2021年11月26日

コロナ禍での税務調査

日経で「シェアリングエコノミーなど申告漏れ201億円 国税庁」という記事が掲載されましたが、これは国税庁が公表した「令和2事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」という資料に基づいたものです。この資料を見てみると、新型コロナウイルス禍によって、税務調査がどのような影響を受けたのかがはっきりわかり、なかなか興味深いです。

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まず端的にわかるのは、実地での税務調査の件数は減ったということ。今回の資料の対象期間は令和2事務年度(2020年7月〜2021年6月)となっていますが、一年前と比べて、実地調査は6万件から2.4万件と約6割減少しています。実地調査というのは、実地に臨場して行う調査ですから、接触そのものを避けなければならない環境下では例年よりも件数が減らざるを得なかったのかと思います。ただ一方で、納税者宅等に臨場することなく、文書、電話による連絡又は来署依頼による面接による「簡易な接触」の件数は、37.2万件から47.8万件に増加しています。実地調査がやりにくい分、簡易な接触を増やしたということでしょう。結果的に簡易な接触も含めた広義での税務調査の件数は43.1万件から50.2万件にむしろ増えています。

調査対象となった50.2万件のうち、申告漏れ等の非違があった件数は27.9万件。つまり率で言えば55.6%。結構な確率で何らかの問題は見つかるということですね。特に実地調査では2.4万件中2.1万件、率で言えば87.4%というかなりの確率です。

ちなみに、私も税務調査(実地調査)を受けたことがありますが、結果はお咎めなし。無事に「更生決定等をすべきと認められない旨の通知書」を受け取ったことを本ブログでお話ししています。ですので、一度実地調査が入れば、何らかの問題が見つかる可能性は高いものの、決して100%ではないことは私が身をもって証明しています(笑)。

今回の資料では、トピックスとして、富裕層に対する調査状況、海外投資等を行っている個人に対する調査状況、シェアリングエコノミー等新分野の経済活動に係る取引を行っている個人に対する調査状況、そして無申告者に対する調査状況を深掘りしています。要は税務署としてどの領域に特に目を光らせているか、ですね。海外投資等を行っている個人も含め富裕層というのはわかりやすいターゲットですし、そもそも申告すべきものを行っていない無申告者というのも同様です。その中で、シェアリングエコノミー等新分野の経済活動に係る取引を行っている個人について取り上げているのは注目に値するかと思います。

シェアリングエコノミー等というとわかりにくいですが、注記としてシェアリングビジネス・サービス、暗号資産(仮想通貨)取引、ネット広告(アフィリエイト等)、デジタルコンテンツ、ネット通販、ネットオークションその他新たな経済活動を総称した経済活動のこととされています。要はインターネットを介し、一般的には捕捉しにくい経済活動ということになります。

これらの領域については、重点的な税務調査の対象になり始めているということはこれまでも言われていましたが、今回の資料からも、税務署としてかなり本気で取り組んでいることがわかります。この領域での実地調査は1,071件、そのうち89.9%にあたる963件で申告漏れ等が指摘されています。一件当たりでは、申告漏れの所得金額は1,872万円、これに対して追徴税額は494万円だそうです。

一件当たりで1,872万円というと随分儲けているんだな、と思われるかもしれません。随分儲けている人だからこそ、実地調査を受けるんだろうとも思われるかもしれません。ただ、実はこれは一年分ではありません。私が調査を受けた時は3年分の所得に対する調査でしたし、一般的には5年程度の申告漏れは指摘されうるとされています。仮に3年分だとすると、一年600万円強ということになります。

これは(意図したかどうかは別として)申告漏れがあったとして、一年間何も言われなかったら安心していいという訳ではないということです。むしろ、怪しくても、何年間かは泳がせて、その後に税務調査に入るともいわれています。調査を行う立場からすると、一回の調査で一年分の申告漏れを指摘して終わりよりは、数年分の申告漏れを指摘した方が効率はいいですからね。

弥生をご利用の方はちゃんと申告をされている方ばかりなので、安心してこういった記事を書けますが(笑)、身に覚えがある方は、早めに自発的に申告されることをおススメします。
posted by 岡本浩一郎 at 18:17 | TrackBack(0) | 税金・法令

2021年11月17日

改正電子帳簿保存法の課題と解消の方向性

前回は来年一月に施行される改正電子帳簿保存法について強い懸念を抱いていること、それに対し直近で懸念を一部解消する動きがあったことをお話ししました。ここでの懸念は全事業者に影響があり、なおかつ来年1月には対応しなければならない、つまりあまりに時間がないことでした。この懸念については、国税庁のQ&Aによって、書面保存を継続しても直ちに青色申告の承認取り消しとはならないことが明確化され、一定程度解消されました。

しかし一方で、今回の改正電子帳簿保存法には、より本質的な課題もあります。それは、1) 全事業者に影響を与えるものの、ほとんどの事業者にとってメリットがないこと、そして2) データの移管の仕組みが整備されていないことです。これらはいずれも解消すべきですし、官民が協力すれば解消は可能だと考えています。

まず1)ですが、今回の改正電子帳簿保存法は、その大半が帳簿や証憑を電子的に保存したい事業者にとっての要件緩和であり、電子的保存を希望される方には明確なメリットがあります。しかし一方で、電子取引に関しては、これまで認められていた措置(電子取引の記録を紙に出力して保存すればいいとする措置)を廃止するものであり、これは全ての事業者に影響を与えます。しかもこの措置の廃止は何ら明確なメリットはありません。紙で出力しない代わりに保存すべきものとして想定されているデータは、PDFであったり、場合によって画面のスクリーンショットです。これらは構造化されたデータではない(画像のようなもの)ので、このデータを使って後続業務の自動化・効率化を実現することはできません。所詮紙の電子化に過ぎないということです。

本来は、売手は構造化されたデータを提供する、買手はそれを保存することにより、そのデータを経費精算や会計処理に直接的に活用できるようにすべきです。これによって、単なる紙の電子化ではなく、業務の効率化を実現できます。そういった意味では、今回の改正電子帳簿保存法は、買手に電子データとしての保存を義務付けている訳ですが、本来は、売手に構造化されたデジタルデータとしての提供を義務付ける(少なくとも促す)ことが先であるべきだと思います。

これは(画像ではなく)構造化されたデジタルデータとしての電子レシートの普及を図ることと同義です。2023年10月にはインボイス制度が導入されますが、この際の対象はいわゆるB2B取引だけではなく、B2C取引も含まれます。弥生はEIPA(電子インボイス推進協議会)の代表幹事として主にB2B取引で活用される適格請求書のデジタル化に取り組んでいますが、同時に、B2C取引で活用される簡易適格請求書(簡単に言えばインボイス制度の要件を満たしたレシート)のデジタル化も必要だと考えています。簡易適格請求書がデジタルで一般的に提供されるようになれば、買手としてそれを保存するだけではなく、その後の後続処理の効率化が実現できるはずです。

次に2)ですが、今回の改正電子帳簿保存法は一度電子的に保存したデータの移管を想定していません。結果として事業者の選択の余地を極端に狭めることになります。実務上は、当初は自社でファイルサーバーなどに保存していただけども、その後クラウドベースで保存するシステムを導入することも考えられ、その際には当然、自社で管理していたデータをクラウドのシステムに移管したいというニーズがあるはずです。あるいは、クラウドベースのシステムにしても、A社のシステムを利用し始めたものの、使い勝手が悪い、あるいはコストが高いなどの理由でB社のシステムに移行したい、その際にはA社で保存していたデータをB社のシステムに移管したいということもあるでしょう。

逆にデータから紙にせざるを得ないケースもあると考えています。具体的には事業を廃業する際です。事業を廃業するからといって、帳簿や証憑をすぐに廃棄していい訳ではありません。一般的には廃業後も7年間は保存しなければなりませんが、事業を廃業した以上、コストをかけてクラウド上に保管し続けることは現実的ではありません。このため、一定の条件下で、データを紙出力し、紙での保存を認める必要もあるのではないかと考えています。

これらのデータの移管については、今回の改正電子帳簿保存法で明示的に禁止されている訳ではありません。ただ、弥生から国税庁に問合せたところ、現時点では移管は原則として認められないという回答でした。もっとも、問題として捉えており、対応を考えているとのこと。

