2020年11月24日

提出が必要

今年の年末調整は変更点が多く、早めに準備しないとヤバい、ということで、前々回から、今年の年末調整について変更点を中心にお話ししています。前々回は、昨年までの3種類の申告書で3枚の帳票から、今年は5種類の申告書で3枚の帳票に変わったとお話ししました。前回は、「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」(基礎控除申告書等)という帳票ができた背景についてお話ししました。

復習になりますが、昨年までは、1) 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書、2) 給与所得者の配偶者控除等申告書、3) 給与所得者の保険料控除申告書という3つの帳票が存在していましたが、このうち、必ず提出が必要なのは1)のマルフだけでした(厳密に言えば、マルフは、その年の最初に給与の支払を受ける日の前日までに提出するものとされており、それを年末調整時点で異動がないかを確認するという手続きとなっています)。これに対し、2)のマルハイと3)のマルホは年末調整において該当の控除を受けようとする場合にのみ提出が必要となっていました。ですから、例えば、配偶者はいるけれども、配偶者にもそれなりな所得があり、配偶者控除/配偶者特別控除の対象にならないということがわかっている場合には、マルハイを出す必要はありませんでした。

これに対して今年は、1) 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書、2) 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書、3) 給与所得者の保険料控除申告書という3つの帳票となったのはこれまでお話しした通りです。そして今年に関しても、1)は必ず提出が必要なのに対し、2)と3)は該当の控除を受けようとする場合にのみ提出が必要ということは形式的には変わっていません。しかし実際には、1)と2)が必須と考えるべきです。というのは、2)を提出しないと、基礎控除を受けられなくなってしまうからです。これまでは基礎控除には一切の条件がなく、誰にでも控除が認められていましたから、基礎控除を受けるために申告書を出す必要がありませんでした。ただ、前回お話ししたように、今年から所得が一定以上になると基礎控除が減額となり、最終的には基礎控除がなくなるという制度になったため、申告が必要になりました。理論的には基礎控除がなくなる所得金額が2,500万円以上の人は基礎控除が受けられないわけですから、この申告書は提出不要です。ただ、給与等の金額が2,000万円を超える方については、そもそも年末調整の対象にはなりませんから、年末調整は受けるけど、基礎控除の対象外という方は基本的には存在しません。つまり、年末調整を受ける方にとっては、2)のマルキハイショも必ず提出が必要ということになります。

ここで注意が必要なのは、昨年までマルハイを出していなかったという方。上でお話しした通り、配偶者にもそれなりな所得があり、配偶者控除/配偶者特別控除の対象にならないということがわかっている場合には、昨年まではマルハイを出す必要はありませんでした。ただ、今年は、マルキハイショとして必ず提出が必要になります。この際、基礎控除を受けるけれども、配偶者控除/配偶者特別控除は受けないという場合には、2) マルキハイショのうち、基礎控除申告書部分のみを記入し、配偶者控除等申告書部分については記入する必要はありません。

ここでやっかいなのは、事業者側が従業員から基礎控除申告書部分のみ記入され、配偶者控除等申告書部分については記入がない2) マルキハイショを受け取った場合。この場合、「配偶者控除等申告書部分については記入がない」ことを「申告書上の配偶者の所得額を0円」として処理してしまうと、誤った控除額になります。配偶者控除等申告書部分については記入がないというのは、配偶者控除/配偶者特別控除が0円を意味するわけですが、誤って申告書上の配偶者の所得額を0円として処理してしまうと、結果的に(本人の所得次第ではありますが)、配偶者控除が満額計上されてしまうからです。

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この点、今回の弥生給与 21でどのように入力していただくか仕様を固める上でかなり悩んだポイントなのですが、誤解を避けるために、明示的に該当に従業員ごとに、「配偶者(特別)控除を受けない」という項目にチェックしていただくようになっています。この点お間違えの無いようご注意ください。
posted by 岡本浩一郎 at 21:35 | TrackBack(0) | 税金・法令

2020年11月19日

基・配・所

今年の年末調整は変更点が多く、早めに準備しないとヤバい、ということで、前回から、今年の年末調整について変更点を中心にお話ししています。前回は、昨年までの3種類の申告書で3枚の帳票から、今年は5種類(!)の申告書で3枚の帳票に変わったとお話ししました。今回、新設された2つを含む3つの申告書が合体して生まれたのが、「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」(pdf)です。この帳票は、「年末調整のしかた」では、「基礎控除申告書等」と表記されていますが、例えば扶養控除等(異動)申告書は帳票の右上に記されたマークから「マルフ」、配偶者控除等申告書は「マルハイ」と呼ばれていますので、今回は、「マルキ」もしくは「マルキハイショ」と呼ばれるのでしょうか。

数年前に配偶者控除等申告書ができましたが、これは配偶者控除の見直しによって生まれました。同様に、今回の給与所得者の基礎控除申告書と所得金額調整控除申告書は、基礎控除が見直しとなり、また、所得金額調整控除という新たな控除ができたことにより生まれました。

