」と書いています)。GRMNヤリスに対する熱い思いをモリゾウ自身の声で語っています。

これって本当に素晴らしいことだと思います。ダントツの日本一であり、今や世界一の座を争うメーカーの社長が、自社の製品にとことん思い入れて、熱く語る。売上や利益、マーケットシェアについて語るのではなく、クルマを走らせることの楽しさを語る。その熱さや想いが、これまでずっとトヨタに見向きもしなかったクルマ好きも振り返させる。豊田社長は、トヨタのクルマであり、会社そのものを変えていっていることを実感します。

トップの熱い想いがトヨタという巨大な会社を変えていっている。トヨタほどの巨大な会社が変われるのであれば、弥生はもっと劇的に、もっと早く変われるはずです。製品も全く違いますし、そもそも会社の規模も全く違いますが、想いでは負けないようにしないと。
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2022年07月22日

弥生が事業承継を支援する意味

これまで、弥生が事業承継ナビを立ち上げた背景として、日本の事業者の約2/3は、「引退」の二文字が視野に入る年齢になりつつある一方で、その半数は引退 = 事業の廃業になりかねないということをお話ししました

一方で、2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3になるという主張は、本当なんだろうか、という疑問があり、その検証を行ってきてきました(その1その2その3その4)。検証の結果は、2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3になるというのは疑わしいと言わざるを得ないという結論になりました。

これはまずい事態です。2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3になるという前提で事業承継ナビを立ち上げたのに、その前提が崩れた訳ですから(苦笑)。とはいえ、ご安心ください。前提がそれなりに変わったにしても、事業承継の支援は弥生として取り組むべきテーマだと考えています。

検証した際の穏当なシミュレーションの結果では、2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人は全体の約1/3。ただ、2015年には法人でも個人事業主でも20%弱だったものが30%強にまで増えていくわけですから、着実に高齢化は進んでいます。「2025年に」「全体の2/3」という極端なシナリオにはならないまでも、「引退」の二文字が視野に入る年齢の経営者が増えてきていることは紛れもない事実です。

少し古い数字ですが、中小企業白書(元データは経済センサス)によると、事業者(民間、非一次産業)の数は2016年で法人が160万、個人事業主が198万で合計358万。その1/3というと約120万。2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が約120万人。なおかつその約半数で後継者が未定とすると、遠からず引退 = 廃業となる可能性が約60万事業者ということになります。これでも十分に大きな数ですし、これに対し手を打っていかないと日本の経済に大きな影響を与えうるということは変わりません。ということで、やはり事業承継は取り組むべき課題です。問題は弥生として取り組む必然性があるかどうか。

弥生は事業承継ナビを通じて特に小規模事業者の事業承継のお手伝いをしたいと考えています。もともと弥生のお客さまは小規模事業者が中心ですが、これまでもお話ししているように既存の事業承継ビジネスは小規模事業者を対象にしていません。一方で上記の約60万事業者の大部分は小規模事業者です。だからこそ、弥生がやる意味があると考えています。

弥生がやる意味という観点では、特に個人事業主の事業承継は何とかしなければならないと考えています。既存の事業承継ビジネスは、基本的に対象は法人(なおかつ一定の事業規模以上)ですが、上でもお話ししたように、事業者の半分以上は個人事業主です。法人の事業承継は、価値算定の方式はある程度確立されていますし、実際の承継の方法も基本的には株式の譲渡という形で確立しています。これに対し、個人事業主の場合は、事業と個人が密接につながっているため、その個人が事業に従事しなくなった際の事業の価値算定が難しく、また、承継の方法も株式の譲渡というシンプルな方法は存在しませんから、事業資産の承継なのか、営業権の承継なのか、それらの組合せなのか、ケースバイケースとなります。一般的な事業承継ビジネスの観点からすると、そもそも事業規模が小さいというだけで採算性が悪い。さらに個人事業主については、価値算定の観点でも、実際の承継の手続きの観点でも手間がかかるということになります。つまり一般的には積極的に取り組む意義は見出せません。だからこそ、弥生がやる意味があるということです。

