給与を支払う際に、配偶者控除や扶養控除を反映させた金額で源泉徴収を行うために必要とされる給与所得者の扶養控除等(異動)申告書、略してマル扶。前回お話ししたように、マル扶は、その年の初めての給与支払い(の前日)までに全従業員から提出を受けることとされていますが、実務上は、その前年末の年末調整の準備の際に翌年分のマル扶を収集することが一般的です。つまりまさに今この時期。
今回、翌年分、すなわち平成28年分のマル扶にはマイナンバーの記入欄が設けられました。ただ、これも前回お話ししたように、実は今年中であれば、記入する必要はありません。これは、国税庁の源泉所得税関係に関するマイナンバーのFAQを見ればはっきりと書いてあります。
まず、Q1-1「扶養控除等申告書には、いつから従業員等の個人番号を記載してもらう必要がありますか」の回答は「扶養控除等申告書は平成28年1月以後に提出を受けるものについて、従業員本人、控除対象配偶者、控除対象扶養親族等の個人番号を記載してもらう必要があります」。ややわかりにくいですが、逆に言えば、平成27年12月までに提出を受けるものについては、記載の必要がないということになります。Q1-3やQ1-4の回答の冒頭でも、「平成27年中に提出する扶養控除等申告書については、法令上、個人番号の記載義務はありません」と書かれています。
平成27年中に提出する扶養控除等申告書については、マイナンバーを記載する必要がないとしても、マイナンバーの利用が正式に始まる平成28年に入ったところで、追記が必要となるのでは? これはQ1-6「平成27年中に個人番号の記載のない扶養控除等申告書を受領した場合、平成28年中に従業員に補完記入してもらう必要はありますか」で「平成27年中に個人番号の記載のない扶養控除等申告書を受領した場合、平成28年以降、従業員に従業員等の個人番号を補完記入してもらう必要はありません」と明確に回答されています。
つまり、マル扶は、今年中(平成27年中)に提出してもらう限りにおいては、マイナンバーを記載する必要がありませんし、一旦提出された申告書に平成28年に入ってから追記する必要もありません。FAQ内にはたびたび「平成28年分の源泉徴収票(税務署提出用)には、従業員の個人番号の記載が必要になりますので、源泉徴収票を作成するまでに、別途従業員から個人番号を取得する必要があります」と記載されていますが、平成28年分の源泉徴収票を作成するのは、基本的には来年末になりますから、実質上は一年後(平成29年分のマル扶)までマイナンバーの記載を引き延ばすことができるということです。平成28年中の退職者に源泉徴収票を交付するなど例外もありますが、例外については個別に個人番号を取得することで対応が可能なのではないかと思います。
ということで、今回のマル扶(平成28年分)について、マイナンバーによる面倒を避けるためにも、今年中に従業員から提出してもらいましょう。
なお、同じ平成28年分でも、平成28年に入ってから提出を受ける際には、マイナンバーの記入が必要となります。ただ、FAQのQ1-9で「扶養控除等申告書の個人番号欄に「給与支払者に提供済みの個人番号と相違ない」旨の記載をすることで、個人番号の記載に代えることはできますか」という質問に対し、「給与支払者と従業員との間での合意に基づき、従業員が扶養控除等申告書の余白に「個人番号については給与支払者に提供済みの個人番号と相違ない」旨を記載した上で、給与支払者において、既に提供を受けている従業員等の個人番号を確認し、確認した旨を扶養控除等申告書に表示するのであれば、扶養控除等申告書の提出時に従業員等の個人番号の記載をしなくても差し支えありません」との回答が示されています。つまりマイナンバーの収集を行った後であれば(収集によって、例えば弥生給与 16でマイナンバーの一元管理ができていれば)、マル扶にマイナンバーを記載しないという運用が可能になるということです。
もともとマル扶は個人情報の最たるものですから、マイナンバーが記載されていようがいまいが、安全に保管しなければなりません。ただ、マイナンバーが記載された紙を保管することは一定のリスクを生むことになりますので、平成28年以降については、(少なくとも源泉徴収業務関連については)平成28年の年末調整の時期(ざっくり一年後)までのどこかでマイナンバーを収集し、弥生給与 16などのソフトウェアでマイナンバーの一元管理することによって、マル扶へのマイナンバーの記載を避けるというのが望ましい運用になるではないかと考えています。