先週6社共同で発表した「デジタル化による年末調整の新しいあり方に向けた提言」(年調提言)は、社会的システム・デジタル化研究会(BD研究会)として2つ目の提言となります。昨年6月に発表した「社会的システムのデジタル化による再構築に向けた提言」(全体提言)では特定の制度や業務領域に限定せず、社会的システム全般として、デジタルを前提として業務プロセスの根底から見直すデジタル化によって、業務そのものをシンプルにし、社会的コストの最小化を図るべきとしました。
全体提言の第2章では、紙を前提とした旧態依然とした社会的システムの例として年末調整業務について取り上げました。ただ、この際には、こういった点が課題だと指摘はしつつ、解決の具体的な方策にまでは踏み込んでいませんでした。その後、昨年後半から一年近くかけて、年末調整をどのようにデジタル化し、社会的コストを最小化するのかについてかなり具体的な議論を積み重ねてきた結果が今回の年調提言という訳です。
誤解のないようにお話しすると、年末調整制度がそのものがダメだという気は全くありません。実際問題として、今回の提言の中では、年末調整制度の必要性を改めて検討し、「社会的コストの最小化という観点からは、年末調整制度は、パターン化された所得税申告を高い効率で処理するという意味で有効である」と結論付けています。制度としては今でも有効だけれども、業務のあり方が昔から抜本的に見直されていないことが問題だと考えています。
これまでにもお話ししてきたことですが、確定申告制度、年末調整制度など、日本における現状の社会的システムの多くは、戦後に紙での処理を前提として構築されたものです。
年末調整制度は、戦後に税制のあり方が賦課課税から申告納税へと根本から変わる中で導入されたものです。原則としては申告納税であるものの、一般個人(給与所得者)には税制に関する知識が十分ではないこと、また、事務処理能力が十分でないことを踏まえ、事務処理能力が相応にあるであろう事業者が、給与所得者の実質的な申告事務を肩代わりすることになったという経緯があります。またこの際には、コンピューターが一般に利用できない時代を反映し、当然のことながら、全てが紙を前提とした業務として整備されました。
それから70年(!)以上経ちました。昭和は終わり、平成も終わり、時代は今や令和。しかしこの令和の時代になっても、「昭和の仕組み」(しかも昭和の前半)を引きずっているのが年末調整制度なのです。この間、コンピューターは当たり前のものになりましたし、インターネットによって、情報のやり取りも圧倒的に簡単になりました。そしてクラウドコンピューティングによって、システムの処理能力の圧倒的な拡張性も実現されました。それでも、年末調整制度の前提は昭和と変わらず、紙のままなのです。
確かに事業者においては、年末調整業務に際し弥生給与のようなパッケージソフトウェアを使うことが一般化してきました。また、保険料控除証明書の電子化も始まりましたし、国税庁による「控除申告書作成用ソフトウェア」の提供で比較的小規模な事業者でも、従業員による申告書作成の電子化も可能となりました。それでも、対象となる年末調整業務自体は、紙を前提とした昭和の仕組みから本質的には変わっていません。
翻って、現時点でデジタル化を前提として年末調整業務をゼロから考えるとすると、これまでとは同様な仕組みとはならないのではないか。これが今回の年調提言の出発点です。