事業所得なのか、あるいはそれに該当せず雑所得(業務)となるのかの線引きについて、本ブログで何度かお話ししてきました。直近ではこの4月に「事業所得か雑所得(業務)か 2022」という記事を書きました。この線引きが曖昧であるということをお話ししてきたわけですが、それを一定程度明確化しようという動きが見えてきました。
これまでもお話ししていることですが、節税という観点では、事業所得の方が圧倒的に有利です。事業所得では、青色申告が認められており、結果的に最大65万円の青色申告特別控除が得られること、また、仮に事業所得で損失が発生した場合には、その損失を例えば給与所得から差し引くことができる(損益通算)など、明確なメリットが存在します。逆に雑所得は、青色申告特別控除的なものは存在しませんし、雑所得が損失であっても、他の所得と相殺することはできません。
しかし、メリットがあるから、何でもかんでも事業所得にできるかというと、そうではありません。事業所得であるかどうかは、社会通念上、事業を営んでいると認められるかどうかという実態で判断されます。実態で判断されるということで、その基準は良くも悪くも曖昧でした。
この曖昧性を多少なりとも改善しようと、国税庁が予定している「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正に関して、今月末の締切でパブリックコメント(パブコメ)が募集されています。もともと業界内ではそれなりに話題になっていましたが、パブコメの期限も近付く中で、メディアでも取り上げられるようになってきました。日経の記事では、「26日までに4,000件以上の意見が寄せられるなど、異例の関心の高さ」「大半が改正反対の趣旨の内容」と報道されています。
私個人としては、(意外かもしれませんが)本改正については全体としては賛成です。上でお話ししたように、事業所得と雑所得の境界線が曖昧だった中で、一つの判断基準が示され、どちらに該当するかの予見性が高まることはプラスだと考えています。
事業所得か雑所得かについて、縦軸に、その所得が主たる所得か、主たる所得でないか、横軸に収入が300万円以上か、300万円未満かというマトリックスで整理すると、以下のようになるかと思います。
今回の一部改正のキモは、「その所得がその者の主たる所得でなく、かつ、その所得に係る収入金額が 300 万円を超えない場合には、特に反証がない限り、業務に係る雑所得と取り扱うこととします」という部分です。これはこのマトリックスの右下に該当します(「かつ」なので、右下だけに絞られます)。右下について(のみ)、原則として(反証がない限り)雑所得ということです。
逆に言えば、左下や右上が事業所得になり得る(少なくとも自動的に雑所得ではない)ことが示されたことには意味があると思います。左下で言えば、副業だから自動的に雑所得になるわけではなく、社会通念上事業と称するに至る程度であれば副業でも事業所得になり得る、そしてその収入基準が300万円であると示されたことになります。
今回のパブコメを受けて、副業を推進しようという動きもある中で、副業は全て雑所得というのはおかしい、という反応もあるようですが、そうではない、副業でも事業所得になり得るというのが私の理解です。正確に言えば、左下や右上は自動的に事業所得になるのではなく、あくまでも社会通念上事業と称するに至る程度になれば、事業所得になり得るということには注意が必要です。ここで社会通念上事業と称するに至る程度と判断する(あくまでも一つの材料として)収入が300万円という基準が示されたということになります。
今回のパブコメは、色々なところで波紋を呼んでおり、中には、年収300万円未満では副業とみなされない、だから副業禁止の会社でも年収300万円未満の範囲であれば「副業ごっこ」で副収入を得ることは問題ないはずだ、というどこをどう読めばそういう理解になるのか、という説まで登場しています。
今回のパブコメに高い関心が寄せられていることはいいことだと思いますし、賛成も反対も色々な考えがあってしかるべきだと思います(だからこそパブコメの意味があるのだと思います)。ただ、その際には、予定されている改正の中身を正しく理解することが必要であることは言うまでもありません。
私個人としては全体に賛成だとお話ししましたが、若干懸念がないわけではありません。懸念というか、明確化が必要な点でしょうか。これらについて、次回お話ししたいと思います。