基礎控除が見直しになったなんて聞いていないよ、と思われるかもしれませんが、実は約3年前に本ブログで基礎控除の見直しと所得金額調整控除についてお話ししています。ブログでお話しした時点では与党の税制改正大綱に記された段階でしたが、その後の国会で可決されました。それがついに今回の年末調整に反映された訳です。

基礎控除の見直しは、端的に言えば、基礎控除が38万円から48万円になるというものです。控除が増える = 所得額が減る = 税額が減る、ですから、いいじゃないか、と思われるかもしれませんが、実際には給与所得控除が逆に10万円減額されるため、ほとんどの給与所得者にとっては「行って来い」となり、所得額であり、税額への影響はありません。ただし、所得が一定以上になると基礎控除が減額となり、最終的には基礎控除がなくなるというのが、対象人数は限られるものの、今回の見直しの実質的なポイントです。詳細は年末調整あんしんガイドをご参照いただければと思いますが、所得金額が2,400万円を超える人は基礎控除が減額、2,500万円を超える人はゼロとなります。

基礎控除が10万円増える見合いとして給与所得控除が10万円減るとお話ししましたが、同時に、給与所得控除の上限額も見直しとなります。昨年までは、給与収入が1,000万円超で給与所得控除が220万円の上限に達することになっていましたが、今年から、給与収入が850万円で給与所得控除が195万円の上限に達することとなりました。つまり給与収入が850万円以上の方は控除額が15万円(+全体での10万円で合計25万円)減ることになりました。一方で、上でお話しした税制改正大綱では「子育てや介護に対して配慮する観点から」子育て世帯や介護世帯は「負担増が生じないよう措置を講ずる」とされていたことから、給与収入が850万円以上の子育て世帯や介護世帯において負担増とならないようにするために生まれたのが所得金額調整控除です。所得金額調整控除の詳細も年末調整あんしんガイドをご参照いただきたいのですが、正直、かなり複雑な制度で、これをパッと理解できる人はあまりいないのではないかと思います。趣旨としては、今回の給与所得控除の上限額の見直しを、給与収入が850万円以上の子育て世帯や介護世帯について打ち消すための調整ということです。

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基礎控除、配偶者控除/配偶者特別控除、そして今回新設された所得金額調整控除。共通項は、本人の所得金額によって控除の有無および額が変わるということです。このため、今回これらの控除の申告が1枚の帳票、「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」にまとめられています。

今回お話しした内容については、詳細を年末調整あんしんガイドで解説しています。是非ご覧いただき、年末調整の処理を進めていただければと思います。

PS. どうでもいいことですが、基・配・所って、なんとなく、守・破・離みたいですね。まずは基本、そして気配りができるようになり、最後は置かれた所で咲きなさい、的な(笑)。
posted by 岡本浩一郎 at 20:48 | TrackBack(0) | 税金・法令

2020年11月17日

大きく変わった今年の年末調整

先週金曜日に弥生 21 シリーズが発売となりました。例年、新製品の発売後間もなくやってくるのが、年末調整シーズン。弥生のカスタマーセンターへのお問合せが目立って増えるのは12月に入ってからですが、本当は11月にはある程度目処をつけておきたいところです。特に今年は少し前にお話しした通り、ヤバいです。それだけ今年の年末調整は大きく変わっています。

年末調整では、従業員に何種類かの申告書を提出してもらい、その申告書に基づいて会社側で年末調整の計算をすることになります。少し前までは、基本となる申告書は3種類、ただし、これが2枚の帳票にまとめられていました。具体的には、1) 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書と2) 給与所得者の保険料控除申告書 兼 給与所得者の配偶者特別控除申告書の2つです。

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これが平成30年分(2018年分)から、3種類の申告書で3枚の帳票に変わりました。1) 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書、2) 給与所得者の配偶者控除等申告書、3) 給与所得者の保険料控除申告書です。本ブログで以前お話ししたことがありますが、2018年に配偶者控除が見直され、本人の所得に左右されることになったことから、それまでは、 保険料控除申告書と一体化していた配偶者特別控除申告書が分離され、新たに配偶者控除と配偶者特別控除に関する申告のための、給与所得者の配偶者控除等申告書(配偶者控除と配偶者特別控除の両方の申告を行うため、配偶者控除「等」申告書という名称になっています)として独立したためです。

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そして今年、令和2年分(2020年分)から、5種類(!)の申告書で3枚の帳票と変わりました。今回追加されたのは、「給与所得者の基礎控除申告書」と「所得金額調整控除申告書」という二つの申告書です。帳票としては、上記1)の給与所得者の扶養控除等(異動)申告書と3)の給与所得者の保険料控除申告書は基本的に変わらないのですが、2)の給与所得者の配偶者控除等申告書に今回追加になった二つの申告書が合体され、「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」というとにかく長い名前の帳票が生まれました。

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2018年の配偶者控除等申告書は配偶者控除の見直しによって生まれた訳ですが、今回の給与所得者の基礎控除申告書と所得金額調整控除申告書はなぜ生まれたのでしょうか。これは名前からある程度想像できると思いますが、基礎控除が見直されたため、そして所得金額調整控除という新たな控除ができたためです。

