日本人は、一般的にリスクをとりたがらない、そして起業は高リスク、だから日本では起業が盛んではない。起業に関して、よく言われることです。
でも、起業は本当にリスクが高いのでしょうか? 新しいことを始めるわけですから、低くはないですね。ただ、必ずしも高いとは言い切れないと考えています。私がビジネススクールで学んだことのうち、今でも大事にしているのが「皆、起業といえば、リスクを取ることだと思っている。でも、それは正しくない。起業はリスクを取ることではなく、リスクを管理することだ」(Entrepreneurship is not about taking risks. It is about managing risks)ということ。何か新しいことをやるとして、100のリスクをとって実現するのと、10のリスクをとって実現するのと、どちらが良いか。答えは明らかですよね。同じことをやるのに、いかにリスクを最小化するか、それが起業の秘訣です。
特に大企業で勤めていた方が起業する際には、プライドとの戦いになります。それなりの立地に、それなりに見栄えのするオフィスを構えたい。スタッフもそれなりに揃えたい。でも、それらは全てリスク。本当に取るべきリスクなのかを考える必要があります。プライドを捨ててでも、自宅で自分ひとりで起業する。そして事業がある程度軌道に乗ってきた段階で、オフィスを本格的に構える。そして本当に必要になったら、人を正社員として迎える。それが、リスクを「取る」のではなく、リスクを「管理」する、ということです。
起業はリスクが高いのかを考える上でもう一つ重要なのは、では起業しなければリスクは低いのか? 30〜40年前までの高度成長期であれば、日本は急速に成長し、それにつれて多くの会社も黙っていても成長することができました。会社が成長すれば、社内でポジションも自動的に生まれてくる。だから新入社員で入った人は黙っていても定年まで何らかのポジションが用意されました。
残念ながら、今は違います。私も現役の経営者として、弥生という会社を成長させ、スタッフが自分の将来を託せる会社であり続けられるように日々努力しています。しかし、日本の経済全体が伸びない中では、下手をすればゼロサムゲーム。お陰様で弥生は多くのお客様に支持して頂いており、明るい将来を描くことができていますが、全ての会社がそこまで恵まれているわけではありません。
果たして自分の会社に自分の一生(少なくとも60〜65歳まで)を託すことができるのか。
私が新卒で最初に入社した会社は野村総合研究所です。入社はバブル採用の最後のタイミングでしたから、内定を取るのに苦労はしない時代でしたし、会社で何を達成したいという具体的な想いもなく、「まあ、それなりに頑張れば、社長にはなれなくても、役員ぐらいにはなれるだろう」と、今から考えればあまりに浅薄な考えで入社しました。その私の甘い考えを打ち砕いたのが、山一證券の自主廃業でした。1997年の11月ですから、留学から日本に帰ってきた直後のことです。山一證券と言えば、泣く子も黙る四大証券の一角。誰でもが知っている一流企業でした。そして、実際に自主廃業するその直前まで、業界内の誰もが最終的には何とか救済されるだろうと思っていました。
それがある日、あっけなく自主廃業。守ってくれるはずの会社はあっという間に消滅してしまいました。会社はもちろん、従業員を守りたいと思っています。それが会社の存在意義の大きな一つですから。でも、どんなに大きな会社でも、一流と言われる会社でも、なくなってしまうこともある。確かに、会社は守ってくれるかもしれない。でも守りきれないこともある。そう悟った時、自分の人生を会社に託すのか、あるいは自分で自分の人生を切り開くのか。変な言い方ですが、私は山一證券のお陰で、自分の人生は自分で決めようと考えました。
もちろん、既存の会社が全てダメではありません(野村総研は今でもいい会社です、育てて頂いたことを感謝しております)。また、起業が誰にでも向いているとも言えないでしょう。ただ、起業しなければリスクはない、あるいは低いか、というとそうは言い切れないと思うのです。
結局起業するも、起業しないも、変化する社会の中で生きていく上では、リスクを完全に排除することはできません。そうなると、本当に考えるべき問題は、起業はリスクが高いかどうか、ではなく、リスクを取るか取らないか、でもなく、リスクをどう管理するか、なのではないでしょうか。
2010年07月14日
起業って高リスク?
posted by 岡本浩一郎 at 18:54
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