もっとも、正直に言って現時点では弥生としても個人事業主の事業承継に対し、何ら切り札を持っているわけではありません。当初はやはり法人の事業承継のお手伝いが中心になるのではないかと思います。ただ、弥生自身としても事業承継に対する知見を深めながら、どのようにすれば個人事業主の事業承継も円滑に進めることができるのかを考えていきたいと思っています。
posted by 岡本浩一郎 at 17:59 | TrackBack(0) | 弥生

2022年07月19日

数字を疑う(その4)

これまで、弥生が事業承継ナビを立ち上げた背景として、日本の事業者の約2/3は、「引退」の二文字が視野に入る年齢になりつつある一方で、その半数は引退 = 事業の廃業になりかねないということをお話ししました

一方で、2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3になるという主張は、本当なんだろうか、という疑問があり、その検証を行ってきてきました。前々回は、2005年および2015年の法人経営者の年齢分布(元データは帝国データバンク)をもとに2025年の年齢分布のシミュレーションを行い、結果として、2025年に中小企業・小規模法人の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3というのは非常に疑わしいという結論を得ました。また前回は、2005年および2015年の個人事業主の年齢分布(元データは総務省「労働力調査(基本集計・長期時系列データ)」)をもとに2025年の年齢分布のシミュレーションを行い、2025年に個人事業主のうち70歳を超える人が全体の2/3というのも非常に疑わしいという結論を得ました。

どうして2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3になるという話になったのでしょうか。ヒントは出典となっている中小企業庁の資料の2ページ目にありました。右側の図の出所を確認してみると、平成28年度総務省「個人企業経済調査」とあります。この調査結果の概要がこちら(pdf)。詳細は割愛しますが、この調査では、2016年時点の(調査対象の)個人事業主のうち70歳以上が42%、70歳未満が58%でした。さらにこの時点で60歳以上が73%、60歳未満が27%でした。調査対象が全く変わらず約10年(正確には9年)経過すると、この割合がそのままスライドし、2025年時点で70歳以上が73%、70歳未満が27%ということになります。仮にこの割合が正しいとすると、少なくとも個人事業主については、70歳を超える人が全体の2/3ということになりそうです。

ちなみに、前回シミュレーションに使用した個人事業主の年齢分布のもとになっているのは総務省「労働力調査」。こちらでは2015年時点の60歳以上が45%、60歳未満が55%という数値でした。この割合を単純に10年スライドすると、2025年時点で70歳以上が45%、70歳未満が55%ということになります(これは基本的に前回の極端なシミュレーションのパターンです)。

同じ総務省が発表している二つの調査ですが、一方では、2025年時点で個人事業主のうち70歳以上が3/4近くに達しうるという結果、もう一方では半分もいかないという結果とかなりの差があります。おそらく「中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3になる」というのは前者の数字がベースになっているのではないかと思います。

ちなみに、前者の「個人企業経済調査」というのは「個人企業の経営の実態を明らかにし,景気動向の把握や中小企業振興のための基礎資料などを得ることを目的」に毎年行われているそうですが、その調査対象は、「全国の個人企業のうち、次の産業を営むものの中から,一定の統計上の抽出方法に基づき抽出した約 4,000 事業所を調査対象としている」となっています。また調査方法としては、「統計調査員が調査事業所に調査票を配布し、事業主に記入していただき、記入された調査票を取集する方法により行っている」とされています。つまり必ずしも様々な産業を反映しておらず、サンプル数も約4,000と限られる、また、調査員による調査票の配布・回収に協力できる個人事業主が対象となっており、サンプリング・バイアスが起きやすい調査のように見えます。念のためですが、だからこの調査がダメだという気はありません。どんな調査にも(全数調査でない限り)、一定のバイアスはあります。ただ、その調査の結果は調査方法(とその結果どれだけ誤差が生まれやすいか)に応じて扱うべきかと思います。