次回は基礎控除と所得金額調整控除についてお話しをしたいと思います。本ブログでは少し時間をかけて背景を含めお話ししたいと思いますが、一方でまだ年末調整に未着手という場合には、できるだけ早く着手することをお勧めします。今年の年末調整の変更点、そして何をすべきかについては、弥生の年末調整あんしんガイドで詳細に解説していますので、是非ご覧いただければ幸いです。
posted by 岡本浩一郎 at 22:17 | TrackBack(0) | 税金・法令

2020年09月25日

国勢調査

もう既に皆さんの家にも届いているものと思いますが、10/7(水)までが国勢調査の調査期間となっています。国勢調査とは、「統計法(平成19年法律第53号)第5条第2項の規定に基づいて実施する人及び世帯に関する全数調査で、国及び地方公共団体における各種行政施策その他の基礎資料を得ることを目的として」いるとのこと。第1回調査は大正9年(1920年)に行われたとのことで、今年がちょうど100年目の節目の年となるのだそうです。

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調査の回答方法はインターネットでの回答、調査票を記入後郵送、調査員による回収の3通りあるようですが、新型コロナウイルス禍もあり、基本はインターネットでの回答もしくは郵送がおススメのようです。私はもちろんインターネットで。インターネット回答利用ガイドに記載されたログインIDとアクセスキーでログインします。回答に要した時間は15分ぐらいでしょうか。インターネット回答の場合、紙をそのまま単純に電子化したのではなく、回答が不要な項目をスキップするなど、一定の考慮がされていることには好感が持てました。

一方で、調査票を作成した段階である程度わかっているだろう氏名や生年月日などを一から入力する必要があるのはやや残念。よくある質問に、「住民基本台帳のデータがあるので、国勢調査はなくても済むのではありませんか」という質問があり、それに対しては、「住民基本台帳には、氏名、出生の年月日、男女の別、住所及び世帯主の氏名と続き柄という限られた人口の属性しか記載されておらず、産業別・職業別の就業者数、昼間の人口と夜間の人口の違いなど、 国勢調査で把握される人口の様々な実態に関する統計情報を、住民基本台帳からは得ることはできません」と回答されています。それはそれでもっともな理由ですが、やはり氏名や生年月日等の既にある情報は予め入れてもらえれば、と思ってしまいます。ただ、アクセスキーがあるにせよ、万が一本人以外がアクセスできてしまった場合の情報漏洩リスクも考慮した結果なのかもしれません。

国勢調査は全数調査なのですが、本当に全数カバーできているのでしょうか。「国勢調査は、我が国の最も基本となる統計を全国及び地域別に作成するため、全数調査として行う必要があります」とのことで、回答は法律(統計法)で定められた義務になっています。ただ、それでも生活スタイルも多様化した今どきの時代に全数カバーできているとは思えません。全数はカバーできていないという前提であれば、一定の補正を行えばいい訳ですが、全数カバーしているという前提では補正を行う訳にもいきません。一方で現実問題として全数カバーしていなければ結果として誤った統計情報をもとに様々な判断がなされることになります。

全数調査の建前だけれども、実際には明らかに全数カバーできていないといえば経済センサス-基礎調査でしょうか。全国全ての事業所を対象を行われる調査ですが、自宅で活動するフリーランスなども増えている中で、全数カバーできていないことは周知の事実です。実際、経済センサスの事業者数と、国税庁が発表する事業者数(これは申告実績から得られている情報)に大きな乖離があり、事業者の方々をマーケットとしている我々からすると、母集団としてどの数字を採用すべきか、非常に悩ましい状態です。少し前に正しい判断のためには正しいデータが必要といったことをお話ししましたが、何が正しいのかわからないのは、本当に困ったものです。

今回の国勢調査では、インターネット回答が全面的に推奨されるなど、時代にあわせて改善されていることは事実だと思います。ただ、1回目から100年経ち、今どきの時代に全数調査とすることが本当に妥当なのかは一考の余地があると思いますし、逆に全数調査をすべきなのであればやり方を抜本的に見直すことも考えるべきなのではないかと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 18:48 | TrackBack(0) | 税金・法令

2020年04月22日

やっぱり終わらなかった場合

先週の木曜日、4/16は所得税の確定申告の期限でした。もともとの申告期限は3/16でしたが、新型コロナウイルス禍の広がりにともなって、2月末に4/16までの延長が発表されました。さらにその後、新型コロナウイルス禍の収束が見通せない、むしろ緊急事態宣言が発出されるような状況の中で、4/6に国税庁より、「確定申告期限の柔軟な取扱いについて」という文書(pdf)が公表され、「感染拡大により外出を控えるなど期限内に申告することが困難な方については、期限を区切らずに、4月17日(金)以降であっても柔軟に確定申告書を受け付けることといたしました」とされました。要は、今でも申告を受け付けているということです。

とはいえ、明確な期限がなくなってしまえば、明日やろう、今週末やろう、来週やろうと、ずるずるといつまでも終わらないことになりかねないのではないか、ということで、期限である4/16には、今日中に終わらせましょうと書きました。しかし…。

