2016年11月28日

年収が高い人ほど歩くスピードが速い? (解説編)

前回ご紹介した「年収が高い人ほど歩くスピードが速く、せっかちである」というリリースについて、本当に因果関係が存在しているのかという問題提起をしました。年収が高くなると本当に歩くスピードが上がるのか、はたまた、歩くスピードが上がると年収が高くなるのか。前回は、これはおそらく疑似相関であろうということをお話ししました

疑似相関であろうというヒントは、調査対象にありました。調査対象は、「ムーヴバンド3」の利用者のうちアンケートに回答した1,229人 (男性: 735人/女性: 494人、年齢:19歳から77歳)とのこと。つまり男女、老若が混在しているという事です。

容易に想像できますが、身長差がある分、男性の方が女性より歩くスピードは速い。そして、事実として、男性の方が女性より平均年収は高い。国税庁が毎年発表している「民間給与実態統計調査」(直近は平成27年分、pdf)によると、1年を通じて勤務した給与所得者のうち、男性の平均給与は521万円、一方で女性の平均給与は276万円と実に2倍近い差があります。男女での年収格差の是非はともかく(もちろん個人的には問題だと考えていますし、弥生では単純に男性だから年収が高いとか、女性だから低いといったことはありませんが)、事実としてこれだけの差があるのです。

これだけの差がある中で、男女を混在して年収と歩くスピードを相関させることの無理はご理解頂けるでしょう。男性は(一般的に)女性より背が高く、従って歩幅が大きく、歩くスピードも速め、そして歩くスピードと直接の因果関係はないが、年収も高め。一方で、女性は(一般的に)男性より背が低く、従って歩幅が小さく、歩くスピードも遅め、そして、年収も低め。

なお、念のためですが、より厳密に言えば、女性であることが直接的な原因として年収が低くなるという単純な話ではなく、女性の方が勤続年数が短い、女性の方がいわゆる非正規雇用の率が高いといった複数の要因が年収の違いにつながっているものと思います。

男女を混在させたのと同様な問題は老若が混在していることにもありそうです。上記の民間給与実態統計調査[年齢階層別の平均給与]を見れば、60歳を越えると年収がガクンと下がることがわかります。一般的に言えば、60歳を越えて年齢を重ねれば歩くスピードは遅くなってきます。そしてそれと直接的な因果関係はないものの、60歳を超えると平均年収も下がる。

では、本来はどのような分析をすべきだったのでしょうか。まずは、母集団として(年収分布という意味で)特性の異なる男女を一緒にするのでなく、分割すべきだと思います。男性だけを母集団として、あるいは女性だけを母集団として、年収が高い人ほど歩くスピードが速いということを示せれば、そこには何らかの因果関係があると考えることもできたはずです。老若に関しても、いわゆる現役世代と引退世代で分けて分析すべきでしょうね。

もっとも、注意が必要なのは、リリースの「年収が高い人ほど歩くスピードが速く、せっかちである」ということ自体は誤りではありません。「〜という傾向がある」ぐらいは書くべきだと思いますが、リリースでは、年収と歩くスピードで「因果関係がある」とは言及していないからです。本文をよく読んでみれば「早歩きをすれば、年収があがる、というわけではありませんが」とも記載されています。

つまり、あくまでも、これを読んだ人が勝手に因果関係を想像してしまうということです。ただ、率直に言って、因果関係を想像させる書き方だとも思いますが。本件は無害だとは思いますが、最近は様々な情報が溢れる中で、ある意味似たような印象操作がそれなりにあるように感じています。書かれていることを鵜呑みにするのではなく、自分なりに「なぜ」を考える姿勢が必要とされているように思います。
posted by 岡本浩一郎 at 21:20 | TrackBack(0) | ビジネス
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