2023年03月13日

15年間

前回お話ししたように、私は3/31をもって、弥生株式会社の代表取締役社長を退くこととしました。私が弥生の社長に就任したのが2008年4月。実に丸15年ということになります。早くバトンを渡さなければと思いつつ、山を登り続けてきたら、あっという間に15年経ってしまったというのが実感です。

私が弥生の社長に就任した2008年4月は、リーマンショックが今まさに起きつつあるという状況でした。弥生自体は堅調と言えば堅調でしたが、それまでの急成長から一転、成長の踊り場に差し掛かっていました。さらに前年の買収によって、多額の負債を背負った状態で、リーマンショックの大波を被ることになりました。今だからお話しできますが、2008年4月に社長に就任してからの最初の最優先課題は、金融機関に引き続き支えていただくことでした。弥生は堅調です、引き続き支えてください、とお願いする金融機関向けの説明会の中で、とある外資系金融機関の方に非常に失礼なことを言われたことを鮮明に覚えています。当時は腹が立ってしょうがなかったのですが、大人ですからぐっと我慢(笑)。ただ、今であればわかるのですが、その方は怖かったのだと思います。それまで自分が信じてきた世界が急速に壊れていく。その怖さが失礼な発言につながったのだと今だからこそ理解できます。幸いにして弥生の業績は褒められたものではないにせよ、大きく崩れることはない、少し時間はかかっても再び成長軌道に乗るだろう、ということを理解いただくことができ、金融機関の皆さんに引き続き支えていただくことができました。

その後明確な成長軌道に乗り始めたのが2010年。しかしその後、2011年3月11日は多くの方にとってもそうであるように、私にとっても一生忘れられない一日です。これまで体験したことのない揺れ。当時弥生の本社は神田にありましたが、天井から鉄筋が飛び出してギシギシと揺れ続けていたことを覚えています。当日は帰宅できず。夕方ぐらいまではまあしょうがないか、とのんびり構えていましたが、その後東北から入ってきた衝撃的な映像を目にして、これはとんでもないことになった、日本はどうなるんだろう、弥生はどうなるんだろう、と不安しかない状態で夜を明かしました。その後明らかになってきた原発危機の中で、家族を海外に逃がさないのか、と周りからも言われ、どうすべきか悩みました。

そういった意味で、2010年代の半ばから後半は比較的安定した事業環境でした。第2次安倍政権が2012年末に誕生し、政治が安定したということも大きいように思います。弥生の株主も2014年末にオリックスに変わり、大きな負債もなくなりました。クラウドアプリを続々とリリースすることもできました。

一方で、弥生にとっての良きライバルであるfreeeさんやMoneyForwardさんが登場したのもこの時期です。やっぱり楽はさせてもらえないということですね(笑)。先日freeeさんが10周年を迎えられたということで、その記念誌に協力をしたのですが、そこで私がfreeeさんの登場を予言していたことをお話ししました。これは紛れもない事実なのですが、とある取材で「今、もはや敵はいない。でもまた、やがてやってくると思っている。今はまだ名前も知らない会社が」とお話ししているのです。その後のfreeeさんやMoneyForwardさんの活躍は、弥生にとって大きな脅威ではありますが、一方で、デジタル化によって業務を効率化し、事業者が「お客さまに価値を提供する」という本当にやりたいことにもっと時間を割けるように、という想いでは実は同じ方向を向いていると考えています。

そしてこれはまだ記憶に新しいところですが、新型コロナウイルス禍が急速に広がった2020年、働き方も大きく変わらざるを得ませんでした。それでもお客さまを支え続けられるのか。ちょうど確定申告期でしたが、お客さまを支えるためにはカスタマーセンターを閉じるわけにはいかない。「あなたはお客さまを取るのか、従業員を取るのか」、と社内からも厳しい声がありました。新型コロナウイルス禍の中でもお客さまの事業が止まった訳ではない。むしろ、何をどうすればいいのか、お客さまも悩む中で、弥生へのお問合せはむしろ増えたということはお話ししたか通りです。

当初は変わらざるを得なかった働き方ですが、むしろ働き方をアップデートする機会になりました。今でも特に東京本社はリモート勤務が中心になっていますし、カスタマーセンターでの受電についても、必要があれば即座にリモートでの受電ができるようになっています。

思い返しても山また山。ただ山を登り続ける中で、より多くのお客さまにより多くの価値を提供できるようになりました。私が弥生の社長に就任した当時、ソフトウェア保守サービスのように継続的なサービスを提供しているお客さまの数は15万ちょっとでした。これに対し、直近では約90万のお客さまに対し、継続的に価値を提供しています。これには提供するソフトウェアがデスクトップアプリだけではなく、クラウドアプリにも広がったことも大きく影響しています。また、弥生が価値を提供する際のパートナーとなるパートナー会計事務所の数も3,500弱から直近では12,000を超えました

それでも、やはり道は永遠に平坦にならない。山を越えればまた山。弥生が成長すれば、それにともなって次に目指すべき山もさらに高くなるということです。
posted by 岡本浩一郎 at 19:17 | TrackBack(0) | 弥生