2020年07月08日

Single Touch Payroll

さて、今回からボチボチと、先月末に公表した「社会的システムのデジタル化による再構築に向けた提言」の具体的な中身についてお話していきたいと思います。ただ、じらすわけではないのですが、今回の提言の一つのきっかけ、つまり海外で何が起こっているのかについて先にお話ししておきたいと思います。

まずはオーストラリアで2018年7月に義務化が始まったSingle Touch Payroll(STP)という制度について。この制度が始まったということで、2018年11月にオーストラリアの国税庁であるATO(Australian Taxation Office)を訪問し、この制度導入の狙いや背景、今後目指すところをヒアリングしました。

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STPは、言ってしまえば給与支払報告の仕組みです。日本でも給与支払報告という制度がありますが、これは年に一回で、ベースは紙。これに対しSTPは、給与を支払ったタイミングで、なおかつデジタルで報告をするというのがミソです。

この制度が発足するきっかけとなったのは、年金保険料の未納問題。日本でも本来加入すべき社会保険制度に加入していない事業者が多く存在することが問題になっていますが、オーストラリアでも似たような問題があるらしく、従業員に給与を払うと同時に年金保険料を納付すべきところ、していない事業者が多数存在しているとのこと。

STP導入後は、給与支払情報がリアルタイムにデジタルデータとして収集されるため、別途収集している年金保険料の支払い状況と照合すれば、どの事業者が年金保険料未納となっているかが瞬時に判断できるようになったそうです。

また、オーストラリアは日本と違い年末調整制度がなく、各人が確定申告をする必要があるのですが、STPで収集した情報を活用することにより、申告のサイトにログインすれば、ある程度情報が埋まった申告書が用意されるようになりました。いわゆる記入済み申告書というもので、確定申告を非常に簡単に済ますことができるようになります。さらに将来的には、STPで収集した情報を雇用保険的な仕組みに活用したり、地方税の業務にも活用する計画があるそうです。

上述の通り、日本での給与支払報告は年に一回で、ベースは紙なのですが、これをSTPのような仕組みにすれば、そもそも年末調整という仕組み自体をなくせるのではないか。同行したメンバーとそうワクワクしながら話したことを覚えています。そういった意味で、このSTPの事例は今回の提言につながる重要な役割を果たしています。

ちなみに、STPには基になったイギリスのPAYE (Pay As You Earn) RTI (Real-Time Information)という制度があるのですが、イギリスでは新型コロナウイルス禍において、Coronavirus Job Retention Scheme(日本で言う雇用調整助成金に近い補助金)を支給する際に、このRTIによる情報を活用しています。新型コロナウイルス禍では、雇用調整助成金にせよ持続化給付金にせよ、日本においては基本的に紙ベースでの審査になっており、デジタル化が進んでいないことの弊害が明らかになってきていますが、こういった海外の事例を見ていると、改めてデジタル化の必要性を実感します。

また、オーストラリアには、2019年10月にも別件で訪問し、その際にもフォローアップでATOを訪問したのですが、この際には、オーストラリアの電子インボイスへの取り組みを把握することもできました。これが、この後ご紹介するシンガポールの事例にもつながっていきます。そういった意味でも、2018年のオーストラリア訪問が今回の提言の大きなきっかけになったと言えます。
posted by 岡本浩一郎 at 20:43 | TrackBack(0) | デジタル化
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