前回まで、年末調整で必要となる3つの申告書についてざっと解説してきました。これまでお話ししてきたように、年末調整に必要な申告書が今年から大幅に複雑になりました。本ブログでの解説、また、弥生マルシェでの解説記事などを参考にして何とか乗り越えていただきたいと思っています。
ただ、無事に乗り越えるためには、一つのハードルをクリアする必要があります。それは、申告書上に記載が必要とされているのは、所得の額そのものではなく、「所得の見積額」であるということ。
冷静に考えれば当たり前で、年末調整業務は一般的に12月の賞与や給与の計算業務と同時に進めることが多く、その前段となる従業員による申告書の記入は11月から12月中旬で行われます。つまり、今年の給与/賞与の支払いが終わっていないので、確定した所得額を記入することができません。その代わり、見積額を記入してね、ということです。
それでは、見積額とはどの程度正確な見積りを要求されているのでしょうか。1円単位まであっていないとダメ? でもそこまでの精度を求めるのであれば、そもそも見積りではないですよね。見積りは、あくまでも可能な範囲で、ということになるかと思います。
ここから先は、弥生としての公式見解ではなく、私個人の見解ということでお願いしたいのですが(そもそも本ブログ自体がそういう位置づけですが、苦笑)、いくつかの選択肢があるかと思います。
1) 支給済みの実績 + これから支給分の見積り
可能な範囲でのベストな見積りとしてはこのやり方になるのかと思います。11月までの給与は支給済み、12月の給与と賞与はまだということであれば、11月までの実績の金額に、12月の給与/賞与の見込額を足すことになります。とはいえ、12月の給与を残業代等も含め正確に見積ることは難しいでしょうから、完璧ということはなく、あくまでも可能な範囲で、ということになります。
2) 前年比で計算
これからの支給分の見積りが難しいということであれば、例えば昨年の11月までの実績と、今年の11月までの実績を比較して比率を計算し、それを昨年の通年実績にかけるという方法もあるかと思います。例えば、昨年11月までの実績が400万円、昨年通期での実績が500万円、そして今年11月までの実績が420万円であれば、
前年比 = 420万円 ÷ 400万円 = 1.05
今年の見積額 = 前年通年実績 × 前年比 = 500万円 × 1.05 = 525万円
今年の見積額 = 前年通年実績 × 前年比 = 500万円 × 1.05 = 525万円
となります。
3) 世間相場の前年比で計算
自分自身の前年比を計算しなくても、例えば、今年の世間的な賃上げ実績を前年比として採用するというやり方もあるかと思います。例えば、中小企業での今年の平均的な賃上げ率が1.89%(経団連集計によるもの)なので、前年が500万円だとすると、500万円 × 1.0189 = 509.45万円、ざっくりで510万円、というやり方もあるでしょう。
4) 前年通り
少々乱暴ですが、前年通りというやり方もあります。これであれば、昨年の源泉徴収票を確認して、その数字を転記すれば終わり。つまり、昨年が500万円であれば、今年も500万円とするということです。もちろん、多少の変動はあるのでしょうが、前年対比で50%になることや、逆に倍になることもなかなかないでしょうから、概算見積として前年と同じというのも、悪くはないと思います。
個人的なおススメとしては、2)が合理的だと思いますが、3)や4)でもまず問題ないのではないか、と考えています(繰り返しになりますが、あくまでも個人的な見解です)。
実際問題として、(配偶者控除や配偶者特別控除という意味で)所得の額が問題になるのは、本人の所得であれば、900万円〜1,000万円にかかる場合であって、逆に所得が400万円でも、500万円でも、600万円でも変わりません。結果が変わらないのに、見積りに労力をかけてもしょうがないですよね。そういった意味では、結果が変わりうる所得900万円〜1,000万円の近辺のゾーンの方(給与収入で言えば、1,120万円から1,220万円近辺の方)は可能な範囲で正確な見積りを行った方が望ましいですが、それ以外の方に関しては、前年通り、あるいはもっと言えば、ざっくりX00万円ぐらいのレベルでも問題はないはずです。
より難しいのは、配偶者の所得です。マル配の一番下を見ていただければわかりますが、配偶者の所得が5万円変わるごとに、配偶者特別控除の額が変わりますから。ただこれも、影響があるのは、配偶者の所得が38万円〜123万円の方(給与収入で言えば103万円〜201.6万円)ですから、この近辺のゾーンの方は可能な範囲で正確な見積りを行いましょう、一方でこのゾーンからそれなりに外れている方はざっくりでok、ということになるのかと思います。
では、見積りと実際が差が出た場合はどうなるのでしょうか。見積りである以上、当然差は出るもの。ただ、差が出たとしても実際の年末調整の結果に影響が出るとは限りません。そして仮に年末調整の結果に影響が出たとしても、ちゃんと辻褄を合うようにリカバリーする方法は用意されています。ということで次回に続きます。