幸いにして1)にしても、2)にしても、解決できない課題ではありません。今回、直ちに青色申告の承認取り消しとはならないということが明確にされたことを活かし、官民連携で1)と2)の課題の解消を目指すべきだと考えています。1)と2)が解消されれば、事業者としても単に手間が増えるのではなく、デジタル化にとって業務効率化につながることになりますし、また、下手なシステムを導入してベンダーロックインに陥る懸念も解消されます。結果的に、事業者として安心して、むしろ積極的に対応しようとなるのではないでしょうか。
posted by 岡本浩一郎 at 23:01 | TrackBack(0) | 税金・法令

2021年11月15日

改正電子帳簿保存法

弥生は2023年10月に始まるインボイス制度に向けて、誰でもが容易に使える標準的な電子インボイスの仕組みを整備することにより、法令改正をむしろ業務効率化の機会にしようという取り組みを進めています。

一方で、実は来年1月にも全事業者に影響を与えうる法律が施行されることになっており、今のままでは事業者の対応が間に合わないと強く懸念していました。その法律とは、電子帳簿保存法(電帳法)です。電帳法とは、所得税法や消費税法といったメジャーどころと異なり、知る人ぞ知る法律かと思います。これは税務申告に必要な帳簿や証憑を電子的に保存したい場合に満たすべき要件を定めた法律であり、結果的に帳簿や証憑を電子的に保存したいという事業者のみに影響があるものでした。

しかし、実は来年1月に予定されている改正で、一部の事業者のみに影響があるものから、全ての事業者に影響が及びうるものとなっています。改正の多くは、電子的な保存の要件を緩和するものであり、その要件緩和を実際に活用するかどうかは事業者に委ねられています。しかし実は、改正のうち、電子取引に関する改正事項(具体的には適正な保存を担保する措置)に関しては、これまで認められていた措置(申告所得税及び法人税における電子取引の取引情報に係る電磁的記録について、その電磁的記録の出力書面等の保存をもってその電磁的記録の保存に代えることができる措置)を廃止するものであり、全ての事業者に影響を与えるものです。これまではとりあえず何でも紙で保存していれば万能だったわけですが、来年1月以降は電子取引に関しては紙での保存ではなく、電子データとして保存しなければならなくなります。

電帳法という知る人ぞ知る法律が、いつの間にか全事業者に影響を与えうるものになっていたわけです。しかもその改正が施行されるのは来年1月。弥生としても事業者の皆さまに告知すべく色々と準備を進めてきたものの、事業者の対応として来年1月は到底間に合わないと非常に強い危機感を持っていました。

今回、弥生PAPカンファレンス 2021秋において、多くの弥生PAP会員から改めて強い懸念を共有いただいたことから、弥生として問題意識を共有する3社(*)と共同し、10月から11月にかけて、財務省および国税庁に働きかけを実施しました。この結果、幸いにして、懸念を一部解消する進展が見られました。

11月12日(金)に国税庁より「電子帳簿保存法Q&A(一問一答)〜令和4年1月1日以後に保存等を開始する方〜」に関する「お問合せの多いご質問(令和3年11月)」(pdf)が公開され、この中で、以下のように記載されています。

補4 一問一答【電子取引関係】問 42
【補足説明】
電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存義務に関する今般の改正を契機として、電子データの一部を保存せずに書面を保存していた場合には、その事実をもって青色申告の承認が取り消され、税務調査においても経費として認められないことになるのではないかとの問合せがあります。
これらの取扱いについては、従来と同様に、例えば、その取引が正しく記帳されて申告にも反映されており、保存すべき取引情報の内容が書面を含む電子データ以外から確認できるような場合には、それ以外の特段の事由が無いにも関わらず、直ちに青色申告の承認が取り消されたり、金銭の支出がなかったものと判断されたりするものではありません。

誤解のないようにお話しすると、弥生が一回申し入れしただけで今回の対応が速やかになされたわけではありません。今回の電帳法改正は大部分が要件緩和であり、その中に一部義務化(措置の廃止)が含まれていたわけですが、財務省/国税庁としても要件緩和と義務化を同じ期間で施行させることに無理があったという認識を既にお持ちであったということかと思います。既にそういった問題認識をお持ちの中で、弥生ほかによる働きかけがあったことから、まずはQ&Aの形で速やかにご対応いただけたものと理解しています。

ひとまず事業者の皆さまが来年1月に向けて付け焼刃的かつ非合理的な対応を強いられる、もしくは、青色申告承認の取り消しの危機にさらされるということがなくなり、ほっとしています。ただ、電子化にとどまらず、業務の効率化につながるデジタル化は、本来着実に進められるべきものだと考えています。本来あるべき姿に向かって、弥生として引き続きフォローアップしています。

(*) ご賛同いただき、ご協力いただいたのは、SAPジャパン株式会社株式会社オービックビジネスコンサルタントピー・シー・エー株式会社の3社です。
posted by 岡本浩一郎 at 21:40 | TrackBack(0) | 税金・法令

2021年09月24日

何がインボイス(適格請求書)なのか(その2)

前回は納品書と合算請求書(月締請求書)それぞれについて、何をもってインボイスとなるのかについてお話ししました。納品書や請求書という名称自体は実は何の意味もありません。名称によらず、[1] インボイスに記載が必要な事項が満たされており、仕入税額控除の適用ができる、と同時に[2] 買手に支払いを求める文書である、ものがインボイスとなります。

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では、今度は前回と異なるパターンを見てみましょう。まずはこちら。これは前回の一つ目の例とほとんど同じです。名称は納品書。ただ、前回の例と異なるのは、前回は税額に関する記載がない(結果的に総請求額も記載されていない)のに対し、今回は税額に関する記載があり、総請求額も記載されているということです。

結果的にこの納品書は、インボイスに記載が必要な事項である、以下の6つを全て満たすことになります。

(1) 売手(適格請求書発行事業者)の名称および登録番号
(2) 取引年月日
(3) 取引内容(軽減税率の対象品目であればその旨を明示)
(4) 税率ごとに区分して合計した対価の額および適用税率
(5) 税率毎の消費税額
(6) 買手の名称

ですので、名称としては同じ納品書ですが、前回の例と異なり、今回の納品書はインボイスになりえます。インボイスです、と断定はせず、インボイスになりえます、というやや曖昧な言い方をしましたが、これはもう一つの条件である[2] 買手に支払いを求める文書であるかどうかで左右されます。名称としては納品書であっても、インボイスに記載が必要な情報が記載されており、この納品書をもって支払いを求めるという合意が売手と買手の間でなされていれば、これはインボイスになります。

いや、ちょっと待ってください。この納品書に対して、このような月単位でまとめた請求書が発行されていたらどうでしょうか。

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これは前回の二つ目の例と同じです。じゃあやっぱり、納品書は納品書であってインボイスではない、その代わりこの請求書がインボイスになるのでしょうか。

実は先ほどの納品書とこの請求書の組合せには問題があります。細かくはまた別途お話ししたいと思いますが、先ほどの納品書とこの請求書でそれぞれ税額の計算を行っているからです。インボイスでは、税率毎に端数処理は1回と決まっています。納品書と請求書でそれぞれ税額の計算を行うと税額に矛盾(一致しない)が発生しえます。前回の例では納品書では税額の計算を行っておらず、合算請求書でのみ税額の計算を行っていました。これであれば矛盾は発生しえないですし、端数処理は1回ですから問題はありません。

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今回の納品書の場合は、こんな「請求書」との組合せであれば問題ありません。

この「請求書」自体では税額の計算を行っていません。納品書で計算された税額を引用し、対象期間で集計しているだけです。ただ、このケースでは、この「請求書」はインボイスにはなりません。この場合は、納品書がインボイス([1] インボイスに記載が必要な事項が満たされており、仕入税額控除の適用ができる、と同時に[2] 買手に支払いを求める文書である)、逆にこの「請求書」は、名称こそ請求書であっても、実態としては支払案内という位置付けになります。一定期間の間にこれだけの納品があり、それぞれに対し納品書(兼請求書)で請求済みです。ただ、念のために、期間合計を再度送付しますので、お支払いの程お願いします、というものです。つまりこれまでにお話ししてきた月まとめ請求書であり、インボイスではないということになります。

