2018年07月13日

なぜキャッシュレスなのか

日本は現金社会。逆に言えば、キャッシュレス化が進んでいないと言われます。日本のキャッシュレス決済比率(= キャッシュレス支払手段による年間支払金額÷国の家計最終消費支出)は2015年で18.4%。お隣の韓国の89.1%は別格としても、イギリスやアメリカなどが50%前後ですから、キャッシュレス化という観点で大きく出遅れていることは事実かと思います。

一方で、この事実自体は、日本の長所を表しています。日本では偽札が問題になることはほとんどありませんし、盗難にあうリスクも諸外国と比べれば圧倒的に低い。そしてATMが全国津々浦々に存在し、いつでも現金を引き出すことができる。他国では、現金に対する信頼が低い、あるいは現金を持ち歩くことがリスクとみなされる、あるいは、現金を入手する手間が大きいといった要因があるからこそ、キャッシュレス決済が進んだという事情があります。つまり日本でキャッシュレス化が進まないのは、現金決済が安心で、利便性が高いから。これ自体はむしろ褒められるべきですよね。

ただ、現金社会であるために、実は社会全体として大きなコストが発生しています。野村総合研究所の試算では、現金支払のインフラを維持するために、社会全体として年間1兆円を超えるコストが発生しています。わかりやすいところでは、現金(紙幣・貨幣)の製造コストですが、これらは650億円に過ぎません。コストが大きくかかっているのは、ATMを設置し、維持・運営するコスト(合計で7,000億円近く)や小売店舗で現金を管理するための人件費(レジ締めなど、5,000億円)。みずほフィナンシャルグループでは、間接的な費用まで含めれば、コストは約8兆円に達すると試算しています。

確かに現金は、便利です。24時間365日、どこでもおろせるし、どこでも使える。しかしそのためには、膨大なコストがかかっているということです。一方で日本の人口は明確に減少を始めており、これまでは意識もされなかった社会的コストが徐々に問題として顕在化してきています。わかりやすいところでいえば、店舗のレジを担当するスタッフを確保することも難しくなってきています。

また、現金決済では、誰がどこでいつ、何にいくら支払ったのかを追跡することが困難です。現金決済ならではの匿名性は、長所といえば長所ですが、誰がどこでいつ、何にいくら支払ったのかをデータとして分析することによって、新しい価値を生み出すという観点からは大きな障壁です。データ分析を通じて、お客さまの行動を可視化することにより、お客さまにより良い商品やサービスを提供する。

しかし、行動が可視化されることに気味の悪さがあるのは事実です。データを入手し、お客さまに新たな価値を提供したいというのは、製品/サービスを提供する側の一方的な想い(いわばサプライヤーズ・ロジック)であり、それをお客さまがどう思うのかは別問題です。お客さまに納得頂くためには、どんなデータがどのように扱われ、それがお客さまにとってどんなメリットにつながるのかをしっかりと示す必要があるでしょう。

つまり、キャッシュレス化の意義の一つは社会的なコストを下げること。そしてもう一つの大きな柱は、キャッシュレス化によって、データを収集し、新たな価値を生み出すこと。とはいえ、現実にキャッシュレス化を進めるためには、まだまだ超えなければいけないカベが複数存在しています。カベの正体とその傾向と対策についてはまた次回に。
posted by 岡本浩一郎 at 23:33 | TrackBack(0) | ビジネス
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/183853984
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック