2022年07月13日

数字を疑う(その2)

これまで、弥生が事業承継ナビを立ち上げた背景として、日本の事業者の約2/3は、「引退」の二文字が視野に入る年齢になりつつある一方で、その半数は引退 = 事業の廃業になりかねないということをお話ししました

一方で前回は、2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3って、本当だろうか、という疑問も呈しました。本ブログでも以前紹介した帝国データバンクの調査では、2021年時点での社長の平均年齢は60.3歳。この平均年齢は大体年に0.1歳から0.3歳ぐらいの幅で上昇しているので、仮に2021年から2025年まで、毎年0.3歳平均年齢が上がるとしても、2025年時点では61.5歳。全体の平均は62歳だけれども、全体の2/3が70歳以上ということはありうるのでしょうか。

これは理論上はありうるとお話ししました。ただし、それは分布に極端な歪みがある場合です。例えば、40歳の人が100万人、70歳の人が200万人いたら、平均は60歳だけれども、70歳以上の人が全体の2/3ということになります。

ただ、これは明らかに現実的ではないですよね。ということで、実際の数字を追って検証してみたいと思います。「2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3」というのは中小企業庁が発表している資料に基づいています。この資料の2ページ目、まずは左側のグラフから確認していきますが、このグラフの出所は「平成28年度 (株)帝国データバンクの企業概要ファイルを再編加工」とあります。そう、本ブログの「社長の平均年齢」という記事で取り上げたのと情報源は同じです。これは2018年版の中小企業白書、第2-6-2図に同様なデータがありました。

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ここでは、2018年版の中小企業白書、第2-6-2図から、2005年と2015年のデータだけを抜き出してみました(ここでは例えば50歳〜54歳は中間地点である52.5として表現)。確かに2005年から2015年にかけて、グラフが右にシフトしており、55〜59歳だったピーク値が65〜69歳になっていることがわかります。ただし、このグラフから計算した(例えば、50歳〜54歳は全て52.5としているためあくまでも簡易的な計算)2005年時点での平均は58.3歳、2015年時点での平均は60.1歳であり、1年に1歳平均年齢が上がるということはなく、年に0.2歳ぐらいの上昇ということになります。

ここで、極端なシミュレーションをしてみましょう。2015年時点の社長が、皆単純に10歳歳をとったとします。この場合2015年時点で70歳以上だった社長は一人残らず2025年時点では80歳以上ということになります。ただ、この場合、30〜34歳の層と35〜39歳の層が誰もいなくなってしまう(皆10歳歳をとって2つ右の層に移ってしまう)ので、この2つの層に関しては仮に2015年時点と同じ数の社長が新たに生まれてくると想定します。この極端なシミュレーションの結果はこちら。

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2015年時点で70歳以上だった社長は一人残らず2025年時点では80歳以上となる結果、ピークは一気に80歳以上にシフトしています。計算上の平均年齢は68.0歳。2015年時点での平均である60.1歳からは一気に増えたことがわかります(30〜34歳の層と35〜39歳の層に新たな社長が生まれてくることを想定しているため、平均は単純に+10にはならない)。でもまあ、どう考えても極端なシミュレーションですよね。こんな極端なケースでも、70歳未満が61.7万人、70歳以上が65.4万人となり、確かに70歳以上の方が多くなりますが、それでも全体の2/3といった極端な結果にはなりません。

次に、もう少し穏当なシミュレーションをしてみます。30〜34歳、35〜39歳といった各年齢層ごとに、10年経過する中での目減り率を設定します(廃業した、あるいは社長交代したなどの要素を考慮)。それと同時に、各年齢層ごとに10年の中で新たに社長に就任する人の数を設定します。緻密なシミュレーションではなく、あくまでもざっくりとしたものですが、結果はこういった感じになります。上の極端なシミュレーションよりは、まあこんなものかな、という結果になっていますね。このシミュレーションではピークは70〜74歳になっています。

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このシミュレーションで平均を計算してみると62.0歳。上でお話しした2021年時点での社長の平均年齢は60.3歳、ここから導き出される2025年時点での平均年齢は62歳弱というのと整合していますね。このシミュレーションは、相当ざっくりではありますが、それでも当たらずと言えども遠からずなのではないかと思います。少なくとも極端なシミュレーションよりははるかに実態に近いはずです。

では、この穏当なシミュレーションで、70歳未満と70歳以上の数を確認してみるとどうでしょうか。結果は、70歳未満が88.8万人、70歳以上が43.3万人と、70歳以上の人が2/3どころか、むしろ70歳未満が2/3であることがわかります。
[7/15追記: 一部計算ミスがあったため本文を修正、グラフを更新しています。ただし、基本的なメッセージは変わりません。]

ここまで検証した結果としては、2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3というのは非常に疑わしいということになります。うむむ、これは一体どういうことなのでしょうか(続く)。
posted by 岡本浩一郎 at 23:02 | TrackBack(0) | ビジネス