前回は、弥生は今回立ち上げた事業承継ナビを通じて、中小企業の経営者が事業のバトンをしっかりと渡して引退できるようにしたい、とお話ししました。その背景としては、日本の中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が、全体の約2/3に相当する約245万人にのぼる、なおかつその約半数の127万は後継者が未定。つまり、日本の事業者の約2/3は、「引退」の二文字が視野に入る年齢になりつつある一方で、その半数は引退 = 事業の廃業になりかねないということをお話ししました。
一方で、本ブログをまめに読んでいただいている方であれば、この数字には多少なりとも違和感を持つはずです。2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3って、本当だろうか、と。実は本ブログでは2014年に社長の平均年齢という記事を書いています。元データは帝国データバンクの2013年の調査ですが、日本の社長の平均年齢が58.9歳という記事でした。これを出発点として考えると、2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち「60歳」を超える人が全体の2/3というのはあり得るように思いますが、「70歳」を超える人が2/3ですよ。
確かに2013年から2025年と考えると12年経過していますから、全く同じ人の集団でそのまま12歳年齢を重ねれば平均年齢が70歳になっているということも考えられます。しかし実際には、若い方で起業して社長になる方もいますし、一方で、年を経て引退する人もいますから、同じ集団のままで12歳年齢を重ねるということは考えられません。実際、2014年の記事では平均年齢は「毎年0.1歳から0.3歳ぐらいの幅で上昇しているので、このままいくと、2020年ぐらいには60歳の大台に到達しそうです」と書いています。実際のところ、今年発表になった帝国データバンクの調査では、2021年時点での社長の平均年齢は60.3歳(前年比+0.2歳、ということは2020年には60.1歳だったわけですから、2014年時点の「2020年ぐらいには60歳の大台に到達しそうです」という読みは大正解でした)。
仮に2021年から2025年まで、毎年0.3歳平均年齢が上がるとしても、2025年時点では61.5歳。全体の平均は62歳だけれども、全体の2/3が70歳以上ということはありうるのでしょうか。
理論上はありえます。極端なケースで考えると、40歳の人が100万人、70歳の人が200万人いたらどうなるか。この場合平均年齢は60歳になります。と同時に、70歳以上の人が200万人/(100万人+200万人)ですから、2/3ということになります。40歳の人は、人数としては半分でも平均値からの差(60-40=20)が大きいので、人数が倍の70歳の人(平均値からの差は70-60=10)と釣り合うということですね。そういった観点では、取りうる値としては30歳の社長はあり得ますが、90歳の社長はゼロでないにせよ数としては少ないでしょうから、取りうる値の分布的に平均を左にシフトさせる傾向はあるのだと思います。
毎年金融広報中央委員会が調査・発表している二人以上の世帯の平均貯蓄額(金融資産保有額)が、過大に見える(2021年で1,563万円, pdf)ことが話題になりますが、これは、取りうる値の下限が0円(貯蓄なし)であるのに対し、上限はない(1億円でも10億円でもありうる)ので、平均をとると右に引っ張られるためです。このため、この調査では中央値も公表していますが、平均値では1,563万円が中央値では450万円と大きく変わります。
ちなみに、上でお話しした40歳の人が100万人、70歳の人が200万人という極端なケースでは、平均値は60歳である一方で、中央値は70歳ということになりますね。なおかつ平均値には誰もいない。これは本ブログでも何回かお話ししている平均値の罠です。
ただ、今回のケースでは、さすがに40歳の人が100万人、70歳の人が200万人という極端なケースではないはずです。となるとまだ見えていない別の要因がありそうです(続く)。