前回はオリンパスという一つの悪意ある事例がきっかけになって、多くの真面目にやっている会社に「必要のない」足かせが科されるようでは本末転倒だ、と書きましたが、最近私が危惧しているのが、増加している未公開株詐欺が起業に与える影響です。未公開株詐欺が起きない、広がらないように対策を行うことは当然必要なことだと思いますが、その結果、真面目に起業しようとしている人に悪影響を与えるようでは、やはり本末転倒ではないでしょうか。
最近の日本経済新聞で、ある銀行では新規設立法人の口座開設には支店長面接が必須になっているという記事がありました。その理由は未公開株詐欺。未公開株詐欺では、(おそらくは実態のない)法人の口座が資金の振込先になっているため、法人の口座開設に対し、キチンとした審査をするようにという指導が出ているようです。
改めて調べてみたところ、例えば昨年の9月13日付で、三菱東京UFJ銀行が「法人口座を開設されるお客さまへ」というタイトルで、口座開設の手続きが厳格になり、「口座開設をお断りすること」があるというお知らせを出しています。さらに、今年の10月31日にはゆうちょ銀行がより踏み込んだお知らせを出しています。ここでは「警察庁からの要請もあって」と明確に書かれています。
誤解がないように申し上げると、法人口座を開設するにあたって、一定の書類が必要とされることは当然のことだと思います。お尋ねなり、面接も一概に否定するつもりはありません。ただ、これが「疑わしきは罰する」、すなわち、お眼鏡に適わなければ口座開設を認めないといったような運用になりかねないことを危惧しています。一般的に金融機関は保守的ですし、後で問題が発生して色々言われるよりは、とりあえずリスクを排除しておくということになれば、こんなところで起業の芽を摘みかねません(もちろん、ちょっとやそっとの障壁にめげていては起業は成功しないのも事実ですが、お客さまの開拓から資金調達まで様々なチャレンジがある中で、わざわざもう一つ大きな障壁を設けるべきでしょうか?)。
言うまでもなく、未公開株詐欺を防ぐことはとても重要ですし、社会として取り組まなければなりません。ただ、新規設立法人の口座開設を難しくすることが適切な対策なのか、というと疑問を感じざるを得ません。それ以前に、素性の定かでない儲け話にはのらない、お金を振り込む前にキチンと確認するという当たり前のことを徹底的に広報するのが第一なのではないでしょうか。
以前、やはり未公開株詐欺対策として「有価証券の引受け等に関する規則」等の一部改正が検討され、(私も含め)多くの方の反対によって改正が見送りになりましたが、今回の銀行口座開設審査にも、本筋でないところで対策を行う(結果として割を食うのはちゃんとやっている人)という同じ「匂い」を感じてしまいます。
そういう意味では、「有価証券の引受け等に関する規則」等の一部改正に対し、同じように反対の姿勢を明確にされた磯崎さんが読売オンラインの「未公開株詐欺を防ぐシンプルな方法」という記事で、至極まっとうな対策を提案されています。これは私見ですが、磯崎さんの提案の方がよっぽど効果があるように思うのですが…