一方で、総務省「労働力調査」もやはりサンプリング調査です。こちらはサンプル数が約40,000世帯(対象となる15歳以上の世帯構成員としては約10万人)と一桁大きく、また標本の抽出方法、結果の推定方法、さらに推定値の標本誤差までかなり詳細に解説されており、サンプリング調査の限界を踏まえた上で、正しく活用されるようにかなり意識した調査に見受けられます。

どちらの数字がより確からしいかは何とも言えませんが、サンプリング調査の限界を適切に踏まえているという意味で、「労働力調査」の方が「個人企業経済調査」よりまだ妥当な結果に思えます。

ということで、個人的な結論ですが、2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3になるというのは疑わしいと言わざるを得ません。ただし、推計のベースになる調査の選び方次第では、そういった結論になることもありうる、ということかと思います。

思った以上にこのテーマに深入りしてしまいました(苦笑)。で、結局何を言いたいのかですが、わかりやすい(往々にしてキャッチーだったり、扇動的だったり)数字に飛びつくべきではないということです。このテーマのタイトル通り、わかりやすい数字であればあるほど、それを疑うことも必要だということです。

本ブログでは以前FACTFULNESSという本を取り上げました。アメリカのSATという(日本で言えばセンター試験のような)テスト結果から、男性の方が女性よりも数学が得意だ、という結論が得られそうだが、本当にそうなんだろうか、というエピソードについてご紹介しましたが、これもある意味わかりやすい数字を疑うということかと思います。

2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3になるというのは実にセンセーショナルな数字です。ただ、少なくとも私の感覚的には、70歳を超える人が増えることは間違いなくても、あと3年で全体の2/3になるというのはどうしてもしっくりきません。数字に安直に踊らされず、自分が感じる違和感を放置せず、本当なんだろうかと考えることも必要なのではないでしょうか。
posted by 岡本浩一郎 at 21:45 | TrackBack(0) | ビジネス

2022年07月15日

数字を疑う(その3)

これまで、弥生が事業承継ナビを立ち上げた背景として、日本の事業者の約2/3は、「引退」の二文字が視野に入る年齢になりつつある一方で、その半数は引退 = 事業の廃業になりかねないということをお話ししました

一方で、2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3って、本当だろうか、という疑問があり、その検証を行ってきています。前回は、2005年および2015年の法人経営者の年齢分布(元データは帝国データバンク)をもとに2025年の年齢分布のシミュレーションを行い、結果として、2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3というのは非常に疑わしいという結論を得ました(なお前回記事に一部ミスがあったため修正していますが、メッセージは変わりません)。

うむむ、何かを見過ごしていないでしょうか。「2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3」のソースとなっている中小企業庁の資料の2ページ目のうち、前回は左下のグラフに関して検証を行ったわけですが、今回は、右側の図を見てみましょう。右側の図の出所を確認してみると、「平成28年度総務省「個人企業経済調査」、平成28年度 (株)帝国データバンクの企業概要ファイルから推計」とあります。後段は左側のグラフと共通ですが、前段が追加されています。

そう、左側のグラフはあくまでも法人の話なのですが、右側の図に関しては、法人と個人事業主を合わせて表現しているということです。つまり、法人の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3ということはなくても(前回の現実的なシミュレーションでは1/3ぐらいではないかと推計しました)、個人事業主も合わせて考えると、70歳を超える人が全体の2/3という可能性はあります。もっとも、法人で1/3ぐらいであるものが全体で2/3となると、個人事業主のうち70歳を超える人が3/4超といったような極端な分布になっている必要がありますが。

ということで、個人事業主の年齢分布を探ってみると、2019年版の小規模企業白書の第2-1-3図に、「年齢階級別に見た自営業主の推移」というデータがありました(ここでいう自営業主とは、個人経営の事業を営んでいる者という定義)。今回もこの第2-1-3図から、2005年と2015年のデータだけを抜き出してみました(法人の時と同様、例えば50歳〜54歳は中間地点である52.5として表現)。なお、縦軸を以降のグラフと揃えるためにやや見にくいグラフになっているのはご容赦ください