インボイス = 請求書という定義自体は必ずしも誤っている訳ではないのですが、その判断は名称ではなく、記載されている中身で判断することになります。今一度自社が発行している納品書/請求書にどういった情報が記載されているのか、何がインボイスに該当するのか、考えておきたいところです。
posted by 岡本浩一郎 at 22:40 | TrackBack(0) | 税金・法令

2021年09月21日

何がインボイス(適格請求書)なのか(その1)

前回は、合算請求書(月締請求書)と支払案内(月まとめ請求書)の違いについてお話ししました。合算請求書がインボイスとなるのに対し、月まとめ請求の場合には、納品書がインボイスとなり、月まとめ「請求書」は実はインボイスではないということをお話ししました。月まとめ請求の場合には、月まとめ「請求書」は実はインボイスではない? 一体どういうことでしょうか。

インボイスというのは適格請求書の英語名称ですから、単純に考えれば、「請求書」という名前がついていればインボイス、そうでなければそれはインボイスではない、と判断しがちです。しかしそれは正しくありません。インボイスかどうかは、名称ではなく、どういった情報が記載されているか、また、その用途で決まります。

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まずは、一つ目の例を見てみましょう。B商事株式会社からA株式会社への9/15付けの納品書です。これは納品書であって、インボイスではありません。ただそれは納品書という名前だからではなく、インボイスに必要とされる記載事項が満たされていないからです。

インボイスに記載が必要な事項は、以下の通りです。

(1) 売手(適格請求書発行事業者)の名称および登録番号
(2) 取引年月日
(3) 取引内容(軽減税率の対象品目であればその旨を明示)
(4) 税率ごとに区分して合計した対価の額および適用税率
(5) 税率毎の消費税額
(6) 買手の名称

一つ目の例を見ていただくと、(1)/(2)/(3)/(4)/(6)については記載がありますが、(5) 税率毎の消費税額が記載されていません。ですからこの文書はインボイスとはなりませんし、この文書をもって仕入税額控除を適用することはできません。

この文書は、基本的に納品内容を買手に伝えるものであって、この文書をもって買手に支払いを求めるものではありません。支払いを求めるのであれば、消費税の額も記載し、その合計の支払いをしてもらわなければなりませんから。すなわち、この文書は、[1] インボイスに記載が必要な事項が満たされておらず、仕入税額控除の適用ができない、と同時に[2] 買手に支払いを求める文書ではない、から、インボイスではありません。

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次に二つ目の例を見てみましょう。これはB商事株式会社からA株式会社への9月分の納品に対する請求書です。9月中の複数の納品から1つの請求書が作成されていますから、従前からお話ししている合算請求書(月締請求書)です。この文書は、先ほどご説明したインボイスに記載が必要な事項が全て記載されています。先ほどはなかった(5) 税率毎の消費税額も右下に記載されていますね。

また、この文書は買手に支払いを求めるものです。消費税の額も記載されており、支払うべき金額が明確になっています。すなわち、この文書は、[1] インボイスに記載が必要な事項が満たされており、仕入税額控除の適用ができる、と同時に[2] 買手に支払いを求める文書である、から、インボイスとなります。

次回は月まとめ請求書について、なぜインボイスとならないのか、をお話しします。
posted by 岡本浩一郎 at 23:12 | TrackBack(0) | 税金・法令

2021年04月15日

最終日 2021

今日は4/15(木)、いよいよ確定申告期間の最終日です。確定申告がまだ終わっていないという方、ラストスパートですよ。毎年最終日には、提出方法についてお話ししていますが、今年からは、青色申告特別控除でプラス10万円の控除が得られることもあり、何と言っても電子申告がおススメです。弥生であれば、簡単に電子申告を行えるe-Taxモジュールもご利用いただけます。

ただ、電子申告を行うためには事前準備(マイナンバーカードの取得など)があり、残念ながら、今日思い立って、今日電子申告という訳にはいきません。となると、税務署への持参か、郵送。持参はわざわざ行かなければならない訳ですから、基本は郵送がおススメです。ただし、郵送は今日の消印である必要があります。

郵送をする際、以前は夜遅くでも大型の郵便局の時間外窓口(ゆうゆう窓口)に持ち込み、今日の消印となることを確認して送付することができたのですが、ゆうゆう窓口の営業時間が新型コロナウイルス禍の影響で短縮されており、注意が必要です。私の最寄りでいえば、横浜中央郵便局になるのですが、確認したところ平日で21時までの受付のようです。確定申告書ではないのですが、私が昨年ゆうゆう窓口で郵便を出そうとしたところ、当時は19時終了となっており、途方にくれた覚えがあります。この4月から一部の局で21時までとなったようですが、郵送を考えている方は、予め最寄りの郵便局の受付時間を確認しておきましょう

万が一郵送が間に合わなかった場合には、税務署の時間外収受箱に、夜中のうちに投函するというのが最終手段でしょうか。あくまで最終手段であり、大丈夫であることを約束できるものではありませんが。

なお、新型コロナウイルス禍による個別の事情がある場合には、申告・納付期限の延長が個別で認められるようです。感染症に感染した、又は感染症の患者に濃厚接触した事実がある場合はもちろんですが、感染症の患者に濃厚接触した疑いがあるため、保健所・医療機関・自治体等から外出自粛の要請を受けた場合にも、申請すれば延長が認められるようです。この際には、「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を提出する必要があります。

とは言え、よほどの事情がない限りは、期限である今日済ませたいところです。特に青色申告の場合には、折角のメリットである青色申告特別控除は期限内申告でないと認められません。ゴールは目の前。頑張ってください!

PS. 次回からは青色申告という方は、青色申告承認申請書もお忘れなく!
posted by 岡本浩一郎 at 13:37 | TrackBack(0) | 税金・法令

2021年03月23日

国民健康保険料の減免

延長後の確定申告期間も中間地点を過ぎ、そろそろ確定申告を終えた方も増えてきているのではないかと思います。申告を終えてホッとしているところだと思いますが、一点だけ3月中に確認しておいていただきたい点があります。それは、国民健康保険料の減免措置を受けられるかどうか。

日本では国民全員が何らかの健康保険に加入が義務付けられていますが、個人事業主の方は、原則として地方自治体が運営する国民健康保険に加入することになります(個人事業主となる前に企業で勤めていた場合には、一定期間企業で加入していた健康保険を任意継続することができるなど、例外もあります)。個人事業主にとって、国民健康保険料の負担はバカになりません。所得の金額(および居住している地方自治体)によりますが、所得税や住民税よりも負担が大きいということも珍しくありません。

その国民健康保険料について、新型コロナウイルス禍の影響で事業に大きな影響を受けた場合には、減免措置を受けられる可能性があります。

減免措置を受けるには、2020年(令和2年)分の事業収入等が2019年(令和1年)分と比べて30%以上減少することが見込まれることが基本的な条件となります。ただし2019年(令和1年)分の合計所得金額が1,000万円以下、かつ、減少することが見込まれる事業収入等以外の所得の合計額が400万円以下であることという条件もあります。

ご注意いただきたいのは、減少の判定対象は事業「収入」であること。税金の世界では「収入」と「所得」は全く別物です。ここでいう事業収入は基本的に売上です。例えば、売上は前年比70%(=30%減)、ただし経費の削減努力をしたので、所得(=利益)は前年比90%(=10%減)という場合、国民健康保険料の減免判定対象はあくまでも収入ですから、減免の対象になりうるということになります(一方で、上記の「ただし」以降の合計所得金額が1,000万円以下、かつ…というのは「所得」が判定対象となっています。紛らわしいですが)。

もう一点注意が必要なのは、減少の判定対象である事業収入において、「新型コロナウイルス感染症の影響により、国や都道府県等から支給される各種給付金は収入に含みません」ということ。以前、持続化給付金は雑収入として所得税の課税対象となるとお話ししました。しかし、例えば、昨年新型コロナウイルス感染症の影響により、売上が前年対比で50%以下となる月があり、100万円の持続化給付金を受け取った。年間での売上が前年比70%、ただ持続化給付金を加えると前年比90%となるという場合には、国民健康保険料の減免判定は持続化給付金を除いて判断しますから、減免の対象となりうるということです。

