2020年11月26日

ひとり親控除

今年の年末調整は変更点が多く、早めに準備しないとヤバい、ということで、少し前から、今年の年末調整について変更点を中心にお話ししています。初回は、昨年までの3種類の申告書で3枚の帳票から、今年は5種類の申告書で3枚の帳票に変わったとお話ししました。2回目は、「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」(基礎控除申告書等)という帳票ができた背景についてお話ししました。そして前回は、基礎控除申告書等については事実上年末調整を受ける全ての方の提出が必要になること、一方で、基礎控除は受けるが配偶者(特別)控除を受けない場合などに、処理に気をつける必要があるとお話ししました。

これまでに、基礎控除、給与所得控除が変わるということ、また、所得金額調整控除という控除が新設されたことをお話ししました。実は、今年の年末調整ではもう一つの控除が新設されています。それがひとり親控除です。これはもともと存在した寡婦(寡夫)控除が見直され、新たにひとり親控除と寡婦控除に再編されたものです。

寡婦控除、あるいは寡夫控除というのは耳慣れないかもしれません。これは、配偶者との死別又は離別等により、もう一方の者が生計を支えなければならないといった事情を踏まえて税制上の配慮を行うための控除です。男性が亡くなった場合には残された女性が寡婦控除を、逆に女性が亡くなった場合には残された男性が寡夫控除を受けられることになります。

寡婦(寡夫)控除であり、今回新設されたひとり親控除は時代を色濃く反映しています。やはり男性が家庭の大黒柱であり、その男性が亡くなった場合に残された女性に配慮が必要という発想で生まれたのが寡婦控除です。1951年のこと。時代的には戦争遺族に対する配慮という面も強かったのではないかと思います。

ただ、配偶者が亡くなって一人で子どもを育てなければならないという経済的な大変さは女性も男性も変わらないはず、ということで寡夫控除も認められるようになったのは1981年。実に30年のギャップがあります。それでもこれで男性と女性がイーブンになったかというと実はそうではありません。女性の場合、配偶者が亡くなった際に子どもがいてもいなくても寡婦控除を受けられます。これに対し、男性の場合、配偶者が亡くなった際に子どもがいなければ寡夫控除は受けられません。配偶者が亡くなった際に、女性は一人で生計を営むのは困難、逆に男性は一人で生計を営めて当然という発想が色濃く残っているわけです。

これまでの寡婦(寡夫)控除については、配偶者との死別あるいは離別した方が対象になっていました。しかし、これでカバーしきれないケースとしては非婚のひとり親があり、一人で子どもを育てなければならないという経済的な大変さは共通でありながら、婚姻状況によって差が出るのはおかしいとして特にここ数年見直しが強く求められていました。これを踏まえて新設されたのが今回のひとり親控除です。

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ひとり親控除は、性別(女性/男性)を問わず、また死別/離別/非婚を問わず、ひとりで子どもを育てている方(ただし、所得が500万円以下の方に限る)に等しく35万円の所得控除が認められるというものです。なお、上でお話ししたように、寡婦控除については、子どもがいなくても認められる部分がありましたので、その部分は独立して寡婦控除として残されました。

本ブログでは税制がどんどんと複雑化することをどちらかといえば否定的な見方でお話ししています。ただ、今回のひとり親控除のように時代の要請に応じて必要な見直しが行われていることも事実です。時代の要請にあわせ、ただ、同時にそれをかつての九龍城のような建て増しによる複雑化ではなく、極力シンプルな仕組みにしていく。それが制度を考案する行政であり、国民の理解を得る政治の仕事であると期待しています。

今回は年末調整という枠組みの中でお話ししていますが、ひとり親控除は年末調整の対象とならない個人事業主の方ももちろん対象となりますので、ご安心ください。年末調整の対象とならない場合には、確定申告においてひとり親控除を適用することになります。

なかなか難しいなと思うのは、年末調整の対象になったとしても、年末調整でこれまでの寡婦(寡夫)控除や、今回のひとり親控除の適用をあえて受けない方が一定数いらっしゃるということ。年末調整で適用を受けるためには、寡婦/寡夫である、ひとり親であるということを申告書を通じて会社に伝える必要があります。これを避けるために、年末調整では寡婦/寡夫である、ひとり親であるということをあえて申告しない方が一定数いるのだそうです。この場合は、ご自身で翌年2月〜3月にかけて確定申告をすることによって、控除を受けることができます。制度をシンプルにというのは簡単ですが、現実には配慮を必要とするなかなか難しい問題もあるのだな、と実感します。
posted by 岡本浩一郎 at 19:40 | TrackBack(0) | 税金・法令
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