前回は、先週6社共同で発表した「デジタル化による年末調整の新しいあり方に向けた提言」(年調提言)の背景をお話ししました。年末調整制度は、戦後に税制のあり方が賦課課税から申告納税へと根本から変わる中で導入されたものであり、その際には、コンピューターが一般に利用できない時代を反映し、当然のことながら、全てが紙を前提とした業務として整備された。それから70年(!)以上が経ち、昭和、平成を経て令和の時代になっても、「昭和の仕組み」を引きずっている、とお話ししました。
このように制度は昭和の仕組みのままなのですが、一方で、近年、税制の複雑化とともに、年末調整が極端に複雑化しています。これは、確定申告は年間の所得額が確定した状態で行うのに対し、年末調整では所得金額の見積額を用いる必要があるため。具体的には、近年の税制改正により、配偶者(特別)控除や基礎控除の適用に当たって給与所得者本人の所得金額の見積りが必要となりました。また、配偶者に関しても、共働きの増加により基礎控除額の水準以上に所得を有することが一般化し、見積りにより精度を求められるようになりました。
本ブログでは、2018年末に配偶者(特別)控除の件について「率直に言って、かなり複雑になりました。配偶者特別控除の対象となりうる配偶者の所得額上限が引き上げられるなど、必ずしも増税ではありませんし、この改正が一概に悪いという気はありません。それでも、制度が複雑化しすぎていることは事実かと思います。業務ソフトを開発している弥生の社内ですら、今年の申告書を記入するのは大変という声が上がっている中で、一般の事業者において全社員が正しく理解し、正しく運用するのはなかなか難しいのではないかと危惧しています」とお話ししました。個人的に年末調整制度が限界を迎えた、抜本的な見直しが必要と痛感したのは、まさにこのタイミングです。
前回お話ししたように、年末調整は、確定申告の簡易版として戦後に生まれました。確定申告の簡易版ですから、確定申告より簡単であるべきです。しかしどうでしょうか、簡易版であるはずの年末調整ですが、ここ数年は確定申告より処理が複雑となっています。
年末調整業務は、全国の膨大な数の事業者で、年末という一般的に業務繁忙とされる時期に、多大な時間をかけて業務が行われています。一方で、税制がより複雑化する中で、事業者の税制に関する知識が十分とは言えない状況も生まれています。結果的に、年末調整業務が必ずしも正しく実施されていない可能性も大きくなっています。これに対し、行政でその正確性を検証するのは、事業者と行政での二度手間です。つまり民間、行政両者で多大なコストを要しているのが現状の年末調整業務です。
これをどのように見直すのか。そのカギを握るのは、電子化ではなく、デジタル化であるということ。つまり、今ある業務をそのままに紙を電子化するのではなく、業務そのものを見直すということ。昨年末から提供開始された国税庁による「控除申告書作成用ソフトウェア」はもちろん意味のあることだと思いますが、所詮紙の電子化に過ぎません。
詳細は今後お話ししますが、今回の提言では、年末調整を年始に実施することを提言しています。上でお話しした所得金額の見積りが必要とされるのは、所得金額が確定していない年内に年末調整手続きを行うから。それであれば、年末調整手続きを年明けに実施することによって、所得金額が確定した状態とし、所得金額の見積りを不要としようというのが、業務の見直しをともなうデジタル化の発想です。