前回は、今年(平成30年分)の年末調整から、必要書類(申告書)が3種類に増えたこととその理由についてお話をしました。今まさに申告書を記入している方も多いと思いますが、実際に記入する上で特に頭を悩ませるのは、新設された給与所得者の配偶者控除等申告書ではないでしょうか。
その前に、まずは残りの二つを簡単におさらいしてみたいと思います。まず一つ目は「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」。用紙の右上に〇で囲って「扶」と書かれていることから、業界(?)では、「マル扶(マルフ)」と呼ばれます。これは従来から存在した申告書で、今年もフォーマットとしては大きくは変わっていません。ただし、実は配偶者の記載方法について大きく変わっています。
まずは、前回お話ししたように、今年から配偶者控除についても本人の所得が影響するようになった関係で、結果的に配偶者控除の対象とならない可能性のある配偶者については、マル扶上に記載しないことになりました。例えば、配偶者が専業主婦(夫)で昨年までは記載していたとしても、今年は、本人の所得次第で、記載しないケースも出てくるということです。本人の所得次第と書きましたが、具体的には所得が 900 万円を超えた場合。900万円を超えると配偶者控除が減額され、1,000万円を超えると配偶者控除がなくなるため、ここでは、下限の900万円が基準になっています。
なお、所得と収入という似たような用語が両方出てくるため混乱しがちですが、税金を計算するときに使用される「所得」という表現は、基礎控除や給与所得控除などの控除を差し引いた後の金額を意味します。稼ぎという意味で一般的に使われる所得という用語は、ここでは「収入」という表現になります。収入が給与だけの場合には、給与の収入金額が 1,120 万円の場合、控除後の所得が900万円となります。つまり、本人の給与収入が1,120万円を超える場合に配偶者控除が減額される、もしくは対象とならなくなるため、マル扶上で記載しなくなります。
逆に、これまでは記載しなかったけれども、今年から記載するようになるケースも存在します。それは、本人の所得が900万円以下、かつ、配偶者の所得が一定の枠内に収まる場合です。具体的には、配偶者の所得が38万円を超え、85万円以下の場合。配偶者控除は、配偶者の所得が38万円(給与収入103万円)以下でないと受けられないのですが、今年から、この枠が「実質上」85万円(給与収入150万円)以下に拡大されました。これは配偶者控除を受けられる枠内でパートやアルバイトで働くという方が、年末が近付くと、枠を超えてしまうため、あえて働かない、結果としてただでさえ人手不足の中、年末に近付くと働き手の確保に困る事業者が増えたこと等をふまえ、実質上配偶者控除を受けられる枠を給与収入150万円まで拡大したという経緯があります。
細かくなりますが、この枠の拡大については、配偶者控除を受けられる配偶者の所得のレンジを拡大したのではなく、配偶者「特別」控除を配偶者控除と同額受けられる所得のレンジを拡大して実現しています。このため、従来はマル扶において、配偶者の記載は、配偶者控除を受けられる場合に記載する、という単純なロジックだったのですが、今年から、配偶者控除を(減額して)受けられるが記載しないケース(本人の所得が900万円を超え1,000万円以下の場合)もあれば、逆に配偶者控除は受けられないが、配偶者特別控除を同額受けられるため記載するケース(配偶者の所得が38万円を超え85万以下の場合)が出てしまい一気に複雑になりました。
もう苦笑せざるを得ない複雑さですね…(苦笑)。なお、ここでは割愛しますが、配偶者が障害者に該当する場合にはさらに複雑になりますので、注意が必要です。
もっとも、残りの二つの申告書と異なり、マル扶は実は昨年末もしくは今年頭に既に記載しているはずです。これは給与の支払いを受ける際に適切に源泉徴収を受けるために、事前に(厳密には「その年の最初に給与の支払を受ける日の前日」までに)提出することとなっているから。ただし、実務では事前に記入していないケースもままあるようです。いずれにせよ、配偶者がいらっしゃる方については、記載内容が変わる可能性があるため、しっかりと理解して記入する(本来は記入してあったものを確認する)ようにしましょう。
ここまで書くだけで疲れました…。ただ、今日お話しするもう一つの書類、「給与所得者の保険料控除申告書」についてはすぐ終わります。これは、昨年までの、給与所得者の保険料控除申告書 兼 給与所得者の配偶者特別控除申告書のうち、保険料控除申告書に該当する部分だけを独立させたものだからです。これも記入が容易とは言いませんが、少なくとも記入の要領は昨年までと同様です。
明日は残る一つ、今年から新設された配偶者控除等申告書についてお話ししたいと思います。