2015年11月17日

扶養控除等(異動)申告書

今年も多くの方が扶養控除等(異動)申告書を記入する時期がやってきました。この書類は正式名称が「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」とあるように、記入する対象者は給与所得のある方ということになります。ちなみに、あまりに長い名称なので、会計事務所では、書面の右上にあるマークから「マル扶」と呼ぶことが多いようです。

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当たり前のように記入しているマル扶ですが、何のために必要なのでしょうか。これは、給与を支払う際に、マル扶に記載された情報を基に、配偶者控除や扶養控除などを反映させた金額で源泉徴収を行うためのものです。一般的に給与の源泉徴収は年末調整時に追徴が発生しにくい(むしろ若干の還付が発生する)ような金額となるようになっています。年間を通じての所得税が30万円だとすると、30万円÷12の毎月25,000円に加えて、+αを源泉徴収しておくといったイメージです。この「+α」×12は、結果的に年末調整時に還付になります。源泉徴収によって痛税感を軽減しつつ、税金を支払い過ぎていたものが戻ってきたにも関わらず、還付で何となく得した気持ちになるという実にうまくできた仕組みです(笑、ただし実際には賞与にも源泉徴収が発生するため、賞与の金額等によって結果的に追徴になるケースもあります)。

追徴ではなく確実に還付になるようにするためには、上の+αの部分を大きくすればいいわけですが、とはいえ、あまり多く源泉徴収し過ぎるのも考えものです。ということで、予めマル扶で、配偶者や扶養親族について申告しておけば、配偶者控除や扶養控除を考慮した(結果としてより少ない)金額の源泉徴収で済ませてあげますよ、となっています。

事業者が給与所得から源泉徴収する際に税額を決定する「源泉徴収税額表」というものがあるのですが、マル扶が提出されている場合には甲欄で、マル扶が提出されていない場合には乙欄で計算するようになっています。こちら(pdf)は来年からの源泉徴収に利用する「給与所得の源泉徴収税額表(平成28年分)」ですが、例えば、給与(正確にはその月の社会保険料等控除後の給与等の金額)が168,000円の場合、マル扶を提出していれば、扶養親族等が1名で源泉徴収税額は2,000円となります。一方で、マル扶を提出していなければ乙欄から算出し、11,400円の源泉徴収税額となります。乙欄の金額は扶養親族等の数を考慮していないこともあり、結果的に甲欄の金額よりは遙かに高額になっています。

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ということでマル扶は、毎月の源泉徴収税額が少額で済む甲欄の適用を受けるために記入するわけですが、マル扶の記入と提出はいつでもいい訳ではありません。マル扶は、その年の初めての給与支払い(の前日)までに全従業員から提出を受けることとされていますが、実務上は、その前年末の年末調整の準備の際に翌年分のマル扶を収集することが一般的です。つまりまさに今この時期ということです。

この時期は同じような書類を2枚渡されて、何が違うのか戸惑われる方もいらっしゃるかと思いますが、よく見て頂ければ、1枚は「平成27年分」、もう1枚は「平成28年分」となっているはずです。平成27年分については、一年前に記入して提出済みのものですが、これから事業者が年末調整作業を行うにあたって、扶養状況に変更がないかを確認する、という位置付けです。例えば、この一年間で結婚して、控除対象となる配偶者ができた場合には、このタイミングで追記をし、それに基付いて年末調整を行います。

一方で、平成28年分は、基本的に白紙です。これは上で述べたように、平成28年(来年)に入ってからの給与支払いの際に源泉徴収税額が少額で済む甲欄の適用を受けるために、予め記入するのです。

さて、先ほどは「同じような書類」と書きましたが、今回記入する平成28年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書は、平成27年分と大きな変更点がありますので、さすがに違うことがすぐにわかるかと思います。そう、平成28年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書には、マイナンバー(個人番号)の記入欄が新設されています。そういった意味で、今回のマル扶は、いよいよマイナンバーがやってきた、と多くの方が実感するきっかけになりそうです。

では、マイナンバーの記入欄がある以上、全従業員(とその扶養親族等)のマイナンバーを早速記入してもらわなければならない? そこは慌てる必要はありません。端的に言えば、この年末までに、マル扶を全従業員にキチンと提出してもらう限りにおいて、マイナンバーを記入する必要はありません。

年末までに、というのがミソです。長くなってしまったので、この理由は次回改めてお話ししたいと思いますが、まだマイナンバーの通知も進んでいない、ましてや、マイナンバーの収集にも着手できない中で、現実的な対応としては、年内にマイナンバーなしで提出を受けるのが望ましいと考えています。

実はマル扶は、従業員から提出を受けてもすぐに税務署に提出する必要はありません(基本は事業者側で保管し続けます)。このため、上記のように、年末に翌年分のマル扶の提出を受けるのではなく、年末の年末調整に際し、初めてマル扶の提出を受ける(要は本来よりも一年遅れて提出してもらう)ケースも結構あるようです。ただ、マル扶がないのに、甲欄で源泉徴収を行うのは、本来は法令違反です。来年1月からはマイナンバーの記入が必要となり、何かと扱いが難しくなります。これまでがそういった運用だったとしても、この機会に本来あるべき事前の記入/提出に切り替えることをお勧めします。
posted by 岡本浩一郎 at 18:34 | TrackBack(0) | 業務
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