先日、「社長の平均年齢」という記事を書きました。日本の社長の平均年齢は58.9歳、年々平均年齢が上がっており、新陳代謝が進んでいません。この記事から、「社長の賞味期限」「社長の引き際」と続きましたが、実は本当に書きたかったのは、この新陳代謝ということ。
アベノミクスでは、開業率を10%以上にすることが日本再興戦略(pdf)の一つの柱として掲げられています。現在は5%に満たない開業率を10%以上に引き上げる。チャレンジングな目標に見えますが、起業を促進するということ自体は、例えば民主党政権時代にも、マニフェストで「100万社起業を目指す」とされてきました。ただ、民主党政権時代には、具体的なアクションがほとんどないままに、何も結果を生まなかったのはご存知の通り。ただ、民主党政権だけを責めるのは酷で、その前から起業促進というお題目は長年言われ続けながらも、結果を伴わない状態が続いてきました。
そういった意味で、アベノミクスでの起業促進も、またか、となるわけですが、実はこれまでと大きく異なる点があります。それは、日本再興戦略においては、開業率だけでなく、開業率・廃業率ともに10%以上を目指す、としていること。具体的には「我が国の起業・創業を大幅に増加させ、開業率が廃業率を上回る状態にし、開業率・廃業率が米国・英国レベル(10%台)になることを目指すとともに、経営者の高齢化・後継者難が一層深刻化する中で、経営者の世代交代、親族外への事業承継等による有用な経営資源を移転促進することより、中小企業・小規模事業者の新陳代謝を促進する」とされています。
新陳代謝を促進する。起業を経験し、今は起業を応援する立場として、私自身も起業を促進するためには、廃業も促進しなければならない、すなわち新陳代謝が必要だと強く感じています。
考えてみれば当たり前で、市場規模が大きくは増えない(人口が減っている国で市場規模を大きく増やすことは難しい)中で、起業は増える一方で廃業する事業がなければ、より競争が厳しくなることになります。競争自体はいいことですが、必要以上に競争が厳しければ、誰も利益を上げることができません。そして利益が上がらなければ、起業した方も長続きはしません。どう考えても事業に先行きはないけれど、とりあえず今の売上のために利益度外視で事業を続ける会社があれば、その市場に参入した起業家は利益を上げることができませんし、生き延びることもできません。逆に、将来のない事業が市場から撤退すれば、新たに起業した事業にチャンスが生まれ、そして起業した事業が新たな雇用を生み出します。
ただ、考えてみれば当たり前と言いつつも、廃業率を上げることを戦略として掲げるのは勇気のいることです。政治は往々にして、耳障りの良いことだけを前面に出し(例えば、社会福祉を充実させます)、一方で不都合な真実を隠してしまう(誰かがその福祉を負担しなければならない)。そういった中で、開業を促進するために、廃業を促進すると宣言したことは、本当に画期的なことです。もっとも、これが政策として実際に成果を生むところまではいっていません。現実問題として、円満な形で廃業を進めるためにも、社長個人による保証の負担を軽減する(個人保証のため、事業を辞めるに辞められない状態を解消する)、事業承継を容易にする、従業員の再雇用を容易にする(必要に応じて成長産業で働くためのスキルトレーニングを行う)など、乗り越えるべきカベは多く存在します。
それでも、廃業率が低く、新陳代謝が進まないことが問題としてはっきりと認識され、その解消に向けて動き出したことは、大きな大きな一歩です。期待をもって今後の推移を見守りたいと思います。