国民健康保険料の減免措置については、各地方自治体で情報を発信しています(例えばこちらは大阪市)。ただ、情報は発信しているものの、減免は自動的に行われる訳ではなく自分から申請が必要です。この申請期間がこの3月末で終了します。一度減免対象と判断されれば、2020年(令和2年)2月相当分からこの3月相当分までの保険料が減免対象となり、既に納付した分は減免決定後に還付されます。

今回確定申告が終わったということは、2020年分の事業収入額は既に確定しているということ。2020年分の事業収入(上でお話しした通り、持続化給付金等の各種給付金の金額は除く)と2019年分の額を比較していただき、30%以上のマイナスとなっている場合には、お住まいの地方自治体(国民健康保険の担当窓口)に減免について問い合わせてみることをお勧めします。
posted by 岡本浩一郎 at 21:26 | TrackBack(0) | 税金・法令

2021年03月15日

添付書類

今日は3/15。本来の確定申告の期限日となります。ただ、既にご承知のように、今年は新型コロナウイルス禍を鑑み、申告期限は4/15(木)に延長されています。もっとも、延長されたからといって当面放置してしまうと、あっという間に延長後の期限が到来してしまいます。あと一ヶ月ある、ではなく、もうそろそろ終えないと、と考えたいところです。

ということで、今回は添付書類について。確定申告の際には確定申告書に加えて、事業所得であれば青色申告決算書(青色申告)もしくは収支内訳書(白色申告)を提出する必要があります。この他に、所得や控除について申告内容に間違いがないことを証明するための一定の添付書類が必要となります。

特に初めて事業所得の申告をされる方にはあるあるな誤解ですが、作成した帳簿やそのもととなった領収書等を提出する必要はありません。その代わり基本的に7年間の保管が義務付けられています。これらは、電子帳簿保存の申請をしていない限り、紙での保管が義務付けられていますので、申告が終わったら、帳簿は紙として出力して保管するようにしましょう。

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その他所得に関係する添付書類については、平成31年度税制改正で大幅に簡素化され、例えば給与所得の源泉徴収票については、電子申告でも紙での申告でも添付・提示が不要となりました。所得関連については、支払っている側から情報を収集しているので、受け取った側からの証明は必要ないということなんでしょうね。

一方、控除関係の添付書類ですが、こちらは電子申告か紙での申告かによって大きく変わってきます。電子申告の場合、生命保険料控除証明書など主要な添付書類の添付・提示が不要となっています。ただ、省略可能という位置付けなので、別途郵送という形で添付することも可能です。添付・提示を省略した場合、法定申告期限から5年間保管する必要があります(その間は、税務署等からこれらの書類の提示又は提出を求められることがあります)。

これに対して、紙での申告の場合には、添付書類を申告書に添付して提出、もしくは税務署で提出する際に提示する必要があります。添付して提出してしまえば、以降保管の義務はありません。

一点だけ注意が必要なのが、医療費の領収書。2017年分から制度が変わり、現在では、領収書にかわって医療費控除の明細書を作成し、提出するようになっています。逆に領収書を添付することが不要、というよりはできなくなったので、医療費控除を受ける場合には、領収書を法定申告期限から5年間保管することが必要になりました。

私自身の確定申告は2/28(日)に電子申告で済ませました(ホッ)。先週末の3/13(土)には還付金の処理が済んだというお知らせがあり、今週中には還付金が着金する模様です。やはり電子申告だと処理が早いですね。電子申告ということで、添付書類を省略することも可能だったのですが、個人的には手元で保管はしたくないので、出せるものは出してしまう主義。先週末に税務署に郵送しました。ただし、医療費に関しては、提出するという選択肢がなくなったため、これだけはしぶしぶ手元で5年間保管することにします。
posted by 岡本浩一郎 at 19:28 | TrackBack(0) | 税金・法令

2021年03月09日

新型コロナ禍と経費/控除

前回は、持続化給付金など事業者に対する給付金は課税対象となること、一方で、個人に対して支給された特別定額給付金は非課税であることをお話ししました。この他収入面で注意が必要なのは、GoToキャンペーンの扱いでしょうか。GoToトラベルやGoToイートなどのGoToキャンペーンによる割引額は一時所得の対象となります。ただし、一時所得には50万円の特別控除額がありますので、50万円を超えなければ一時所得は発生しません。とは言え、ふるさと納税の返礼品も一時所得になりますし、昨年から今年にかけて実施されているマイナポイントも一時所得。あくまでもレアケースだと思いますが、これらが合計で50万円を超えるようであれば、一時所得として申告が必要です。

逆に支出面では、今や必需品となったマスクや消毒液などはどうでしょうか。これらは基本的には(前回お話しした)「事業者」としてのお財布ではなくて、「個人」としてのお財布から出たものとなります。つまり基本的には事業上の経費にはなりません。ただし、例えばイベントなどで参加者用のマスクや消毒液を用意したなど、明らかに事業上の用途と説明できるものであれば、経費になります。

PCR検査を自費で受けたという方もいらっしゃるかもしれませんが、これも基本的には「事業者」のお財布ではなく、「個人」としてのお財布になります。ただ、ビジネス上の会議に参加する際にPCR検査を求められたといったような明らかな事業上の必要性があったのであれば、経費になりえるでしょう(最終的には個別判断です)。

一般的な医療費は、「個人」のお財布から出たことになりますが、確定申告時には、医療費控除の対象となります。では、マスクやPCR検査は医療費控除の対象になるのでしょうか。まずマスクは、残念ながら、医療費控除の対象にはなりません。これはマスクは病気の治療のためでなく、病気の感染予防のためだからです。薬局で買った風邪薬は治療のためですから医療費控除の対象になりますが、健康維持を目的とするビタミン剤は医療費控除の対象にならないのと同じ理屈ですね。

自分の判断で受けたPCR検査についても基本的には医療費控除の対象にはなりません。ただし、PCR検査の結果、「陽性」であることが判明し、引き続き治療を行った場合には、その検査は、治療に先立って行われる診察と同様に考えることができるため、その場合の検査費用については、医療費控除の対象となります。これは基本的に控除対象とならないが、検診の結果、重大な疾病が発見され、引き続きその疾病の治療を行った場合には、対象となるという人間ドックと同じ考え方です。

こちら国税庁のFAQスモビバの記事も参考にしてくださいね。
posted by 岡本浩一郎 at 19:17 | TrackBack(0) | 税金・法令

2021年03月05日

給付金と確定申告

昨年は新型コロナウイルス禍により大きな影響を受け、結果的に、事業所得(売上マイナス経費)が赤字、つまり損失という方が例年より多いものと思われます。こういった場合に、損失でも確定申告をすべきかどうかについてお話ししてきました。結論から言えば、どんな場合であれ、申告はしておくべき。特に青色申告には損失の繰越(+損失の繰戻し)というメリットがあるため、必ず申告しましょう。

さて、では申告しなければと考えると、例年とは異なる収入や支出があり、これはどうするんだろうと迷われることも多いのではないかと思います。例えば、売上減少等の一定の要件を満たした場合に最大200万円(個人事業主は100万円)を限度に給付された「持続化給付金」。実はこれは所得税の課税対象となります(個人事業主の場合、法人であれば法人税)。

え、こんな苦しい時期だから給付されたのに、それが課税対象になるの?と違和感を感じるかもしれません。ただ、これは持続化給付金の額に直接所得税の税率をかけるわけではありません。あくまでも黒字の額に所得税の税率をかけることになります。ですから、持続化給付金を受け取っても、経費の方が大きく、結果的に赤字になるのであれば、納税することにはなりません。つまり赤字を多少なりとも補填するための持続化給金であって、逆に黒字になるのであれば、その分は所得税率をかけて納税してください、ということです。

事業者の事業継続を支援するための給付金としては、この他に家賃支援給付金ですとか、地方自治体による休業・時短要請協力金がありますが、これらはすべて同様に所得税の課税対象となります。これらを記帳する際には、消費税不課税の雑収入として仕訳します

