2019年12月18日

FACTFULNESS(その1)

オーストラリアへの出発前の成田空港の書店で、ふと手にとったのが、「FACTFULNESS」という本。日本でも今年前半に話題になりました。軽い気持ちで買ったのですが、読んでみると、なるほど話題になるだけのいい本です。

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読み始めると、最初に12(+1)問の質問に答えることになります。例えば、「世界中の低所得国において、小学校を卒業する女の子の割合は?」という質問。選択肢はA: 20%、B: 40%、C: 60%。世界中で同じ質問をしたところ、国によって正答率にバラつきが見られるものの、どの国でも正答率が極めて低かったそうです。平均すると12問中2問のみ正解。回答は3択ですから、ランダムに答えれば正答率は33.3%のはず。つまり、人間はランダムに選ぶであろうチンパンジーにも劣っているということになります。人間はたまたま間違えているのではなく、何らかの構造的な要因で間違えている。

本書では、人間が構造的に間違える理由を、人間が無意識に持っている10種類の傾向で解説します。例えば、こちらは先進国、あちらは後進国のように、物事を二分して考えがちなGap Instinct、良いことより、悪いことの方に目が行ってしまうNegativity Instinctなど。

詳しくは是非本書を読んでいただきたいのですが、日頃から自分が考えていること、気を付けていることが実例をもって明確に、かつ平易に語られており、そうそう、と頷くポイントが多々ありました。例えば、グラフの縦軸の罠や平均値の罠。例えば、本書(原書)P40には、アメリカでSATという(日本で言えばセンター試験のような)テストを受けた男女の数学の平均値をプロットした図が示されています。1965年からずっと、男性の方が女性を明らかに上回っています。このグラフをもって、男性の方が女性よりも数学が得意だ、という結論が導けそうです。ただ、よく見てみると、このグラフの縦軸は0スタートではないため、差が極端に強調されています。絶対的な数値で言えば、直近の2016年の数値で男性が527、女性が496ですから、その差は約6%に過ぎません。ですから、男性の方が女性よりも数学が得意だという、二分化をしたがるGap Instinctによって生まれがちな一般化には無理があることがわかります。

とはいえ、平均値で男性は527、女性が496という差があるのは事実。ただ、この2016年の得点の分布を男女別にプロットしてみる(P41)と、面白い真実が見えてきます。男性と女性の分布はほとんど重なり合っていますが、女性の方が約500点を中心としたきれいな釣鐘カーブになっているのに対し、男性は600点から800点を取る優秀層の存在により、若干ですが、右側に偏ったカーブになっています。結果的に単純に平均を出せば男性の方が女性を上回る訳ですが、実際には標準的な人で言えば、男性も女性もほとんど変わらないということになります。平均値は分布を示さないという平均値の罠の一つの例と言えるかと思います。

身近な(?)平均値の罠の実例と言えば、アルトアの融資実績。アルトアが融資する際の平均金利は実績として約8%なのですが、実は8%台の方はあまり多くありません。アルトアの金利は会計データをAIで分析して得られたスコアによって決まりますが、実際の分布で見てみると、4~5%を中心とした一山、そして10%前後を中心としたよりなだらかな一山で構成された非対称のフタコブラクダになっているのです。物事の分散はだいたい釣鐘カーブになっており、平均付近が一番多いという思い込みも、人間が構造的に間違える要因の一つでしょう。

ちなみに、グラフの縦軸の罠は本ブログのこちらで、あまり突っ込んで書けてはいませんが、平均値の罠については、こちらで少し触れています。
posted by 岡本浩一郎 at 17:27 | TrackBack(0) | ビジネス
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