2014年12月15日

G型起業とL型起業

少々前に、「G型L型と弥生会計」という記事を書きました。このG型L型という表現の大元は、株式会社経営共創基盤の冨山さんです。日本の目指すべき方向性を考える上で、日本経済をグローバルに伍して戦うGの世界(グローバル経済圏)とLの世界(ローカル経済圏)に分けて、それぞれの目指すべき姿を考えるべき。G(Global)の世界向けのG型、L(Local)の世界向けのL型。

このG型L型が話題になったのは、冨山さんがある有識者会議で、高等教育機関(含む大学)も、皆がGの世界を目指すのではなく、むしろ多くはLの世界で、いかに労働生産性を上げるかに特化すべき。例えば、L型大学の経済・経営学部で教えるのは「マイケルポーター、戦略論」ではなく、「簿記・会計、弥生会計ソフトの使い方」であるべき、と提言をしたから(「」内は原文のまま)。さらに法学部は「憲法、刑法」ではなく、「道路交通法、大型第二種免許・大型特殊第二種免許の取得」というあたりは、正直喧嘩を売っている感もあり、かなり話題になりました。冨山さんとしては、刺激的な物言いで、まずは問題意識を持ってもらい、キチンと議論しようということかと思いますので、ある意味目論見通りだと思います。

経済・経営学部で「弥生会計ソフトの使い方」の是非は別として、このG型/L型という考え方は今まさに必要とされているのではないかと思います。念のためですが、G型はL型より偉いといった、上下関係ではありません。G型/L型という違いを認識し、それぞれに異なるアプローチをすべきということです。

これはこれで物議を醸すかもしれませんが、私は、「起業」にもG型とL型の違いがあり、それを明確に分けて考える必要があると考えています。G型起業は、世界を目指す起業。これまでにないもの、全く新しい価値を提供する。経営スタイルは足元の資金繰りよりも、いかに急速にスケールを確立するかを重視。日本だけでなく、世界で通用するビジネスモデル。一方でL型起業は、基本的には日本という市場に根差した起業。これまでにもあるものを、より良くして提供する。例えば、飲食業や理美容業は起業(開業)が多い業種ですが、基本的にはこれまでにもあるもの。まさにL型起業です。

ところで今回なぜこの話をしたかというと、弥生で色々な活動をご一緒させて頂いているあきない総研の吉田さんがこの度出版された起業「成功」ノートを読んで、これこそまさしくL型起業のバイブルだな、と感じたから。もちろんこの本で書かれていることは、G型起業に通じる部分はありますが、主眼はこれまでにない価値を生み出すというよりは、自分の「想い」を実現するL型起業。まずはやってみること、小さく生んで小さく育てること。

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一方で、G型起業では、目先の収益性に拘らずに短期間でスケールを達成するために、資金調達が必要となります。起業「成功」ノートではではこの分野はカバーされていません。上で書いた通り、起業「成功」ノートの主眼は「小さな起業」であり、この小さな起業では資金調達は「自己金融」(自分で稼ぐ)が基本です。逆に資金調達と言えば、ちょっと前に出版された磯崎哲也さんの「起業のエクイティ・ファイナンス」がおススメです。前著である「起業のファイナンス」はまさにこの分野のバイブルです。もっともこちらは、ほとんどのL型起業では正直ピンと来ない内容かもしれません。

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私は、吉田さんの起業「成功」ノートも、磯崎さんの起業のファイナンス/起業のエクイティ・ファイナンス、どちらもおススメです。ただ、同じ人に両方は勧めないでしょう。一方はL型、もう一方はG型。繰り返しになりますが、G型L型のどちらが偉いという話ではありません。起業という言葉は共通であり、もちろん共通項もあるけれど、多くの面において、G型とL型で必要とされる考え方は大きく異なります。

最近は、起業支援施策も充実しており、政府も様々な施策を講じています。これはこれでいいことだと思うのですが、G型を支援したいのか、L型を支援したいのかを明確にしないまま、どっちつかずな支援策になりかねない点は懸念しています。世界をリードする日本という観点ではG型起業支援策が必要でしょうし、一方で、すそ野の広さ、そして雇用の拡大という観点ではむしろ必要とされるのはL型起業の支援策でしょう。G型起業にL型に適した支援策はあまり意味がないですし、その逆もまたしかり。

現実的には、見た目の華々しさもありG型の方が脚光を浴びがちですが、G型L型のどちらが偉いという話ではありませんし、同時にG型だけ、あるいは、L型だけという話でもありません。その違いを正しく認識した上で、それぞれに適した支援が必要なのではないでしょうか。
posted by 岡本浩一郎 at 10:43 | TrackBack(0) | 起業
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