2021年11月17日

改正電子帳簿保存法の課題と解消の方向性

前回は来年一月に施行される改正電子帳簿保存法について強い懸念を抱いていること、それに対し直近で懸念を一部解消する動きがあったことをお話ししました。ここでの懸念は全事業者に影響があり、なおかつ来年1月には対応しなければならない、つまりあまりに時間がないことでした。この懸念については、国税庁のQ&Aによって、書面保存を継続しても直ちに青色申告の承認取り消しとはならないことが明確化され、一定程度解消されました。

しかし一方で、今回の改正電子帳簿保存法には、より本質的な課題もあります。それは、1) 全事業者に影響を与えるものの、ほとんどの事業者にとってメリットがないこと、そして2) データの移管の仕組みが整備されていないことです。これらはいずれも解消すべきですし、官民が協力すれば解消は可能だと考えています。

まず1)ですが、今回の改正電子帳簿保存法は、その大半が帳簿や証憑を電子的に保存したい事業者にとっての要件緩和であり、電子的保存を希望される方には明確なメリットがあります。しかし一方で、電子取引に関しては、これまで認められていた措置(電子取引の記録を紙に出力して保存すればいいとする措置)を廃止するものであり、これは全ての事業者に影響を与えます。しかもこの措置の廃止は何ら明確なメリットはありません。紙で出力しない代わりに保存すべきものとして想定されているデータは、PDFであったり、場合によって画面のスクリーンショットです。これらは構造化されたデータではない(画像のようなもの)ので、このデータを使って後続業務の自動化・効率化を実現することはできません。所詮紙の電子化に過ぎないということです。

本来は、売手は構造化されたデータを提供する、買手はそれを保存することにより、そのデータを経費精算や会計処理に直接的に活用できるようにすべきです。これによって、単なる紙の電子化ではなく、業務の効率化を実現できます。そういった意味では、今回の改正電子帳簿保存法は、買手に電子データとしての保存を義務付けている訳ですが、本来は、売手に構造化されたデジタルデータとしての提供を義務付ける(少なくとも促す)ことが先であるべきだと思います。

これは(画像ではなく)構造化されたデジタルデータとしての電子レシートの普及を図ることと同義です。2023年10月にはインボイス制度が導入されますが、この際の対象はいわゆるB2B取引だけではなく、B2C取引も含まれます。弥生はEIPA(電子インボイス推進協議会)の代表幹事として主にB2B取引で活用される適格請求書のデジタル化に取り組んでいますが、同時に、B2C取引で活用される簡易適格請求書(簡単に言えばインボイス制度の要件を満たしたレシート)のデジタル化も必要だと考えています。簡易適格請求書がデジタルで一般的に提供されるようになれば、買手としてそれを保存するだけではなく、その後の後続処理の効率化が実現できるはずです。

次に2)ですが、今回の改正電子帳簿保存法は一度電子的に保存したデータの移管を想定していません。結果として事業者の選択の余地を極端に狭めることになります。実務上は、当初は自社でファイルサーバーなどに保存していただけども、その後クラウドベースで保存するシステムを導入することも考えられ、その際には当然、自社で管理していたデータをクラウドのシステムに移管したいというニーズがあるはずです。あるいは、クラウドベースのシステムにしても、A社のシステムを利用し始めたものの、使い勝手が悪い、あるいはコストが高いなどの理由でB社のシステムに移行したい、その際にはA社で保存していたデータをB社のシステムに移管したいということもあるでしょう。

逆にデータから紙にせざるを得ないケースもあると考えています。具体的には事業を廃業する際です。事業を廃業するからといって、帳簿や証憑をすぐに廃棄していい訳ではありません。一般的には廃業後も7年間は保存しなければなりませんが、事業を廃業した以上、コストをかけてクラウド上に保管し続けることは現実的ではありません。このため、一定の条件下で、データを紙出力し、紙での保存を認める必要もあるのではないかと考えています。

これらのデータの移管については、今回の改正電子帳簿保存法で明示的に禁止されている訳ではありません。ただ、弥生から国税庁に問合せたところ、現時点では移管は原則として認められないという回答でした。もっとも、問題として捉えており、対応を考えているとのこと。

幸いにして1)にしても、2)にしても、解決できない課題ではありません。今回、直ちに青色申告の承認取り消しとはならないということが明確にされたことを活かし、官民連携で1)と2)の課題の解消を目指すべきだと考えています。1)と2)が解消されれば、事業者としても単に手間が増えるのではなく、デジタル化にとって業務効率化につながることになりますし、また、下手なシステムを導入してベンダーロックインに陥る懸念も解消されます。結果的に、事業者として安心して、むしろ積極的に対応しようとなるのではないでしょうか。
posted by 岡本浩一郎 at 23:01 | TrackBack(0) | 税金・法令
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