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個人事業主においても2005年から2015年にかけて、グラフが右にシフトしています。55〜59歳だったピーク値が70歳以上になっていることがわかります。このデータでは70歳以上が一まとめになってしまっている(法人では70〜74歳、75〜80歳、80歳以上となっていた)ため、ピーク値が10歳以上ずれてしまっているのかと思います。

今回もまずは極端なシミュレーションを行ってみたいと思います。2015年時点の個人事業主が、皆単純に10歳歳をとったとします。この場合2015年時点で60歳以上だった個人事業主は一人残らず2025年時点では70歳以上ということになります。ただ、この場合、15〜20歳の層と20〜25歳の層が誰もいなくなってしまう(皆10歳歳をとって2つ右の層に移ってしまう)ので、この2つの層に関しては仮に2015年時点と同じ数の個人事業主が新たに生まれてくると想定します。この極端なシミュレーションの結果はこちら。

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そうすると確かに2025年時点では70歳以上の層に極端なピークが立つことがわかります。その数201万人。ただ、確かにピークとしては高いのですが、70歳未満が245万人に対し、70歳以上が201万人ですから、これでも70歳を超える人が全体の2/3とはなりません。

次に、法人の時と同様にもう少し穏当なシミュレーションをしてみます。30〜34歳、35〜39歳といった各年齢層ごとに、10年経過する中での目減り率を設定します(廃業したなどの要素を考慮)。それと同時に、各年齢層ごとに10年の中で新たに個人事業主となる人の数を設定します。緻密なシミュレーションではなく、あくまでもざっくりとしたものですが、結果はこういった感じになります。

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上の極端なシミュレーションよりは、まあこんなものかな、という結果になっていますね。このシミュレーションでも70歳以上にかなり高いピークが立っています。ただし、その数は127万人と極端なシミュレーションよりは少なくなっています。このシミュレーションでは70歳未満が293万人に対し、70歳以上が127万人ということで、70歳以上の人が2/3どころか、むしろ70歳未満が2/3となります。

ということで、ここまでの一旦の結論なのですが、2025年に中小企業・小規模事業者(法人および個人事業主)の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3というのはやはり非常に疑わしいということになります。随分引っ張ってしまっていますが、次回はこれまでの検証をまとめてみたいと思います。実は70歳を超える人が全体の2/3となっている理由も想像はできているので、その点もお話ししてみたいと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 19:06 | TrackBack(0) | ビジネス

2022年07月13日

数字を疑う(その2)

これまで、弥生が事業承継ナビを立ち上げた背景として、日本の事業者の約2/3は、「引退」の二文字が視野に入る年齢になりつつある一方で、その半数は引退 = 事業の廃業になりかねないということをお話ししました

一方で前回は、2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3って、本当だろうか、という疑問も呈しました。本ブログでも以前紹介した帝国データバンクの調査では、2021年時点での社長の平均年齢は60.3歳。この平均年齢は大体年に0.1歳から0.3歳ぐらいの幅で上昇しているので、仮に2021年から2025年まで、毎年0.3歳平均年齢が上がるとしても、2025年時点では61.5歳。全体の平均は62歳だけれども、全体の2/3が70歳以上ということはありうるのでしょうか。

これは理論上はありうるとお話ししました。ただし、それは分布に極端な歪みがある場合です。例えば、40歳の人が100万人、70歳の人が200万人いたら、平均は60歳だけれども、70歳以上の人が全体の2/3ということになります。

ただ、これは明らかに現実的ではないですよね。ということで、実際の数字を追って検証してみたいと思います。「2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3」というのは中小企業庁が発表している資料に基づいています。この資料の2ページ目、まずは左側のグラフから確認していきますが、このグラフの出所は「平成28年度 (株)帝国データバンクの企業概要ファイルを再編加工」とあります。そう、本ブログの「社長の平均年齢」という記事で取り上げたのと情報源は同じです。これは2018年版の中小企業白書、第2-6-2図に同様なデータがありました。