以前、やよいの青色申告 オンライン/やよいの白色申告 オンライン(弥生オンライン)について、申告期限延長が発表になるまでは見込み通りのペースで新規ユーザーのサインアップが続いていたものの、申告期限延長が発表された瞬間にサインアップのペースがガクンと下がったということを書きました。しかし一旦ペースは下がったものの、申告期間が長引いた分、3月下旬から4月に入っても新規ユーザーのサインアップが続き、3月と4月合計では、見込みを上回ることができました。どうなることかと心配していましたが、ほっとしたというのが正直なところです(笑)。ちなみに、デスクトップアプリのやよいの青色申告 20についても、3月の第1週2週だけは前年を下回りましたが、以降は4月に入っても好調な実売が続きました。

ただし、少し気になるのが、実質的な期限が伸びていく中で、実際に確定申告を済ませることができたのか。弥生オンラインでは、確定申告の準備がどこまで進んでいるのかをKPIとして注視しているのですが、申告期限日(今年は4/16、昨年は3/15)においての、申告完了率は残念ながら下がってしまいました。やはり、4/17以降でも受け付けてくれるということで、明日やろう、来週やろうという方がある程度はいらっしゃるのではないかと思います。一割はいきませんが、それでも一定数は。

もちろん、弥生として申告が終わるまで引き続きしっかりとサポートしていきますが、ずるずる伸ばすのではなく、例えばゴールデンウィークまでと自分なりの期限を切ってしっかりと終わらせたいところです。

なお、4/17以降の申告に関しては、別途申請書は必要ないのですが、申告書の余白に「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」と付記する必要があります(国税庁によるFAQ)。弥生製品から紙で出力する場合には、出力した上で手で記載、またe-Taxで申告する場合には、特記事項として入力する必要があります。詳細は、こちら(オンラインアプリ/デスクトップアプリ)をご確認ください。

なお、4/17以降に申告する場合、申告日が、納付期限となりますので、ご注意ください。ただし、振替納税の場合には、別途振替日の連絡があるようです。時間も稼げますから、振替納税の方がベターですね。もっとも、新型コロナウイルス禍によって影響を受けている場合には、納税についての猶予が認められています。この場合は、税務署への申請が必要ということで、まずは所轄の税務署(徴収担当)に相談することをお勧めします。

蛇足ですが、本来は4/16までの所得税の青色申告承認申請書についても、新型コロナウイルス禍の影響により、提出が困難な場合は、個別に期限延長の取扱いが認められるようです。ただ、時間が経てば経つほど、影響で提出が困難だったという説明が難しくなりますから、やはり早めが望ましく、基本的には申告と同時ということかと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 18:45 | TrackBack(0) | 税金・法令

2020年04月16日

やっぱり今日までに終わらせよう

今日、4/16(木)は所得税の確定申告の期限となります。ご承知のように、もともとの申告期限は3/16でしたが、新型コロナウイルス禍の広がりにともなって、2月末に4/16までの延長が発表されました。

しかしその後、新型コロナウイルス禍の収束が見通せない、むしろ緊急事態宣言が発出されるような状況の中で、去る4/6に国税庁より、「確定申告期限の柔軟な取扱いについて」(pdf)という文書が公表されています。「感染拡大により外出を控えるなど期限内に申告することが困難な方については、期限を区切らずに、4月17日(金)以降であっても柔軟に確定申告書を受け付けることといたしました」とされています。要は、明日以降も申告を受け付けるということです。

再びやったー、となりそうな気もしますが、今回の柔軟な取扱いは、申告期限そのものを変えている訳ではありません。申告期限はあくまでも本日4/16のままであり、それを超えても柔軟に受け付ける、としているに過ぎません。つまりは原則はあくまでも4/16であるが、例外として4/17以降も認めるということです。この柔軟な取扱いを発表した時点で、「既に昨年の約9割の申告がある」ということで、申告の大部分は完了していることから、原則の4/16は維持したままで、個別対応ということになったのかと思います。

既に申告が完了した方はいいとして(お疲れさまでした!)、まだ終わっていない方はどうすべきか。やはりおススメとしては、今日中に申告を済ませ、すっきりとしたいところです。現実問題として、これまでに終えられていない方が、明確な期限がない中で、どこかで本当に終えられるのでしょうか。明日やろう、今週末やろう、来週やろうと、ずるずるといつまでも終わらないことになりかねないのではないかと思います。随分と手厳しいことを書いているような気もしますが、私自身が期限がないと動けない人だからこそ実感を持ってお話ししています。

以前も書いたことがありますが、私自身、余裕を持って前倒しで準備するという事は決して得意ではありません。むしろ正確に言えば、私はかなり先延ばし傾向があります。何せ、「フェンス際の魔術師」を自称しているぐらいですから、期限があるからこそ、終えられるタイプなのです(苦笑)。