名称はやはり給付金ですが、日本の住民基本台帳に記録されている人に対し、1人につき10万円給付された「特別定額給付金」。こちらは扱いが異なります。というのは、特別定額給付金は事業者ではなく、個人に給付されたものです。個人事業主は「事業者」としてのお財布と、「個人」としてのお財布、二つのお財布を持っています。事業の売上や経費は事業者としてのお財布。上記の持続化給付金も事業上受けた支援ですから、事業者としてのお財布に属することになります。これに対して、特別定額給付金は個人としてのお財布に属するということです。

仮に事業で使用している銀行口座に入金された場合には、事業主借(個人である事業主から事業の口座に10万円を借りた)として仕訳します

一方で個人で受け取っても所得は所得だから課税対象になるのでは、と思うかもしれませんが、特別定額給付金は「法律により非課税になりますので、課税されません」とされています。ですので、個人のお財布ではありますが、課税対象にならない特別なお財布に直接入ったと考えればいいかと思います。名称通り、それだけ「特別」なものなのです。課税対象になりませんので、確定申告上どこにも出てこない金額となります。
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2021年03月03日

繰越か繰戻しか

前回は、青色申告で認められている損失の繰越についてお話ししました。残念ながら昨年(今回の申告)が損失となった場合には、その損失を繰り越し、翌年以降3年間の所得と相殺することができます。これは青色申告ならではの特典ですから、是非活用すべきものです。ただし、実際に未来の所得と相殺され、節税となるのは早くても一年後となります。

実は、損失が発生した際にもっと早く節税につなげる方法があります。それは損失の繰戻し還付という制度。損失の繰越はこれから発生する所得と相殺する仕組みですが、損失の繰戻し還付は過去の所得と相殺する仕組みです。

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左の図は、前回お話しした損失の繰越ですが、今回の損失を翌年以降3年間の所得と相殺します。一方、損失の繰戻し還付は右の図のように過去の所得と相殺します。仮に今回の申告で300万円の損失となり、一方で前回は300万円の所得を申告していたとすると、繰戻し還付では前回の300万円の所得と今回の300万円の損失が相殺されます。結果的に前回の申告での課税所得が0円であったとされ、既に納付していた所得税が還付されることになります。

ご存じの方も多いと思いますが、お金の時間的価値をふまえれば、今の100万円と1年後の100万円では同じ100万円でも今の100万円の価値の方が高いとされます。これだけ低金利の時代にはピンと来ないところがありますが、仮に今100万円を返済しなければならないとなると、今の100万円はその役に立っても、1年後の100万円では役に立ちません。

この時間的価値を考えると、損失の繰越か、損失の繰戻しか、その優劣は明確です。もちろん、より早く節税を実現できる(キャッシュを確保できる)繰戻しの方が有利です。

しかし実際問題としては、損失の繰越は一般的に行われていますが、損失の繰戻しはそこまで一般的ではありません。損失の繰戻しのためには、確定申告書とあわせ、「純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求書」を提出するのですが、この請求を受けた際には、税務署でその内容を調査して還付を決めることになっており、これがこの手続きが敬遠される要因になっているようです。

税務署による調査といっても、いわゆる税務調査が必ずしも行われる訳ではありません。還付請求に関する問い合わせがあったとしても、税務署内での机上調査で終わることもあるようです。それでも、何ら後ろめたいところがなくても、「調査」と聞いただけで敬遠したくなるのも理解できます。

そういった意味では、一般的なのはやはり前回お話しした損失の繰越。ただし、本当に足元で資金繰りが切迫しているとすると、今日お話しした損失の繰戻し還付も有効な選択肢です。損失の繰戻し還付について詳細はこちらのスモビバ記事をご参照ください。
posted by 岡本浩一郎 at 22:52 | TrackBack(0) | 税金・法令

2021年03月01日

損失の繰越

3月になりました。例年であれば確定申告も折り返し地点です。自分自身の申告の下準備はしていたものの、なかなか申告を済ませる時間がなかったのですが、先週末ようやく申告を済ませました(もちろんマイナンバーカードを使って電子申告)。今年は期限が一ヶ月延長され、まだ時間的な余裕があるとはいえ、やはりやらなければならないことを積み残しているのは気分がよくないもの。申告が済んでようやくすっきりです。

今年は期限が一か月間延長されて良かったなと思うのは、本ブログで確定申告についてお話しする機会が増えたこと。毎年お話ししたいことは山ほどあるのですが、全部お話しする前に申告期間が終わってしまい、お話ししきれていません。今回は例年よりも少し時間をかけて確定申告にまつわる話題をお話ししたいと思っています(とはいえ、申告の準備を待っていただく必要はないので、どんどんと進めてくださいね)。

前回は、損失、つまり、事業所得(売上マイナス経費)が赤字となった場合に、申告すべきかどうかということをお話ししました。どんな場合であれ、申告はしておいた方がいいというのが結論です。

損失でも申告をすることのメリットがはっきりしているのは、青色申告。前回もお話ししたように、青色申告の場合には、今回の損失を翌年以降に繰り越し、翌年以降3年間の所得と相殺することができます。

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例えば、今回(昨年分)の事業所得が残念ながらマイナス300万円の損失だったとしましょう。この場合、当然今回は納税は発生しません(事業所得以外はない想定)。これに対し、次回(今年分)の事業所得が100万円だったとします。図の左側、白色申告の場合は、この事業所得100万円が全額課税対象となります。つまり今回発生した300万円の損失は無視されます。これに対し、図の右側、青色申告の場合には、次回の事業所得100万円は今回の損失300万円の一部(100万円)と相殺され、課税所得はゼロになります。

さらに翌年以降、所得が150万円、300万円と増えた場合も、白色申告(左)はそれらがそのまま課税所得になるのに対し、青色申告(右)は今回の損失300万円が相殺されきるまで(ただし最大3年間)課税所得が発生しません。結果的に、次回以降3年間で合計550万円の事業所得があった場合、白色申告では、今回の損失が一切考慮されずそのまま550万円が合計の課税所得になりますが、青色申告の場合、今回の損失300万円が相殺対象となるため、3年間合計の課税所得は550万円-300万円の250万円で済みます。当然のことながら、3年間合計で納めなければならない所得税額には大きな差がつきます。

事業はお客さまに価値を提供し、その対価として利益を上げるために行うもの。ただ、昨年のように新型コロナウイルス禍によって事業環境が激変し、残念ながら利益を上げるどころか、損失で終わる年も発生します。その際に、その損失を翌年以降に繰り越し、しっかりと節税できるのが青色申告の大きなメリットです。

事業の立上げ期においても、顧客基盤が出来上がる前は残念ながら損失となることもあるでしょう。青色申告を選ばない理由として「まだ儲かっていないから」というのは比較的よくある理由なのですが、実際問題としてそれは誤解です。儲かっていないからこそ、最初から計画的に行うべきなのが青色申告なのです。

なお、青色申告で損失を繰り越す際に必要となるのが確定申告書の第四表という帳票です。もちろん、当然のことながら、弥生ではクラウド(やよいの青色申告 オンライン)でもデスクトップ(やよいの青色申告 21)でもこの第四表に対応しています。ただ、弥生以外ではこの第四表に対応していないソフトもあるので注意が必要です。
posted by 岡本浩一郎 at 21:44 | TrackBack(0) | 税金・法令

2021年02月26日

申告の要否

今回の確定申告は2020年分。昨年1月から12月までの所得を申告する必要があります。昨年は新型コロナウイルス禍により大きな影響を受けた事業者の方も少なくないのではないかと思います。結果的に、昨年は事業所得(売上マイナス経費)が赤字、つまり損失という方も例年より多いものと思われます。

前回、「継続的に儲けるつもりで、儲ける一定の確からしさがある場合は事業所得」とお話ししました。逆に、「儲かったらラッキーぐらいのつもりの場合は、雑所得の業務」とも。今回の申告で損失になった、つまり儲けていないから、事業所得として認められないのではないか、と心配されるかもしれませんが、その心配はご無用です。前回、事業所得とは「自己の計算と危険において…」という最高裁の判例もご紹介しましたが、危険・リスクがあるのも事業所得ならでは。万年赤字ではさすがに儲けるつもりがあるのか、儲ける一定の確からしさがあるのか、となってしまいますが、通常は黒字だけど何らかの理由で今年は赤字ということは事業所得として想定の範囲内です。ましてや昨年は誰にとっても経験したことのない一年でしたから、赤字になることも無理はありません。

