今年の年末調整は申告書が大きく変わったということで、先月末から解説を続けてきました。さすがに、そろそろ一区切りとしたいところです。
前回は、所得の見積額を記載しなければいけない、一方で、あくまでも見積りである以上、実際の額とは差が出る可能性があるとお話ししました。ただ、差が出たとしても、税金の額(正確に言えば、年末調整の結果、還付/追徴になる金額)に差が出なければ何ら問題ありません。前回お話ししたように、配偶者控除や配偶者特別控除に影響があるのは、本人の所得が900万円〜1,000万円にかかる場合。ですから、例えば、本人の所得の見積額が500万円だったのに対し、実際には賞与や12月支給の残業代が上振れた結果525万円だったとしても、特段何もする必要はありません。
もちろん、影響が出るケースもあります。例えば見積額が900万円ちょうどだったのが、実際には901万円だったというケース。この場合にはマル配でお話しした区分Iの判定結果が(A)から(B)に変わってしまいますので、(配偶者の所得が38万円以下だと仮定して)配偶者控除の額が38万円から26万円に減額となります。この際の所得税実効税率が23%だとすると、所得はわずか1万円の差ですが、税額は2.8万円ほど増えることになります。
では、実際に見積と実際に差が出てしまい、なおかつ、税額にも影響が出てしまうケースは、その差額をどのように処理すればいいのでしょうか。リカバリー方法は三段階あります。
1) 年末調整業務の中でチェックされ、修正されるケース
例えば、上記の例のように、本人の所得の見積額が900万円だったものの、12月給与を計算したところ実際は901万円になり、結果的に税額に差が出ているケース。この場合は、事業者(会社)が12月給与を計算し、その上で年末調整業務を行った際に、矛盾として検知されます。弥生給与(やよいの給与計算)の場合、この矛盾が発生している従業員の記録に「本人の給与所得の見積額と実績額の乖離により控除額が異なります」という赤いふせんがシステム的に付与されます。弥生給与では、通年の給与/賞与の実額を管理していますから、見積りとの矛盾を検知できるということです。仮に赤いふせんが貼られた場合は、実際の額(実績額)を確認し、必要に応じ、見積額を実績額に置き換えます。
2) 再年調を行うケース
本人の所得の場合は、上記のように弥生給与で実績額を把握できますので、年末調整業務の中でチェックすることが可能です。一方で、配偶者の所得に関しては、完全に自己申告ですので、チェックすることはできません。しかし例えば、配偶者の所得が85万円以下と申告したものの、実際には12月の勤務が予想より多く、85万円を超えた場合には、配偶者特別控除が減額となりますので、税額に影響が出ます。この場合には、配偶者の源泉徴収票を確認した上で、従業員から事業者(会社)に配偶者の所得の見積額に差が発生した旨を報告する必要があります。事業者はこの報告があった場合、1月末までであれば、当該従業員について、再度年末調整(再年調と言います)を行うことができます。この中で、見積額ではなく、実績額を用いることによって、正しい金額に修正されることになります。
3) 確定申告を行うケース
最後の手段として、従業員本人が確定申告を行うという方法があります。再年調が間に合わなかった、あるいはそもそも行わなかったという場合でも、実績額で確定申告すれば、正しい税額が算出され、必要に応じ追加で納税をする、もしくは、還付を受けることになります。確定申告というと面倒臭い、と思われるかもしれませんが、そもそも年末調整で完結しうる方の場合は、確定申告の内容も単純なので、申告がそこまで負担になることはないはずです(逆に言えば、確定申告が複雑になる方は、そもそも年末調整で完結せず、いずれにせよ確定申告をしなければいけない方ということです)。
ということで、仮に見積額と実績額に差が出て、結果として税額に影響がある場合でも、三重のリカバリー方法が存在しますので、見積額の算出にそこまで神経質になる必要はありません。一方で、どのリカバリー方法にせよ、一定の手間にはなりますから、税額に影響が出うる、具体的に言えば、本人の所得が900万円〜1,000万円の近辺のゾーンの方(給与収入で言えば、1,120万円から1,220万円近辺の方)、かつ、配偶者の所得が38万円〜123万円の方(給与収入で言えば103万円〜201.6万円)については、やはり可能な範囲で正確な見積りが望ましいかと思います。