弥生オンラインの利用状況(日別の利用ユーザー数)は、本来当初の申告期限である3/16に向けて一本調子に上がっていくはずでしたが、2月末に申告期限の延長が発表されたと同時に、減少傾向となりました。ただそれも3月半ば過ぎまで。3月下旬から再び勢いを取り戻し、4月に入ってからは(柔軟な取扱いが発表された4/6以降も)急速に伸びています。やはり、4/16までに申告を済ませ、すっきりしたいという方が多いのではないかと思います。さあ、今日一日頑張って、終わったら美味しいビールを(自宅で)飲みましょう。

毎年お話ししていますが、今回は白色申告だけれども、今年分(来年の申告)からは青色申告という方は、青色申告承認申請書の提出もお忘れなく。
posted by 岡本浩一郎 at 12:29 | TrackBack(0) | 税金・法令

2020年02月27日

申告期限の延長

新型コロナウイルス感染の拡大を受け、3月16日までの予定であった所得税の確定申告の期限が延長されるようです。報道(日経日本テレビ)によれば、3月31日が期限となっている消費税の確定申告の期限とあわせ、ともに4月16日(木)まで延長されるようです。現時点では報道のみであり、国税庁のホームページには掲載されていませんが、信頼できる筋からも延長される見通しと聞いておりましたので、確かかと思います。
[追記] 蕎麦屋の出前状態で、国税庁のホームページで発表されています(PDF)。

東日本大震災があった2011年にも期限が延長されましたが、この際には、一定の条件付きでした。今回については、特に条件は付かない模様ですので、国税庁としては大きな判断だったと思います(2011年も震災が3/11で、申告締切りが直後の3/15でしたので、これはこれで大変な判断だったと思いますが)。

現時点で、新型コロナウイルスは弥生のシステム提供/オペレーションには影響は出ていませんが、市中での感染が増えるにつれ、弥生のカスタマーセンターで感染者が発生した場合にダメージが大きいと懸念していました。これまでもお話ししているように、弥生のカスタマーセンターは大阪と札幌の二拠点で運営しており、基本的には両方ともがクローズする事態を想定していません(そもそも二拠点で運営している理由の大きな一つが災害対策です)。

実際に、一昨年秋には、大阪が台風でクローズ(その間札幌のみで対応)、その直後には、地震により札幌がクローズ(この間大阪のみで対応)ということがありました。この際には冷や汗を書きましたが、災害対策としては何とか機能しました。ただこれは、秋という比較的お問合せが少ない時期だから成り立ったというのも事実です。確定申告時期という繁忙期、そして両センターで同時期に感染者が発生した場合には、お問合せ対応能力が大幅にそがれてしまうことを懸念していました。

今回、期限が延長されたことで、弥生のセンタークローズによって、お客さまの申告が間に合わないというリスクは大幅に低減できたと思います。これまでの想定よりも一ヶ月長く確定申告期の体制を維持するのは、それはそれでチャレンジではあるのですが、何とか乗り越えたいと思います。

今回、申告期限が延長されたということで、「やばい、あと2週間ちょっと(涙)」という方が、「やった、まだまだ余裕(笑)」となることもあるかと思いますが、とはいえ、できるだけ早めに申告を済ませてすっきりしましょう。

国税庁も促しているように、電子申告であれば、税務署に行く手間もありません。そういった意味では、申告期限が伸びたことで、今からマイナンバーカードの申請をしてもギリギリ間に合うかもしれません。もっともマイナンバーカードの受領には市区町村の窓口に行かなければならないのが、ちょっと惜しいところですが。
posted by 岡本浩一郎 at 18:46 | TrackBack(0) | 税金・法令

2020年02月05日

どこが変わった?

事業所得の確定申告では、所得税青色申告決算書(青色申告)もしくは収支内訳書(白色申告)と、確定申告書Bという二種類の帳票を作成、提出する必要があります。前者は事業の収支をまとめたもの、後者は事業所得以外も含め全ての所得を合計し、支払うべき所得税を計算するための帳票です(これ以外に所得の状況によって、付表等が必要になることもありますが、この二種類は必ず必要になります)。

これらの帳票は毎年大なり小なり変更が入るのですが、今年は変更が大きめです。年表記が「令和0_」年分となったところはまずパッと目につくところ。

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所得税青色申告決算書/収支内訳書は例年そこまでの変更はないのですが、今年は昨年10月に軽減税率制度が導入されたことに伴い、裏面の売上(収入)金額および仕入金額を集計する項目において、「うち軽減税率対象」という項目が追加されています。

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確定申告書Bについては、一枚目(第一表)の左下にある所得から差し引かれる金額(所得控除)の項目が大きく見直しになりました。項目が新しく追加になったわけではないのですが、並びが大きく変わり、途中に「(10)から(20)までの計」という小計行が追加されました。あれ、今回のもの、どこかで見たことがあるという方、鋭い。実は確定申告書と一口に言っても、用途が限定された「A」という様式と、万能な「B」という様式があるのですが、「B」様式での所得控除の様式が、これまでの「A」と同様なものに統一されたのです。