ところで、確定申告は所得がある人が申告をするものですから、所得がない、つまり損失となった場合には申告をしなくてもいいのではないか、と思われるかもしれません。

これはイエスといえば、イエス、一方でノーと言えばノー。申告をしないことも可能だが、基本的には申告した方がいいというのが答えになります。

雑所得と異なり、事業所得の場合には、他の所得(給与所得など)との損益の通算ができますから、事業所得がマイナスであれば、それを給与所得と共に申告すれば、給与所得にかかった部分の税金を減らすことができます。

他の所得がない場合にも、青色申告の場合には、今回の損失を翌年以降に繰り越し、翌年以降の所得と相殺することができます。これは青色申告の大きなメリット。ですから、青色申告の場合には、損失でも必ず申告すべきです。

では、白色申告で、なおかつ他の所得もない場合には? この場合も基本的には申告はしておいた方がいいようです。というのも、申告をしなかったら、自動的に所得がゼロ(マイナス)と認められる訳ではないからです。児童手当の申請や保育園の入園申請などで、所得の証明が求められることがありますが、申告をしていないと、これが出ないことがあります。実際に、千代田区では、住民税の証明書の交付を受けられるのは、「税務署に確定申告を、または千代田区に住民税の申告をされた方」とされています

つまり、所得がゼロ(マイナス)であるということを国だけでなく、地方自治体にも明確に伝え、その後に不利益が発生しないようにするために、確定申告をしておくことが望ましいということです。一例として、東かがわ市では「申告がない場合は『未申告』となり(税の被扶養者は除く)、国民健康保険税の軽減措置を受けることができなかったり、所得課税証明書の発行ができません」とされています(pdf)。なお、国に対する確定申告はせずに、地方自治体に直接住民税に関する申告をするということも可能ですが、確定申告をしたことがある方であれば、確定申告で済ませた方が簡単なのではないでしょうか。
posted by 岡本浩一郎 at 22:25 | TrackBack(0) | 税金・法令

2021年02月24日

事業所得か雑所得(業務)か

前回、雑所得の中に業務という区分を新設されたということをお話ししました。このいわば「業務所得」と事業所得、非常に紛らわしいですね。

前回お話ししたように、国税庁の説明では、雑所得とは事業所得等、他の所得のいずれにも当たらない所得とされており、その中で、業務に係るものに該当するものとしては、「副業に係る所得(原稿料やシェアリングエコノミーに係る所得など)」と説明されています

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実際問題として、事業所得なのか、あるいはそれに該当せず雑所得(業務)となるのかの線引きはグレーな部分があります。一方で、明確なのは、事業所得の方が確実に有利であること。事業所得にせよ、雑所得(業務)にせよ、課税対象は売上マイナス経費と、経費を差し引けるのは共通ですが、事業所得の場合は、青色申告が認められており、結果的に最大65万円の青色申告特別控除が得られること、また、仮に事業所得で損失が発生した場合には、その損失を例えば給与所得から差し引くことができる(損益通算)など、明確なメリットが存在します。逆に雑所得は、青色申告特別控除的なものは存在しませんし、雑所得が損失になっても、他の所得と相殺することはできません。

このように事業所得の方が明らかに有利ですが、では事業の開業届を出せば自動的に事業所得として認められるかというとそうではありません。事業所得であるかどうかは、社会通念上、事業を営んでいると認められるかどうかという実態で判断されます。この点については、判断基準となっている最高裁の判例があり、「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」とされています。つまり営利性と継続性が必要であり、その結果として社会通念上、事業を営んでいると認められるかどうかということです。

そもそも儲ける気がなければ、事業所得として認められません。それはそうですよね。儲けることを目的とせずに、損失を他の所得から差し引くことが目的になっていれば、それは脱税です。

逆に、雑所得(業務)の説明として、副業に係る所得とされていますが、副業だから事業所得にならないという訳でもありません。そもそも何をもって副業とするのか。例えば、週3日会社で働き、週2日はフリーランスとして働くことは今後着実に増えていくかと思いますが、この場合もフリーランスの報酬はここでいう副業に係る所得になるのでしょうか。仮に、会社からの給料とフリーランスの報酬が5:5だったら? これもなかなか曖昧ですよね。結論から言えば、本業よりかける時間が少ない、あるいは得られる所得が少ないという意味での副業であっても、上記のように営利性、継続性があり、社会通念上、事業とみなせるレベルであれば、事業所得になりえます。

ということで、整理をすると、

継続的に儲けるつもりで、儲ける一定の確からしさがある場合は事業所得
  • 開業届は出しておくべき、ただ、開業届が出ているから自動的に事業所得になるわけではない
  • 副業でも、一定の規模があり、継続性営利性があれば事業所得になりうる
  • 一方で、恒常的に赤字だったら、継続性営利性が認められないので雑所得

儲かったらラッキーぐらいのつもりの場合は、雑所得の業務
  • 事業所得に該当しない場合は雑所得
  • ちょっと小遣い稼ぎの副業は、規模の観点でも、継続性営利性の観点でも事業所得として認められない

ただ、この境界線ははっきりした白黒ではありません。そのため、どちらに該当するか迷う場合には、税務署もしくは税理士に相談すべきかと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 20:36 | TrackBack(0) | 税金・法令

2021年02月19日

業務所得?

前回は確定申告書から性別の記入欄がなくなったこと、一方で(今のところ)押印欄が残っていることをお話ししました。また、それ以外にも多くの変更が発生していることは以前にもお話ししました

性別の記入欄がなくなったことはまさに時代を反映したものだと思いますが、同様に時代を反映している、なおかつ、同時に国税庁の意思も反映しているように思えるのが、今回新しく登場した「業務所得」です。

業務所得って、事業所得とどう違うの、と思われるかもしれません。非常に紛らわしいですよね。正確に言えば、業務所得という所得が新設されたのではなく、これまでにも存在した「雑所得」に「業務に係るもの」という新しい区分が新設されました。これを受けて、今回の申告書では、雑所得が公的年金等とその他の2区分から、公的年金等、業務、その他の3区分になっています。

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国税庁の定義では、雑所得とは「利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも当たらない所得」とされています。この中で、業務に係るものに該当するものとしては、「副業に係る所得(原稿料やシェアリングエコノミーに係る所得など)」と説明されています。

新型コロナウイルス禍の中で、Uber Eats等の食べ物デリバリーを頻繁に見るようになりましたが、それ以前からいわゆるギグエコノミーで収入を得ている人が増えている、さらにそれ以前から、ネットオークション等で収入を得ている人が増えていると言われており、これに対し、国税庁として、ちゃんと申告してくださいという注意喚起がなされてきました。

今回の雑所得の中に業務という区分を新設したことは、今後こういった収入をしっかり見ていきますよ、という国税庁の強い意志を感じるのは私だけでしょうか。

なお、上記でネットオークションで収入を得ているというのは、売ることを目的に仕入れており、それをネットオークションで販売した場合です(いわゆる転売ヤーということになるでしょうか)。同じネットオークションでも、古着や家財など、もともと生活用物品として利用していたものの売却は非課税とされています(そもそもこれらは普通買った値段より安く売るわけですから、利益も出ませんしね)。
posted by 岡本浩一郎 at 22:42 | TrackBack(0) | 税金・法令

2021年02月17日

申告書と時代

いよいよ昨日から確定申告が始まりました。今回の確定申告書は様式が大幅に変更されていることは以前お話ししました。例年何らかの変更はあるのですが、それらをマイナーアップデートだとすると、今回は間違いなくメジャーアップデート。

実は今回、申告書の意外な部分が変わっています。それも時代を反映する形で。

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上が昨年までの確定申告書のうち住所・氏名などの基本情報を入力する欄です。下が今回(令和2年分)。サイズが変わったり、場所が変わったりと一見結構変わっていますが、実は項目レベルで変わった(なくなった)のは一つだけです。どれだかわかりますか?

