2020年07月10日

Making Tax Digital

先月末に公表した「社会的システムのデジタル化による再構築に向けた提言」に関連して、提言の一つのきっかけとなった、海外でのデジタル化の事例をご紹介しています。前回はオーストラリアのSingle Touch Payrollについてお話ししました。

今回はイギリスです。イギリスでは、昨年4月にMaking Tax Digital(MTD)という制度の義務化が始まりました。昨年と言えば、イギリスではBrexit(イギリスの視点で言えば、EU Exit)をどうするのか、まだまだ紛糾している時期でしたが、そんな中でもこのMTDについては、粛々と動き始めました。“Making Tax Digital”、直訳すれば「税金をデジタルに」ということになりますが、具体的にどういった仕組みなのでしょうか。実はこれは表面上は、事業者に対し業務ソフトの利用を義務化するものです。業務ソフトを提供している側からすると、夢のような制度(笑)ですが、なぜ政府が業務ソフトの利用を義務化するのでしょうか。

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それは、手作業が入ることによって、多くのミスが発生しているから。そしてそのミスは往々にして税額を過少に申告することにつながります。そこで、ミスの発生を防ぐために、取引が行われてから、情報を一貫してデジタルで処理し、それをそのまま申告につなげようということです。イギリス歳入関税庁(HMRC)の方曰く、あくまでも意図的でない事務的なミスをなくすためということでしたが、本音ベースでは、意図的に取引を省くことを防ぐ狙いももちろんあるのだと思います。

例えば、飲食店でレジスターを利用している場合でも、売上を手で会計ソフトに入力する際に、一部の売上を除外することは簡単にできてしまいます。MTDが目指す世界では、POSレジの売上をデータとして会計ソフトに連携し、それがそのまま申告につながることにより、意図的にせよ、そうでないにせよ、ミスをなくし、正確な申告を実現します。

MTDは、政治主導で始まったものです。2015年3月にオズボーン財務相(当時)から、税務のデジタル化で個人や小規模事業者の年次の税務申告をなくす(!!)という最初の構想が発表されました。“… today I am announcing that we will abolish the annual tax return all together.” (「…今日、私は、我が国で年次での税務申告を全てなくすことを発表します」)。この宣言はさぞや輝かしいものであったでしょう。日頃から様々な取引の情報をデジタルデータとして収集することによって、納税者それぞれに用意されたDigital Tax Account(デジタル税金口座)に支払うべき税額が逐次自動的に反映される、それによって、年に一回、改まっての申告を不要とする。いわゆる税務申告の概念を覆す、大胆な宣言でした。

とはいえ、実際のところ、少なくとも現時点において、MTDがそれほどうまく行っているわけではありません。政治主導で短期間で導入をしようとした結果、大きな反発を受け、その反発に対し妥協に妥協を積み重ねた結果、本来目指した世界とは程遠い形でのスタートとなっています。ただ、今後時間はかかるでしょうが、取引の発生から申告までがデジタルにかっちりとつながっていく世界を目指していくことは間違いありません。
posted by 岡本浩一郎 at 17:26 | TrackBack(0) | デジタル化
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