2020年11月09日

米国における新型コロナウイルス危機(その5)

接戦だった米国大統領選挙ですが、開票が進み、ようやくジョー・バイデン氏が当選確実となりました。当選確実を受けた集会では、“I pledge to be a president who does not seek to divide, but unify, who doesn’t see red states and blue states, but only sees the United States"(「私は、赤の国や青の国といった見方ではなく、合衆国のために、分断ではなく結束を促す大統領であることを誓う」)という演説がとても象徴的だったように思います。現時点でバイデン氏の得票が7,500万票に対し、トランプ氏は7,100万票。その差は数%に過ぎません。バイデン氏も、トランプ氏の続投を期待した人たちの意思を無視できないでしょう。分断の「危機」が、多様性の中での連帯を深め、世界から尊敬される国として復活する「機会」になることを願っています。

危機の中から機会が生まれる。先月初に参加したLendIt USA 2020を通じて感じた新型コロナウイルス禍によって米国のFinTechにもたらされた「危機」についてお話をしてきましたが、まさに危機の中から機会が生まれているように感じます。融資という分野については、危険が先行し、有力な二社が買収されたということをお話ししましたが、同時に、機会も生まれてきています。そのきっかけになったのが、前回にお話ししたPPPという公的支援プログラム。

社員が数百人というFinTech企業、Kabbageが、300,000件という膨大な件数のPPPを実行した。この件数は、Bank of America(BoA)に次ぐ全米第二位の実績だそうですが、社員数で比較すると、Kabbageが300名程度、それに対してBoAは200,000名以上だそうですから、実に700倍近い差があります。Kabbageはオンラインで完結するPPP申込プロセスを短期間で構築したからこそ、少人数でこれだけの実績を出せた。またその結果として、従来型の金融機関が救いきれないUnderbanked層を支える存在となっています。Kabbageはこの夏にAmerican Express(AMEX)によって買収されることが発表されていますが、こういった実績を踏まえ、まずまずの評価での買収となったようです。

もう一つ新型コロナウイルス危機が機会となっているのは、動的なデータの重要性が再認識されたということ。これだけの環境の激変の中では、過去のデータは参考になりません。昨年の決算書を見たところで、それは足元での業況を確認するためにはほとんど役に立ちません。そういった中で、取引データや会計データなど、動的なデータをリアルタイムに近い形で分析し、与信判断に役立てることの必要性は、LendIt USA 2020における共通認識となっていました。一口に新型コロナウイルス禍と言っても、業種や地域によって、その影響の出方は変わります。皆が一律にダメージを受けている訳ではありません。また、一時的にはダメージを受けても、既に回復軌道に乗っている事業者も存在します。では、どうやって、融資できる/すべき事業者を判断するのか。それには動的なデータを分析するしかありません。

大手二社が買収され、おそらく今後はさらにプレーヤーの合従連衡が進んでいく(これも共通認識となっていました)。ただ、今後、プレーヤーの顔ぶれは変わっても、動的なデータをAIで分析するという方向は揺らがない、むしろその必要性が明確になったのが、今回の新型コロナウイルス危機なのだと思います。

翻ってアルトア。日本におけるオンラインレンディングは、良くも悪くも米国ほどの市民権は得ていません。3月から4月にかけて、やはり駆け込み需要は見られましたが、規模としては限定的でした。5月以降は公的支援が行き渡るようになり、需要が減っていますが、もともと先行投資フェーズですから、どちらにしても赤字という意味で、事業の存続が急に危ぶまれる訳ではありません。一方で、新型コロナウイルス禍の終わりが見えない中で、動的なデータで事業者の現況を把握することの重要性は明らかになったと強く感じています。新型コロナウイルス危機を危険にするのか、機会にするのか。アルトアの真価が問われています。
posted by 岡本浩一郎 at 22:29 | TrackBack(0) | アルトア
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