先日の日経新聞で、「電子納税しやすく 国税庁、証明書や専用機器不要に」という記事が掲載されました。「今の電子申告では本人確認のための読み取り機器やマイナンバーカードなどの電子証明書が必要だが、税務署でいちど本人確認すればIDとパスワードで認証できるようにする」とのこと。狙いとしては「海外に比べ普及が遅れる電子申告・納税を広げるため」とのこと。
普及が遅れていると言いつつも、電子申告(e-Tax)は着実に利用が進んでいます。2015年度の個人の所得税申告では利用率が52%。二人に一人は利用していることになります(実際には、申告会場で専用機器を使って申告書を作る人もカウントされるから、という事情もあるようですが)。
しかし一方で、記事にもあるように、専用機器(ICカードリーダー)を用意し、電子証明書も用意して、さらに何重ものパスワードを正確に覚えることがネックになっているのも事実。というよりも、代替手段である、紙で申告することが簡単すぎるといった方が正確かもしれません。電子申告は、その後の国税庁での処理が効率化されるというメリットがあることはもちろんなのですが、そのメリットはあくまでも国税庁側のもの。申告をする側からすると、わざわざ手間をかけて電子申告しなくても、やり方のわかっている紙で、となっても不思議ではありません。
電子申告であれば、還付が早くなるとも言われていますが、紙での申告でもさほど遅くはないので、これもなかなかインセンティブにはなりません。以前は、電子申告をすると若干の税額控除が得られるということもありましたが、ICカードリーダー代で終わってしまう額であり、なおかつ適用は1回だけということで、これも決め手になりませんでした(既にこの控除はなくなっています)。
今回の新方式は、ICカードリーダーや電子証明書が不要になるという意味で、大きな進歩だと思いますが、その代わりに、税務署で本人確認を受けてIDとパスワードの発行を受ける必要があり、手間なしとは言えません。もちろん、やらないよりはやった方がいいとは思いますが、これで一気に電子申告が進むかというとやや疑問です。本当は電子申告によって国税庁での業務効率が上がるわけですから、その分を継続的な減税(税控除)として還元すれば、もう少しは普及が進むのではないかと思いますが、なかなか難しいんでしょうね。
結局、申告をする人からすれば、それだけ紙で不便はないということ。新しい商品やサービスが受け入れられるためには、従来のものよりも9倍のメリットを提示しなければならない、なぜならば、人は往々にして、既存のやり方を3倍高く評価し、新しいやり方を1/3に低く評価するから、という「9X Problem」という概念があります。会計業務 3.0を推進する弥生にとっても、この9X Problemは着実に越えていかなければならないハードルです。