「(10)から(20)までの計」という小計行の上にある控除は、年末調整でも適用できる控除であり、一方で、その下にある控除は、確定申告でしか適用できない控除です。今回、「B」様式で所得控除欄の記載が見直しになると同時に、これまでの「A」様式と同様に、給与所得があり年末調整を受けた方で、年末調整で適用された控除のままでいいという方は、小計行だけ記載すれば、生命保険料控除などの内訳を書かなくてもよいということになりました。

事業所得はBしか対応していないので、必ずBを利用することになるのですが、給与所得と事業所得両方があって、基本的な控除は給与所得の年末調整で適用されている、という方には少しラクになるかと思います。

多くの方にとって、所得税青色申告決算書や確定申告書は年に一回しか見ないもの。それだけにその変化には気付きにくいかもしれません。でも実は毎年何だかんだと変わっているのです。もっとも、弥生をご利用であれば、その年の最新の様式に対応していますから、基本的に変化点を意識していただく必要はないんですけどね。

なお、今回の確定申告の変更点については、こちらのスモビバ記事も参考になるかと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 17:41 | TrackBack(0) | 税金・法令

2020年02月03日

まずはおさらい

いよいよ2月になりました。確定申告期間ももうすぐそこまで迫ってきています。今月は確定申告について、じっくりとお話ししたいと思いますが、まずは基礎のおさらいから。

確定申告というと、したことがないという方から、プロ(?)並みという方まで、様々かと思います。私自身は18才の時からですから、確定申告歴はもう30年以上。比較的経験豊富な方でしょうか(笑)。大学時代に雑誌のライターをしており、原稿料を稼いでいたのですが、原稿料は源泉徴収されます。稼いでいたと言っても、そこまでの金額ではないため、確定申告で勤労学生控除を活用することによって、所得税はゼロに。結果的に、この源泉徴収分を取り返すことができていました。

私の原稿料はそこまでの金額でもなく、何よりも事業として営んでいるという意識がありませんでしたが、最近でいうと大学生でもLINEのスタンプ販売、あるいはYouTuberとして、結構な収入を得ていることもあるのかもしれません。この場合は、開業届を出し、事業として営んでいることにすれば、事業所得になります。

事業所得(特に青色申告)には様々なメリットがありますが、そのメリットを享受するためには、2月中旬から3月中旬にかけての確定申告が必要になります。2月中旬から3月中旬と書きましたが、正確には2月16日から3月15日の一ヶ月間です。これは、曜日の関係で前後することがあり、今年は2月16日、3月15日ともに日曜日のため、2月17日(月)から3月16日(月)までとなります。

ただし、還付申告の場合には、この期限の前に申告を済ませることができます。昨今はふるさと納税を行って確定申告をするケースも増えていると思いますが、この場合には基本的には還付となりますから、期限前の申告が可能です。私は給与所得なので、残念ながら青色申告のメリットは享受できないのですが(残念)、ふるさと納税は活用していますので、早めに確定申告を済ませてしまいたいと思います。

なお、確定申告とは、については、こちらのスモビバの記事がよくまとまっていますので、一読をおススメします。
posted by 岡本浩一郎 at 16:48 | TrackBack(0) | 税金・法令

2020年01月20日

いよいよマイナンバーカード受領と思いきや

よし、マイナンバーカードを取得しよう、と思い立ち交付申請をしたのが、昨年の12月8日のこと。証明写真機を使い、サクッと申請を済ませることができました。

交付申請から、交付通知書の発送までに概ね1ヶ月間かかるとのことで、まだかなーと首を長くして待っていたのですが、ようやく先週1月15日に、交付通知書が転送不要郵便で届きました。1ヶ月と一週間ということになりますが、年末年始をはさんだので、やはり実質1ヶ月ということになるでしょうか。

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交付通知書を受け取ったら、交付通知書を持って、市区町村窓口に行き、本人確認を受けた上でマイナンバーカードを受領することになります。よし、善は急げ(+他にも所用があるし)ということで、翌週月曜日の午前中に半休をとって私の場合の交付場所である神奈川区役所に行こうと思ったのですが…。そう、翌週月曜日とは今日(20日)のことなのですが、残念ながらまだ受領できていません。

確認したところ、横浜市の場合、神奈川区をはじめとする一部の区では、事前に受取予約が必要とのこと。一部の区では、事前予約は不要、また二つの区に関しては、平日だけでなく、第2・第4土曜日に受け取ることが可能で、土曜日に受け取る場合のみ予約が必要とのこと。同じ横浜市なのに、この扱いの差が出るのは不思議です。

一瞬やる気がなくなったものの、挫けずに受取予約を行ったのが、先週金曜日(17日)。この時点で翌週月曜日(20日)は既に予約が一杯となっていました。結果的にスケジュールを調整の上、来週の月曜日(27日)の受取りを予約しました。27日も朝一番の枠(9:00)は一杯。やはり朝一番に立ち寄って、と考える方が多いんでしょうね。