正解は性別の記入欄です。昨年までは男もしくは女をマルで囲う欄がありましたが、今回からはそれがなくなっています。昨今は、そもそも男もしくは女という二者択一ではないという理解が広がりつつありますし、また、男はこうだ(こうであるべし)、女はこうだ(こうであるべし)というのもステレオタイプであり、不適切であるというのが浸透しつつあります。不適切な発言で、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の委員長が辞任したのも記憶に新しいところ。

そんな時代ではあっても、様々な書類にごく当たり前に性別の記入欄があります。でも、本当にそれが情報として活用されているのか、あるいは活用されるべきなのか。そういった中で、今回確定申告書から性別欄が消えたことは、地味だけれども、実は大きなステップなのではないかと思います。

もっとも、実は細かく言えば確定申告書には性別を記入する意味があると言えばあります。性別によって控除に差が出るケースがあるからです。寡婦(寡夫)控除が見直しされてひとり親控除になったことは以前お話ししましたが、実はひとり親控除には該当しない場合でも、女性にだけ認められる寡婦控除は残っています。ただ、これに関して言えば、控除の方を見直すべきなのではないかと思いますが。

今回時代を反映してなくなったのが性別欄ですが、逆に残念ながら今回は時代を反映しなかったものもあります。それは何かというと…、押印欄です。

菅政権の発足以降、押印の必要性が急速に見直されるようになったことは非常に意味のあることだと考えています。ただ、今回の確定申告書の様式には見直しが間に合わなかったようで、今回の様式にはしっかり押印欄が残っています。

一方で、昨年12月に、「提出者等の押印をしなければならないこととされている税務関係書類について、次に掲げる税務関係書類を除き、押印を要しないこととする」という方針が示されており、この方針に従えば、今回の確定申告では押印しなくても「改めて求めないこと」となるはずです。

もっとも、税務署によっては今年は押印してほしいというところもあるようで、現時点では上記の方針は完全に徹底はされていないようです。とはいえ、これも以前にお話ししたことですが、今回の申告から、電子申告をすることによって税金が優遇されますから、書面前提で押印するかどうか悩むよりも、電子申告でサクッと済ませ、税金の優遇もゲットしたいところです。
posted by 岡本浩一郎 at 22:50 | TrackBack(0) | 税金・法令

2021年02月15日

総額表示の復活

いよいよ明日から確定申告が始まります。本ブログでも今年変わった点、気を付けるべき点を中心に集中的にお話ししたいと思いますが、その前に確定申告とは無関係ですが、実は影響が大きい法令改正についてお話ししておきたいと思います。

それは消費税の総額表示義務の復活。消費税導入の当初は、消費者に対する価格表示について、税抜とするのか、税込とするのか、決まりはありませんでした。しかし、税抜で表示しているお店と税込で表示しているお店での価格の比較が難しい、また、買う際に実際問題いくら払うかがわかりにくい(100円玉を握りしめた子どもがレジで110円といわれて呆然ということもありますよね)という問題意識から、2004年から、消費者に対する価格表示を消費税額を含めた総額での表示とすることが義務付けられました。

一方で、2013年10月からは、一定の条件付きですが、総額表示を義務付けないとする特例が認められました。2013年10月というと、2014年4月の半年前。そう、消費税率が5%から8%に、実に17年ぶりに引上げられようとするタイミングです。この特例が認められた背景としては、税率が引上げとなる前後で、総額表示を一気に切り替えるのが難しいということです。例えば、1,050円(税込)、2,100円(税込)、3,150円(税込)といった商品があるとして、2014/3/31から2014/4/1の一晩で、1,080円、2,160円、3,240円と価格表示を切り替えるのは現実的ではありません。そこで一定期間は、1,000円+消費税、2,000円(税抜)、3,000円(本体価格)といったような税抜価格での表示を特例として認めることになりました。

この特例措置はもともと2018年9月末までと定められていましたが、その後、消費税率の10%への引上げが2回に渡って延期されたことを受け、特例措置の終了も延長されていました。延長後の期限が2021年3月31日。そうです、この3月末です。消費税率10%への引上げが2019年10月に実施され、その先さらなる消費税率の見直しは今のところ予定されていないことから、特例措置を終了し、本来の総額表示に戻すわけです。

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総額表示ということで、2021年4月以降は、

10,780円
10,780円(税込)
10,780円(税抜価格9,800円)
10,780円(うち消費税額等980円)
10,780円(税抜価格9,800円、消費税額等980円)

といったような価格表示とする必要があります。

なお、総額表示の義務は、「消費者に対して、商品の販売、役務の提供などを行う場合」、つまりいわゆる小売取引が対象です。ですから、事業者間でやり取りする見積書や契約書などにはこの義務は課されません。また、小売取引において、不特定かつ多数の者に対する値札や店内掲示、チラシあるいは商品カタログにおいて、「あらかじめ」価格を表示する場合を対象に求められるものですから、そもそも価格表示がされていない場合や、口頭での価格の表示も対象外となります。

ちなみにこの総額表示義務は消費税法上の罰則はないそうです。新型コロナウイルス禍の影響もあり、4月からいきなり義務違反と指摘されることもないのだと思いますが、それでも法令上定められた義務ですから、しっかり対応はしておきたいところです。こちらの国税庁のページ財務省が用意したよくある質問も参考にしてください。
posted by 岡本浩一郎 at 17:40 | TrackBack(0) | 税金・法令

2021年02月03日

今年も申告期限延長

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昨日、事前報道の通り、今年の確定申告についても期限が延長されることが正式に発表されました(pdf)。所得税については、もともとの申告期限が3月15日(月)であったものが、一ヶ月間延長され、4月15日(木)となります。もっとも、これは昨年も書いたことですが、延長されたからといってああよかったと当面放置とするのではなく、心の余裕は持ちつつも早めに済ませてしまいたいところです。

ただ、今回申告期限が延長されたことは、新型コロナウイルス禍を鑑みてという趣旨とは別なところでも、良かったと感じています。一つには、これでマイナンバーカードが間に合う方が増えるであろうこと、そしてもう一つには今年の確定申告に向けた動きは例年と比べて明らかに早く、そして大きい中で、負荷が分散されうることです。

前回、今年の確定申告から電子申告をすることによって青色申告特別控除が10万円優遇されるということをお話ししました。昨年も電子申告をされていたという場合にはいいのですが、今年から青色申告特別控除の優遇を得るために電子申告をされるという方も多いのではないかと思います。しかし、電子申告のために今からマイナンバーカードを取得しようとすると、もはや間に合わないというケースが続出するところでした。

マイナンバーカードは、申請から交付の通知まで概ね一ヶ月程度かかるとされています(私の場合も年末年始をはさんで一ヶ月ちょっとでした)。しかし昨年からマイナンバーカードを取得する方が増える中で、この所要期間が伸びているようです。もともとの概ね一ヶ月程度というのも、地方自治体によって異なるのですが、現時点での所要期間も自治体によって様々なようで、場合によっては2〜3ヶ月程度かかるケースもあるようです。実際にマイナンバーカードを使えるようになるには、交付の通知を受けて、実際に交付を受けに行く(そのために予約が必要ということも)という時間もかかりますから、今日申請したとしても、もはや3月15日には間に合わないケースが多いのではないかと思います。

これが4月15日となれば、今から申請しても間に合うケースも増えるのではないかと思います。ただ、実際にどれぐらいの期間が必要かは上でお話ししたように自治体によって様々ですので、取り急ぎ申請はしつつ(←これ重要)も、間に合いそうかどうかは、自治体に問い合わせてみるとよいでしょう。

もう一つの、今年の確定申告に向けた動きが例年と比べて明らかに早く、そして大きいということですが、長年確定申告のお手伝いをしてきている弥生だからこそ感じることです。まずは、ソフトウェアの販売が非常に好調であること。これはクラウド、デスクトップ共通の傾向です。今年こそはソフトを使って、サクッと電子申告して控除額を満額ゲットするぞ、という方が多いのではないかと思います。

