2022年07月15日

数字を疑う(その3)

これまで、弥生が事業承継ナビを立ち上げた背景として、日本の事業者の約2/3は、「引退」の二文字が視野に入る年齢になりつつある一方で、その半数は引退 = 事業の廃業になりかねないということをお話ししました

一方で、2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3って、本当だろうか、という疑問があり、その検証を行ってきています。前回は、2005年および2015年の法人経営者の年齢分布(元データは帝国データバンク)をもとに2025年の年齢分布のシミュレーションを行い、結果として、2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3というのは非常に疑わしいという結論を得ました(なお前回記事に一部ミスがあったため修正していますが、メッセージは変わりません)。

うむむ、何かを見過ごしていないでしょうか。「2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3」のソースとなっている中小企業庁の資料の2ページ目のうち、前回は左下のグラフに関して検証を行ったわけですが、今回は、右側の図を見てみましょう。右側の図の出所を確認してみると、「平成28年度総務省「個人企業経済調査」、平成28年度 (株)帝国データバンクの企業概要ファイルから推計」とあります。後段は左側のグラフと共通ですが、前段が追加されています。

そう、左側のグラフはあくまでも法人の話なのですが、右側の図に関しては、法人と個人事業主を合わせて表現しているということです。つまり、法人の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3ということはなくても(前回の現実的なシミュレーションでは1/3ぐらいではないかと推計しました)、個人事業主も合わせて考えると、70歳を超える人が全体の2/3という可能性はあります。もっとも、法人で1/3ぐらいであるものが全体で2/3となると、個人事業主のうち70歳を超える人が3/4超といったような極端な分布になっている必要がありますが。

ということで、個人事業主の年齢分布を探ってみると、2019年版の小規模企業白書の第2-1-3図に、「年齢階級別に見た自営業主の推移」というデータがありました(ここでいう自営業主とは、個人経営の事業を営んでいる者という定義)。今回もこの第2-1-3図から、2005年と2015年のデータだけを抜き出してみました(法人の時と同様、例えば50歳〜54歳は中間地点である52.5として表現)。なお、縦軸を以降のグラフと揃えるためにやや見にくいグラフになっているのはご容赦ください

2022071501.png

個人事業主においても2005年から2015年にかけて、グラフが右にシフトしています。55〜59歳だったピーク値が70歳以上になっていることがわかります。このデータでは70歳以上が一まとめになってしまっている(法人では70〜74歳、75〜80歳、80歳以上となっていた)ため、ピーク値が10歳以上ずれてしまっているのかと思います。

今回もまずは極端なシミュレーションを行ってみたいと思います。2015年時点の個人事業主が、皆単純に10歳歳をとったとします。この場合2015年時点で60歳以上だった個人事業主は一人残らず2025年時点では70歳以上ということになります。ただ、この場合、15〜20歳の層と20〜25歳の層が誰もいなくなってしまう(皆10歳歳をとって2つ右の層に移ってしまう)ので、この2つの層に関しては仮に2015年時点と同じ数の個人事業主が新たに生まれてくると想定します。この極端なシミュレーションの結果はこちら。

2022071502.png

そうすると確かに2025年時点では70歳以上の層に極端なピークが立つことがわかります。その数201万人。ただ、確かにピークとしては高いのですが、70歳未満が245万人に対し、70歳以上が201万人ですから、これでも70歳を超える人が全体の2/3とはなりません。

次に、法人の時と同様にもう少し穏当なシミュレーションをしてみます。30〜34歳、35〜39歳といった各年齢層ごとに、10年経過する中での目減り率を設定します(廃業したなどの要素を考慮)。それと同時に、各年齢層ごとに10年の中で新たに個人事業主となる人の数を設定します。緻密なシミュレーションではなく、あくまでもざっくりとしたものですが、結果はこういった感じになります。

2022071503.png

上の極端なシミュレーションよりは、まあこんなものかな、という結果になっていますね。このシミュレーションでも70歳以上にかなり高いピークが立っています。ただし、その数は127万人と極端なシミュレーションよりは少なくなっています。このシミュレーションでは70歳未満が293万人に対し、70歳以上が127万人ということで、70歳以上の人が2/3どころか、むしろ70歳未満が2/3となります。

ということで、ここまでの一旦の結論なのですが、2025年に中小企業・小規模事業者(法人および個人事業主)の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3というのはやはり非常に疑わしいということになります。随分引っ張ってしまっていますが、次回はこれまでの検証をまとめてみたいと思います。実は70歳を超える人が全体の2/3となっている理由も想像はできているので、その点もお話ししてみたいと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 19:06 | TrackBack(0) | ビジネス
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