前回は、事業所得か雑所得かの判断基準について、国税庁より通達の一部改正の形で新しい基準(案)が示され、現在パブコメが募集されているとお話ししました。前回もお話ししたように、私個人としては本改正については全体としては賛成です。事業所得と雑所得の境界線が曖昧だった中で、一つの判断基準が示され、どちらに該当するかの予見性が高まることはプラスだと考えているからです。
前回整理したように、事業所得か雑所得かについて、縦軸に、その所得が主たる所得か、主たる所得でないか、横軸に収入が300万円以上か、300万円未満かというマトリックスで整理すると、以下のようになります。
今回の一部改正で明確になるのは、右下の部分です。右下、つまり、主たる所得でなく、かつ、その所得に係る収入金額が 300 万円を超えない場合についてのみ、原則として(反証がない限り)雑所得ということです。
これを逆の視点から見れば、左上、つまり、主たる所得であり、かつ収入金額が300万円以上の場合には、特別な要因がない限り、事業所得となるのはもちろんですが、左下、つまり、主たる所得ではないが、収入金額が300万円以上の場合にも、そして右上、つまり、主たる所得だが、収入金額が300万円を超えない場合にも事業所得になり得るということです。ただし、左下/右上については、あくまでも社会通念上事業と称するに至る程度になれば事業所得になり得るということには注意が必要です。
もっとも、本来は左下/右上なのだけれども、一時的に右下になってしまうケースがあるというのが、今回の改正での一番の懸念点です。例えば、本来は左下のケース(副業だが通常は収入300万円以上)で、新型コロナウイルス禍など外的な要因により一過性で収入が300万円未満となった場合。これは外形的には右下になりますが、あくまでも一過性の要因として、左下と同等な扱いを受けるべきだと思います。事業所得(青色申告)のメリットの一つが損失の繰越ですが、新型コロナウイルス禍など外的な要因により一過性で収入が300万円未満となった場合に雑所得になってしまっては、このメリットが享受できず、踏んだり蹴ったりということになります。
もう一つは、本来は右上もしくは左上(いずれも主たる所得)だが、事業立ち上げ期につき結果的に右下に該当してしまう場合。わかりやすい例でいえば、給与所得者が10月から独立開業した場合、収入の多寡だけで見れば給与所得の方が主たる所得になってしまう可能性が高いかと思います。ただ、当人としてはあくまでも独立開業による所得で生計を立てるつもりなのだから、それは事業所得として扱うべきだということです。事業所得(青色申告)で損失の繰越が認められている背景には、事業を立ち上げた直後は収入が安定せず赤字になりやすいことがあるかと思います。だからこそ、開業当初の赤字の繰越(その後の黒字との相殺)が認められている訳です。これに対し、開業当初は主たる所得ではないから、雑所得となってしまっては、本来得られるべき赤字の繰越ができなくなってしまいます。
これらはいずれも、今回の改正案にある「反証」に該当するのだと思います。こういったケースも含め、右下だけれども事業所得として認められる「反証」にどういったものがあるのかについて、より明確にすべきだと考えています。
なお、以上は基本的には私の個人的な意見なのですが、弥生として同様な趣旨でコメントを提出する予定です。