2020年08月04日

提言の背景と課題認識

「社会的システムのデジタル化による再構築に向けた提言」の発表から少し時間が経ってしまいましたが、この提言のきっかけの一つとなった海外の事例(オーストラリアイギリスイタリアシンガポール)の紹介も一通り済みましたし、また、この提言から生まれた電子インボイス推進協議会も正式に設立されて動き出した、ということで、そろそろ腰を据えて提言の中身についてお話ししてみたいと思います。

提言の背景や課題認識(提言書第1章)については、実のところ、昨年12月に本ブログでお話ししています。弥生が事業者のお手伝いをしている確定申告や年末調整、あるいは社会保険の手続き、これらは全て昭和の時代の仕組みです。コンピューターがまだまだ一般的とは言えない時代の仕組みですから、あくまでも紙を前提とした仕組みです。確かにこれらの業務の電子化は進んできましたが、デジタル化は進んでいません。電子化とデジタル化の違いは何か。今ある業務プロセスはそのままで、媒体だけを電子データにしたのが電子化(Digitized/Digitization)、これに対し、デジタルを前提として業務プロセスの根底から見直すのをデジタル化(Digitalized/Digitalization)と定義しています。

確かに、e-Taxやe-Govなど、電子申告、電子申請の仕組みは着実に普及しており、これは特に行政コストの低減につながっています。ただ、それはあくまでも紙を電子データ化したに過ぎません(つまり電子化に過ぎません)。業務プロセス自体は昭和の時代から何も変わっていない。事業者からすると、電子化によってラクになった実感はなかなか得られていません。下手をすれば面倒になった、大変になったと思われていても不思議ではありません。デジタルを前提として業務プロセスの根底から見直すデジタル化によって業務そのものをシンプルにする必要があると考えています。

提言のもう一つのきっかけとなった年末調整業務はその典型例です(第2章)。年末調整業務は、戦後に税制のあり方が根本から変わる中で導入されました。納税者が自ら申告をする申告納税が原則となったものの、一般個人(給与所得者)には税制に関する知識が十分ではないこと、また、事務処理能力が十分でないことを踏まえ、事務処理能力が相応にあるであろう事業者が、給与所得者の実質的な申告義務を肩代わりすることになり、その際には、コンピューターが一般に利用できない時代を反映し、全てが紙を前提とした業務として整備されました。年末調整業務はそれ以来法令改正によって格段にその複雑度は増しつつも(前回も少しお話ししましたが、今年の年末調整はヤバいことになります)、仕組みは基本的に変わっていません。

しかし、海外事例でお話ししたオーストラリアのSingle Touch Payrollのように給与支払情報をリアルタイムにデジタルデータとして報告する仕組みがあればどうでしょうか。事業者はデータの収集および報告はするものの、年末調整業務自体はデジタルデータに基づいて行政で一元的に行うという可能性も生まれてきます。今の業務のあり方を前提にするのではなく、デジタルを前提として業務プロセスの根底から見直すのが、今回の提言で目指すデジタル化です。デジタル技術を浸透させることで社会全体としての効率を抜本的に向上させ、社会的コストの最小化を図る。これはある意味、社会全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)と言えるかと思います。

なお、付言すると、基本的に紙を前提とした仕組みの限界は、今回の新型コロナウイルス禍でも明らかになっています。2023年10月にはインボイス(適格請求書等)制度が導入されることが既に決まっていますが、With コロナの時代において、紙が前提では成り立たないことは明白です。だからこそ、今回の電子インボイス推進協議会があるわけです。
posted by 岡本浩一郎 at 19:27 | TrackBack(0) | デジタル化
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