「GoToトラベル」を利用している人は新型コロナウイルスへの感染リスクが高いとする東京大学などの研究チームによる調査結果が話題になっています。新型コロナウイルスの検査陽性者数が増えているのはGoToトラベルの影響ではないか、とも言われている中で、ほらやっぱり、という受け止め方も多いようです。
ただ、注意しなければならないのは、「GoToトラベルを利用している人は新型コロナウイルスへの感染リスクが高い」ということと、「GoToトラベルが新型コロナウイルス感染拡大の要因になっている」ということはイコールではないということです。また、疑り深い私としては、そもそもこの調査の正当性も気になります。例えば、GoToトラベルを利用する人は高齢者が多い、と同時に、高齢者は感染リスクが高いという関係があると、GoToトラベルを利用する人は感染リスクが高いという必ずしも正しくない因果関係を導き出してしまう可能性があります。以前、「年収が高い人ほど歩くスピードが速い?」という突っ込みどころ満載のリリースを例にお話ししたことがありますが、疑似相関である可能性があるからです。
こういう時は原典にあたってみようということで、調べてみたところ、この調査は、宮脇敦士氏(東京大学大学院医学系研究科)、田淵貴大氏(大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部)、遠又靖丈氏(神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科)、津川友介氏(カリフォルニア大学ロサンゼルス校[UCLA])によって構成される共同研究チームによるものだそうです。
津川先生のブログを読んでみると、さすがに「年収が高い人ほど歩くスピードが速い?」ほどの安直な分析ではありませんでした(査読が終わっていないとはいえ、アカデミックな論文なので、まあそれはそうですよね)。「性別・年齢・社会経済状態・健康状態などの影響を統計的に取り除いた」とありますので、母集団の偏りは排除したもののようです。津川先生のブログでは、「Go To トラベル事業の利用者は非利用者よりも新型コロナに感染するリスクが高いことを示して」いると同時に、「Go To トラベル事業が新型コロナ感染拡大に寄与している可能性があることを示唆しています」と記されています。感染拡大への寄与はあくまでも可能性ということです。実際、この研究の限界として、「Go To トラベルの利用が直接的に新型コロナ症状の増加につながったという因果関係は断定できない」とも明確に記載されています(その他の課題も明確に記載されています)。
個人的には、「GoToトラベルを利用している人は新型コロナウイルスへの感染リスクが高い」のは当たり前だと思います。家にこもっているよりは、外に出て活動する(特に旅行の場合、食事も基本的に外食とならざるを得ない)方が、感染リスクが高くなるのは当然のことではないでしょうか。逆に、「GoToトラベルが新型コロナウイルス感染拡大の要因になっている」については、主要因かどうかは言い切れないものの、一定の要因になっていることも当たり前と言えば当たり前だと思います。人々が家にこもった状態よりは、旅行する人が多い方が感染拡大はしやすい。
結局は程度問題なのかと思います。そもそもGoToトラベルであり、その他のGoToも含めて、感染リスクをゼロにすることは目指していないはずです。感染リスクをゼロにするのであれば、皆が家にこもるのが一番。でもそれでは日本経済が壊滅的な打撃を受けかねない。そうならないよう、感染リスクを極力下げながらも、人が行動し、経済を回す。ですからGoToが主要因として感染が爆発し、制御できない状態になることはもちろん許容できませんが、一定程度の感染につながることは本来織り込み済みではないでしょうか(なかなか公言しにくいことだとは思いますが)。
そういった意味で、今回の調査は、なかなか興味深い結果だと思います。今回の分析で意外とも言える結果は、「GoToトラベルの利用経験による有症率の違いは、65歳以上の高齢者よりも、65歳未満の非高齢者で顕著」だったということ。これには、「高齢者の方が新型コロナ感染を恐れているため、たとえ旅行をしても慎重に行動し、その結果として感染リスクを増加させていなかった」という仮説が提示されています。とすると、高齢者に自粛を要請するのは実は的外れなのかもしれません。津川先生もGoToトラベルがダメだと言っている訳ではありません。「感染者数の抑制のためには、対象者の設定や利用のルールなどについて検討することが期待されます」と。今回の調査にも色々と限界はありますが、定量的なデータを活用し、ゼロイチではなく、最適解を見出そうとすることが大事なのではないでしょうか。