2010年06月25日

「有価証券の引受け等に関する規則」等の一部改正に反対

立場上、あまり政治や行政などに関する話題を持ち出さないようにしているのですが、本件に関しては、一人でも多くの方に知って頂きたい、そしてご意見を頂きたいので、あえて書きます。

インフォテリアの平野さんのブログで知ったのですが、日本証券業協会で「有価証券の引受け等に関する規則」が起業家にとって望ましくない方向に改正されようとしているとのこと。「有価証券の引受け等に関する規則」というと分かりにくいのですが、要は上場に際して適用されるルールです。現在この規則の改正(案)が公開され、パブリック・コメント募集中となっています。

内容としては、平野さんのブログも見て頂きたいのですが、簡単に言えば、ベンチャー企業が上場前に個人投資家から出資を受けた場合には、原則として上場を認めない、というものです。最近問題になっている未公開株詐欺事件を防ぐため、ということですが、その問題意識自体は妥当だと思うものの、それを防ぐために、ベンチャー企業への個人投資家からの出資を(上場の道を閉じることによって、事実上)認めないというのはあまりに乱暴であると考えています。まさに悪貨が良貨を駆逐しかねない危機であると感じています。

この改正(案)は、多くの起業家の将来の上場の夢を破壊するに等しいことです。もちろん、起業家のゴールが必ず上場である必要はありません。むしろ上場は例外中の例外。年間の法人起業数が10万社前後であるのに対し、上場数は、ピークである2000年でも年間204社です。ただ、結果として上場するかどうかは別として、それを夢見ることは自由であるべきですし、その選択肢は確保されているべきです。

この改正(案)には、適用除外が細則で設けられていますので、これをもって問題ないという見方もあるでしょう。しかし、起業家を応援し、日本の経済を活性化させるためには、ベンチャー企業とそれを支援する個人投資家をバックアップする必要こそあれ、妨げるべきではありません。平野さんが言われる通り、例外はあるが原則禁止というアプローチ自体大きな誤りであると考えます。

百歩譲って(譲るべきではないですが)、原則禁止で例外で対応するとしても、この改正(案)の例外には大きな問題があります。上場が認められる例外は以下のように規定されています。

1 株券、新株予約権証券、新株予約権付社債券及び社債券の募集につき有価証券届出書を提出していたとき。
2 株券、新株予約権証券、新株予約権付社債券及び社債券を発行した時点において発行者が有価証券報告書を提出していたとき。
3 株券、新株予約権証券、新株予約権付社債券及び社債券について発行者の株主、役員及びその親族並びに従業員及びその親族に対してのみ募集又は私募を行っていたとき。
4 その他本協会が第1号から第3号に準ずると認めたとき。


そもそも有価証券届出書や有価証券報告書が何たるものかピンとこない方も多いと思いますので、実例を。このEDINETのサイトで、下の方で「有価証券報告書等」の閲覧をクリックします。次に検索画面で提出者EDINETコードにE03520を、そして、下の方の書類種別で「有価証券届出書」もしくは「有価証券報告書」を選びます(いずれも、マザーズ上場のトレジャーファクトリーの資料です。野坂さんちょっと拝借しました&大船店開店おめでとうございます)。見て頂ければわかると思いますが、まだまだ小さいベンチャー企業が作成するにはあまりにも負担が重い書類です(上記の有価証券届出書で直近の公募にあたって提出されたものは、有価証券報告書を組み込む形になっていますので、一見シンプルですが、新規公開時のものを見て頂ければボリューム感はつかめるでしょう)。外部に作成を依頼したとしても、数百万円は確実にかかるでしょう。

そもそも、有価証券届出書や有価証券報告書は、小さいベンチャー企業が、小規模の増資を行う際に提出することは求められていませんし、想定もされていません。有価証券届出書を誰が提出すべきと規定されているかは、関東財務局のサイトに詳しいのですが、簡単に言えば、一億円以上の増資をする際に提出せよとされている資料です。ちなみに1,000万円から1億円未満の場合には、有価証券通知書を提出することが義務付けられています。有価証券通知書の様式はこちらです。これであればまだ納得はいきますが、今回の改正(案)で要求されているのは、有価証券通知書ではなく、1億円以上の増資で必要とされている有価証券届出書です。

では、有価証券報告書はといえば、同じく関東財務局のサイトに情報がありますが、提出を義務付けられているのは、上場会社や株主が1,000人以上いるような会社です。すなわち、小さなベンチャー企業が提出を義務付けられているわけではありません(し、内容を見て頂ければ到底作成できないこともお分かり頂けるでしょう)。

となると、残るは、3の既存株主/役員/従業員/親族。しかし、これでは友人は含まれませんし、一般の個人投資家も含まれません。私がビジネススクールで叩き込まれたのは、ベンチャー企業にとって資金のソースは、まず自分。私が自分の会社を起業した際には、それほど資金ニーズの高くないコンサルティング業ということもあって自己資金で全て賄いました。しかし、それで足りない場合は? それは、F&F - Friends and Familyです。家族からの出資ももちろん大事ですが、それと同様に友人も重要な出資者です。順番で言えば、自分 > F&F >>> Angel Investor >>>>>>>> VC。しかし、この3の規定では友人に増資を引き受けてもらうことは事実上できなくなります。ましてや、一般の個人投資家も。昨今個人投資家によるベンチャー投資を促進するために、エンジェル税制(税金上のメリット)が徐々に強化されていますが、これは全く逆行する動きです。

おそらく、そこらへんは4の本協会が認めた時でカバーされるという見方もありますが、認められるかどうかは全く保証されたことではありません。そもそも恣意性を排除するためにも、「認めた時」に該当するようなケースは最小化すべきです。

論点の整理をしますが、まず、起業は国を挙げて応援すべきものであるのに対し、@個人による増資の引き受けを事実上禁止するというのは適切でないということ。A例外規定で抜け道を作るとしても、小さなベンチャー企業が友人や個人投資家に増資を引き受けてもらう道は閉ざされてしまうということ。

ここまで自分なりに調べてみたのですが、もともと上場の専門家ではありませんし、ひょっとしたら、認識に誤りがあるかもしれません。今回のパブリックコメントの締め切りは7/1(木)ということで、時間は大変に限られますが、本ブログやTwitterを通じて皆さんの意見も伺ってみたいと思います。その上で、7/1に間に合うように意見をまとめて日本証券業協会に提出したいと思います。

本件に関しては、平田大治さんもブログを書かれており、Twitterのハッシュタグとして#jsdaを提案されています。私もTwitter上で、税理士/会計士の先生方など色々な方のご意見を聞いてみたいと思っています。
posted by 岡本浩一郎 at 11:08 | TrackBack(0) | 起業
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