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ということで、念願の(?)マイナンバーカードの取得は来週に持ち越しになりました。やはり、それなりに時間がかかるな、というのがこれまでの感想です。今年の確定申告の期限は3月16日(月)。まだまだ時間があると思いきや、マイナンバーカードを使って電子申告をしようとするのであれば、実はもう時間がありません。

交付申請から、交付通知書の発送までに概ね1ヶ月間。市区町村にもよりますが、私の場合のように受取予約が必要な場合には、実際に受け取れるまでに2週間程度かかる可能性もあります。そうなると合計1ヶ月半ですから、3月16日(月)に間に合わせるためには、うーん、今月中にはひとまず交付申請だけはしておいた方が良さそうです。

以前ご紹介したように、交付申請自体は意外に簡単ですので、電子申告どうしようかな、という方もひとまず交付申請だけは早々に済ませてしまいましょう。
posted by 岡本浩一郎 at 19:00 | TrackBack(0) | 税金・法令

2019年12月11日

マイナンバーカードの交付申請

よし、マイナンバーカードを取得しよう、と思い立った訳ですが、残念ながら市役所に行けばすぐに取得できる訳ではありません。取得するにあたっては、

  1. [個人] まず交付申請を行う
  2. [市区町村] 交付申請を受けて、カードの準備
  3. [市区町村] カードの準備ができた段階で、申請者に交付通知書を発送
  4. [個人] 交付通知書(はがき)を受領
  5. [個人] 交付通知書を持って、市区町村窓口に行き、本人確認を受けた上でマイナンバーカードを受領
というプロセスを経る必要があります。この中で、1. 交付申請から、3. 交付通知書の発送までに概ね1ヶ月間かかるとのこと。つまり来年の確定申告の際に、マイナンバーカードを利用して電子申告しようとするのであれば、そろそろ1. 交付申請をしておかないと、ということになります。

交付申請にあたっては、4つの選択肢があります。4つとも、前回お話しした通り、手元にマイナンバー(個人番号)の通知カード兼個人番号カード交付申請書が必要になります。

a) 郵送
交付申請書に必要事項を記載、顔写真を貼付して、郵送
PCを使用し、Webサイトで必要事項を記入、顔写真は予め用意しておいたJPEGファイルをアップロード
スマホを使用し、Webサイトで必要事項を記入、顔写真はスマホで撮影し、アップロード

d) 街中の証明写真機での申請
証明写真機で交付申請書のバーコードを読み取り、顔写真はその場で撮影

どの選択肢でも、記入/入力が必要な項目は多くありません。ですので、入力の容易さというよりも、顔写真をどのように用意するのかが選択のポイントになるのではないかと思います。簡単さで言えば、その場で撮影して完結できるという意味でやはりスマホでしょうか。

ただ、マイナンバーカードは10年間使い続けるもの(正確には、20歳以上の場合は、発行から10回目の誕生日まで)。実物がイマイチ(笑)なので、そこに拘ってもしょうがないようにも思いますが、やはりできるだけちゃんとした写真にしたいと思うのが人間というもの。事前に証明写真機がおススメということも聞いていたため、私はd) 街中の証明写真機での申請を選びました。

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申請はいたって簡単。交付申請書に記載された二次元バーコードを読ませ、後は画面の誘導に従えば、あっという間に終わります。今どきの証明写真機は撮り直しもok。写真を見比べて選ぶこともできますし、エクストラでお金を払えば、美肌仕上げも(笑)。私が利用した証明写真機の場合、800円かかりましたが、これだけ簡単に申請ができるのであれば、非常にコスト効率がいいと感じました。マイナンバーの制度には思うところがあると前回書きましたが、この証明写真機を使った申請プロセスはとてもよくできていると感じました。

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ということで、私の交付申請は先週末、12/8(日)に完了。概ね一ヶ月程度で、交付通知書が送られてくるようですが、年末年始をはさみますので、1月中旬ぐらいになるのでしょうか。交付通知書の受取りから、実際のマイナンバーカードの受領まで、また改めてレポートできればと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 21:52 | TrackBack(0) | 税金・法令

2019年12月09日

今更ながらマイナンバーカード

今更ですが、マイナンバーカードを取得してみようと思い立ちました。来年9月から予定されているマイナンバーカードを活用したポイント還元制度に向けてという訳ではありません(笑)。マイナンバーカードと言えば、確定申告。詳細はまた追ってお話ししたいと思いますが、マイナンバーカードを利用しての電子申告がより容易になってきていること、そしてさらに一年後には、電子申告の有無によって青色申告特別控除の額が変わることも踏まえ、このタイミングでマイナンバーカードを取得し、実際に使ってみようと思いました。

正直に言えば、以前にもお話ししたことがありますが、マイナンバーカード(というよりはマイナンバーの制度自体)には疑問を持っています。制度の目指している方向については大賛成なのですが、カード上に可読可能な状態で印字されるマイナンバーを最高レベルの機密情報として管理する、ということが矛盾であると感じているからです。

一方で、これからマイナンバーカードが活用できるケースは着実に増えていくでしょう。上述のマイナンバーカードを利用したポイント還元もそうですし、2021年3月にはマイナンバーカードを健康保険証として使えるようにする計画など、マイナンバーカードを普及させるという政府の並々ならぬ決意を感じます。

