2021年11月26日

コロナ禍での税務調査

日経で「シェアリングエコノミーなど申告漏れ201億円 国税庁」という記事が掲載されましたが、これは国税庁が公表した「令和2事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」という資料に基づいたものです。この資料を見てみると、新型コロナウイルス禍によって、税務調査がどのような影響を受けたのかがはっきりわかり、なかなか興味深いです。

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まず端的にわかるのは、実地での税務調査の件数は減ったということ。今回の資料の対象期間は令和2事務年度(2020年7月〜2021年6月)となっていますが、一年前と比べて、実地調査は6万件から2.4万件と約6割減少しています。実地調査というのは、実地に臨場して行う調査ですから、接触そのものを避けなければならない環境下では例年よりも件数が減らざるを得なかったのかと思います。ただ一方で、納税者宅等に臨場することなく、文書、電話による連絡又は来署依頼による面接による「簡易な接触」の件数は、37.2万件から47.8万件に増加しています。実地調査がやりにくい分、簡易な接触を増やしたということでしょう。結果的に簡易な接触も含めた広義での税務調査の件数は43.1万件から50.2万件にむしろ増えています。

調査対象となった50.2万件のうち、申告漏れ等の非違があった件数は27.9万件。つまり率で言えば55.6%。結構な確率で何らかの問題は見つかるということですね。特に実地調査では2.4万件中2.1万件、率で言えば87.4%というかなりの確率です。

ちなみに、私も税務調査(実地調査)を受けたことがありますが、結果はお咎めなし。無事に「更生決定等をすべきと認められない旨の通知書」を受け取ったことを本ブログでお話ししています。ですので、一度実地調査が入れば、何らかの問題が見つかる可能性は高いものの、決して100%ではないことは私が身をもって証明しています(笑)。

今回の資料では、トピックスとして、富裕層に対する調査状況、海外投資等を行っている個人に対する調査状況、シェアリングエコノミー等新分野の経済活動に係る取引を行っている個人に対する調査状況、そして無申告者に対する調査状況を深掘りしています。要は税務署としてどの領域に特に目を光らせているか、ですね。海外投資等を行っている個人も含め富裕層というのはわかりやすいターゲットですし、そもそも申告すべきものを行っていない無申告者というのも同様です。その中で、シェアリングエコノミー等新分野の経済活動に係る取引を行っている個人について取り上げているのは注目に値するかと思います。

シェアリングエコノミー等というとわかりにくいですが、注記としてシェアリングビジネス・サービス、暗号資産(仮想通貨)取引、ネット広告(アフィリエイト等)、デジタルコンテンツ、ネット通販、ネットオークションその他新たな経済活動を総称した経済活動のこととされています。要はインターネットを介し、一般的には捕捉しにくい経済活動ということになります。

これらの領域については、重点的な税務調査の対象になり始めているということはこれまでも言われていましたが、今回の資料からも、税務署としてかなり本気で取り組んでいることがわかります。この領域での実地調査は1,071件、そのうち89.9%にあたる963件で申告漏れ等が指摘されています。一件当たりでは、申告漏れの所得金額は1,872万円、これに対して追徴税額は494万円だそうです。

一件当たりで1,872万円というと随分儲けているんだな、と思われるかもしれません。随分儲けている人だからこそ、実地調査を受けるんだろうとも思われるかもしれません。ただ、実はこれは一年分ではありません。私が調査を受けた時は3年分の所得に対する調査でしたし、一般的には5年程度の申告漏れは指摘されうるとされています。仮に3年分だとすると、一年600万円強ということになります。

これは(意図したかどうかは別として)申告漏れがあったとして、一年間何も言われなかったら安心していいという訳ではないということです。むしろ、怪しくても、何年間かは泳がせて、その後に税務調査に入るともいわれています。調査を行う立場からすると、一回の調査で一年分の申告漏れを指摘して終わりよりは、数年分の申告漏れを指摘した方が効率はいいですからね。

弥生をご利用の方はちゃんと申告をされている方ばかりなので、安心してこういった記事を書けますが(笑)、身に覚えがある方は、早めに自発的に申告されることをおススメします。
posted by 岡本浩一郎 at 18:17 | TrackBack(0) | 税金・法令
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