2015年09月02日

「学力」の経済学

先日友人に話したところ、結構喰い付きが良かったので、本ブログでもご紹介すると、最近読んでかなり面白いと感じたのが、『「学力」の経済学』という本です。著者は教育経済学者の中室先生。教育経済学というと耳慣れないですが、「教育経済学は、教育を経済学の理論や手法を用いて分析することを目的としている応用経済学の一分野」だそうです。

教育に関する定説として、例えば、ご褒美で釣っては「いけない」といったものがありますが、この本では、実験から得られた事実(エビデンス)を基に、定説が必ずしも正しいとは限らないことを証明します。例えば、ご褒美で釣っても「よい」。むろんどんなご褒美でもいいという訳ではありませんが、キチンと考えられたご褒美は勉強の楽しさを失わせることなく、学力を向上させうることがわかっています。

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この本を読んで思い出したのが、去年、BCG時代の同僚がこれはいいと推奨していたのをきっかけに読んだ「成功する子 失敗する子」という本(原題は"How Children Succeed")。この本も同じ教育経済学に基づいた本です。ただし、こちらの著者は経済学者ではなく、ポール・タフさんというジャーナリスト。格差社会と言われるアメリカで、何が子供の成功をもたらすのかを、父親になった著者が探求します。

興味深いのは、中室先生も、ポール・タフさんも、人生の成功で重要なのは実は認知能力(要はテストの成績)ではなく、非認知能力である、と明言していること。もちろん認知能力が高くて悪いということはありませんが、人生の成功により影響を持つのは「『忍耐力がある』とか、『社会性がある』とか、『意欲的である』といった、人間の気質や性格的な特徴のようなもの」である非認知能力。いわゆる「頭の良さ」よりも、「生きる力」。特に重要とされるのが、Grit、やりぬく力です。

両方とも極めて興味深いので、関心がある方には両方をお勧めしたいですが、親として何ができるかを考える上では、「成功する子 失敗する子」の方が得られるものが多いように感じます。一方で、制度としての教育について考える上では『「学力」の経済学』がお勧めです。「少人数学級」には効果はあるが、十分な費用対効果が得られない、から始まって、日本の教育の平等主義の弊害、さらには、教員免許の必要性はないのではないかという教育関係者から見ておそらくはタブーであろうトピックまでを明快に語る様は爽快ですらあります。それほど厚い本ではないので、表面的な説明に終わっているのがちょっと残念ですが(だからこそ気軽に読めるということにもなりますが)、根拠のない一般的常識や、経験則によるのではなく、エビデンス(科学的根拠)に基づいているだけに説得力があります。

ところで、二冊とも非認知能力の重要性を明言していると書きましたが、実はこれは当たり前で、両方ともシカゴ大学のヘックマン教授の研究を基にしているから。実は、この『「学力」の経済学』と前後して、当のヘックマン教授の著書「幼児教育の経済学」が翻訳・出版されたようです(原題は"Giving Kids a Fair Chance")。これはまだ未読なのですが、是非読んでみたいと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 22:20 | TrackBack(0) | その他
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