2018年07月24日

キャッシュレス化の方策

前回は、キャッシュレス化の意義はある一方で、実際に推進する上ではカベが存在するとお話ししました。キャッシュレス支払いができるお店でも現金を好むという消費者側のカベと、キャッシュレス支払いを受けられる設備はあるお店でも、実際には現金での支払いを好む店舗側のカベ。なおかつ、これらのカベは一方を崩そうとすると、他方のカベをさらに高くする可能性があると。

例えば、消費者側のインセンティブを増やそうとポイントによる還元を増せば、店舗側の手数料を増やすことにつながり、結果的に、店舗側のカベ(ディスインセンティブ)を増やしかねないというジレンマがある訳です。

このジレンマを解消する、もっと言えば、社会的な仕組みを大転換するためには、やはり国の役割が大きいのではないかと考えています。ヒントは韓国にあります。実は韓国は、世界でも有数の(というよりトップの)キャッシュレス先進国。少し前にもお話ししたように、2015年時点での日本のキャッシュレス決済比率が18.4%なのに対し、韓国は実に89.1%です。キャッシュレス・ビジョンでも解説されていますが、韓国では1999年から2002年というごく短期間のうちに、クレジットカード発行枚数を2.7倍に、そしてクレジットカード利用金額を6.9倍に急拡大させることに成功しました。

その方策は是非キャッシュレス・ビジョン(P14)をご覧いただきたいのですが、個人的に注目しているのが、年間クレジットカード利用額の20%の所得控除を認めるという制度(ただし、上限あり)。何と、クレジットカードで支払うとそのうちの一定額が税金を計算する上での控除対象となる(=節税になる)のです。つまりクレジットカードで支払うことに対して、店舗側に代わって、国がインセンティブを提供している訳です。これであれば、ジレンマに陥らないですよね。

とはいえ、それでは国にとってのメリットは何なのか? 国にとってのメリットがなければ、インセンティブを出す意味がありません。色々な解釈が成り立つと思いますが、この韓国のクレジットカード支払い推進には、1) 消費の活性化、2)脱税の防止という二つの目的があったと言われています。この時期は韓国では通貨危機からの脱出を図っている時期であり、消費を活性化させるためには手段を問わずという状況だったのかもしれません(ただ、この反面、2000年以降家計負債が増え続けていることが韓国経済のリスクとも言われています)。

興味深いのが、脱税の防止という目的です。上述の所得控除を認めるために、クレジットカードで支払いをする度に、それがデータとして国に送信されるという仕組みになっています。つまり、消費者にクレジットカード支払いのインセンティブを提供することによって、一定の税収減は許容しつつ、脱税を防止することによって、全体として税収を増加させようということです。

ちなみに、韓国では2005年には現金領収書という制度が導入され、現金での支払いの際にも売上データは国に送信されるようになっています(この場合も消費者には所得控除というインセンティブがあります)。現金支払いではレバレッジという消費の活性化効果はありませんから、明らかに脱税の防止が目的になっています。

弥生は事業者の味方ですから、単純に事業者の税負担が増えるだけの制度には賛成できませんが、そもそもの話として課税は公正であるべきです。理想的に言えば、売上がデータとして捕捉されることによって公正な課税がなされ、同時に徴税コストが下がるのであれば、それを税額の控除や、もっと言えば税率の引き下げのような形で事業者に還元されるべきだと考えています。

しかし、残念ながら日本の税制は建て増しに終始しがち。ですから、この種の制度が短期間で導入されることは考えにくいでしょう。ただ、人口も減少し、より効率的な社会運営が求められる中で、単純にキャッシュレス決済比率を多少向上させるという発想ではなく、社会的な仕組みを大きく作りかえるぐらいの覚悟が必要なのではないでしょうか。
posted by 岡本浩一郎 at 16:47 | TrackBack(0) | ビジネス
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