先月末に公表した「社会的システムのデジタル化による再構築に向けた提言」に関連して、提言の一つのきっかけとなった、海外でのデジタル化の事例をご紹介しています。1回目はオーストラリアのSingle Touch Payrollについて、2回目はイギリスのMaking Tax Digitalについて、そして前回はイタリアのeInvoicingについてお話ししました。
海外事例の紹介は今回で最後になりますが、今回はシンガポールについてお話ししたいと思います。シンガポールでは、昨年1月からPEPPOL E-Invoicingという電子インボイスの仕組みが導入されました。電子インボイスという意味では、イタリアの事例について前回お話ししましたが、イタリアはFatturaPAという独自規格であるのに対し、シンガポールはPEPPOLという国際的な規格を採用しています。PEPPOLとは、もともとPan-European Public Procurement On-Lineという名称で、ヨーロッパでの政府調達の際に利用される規格としてスタートしました。
PEPPOLでは近年ではヨーロッパ以外でも活用されるようになり、日本に近いところでは、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドで採用されています。1回目にオーストラリアについてお話ししましたが、この調査の際にPEPPOLの話が出て、そこからシンガポールの調査につながっています。ただ残念なのは、シンガポールには実際には行けていないこと。もともとはこの3月に出張を予定していたのですが、新型コロナウイルス禍の広がりにより、出張はキャンセルせざるを得ませんでした。ただ、折角アポイントも取れているということで、急遽ウェブ会議に切り替えることにより、調査自体は実施することができました(が、久し振りのシンガポールは行きたかった…)。
イタリアとシンガポールのもう一つの違いは、義務化されているかどうか。イタリアは一部の事業者を除き義務化されていますが、シンガポールでは、義務ではありません。あくまでも業務効率化のために是非使いましょう、というスタンスです。前回、イタリアの仕組みが日本に適しているとは思わないと書きましたが、シンガポールの取り組みはより日本にあったもののように感じます。
ただし、義務でないとすると、やはり難しいのは実際に使われるかどうか。電子インボイスは電話や電子メールのように、皆が使えば使うほど効用が高まる仕組みです(いわゆるネットワーク外部性がある)。義務化してしまえば、皆が強制的に使う訳ですから、いきなり皆で使うことのメリットが生まれます。一方で、義務ではなく任意とした瞬間に、使う人が少なければメリットが生まれず、結果的に使う人が増えないという悪しき循環に陥りかねません。そうならないためにも、電子インボイスを活用することに対する何らかのインセンティブが必要だと考えています。
シンガポールでも普及に向けた活動に取り組んでいるようですが、普及に向けて時間がかかることは覚悟しているとのことでした。日本においては、2023年10月にインボイス制度の導入が決まっていますが、この段階で、どこまで普及させられるか。シンガポールなどの事例を踏まえながら、日本にあった形での普及策を考えていかなければならないと考えています。