前回は、青色申告で認められている損失の繰越についてお話ししました。残念ながら昨年(今回の申告)が損失となった場合には、その損失を繰り越し、翌年以降3年間の所得と相殺することができます。これは青色申告ならではの特典ですから、是非活用すべきものです。ただし、実際に未来の所得と相殺され、節税となるのは早くても一年後となります。
実は、損失が発生した際にもっと早く節税につなげる方法があります。それは損失の繰戻し還付という制度。損失の繰越はこれから発生する所得と相殺する仕組みですが、損失の繰戻し還付は過去の所得と相殺する仕組みです。
左の図は、前回お話しした損失の繰越ですが、今回の損失を翌年以降3年間の所得と相殺します。一方、損失の繰戻し還付は右の図のように過去の所得と相殺します。仮に今回の申告で300万円の損失となり、一方で前回は300万円の所得を申告していたとすると、繰戻し還付では前回の300万円の所得と今回の300万円の損失が相殺されます。結果的に前回の申告での課税所得が0円であったとされ、既に納付していた所得税が還付されることになります。
ご存じの方も多いと思いますが、お金の時間的価値をふまえれば、今の100万円と1年後の100万円では同じ100万円でも今の100万円の価値の方が高いとされます。これだけ低金利の時代にはピンと来ないところがありますが、仮に今100万円を返済しなければならないとなると、今の100万円はその役に立っても、1年後の100万円では役に立ちません。
この時間的価値を考えると、損失の繰越か、損失の繰戻しか、その優劣は明確です。もちろん、より早く節税を実現できる(キャッシュを確保できる)繰戻しの方が有利です。
しかし実際問題としては、損失の繰越は一般的に行われていますが、損失の繰戻しはそこまで一般的ではありません。損失の繰戻しのためには、確定申告書とあわせ、「純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求書」を提出するのですが、この請求を受けた際には、税務署でその内容を調査して還付を決めることになっており、これがこの手続きが敬遠される要因になっているようです。
税務署による調査といっても、いわゆる税務調査が必ずしも行われる訳ではありません。還付請求に関する問い合わせがあったとしても、税務署内での机上調査で終わることもあるようです。それでも、何ら後ろめたいところがなくても、「調査」と聞いただけで敬遠したくなるのも理解できます。
そういった意味では、一般的なのはやはり前回お話しした損失の繰越。ただし、本当に足元で資金繰りが切迫しているとすると、今日お話しした損失の繰戻し還付も有効な選択肢です。損失の繰戻し還付について詳細はこちらのスモビバ記事をご参照ください。