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ここでは、2018年版の中小企業白書、第2-6-2図から、2005年と2015年のデータだけを抜き出してみました(ここでは例えば50歳〜54歳は中間地点である52.5として表現)。確かに2005年から2015年にかけて、グラフが右にシフトしており、55〜59歳だったピーク値が65〜69歳になっていることがわかります。ただし、このグラフから計算した(例えば、50歳〜54歳は全て52.5としているためあくまでも簡易的な計算)2005年時点での平均は58.3歳、2015年時点での平均は60.1歳であり、1年に1歳平均年齢が上がるということはなく、年に0.2歳ぐらいの上昇ということになります。

ここで、極端なシミュレーションをしてみましょう。2015年時点の社長が、皆単純に10歳歳をとったとします。この場合2015年時点で70歳以上だった社長は一人残らず2025年時点では80歳以上ということになります。ただ、この場合、30〜34歳の層と35〜39歳の層が誰もいなくなってしまう(皆10歳歳をとって2つ右の層に移ってしまう)ので、この2つの層に関しては仮に2015年時点と同じ数の社長が新たに生まれてくると想定します。この極端なシミュレーションの結果はこちら。

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2015年時点で70歳以上だった社長は一人残らず2025年時点では80歳以上となる結果、ピークは一気に80歳以上にシフトしています。計算上の平均年齢は68.0歳。2015年時点での平均である60.1歳からは一気に増えたことがわかります(30〜34歳の層と35〜39歳の層に新たな社長が生まれてくることを想定しているため、平均は単純に+10にはならない)。でもまあ、どう考えても極端なシミュレーションですよね。こんな極端なケースでも、70歳未満が61.7万人、70歳以上が65.4万人となり、確かに70歳以上の方が多くなりますが、それでも全体の2/3といった極端な結果にはなりません。

次に、もう少し穏当なシミュレーションをしてみます。30〜34歳、35〜39歳といった各年齢層ごとに、10年経過する中での目減り率を設定します(廃業した、あるいは社長交代したなどの要素を考慮)。それと同時に、各年齢層ごとに10年の中で新たに社長に就任する人の数を設定します。緻密なシミュレーションではなく、あくまでもざっくりとしたものですが、結果はこういった感じになります。上の極端なシミュレーションよりは、まあこんなものかな、という結果になっていますね。このシミュレーションではピークは70〜74歳になっています。

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このシミュレーションで平均を計算してみると62.0歳。上でお話しした2021年時点での社長の平均年齢は60.3歳、ここから導き出される2025年時点での平均年齢は62歳弱というのと整合していますね。このシミュレーションは、相当ざっくりではありますが、それでも当たらずと言えども遠からずなのではないかと思います。少なくとも極端なシミュレーションよりははるかに実態に近いはずです。

では、この穏当なシミュレーションで、70歳未満と70歳以上の数を確認してみるとどうでしょうか。結果は、70歳未満が88.8万人、70歳以上が43.3万人と、70歳以上の人が2/3どころか、むしろ70歳未満が2/3であることがわかります。
[7/15追記: 一部計算ミスがあったため本文を修正、グラフを更新しています。ただし、基本的なメッセージは変わりません。]

ここまで検証した結果としては、2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3というのは非常に疑わしいということになります。うむむ、これは一体どういうことなのでしょうか(続く)。
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2022年07月08日

安倍元首相を悼む

銃犯罪が続くアメリカに比べ、平和なはずの日本で何が起こったのか。昨年頭にはアメリカで暴徒が議会を襲撃するという事件がありました。そして今この瞬間もウクライナでは戦争が起きている。世界が平和とは逆の方向に向かっている中で、日本は平和なはずでした。今日、その日本で起こったことを、正直まだ信じることができません。