また、カスタマーセンターへのお問合せも例年より早く、また、その数も例年を上回っています。正月明けに移転した札幌カスタマーセンターに行ったことをお話ししましたが、正月明け早々から確定申告に関するお問合せが多かったことが印象的でした。例年、年明けの第一営業日はまだまだお問合せが少ないのですが、今年に関しては、年末年始で準備を始め、弥生のカスタマセンターが営業を開始するやいなや疑問点をお問合せされるお客さまが多かったのではないかと思います。それ以降も、やはり例年と比べ、確定申告に関するお問合せが多い状況です。例年、確定申告期間が見えてきた2月からお問合せが増え、3月の半ばまでにお問合せが集中するのですが、今年に関しては1月から繁忙期に入ったと見ています。

膨大な数のお問合せに対応すべく、当然この時期は体制を強化している訳ですが、3月15日までの短期決戦よりは、4月15日までとなった方がお問合せの総数は増えても一日当たりでみれば分散はされるでしょうから、対応はやりやすくなると思います。もっとも、ハーフマラソンを走るつもりが、(予期はしていたものの)突如フルマラソンを走ることになったようなものなので、それはそれでチャレンジではあるのですが。
posted by 岡本浩一郎 at 18:18 | TrackBack(0) | 税金・法令

2021年02月01日

電子申告等の優遇措置

あっという間に2月になりました。新型コロナウイルス禍の中で毎日が淡々と過ぎるために時間が経つのが速く感じられるのか、あるいはやっぱり歳なのか、どっちなんでしょう。

2月と言えば、確定申告。今年の確定申告期間は2月16日(火)から3月15日(月)までとなります。前回もお話ししたように今年も新型コロナウイルス禍を鑑み確定申告期限が延長されるのではという話はありますが、昨年のように一律での延長なのか、個別判断となるのかもわかりませんし、当てにはしないようにしましょう。

これも前回お話ししましたが、今回の確定申告の大きなトピックの一つは、電子申告をするかどうかによって青色申告特別控除の金額が変わること。この件について本ブログで最初にお話ししたのが2017年12月。もう3年前のことになりますが、実際に影響が及んだのは昨年の所得、つまり確定申告としては今回からとなります。もともとは働き方の多様化を後押しするという観点から、基礎控除が38万円から48万円に引上げになったというのが出発点。もっとも、基礎控除が10万円引上げになるのと同時に、いわゆるサラリーマンが対象となる給与所得控除が10万円引下げとなり、また青色申告をする個人事業主が対象となる青色申告特別控除も10万円引下げとなりました。

結果的に、多くの場合、基礎控除は10万円引上げになるけれども、給与所得控除や青色申告特別控除が10万円引下げとなり、トータルでの控除額は変わりません。ただし、青色申告特別控除については、特別な優遇措置があり、電子申告もしくは電子帳簿保存を行えば、10万円引下げとならないのです。

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つまり、昨年(所得としては一昨年)までは基礎控除38万円+青色申告特別控除65万円で合計103万円だったものが、今年(所得としては昨年)は、通常は基礎控除48万円+青色申告特別控除55万円で合計額は変わらずに103万円、ただし、電子申告もしくは電子帳簿保存を行えば基礎控除48万円+青色申告特別控除65万円となり、合計113万円と合計の控除額が10万円引上げとなります。

控除というとピンと来ない部分がありますが、その額の分は所得がなかったことになる、つまりその分税金が安くなるわけです。仮に所得税率を10%とすると(注: 所得税率は所得額によって変動します)、所得税は1万円下がることになります。なおかつ、これは本ブログでも度々お話ししていますが、青色申告特別控除は所得税だけでなく、住民税や国民健康保険料を下げる効果もありますから、これはもうやらないと損と断言できるかと思います。

電子申告等の優遇措置の詳細については、こちらの弥生の解説ページもご覧ください。
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2020年11月26日

ひとり親控除

今年の年末調整は変更点が多く、早めに準備しないとヤバい、ということで、少し前から、今年の年末調整について変更点を中心にお話ししています。初回は、昨年までの3種類の申告書で3枚の帳票から、今年は5種類の申告書で3枚の帳票に変わったとお話ししました。2回目は、「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」(基礎控除申告書等)という帳票ができた背景についてお話ししました。そして前回は、基礎控除申告書等については事実上年末調整を受ける全ての方の提出が必要になること、一方で、基礎控除は受けるが配偶者(特別)控除を受けない場合などに、処理に気をつける必要があるとお話ししました。

これまでに、基礎控除、給与所得控除が変わるということ、また、所得金額調整控除という控除が新設されたことをお話ししました。実は、今年の年末調整ではもう一つの控除が新設されています。それがひとり親控除です。これはもともと存在した寡婦(寡夫)控除が見直され、新たにひとり親控除と寡婦控除に再編されたものです。

寡婦控除、あるいは寡夫控除というのは耳慣れないかもしれません。これは、配偶者との死別又は離別等により、もう一方の者が生計を支えなければならないといった事情を踏まえて税制上の配慮を行うための控除です。男性が亡くなった場合には残された女性が寡婦控除を、逆に女性が亡くなった場合には残された男性が寡夫控除を受けられることになります。

寡婦(寡夫)控除であり、今回新設されたひとり親控除は時代を色濃く反映しています。やはり男性が家庭の大黒柱であり、その男性が亡くなった場合に残された女性に配慮が必要という発想で生まれたのが寡婦控除です。1951年のこと。時代的には戦争遺族に対する配慮という面も強かったのではないかと思います。

ただ、配偶者が亡くなって一人で子どもを育てなければならないという経済的な大変さは女性も男性も変わらないはず、ということで寡夫控除も認められるようになったのは1981年。実に30年のギャップがあります。それでもこれで男性と女性がイーブンになったかというと実はそうではありません。女性の場合、配偶者が亡くなった際に子どもがいてもいなくても寡婦控除を受けられます。これに対し、男性の場合、配偶者が亡くなった際に子どもがいなければ寡夫控除は受けられません。配偶者が亡くなった際に、女性は一人で生計を営むのは困難、逆に男性は一人で生計を営めて当然という発想が色濃く残っているわけです。

これまでの寡婦(寡夫)控除については、配偶者との死別あるいは離別した方が対象になっていました。しかし、これでカバーしきれないケースとしては非婚のひとり親があり、一人で子どもを育てなければならないという経済的な大変さは共通でありながら、婚姻状況によって差が出るのはおかしいとして特にここ数年見直しが強く求められていました。これを踏まえて新設されたのが今回のひとり親控除です。

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ひとり親控除は、性別(女性/男性)を問わず、また死別/離別/非婚を問わず、ひとりで子どもを育てている方(ただし、所得が500万円以下の方に限る)に等しく35万円の所得控除が認められるというものです。なお、上でお話ししたように、寡婦控除については、子どもがいなくても認められる部分がありましたので、その部分は独立して寡婦控除として残されました。

本ブログでは税制がどんどんと複雑化することをどちらかといえば否定的な見方でお話ししています。ただ、今回のひとり親控除のように時代の要請に応じて必要な見直しが行われていることも事実です。時代の要請にあわせ、ただ、同時にそれをかつての九龍城のような建て増しによる複雑化ではなく、極力シンプルな仕組みにしていく。それが制度を考案する行政であり、国民の理解を得る政治の仕事であると期待しています。

今回は年末調整という枠組みの中でお話ししていますが、ひとり親控除は年末調整の対象とならない個人事業主の方ももちろん対象となりますので、ご安心ください。年末調整の対象とならない場合には、確定申告においてひとり親控除を適用することになります。

なかなか難しいなと思うのは、年末調整の対象になったとしても、年末調整でこれまでの寡婦(寡夫)控除や、今回のひとり親控除の適用をあえて受けない方が一定数いらっしゃるということ。年末調整で適用を受けるためには、寡婦/寡夫である、ひとり親であるということを申告書を通じて会社に伝える必要があります。これを避けるために、年末調整では寡婦/寡夫である、ひとり親であるということをあえて申告しない方が一定数いるのだそうです。この場合は、ご自身で翌年2月〜3月にかけて確定申告をすることによって、控除を受けることができます。制度をシンプルにというのは簡単ですが、現実には配慮を必要とするなかなか難しい問題もあるのだな、と実感します。
posted by 岡本浩一郎 at 19:40 | TrackBack(0) | 税金・法令