安倍元首相の第二次政権がスタートしたのが2012年12月。リーマンショックの影響が続く中で、日経平均株価がようやく10,000円台を回復するというタイミングでした。日本経済は今でも盤石と言えるような状況ではありませんが、それでも今の日経平均株価は26,000円台。

もちろん国のリーダーとしての功績は株価だけで語られるものではありません。また私自身、安倍元首相のされた判断に概ね賛同はしていますが、すべてに無条件で賛同できるという訳ではありません。第二次政権の期間中、概ね支持率が不支持率を上回っていましたが、一時的に不支持率が上回ることもありました。

それでも、約8年もの間、課題先進国である日本のリーダーとして日本を引っ張ってこられた。安倍元首相の力で、日本が(課題は山積みなれども)まだ今の日本でいられるということは紛れもない事実だと思います。比較することはおこがましいのは承知の上ですが、2008年に弥生の社長になり、自分の判断が何百人という社員とその家族の生活を変えるかもしれないという重責を感じるようになりました。それが1億2千万人という日本の国民の生活を支えるわけですから、どれだけ苦しい判断があったことか。

今回の事件の背景はまだわかっていませんが、どんな理由があったとしても、暴力が正当化されることはありません。この暴力に最大限の抗議の意を示すとともに、安倍元首相のご冥福を心からお祈り致します。哀悼の意を表すため、しばらく本ブログの背景色を変えさせて頂きます。
posted by 岡本浩一郎 at 23:18 | TrackBack(0) | パーソナル

2022年07月06日

数字を疑う(その1)

前回は、弥生は今回立ち上げた事業承継ナビを通じて、中小企業の経営者が事業のバトンをしっかりと渡して引退できるようにしたい、とお話ししました。その背景としては、日本の中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が、全体の約2/3に相当する約245万人にのぼる、なおかつその約半数の127万は後継者が未定。つまり、日本の事業者の約2/3は、「引退」の二文字が視野に入る年齢になりつつある一方で、その半数は引退 = 事業の廃業になりかねないということをお話ししました。

一方で、本ブログをまめに読んでいただいている方であれば、この数字には多少なりとも違和感を持つはずです。2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3って、本当だろうか、と。実は本ブログでは2014年に社長の平均年齢という記事を書いています。元データは帝国データバンクの2013年の調査ですが、日本の社長の平均年齢が58.9歳という記事でした。これを出発点として考えると、2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち「60歳」を超える人が全体の2/3というのはあり得るように思いますが、「70歳」を超える人が2/3ですよ。

確かに2013年から2025年と考えると12年経過していますから、全く同じ人の集団でそのまま12歳年齢を重ねれば平均年齢が70歳になっているということも考えられます。しかし実際には、若い方で起業して社長になる方もいますし、一方で、年を経て引退する人もいますから、同じ集団のままで12歳年齢を重ねるということは考えられません。実際、2014年の記事では平均年齢は「毎年0.1歳から0.3歳ぐらいの幅で上昇しているので、このままいくと、2020年ぐらいには60歳の大台に到達しそうです」と書いています。実際のところ、今年発表になった帝国データバンクの調査では、2021年時点での社長の平均年齢は60.3歳(前年比+0.2歳、ということは2020年には60.1歳だったわけですから、2014年時点の「2020年ぐらいには60歳の大台に到達しそうです」という読みは大正解でした)。

仮に2021年から2025年まで、毎年0.3歳平均年齢が上がるとしても、2025年時点では61.5歳。全体の平均は62歳だけれども、全体の2/3が70歳以上ということはありうるのでしょうか。

理論上はありえます。極端なケースで考えると、40歳の人が100万人、70歳の人が200万人いたらどうなるか。この場合平均年齢は60歳になります。と同時に、70歳以上の人が200万人/(100万人+200万人)ですから、2/3ということになります。40歳の人は、人数としては半分でも平均値からの差(60-40=20)が大きいので、人数が倍の70歳の人(平均値からの差は70-60=10)と釣り合うということですね。そういった観点では、取りうる値としては30歳の社長はあり得ますが、90歳の社長はゼロでないにせよ数としては少ないでしょうから、取りうる値の分布的に平均を左にシフトさせる傾向はあるのだと思います。

毎年金融広報中央委員会が調査・発表している二人以上の世帯の平均貯蓄額(金融資産保有額)が、過大に見える(2021年で1,563万円, pdf)ことが話題になりますが、これは、取りうる値の下限が0円(貯蓄なし)であるのに対し、上限はない(1億円でも10億円でもありうる)ので、平均をとると右に引っ張られるためです。このため、この調査では中央値も公表していますが、平均値では1,563万円が中央値では450万円と大きく変わります。

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ちなみに、上でお話しした40歳の人が100万人、70歳の人が200万人という極端なケースでは、平均値は60歳である一方で、中央値は70歳ということになりますね。なおかつ平均値には誰もいない。これは本ブログでも何回かお話ししている平均値の罠です。

ただ、今回のケースでは、さすがに40歳の人が100万人、70歳の人が200万人という極端なケースではないはずです。となるとまだ見えていない別の要因がありそうです(続く)。
posted by 岡本浩一郎 at 22:02 | TrackBack(0) | ビジネス

2022年07月04日

事業承継ナビ

弥生では先週6/29に「事業承継ナビ」という新しいサービスを立ち上げました。このサービスは、事業者がどこかで直面する事業承継という課題について、「わかりやすく」「あんしん」「かんたん」に理解するためのサービスです。

事業承継といってもなかなかピンとこないのが普通だと思いますが、実は、日本全体にとって大きな課題になりつつあります。2025年までに、日本の中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が約245万人にのぼると言われています(pdf)。245万人といっても規模感がつかめませんが、日本の事業者数はざっくり380万ですから、実に全体の約2/3ということになります。そしてこの245万人のうち、約半数の127万は後継者が未定。つまり、日本の事業者の約2/3は、「引退」の二文字が視野に入る年齢になりつつある一方で、その半数は引退 = 事業の廃業になりかねないということです。

皆さんの周りでも、「長年続けてきましたが、この度閉店することに…」というお店が増えていませんか。私自身もそういったお店が増えてきたことを実感しています(足元ではコロナ禍の影響もあるとは思いますが)。

事業承継が日本全体の課題と捉えられる一方で、事業承継はビジネスとしても非常に大きな市場になってきています。ただ、事業承継をビジネスとして考えると、対象になるのは、中小企業と言っても、そこそこの事業規模に限られてきます。売上で数億円、毎年の利益もしっかり出ている事業。こういった事業には何千万円、何億円という値段で買い手が見つかり、事業は新たな株主の下で継続されていくことになります。

しかし、「長年続けてきましたが、この度閉店することに…」という事業者は、ほとんどの場合そのような事業規模ではありません。好きなことをやってお客さまに喜んでもらい、普通に食べていければよい。こういった事業規模の場合、やはりどうしても引退 = 廃業となりがちです。長年続けて街には定着しているけれども、惜しまれつつ閉店する。

弥生はその現状をパートナーである会計事務所と共に変えたいと思っています。引退 = 廃業ではなく、事業のバトンをしっかりと渡して引退する。例えば、街で愛されてきたパン屋さんが閉店する一方で、新たにパン屋を開業したいという人もいるはずです。

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今回、事業承継ナビは、まずは事業承継にあたってどのようなオプションがあるのかを知っていただくところからスタートします。さらに今後は、専門家である会計事務所を紹介し、事業承継の検討や実行を具体的に進められるよう支援していく予定です。

生んで大事に育ててきた事業を、安心して次の世代に渡すことができるように。取り組むべき課題に対し、正直スモールスタートだということは認識しています。ただ、スモールスタートでも一歩踏み出さない限り、何の問題も解決できません。2025年まで時間がないと危機感を持ちつつも、じっくりしっかりと進化させていきます。
posted by 岡本浩一郎 at 22:19 | TrackBack(0) | 弥生