そういった中で、批判ばかりでは建設的ではないと考えました。マイナンバーカードを実際に活用した上で、そのメリットはメリットして認め、発信する。一方で、その課題についても発信することによって、多少なりともマイナンバー制度の健全な発展に貢献できるのではないかと考えています。

ということで、まずはマイナンバーカードの取得から。マイナンバーカードの交付申請には、マイナンバー(個人番号)の通知カード兼個人番号カード交付申請書が必要になります。これが送付されたのが、2015年の秋ごろ。もう4年も前ですから、「あれどこに行ったっけ?」という方も多そうですね。
posted by 岡本浩一郎 at 17:17 | TrackBack(0) | 税金・法令

2019年10月08日

導入一週間

消費税率が10%に引上げとなり、同時に軽減税率制度が導入されて一週間。最悪のシナリオとして想定した(?)ほどの混乱はないな、と感じています。標準税率が10%に引上げになること自体は、5年前にも8%への引上げを経験したこともあり、スムーズに対応されているように見受けられます(家計への影響といった話は一旦置いておき、あくまでも店舗などのオペレーションという意味で)。まだ一週間ということで、訪問できた店舗の数も限られますが、本当は10%のはずなのに、まだ8%のまま、というケースにはまだ遭遇していません。何だかんだ言いつつ、皆さんそれなりに準備を進めてきたのかな、と思います。

ただ、テイクアウトか店内飲食か、というところは、かなりグレーな運用で何とか成り立っているように見受けられます。ファストフードなどでは、もともとのオペレーションとして、店内か、テイクアウトか聞かれ、それに応じた消費税率になっていますが、イートインコーナーのあるコンビニなどでは、いまだかつて聞かれたことがありません。お客さまが自己申告すれば、ということなんでしょうね。ただでさえお昼時は行列になっている中で、毎回確認していたらオペレーションが成り立ちません。まあ、現実そうならざるを得ないように思います。

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さて、これまでに遭遇した中ではこんなレシートもありました。これは(何か影響があると困るので、かなりぼかしが入っていますが)パン屋さんで、パンを買った際のレシート。持ち帰りなので、軽減税率対象となり、8%。実際に外税で8%の消費税が課されており、これでいいようにも思えますが、実はやや問題ありなのです。この8%はあくまでも軽減の8%なので、その旨を明記しなければなりません。

これまでご紹介してきたレシートでは、品目単位で「※」や「軽」という付記がされており、なおかつレシート下部に「※/軽は軽減税率対象商品です」と記載されています。そもそも飲食料品しか扱わない、また、持ち帰りしかないというお店(パン屋さんはその典型例ですね)、結果的に軽減税率対象商品しか扱わないケースもそれなりにあると思います。この場合には、品目単位での「※」や「軽」の付記は必要ありませんが、その代わり、全体として、「全商品が軽減税率対象」といった記載をする必要があります(こちらのFAQの問112)。

ですので、このレシートの場合も、どこかに「全商品が軽減税率対象」と記載されているのが、正解となるはずです。手間を考えるとレジで印字するのが望ましいですが、「全商品が軽減税率対象」というゴム印を作って、それを押すのでもokだそうです。

想像するところ、うちは飲食料品で持ち帰りだけだから、これまでと同じ8%。だから何もしなくてもいい、と勘違いされている可能性もあるのではないかと思います。

しかし実は、同じ8%でも、2019年9月30日までの8%と、2019年10月1日以降の軽減での8%というのは、区別して管理しなければなりません。詳細の説明はここでは省きますが、一口に消費税と言っても、実態は国税としての消費税と、地方税である地方消費税に分かれています。9月までの8%の内訳は(国)消費税が6.3%に加え、地方消費税が1.7%で合計8%だったのに対し、軽減税率の8%の内訳は(国)消費税が6.24%に加え、地方消費税が1.76%で合計8%となっています。内訳が異なるだけに、9月までの8%と10月以降の軽減8%は明確に分けて管理する必要があるのです。これは意外に知られていませんが、その実非常に重要なポイントです。

レシートの表記だけでいえば、それほど大きな問題ではないとも言えます。しかし、売上の管理という意味では、これまでの8%とは違うという管理をしておかないと、後で結構困ることになってしまいますので、注意が必要です。

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逆に、外食で持ち帰りはないというパターン。このレシートでは、「内2/*印は軽減税率対象商品」と印字されていますが、そもそも軽減税率対象商品の扱いがないのであれば、この表記も不要です。つまり、これまで通りのレシートで基本的にありません(上記のFAQの問113)。

ただ、このように税込の価格表記をしている場合、価格はそのままで、レジの設定で消費税率10%としているだけのケースも多いのではないかと感じています。要は税込価格を見直していないということですね。確かに対応としてはラクなのですが、以前もお話ししたように、これは実質的に約2%の値引きをしていることになり、利益を確実に圧迫します。とりあえず10月1日はレジの消費税率設定の変更だけでしのいだ、というケースも、是非今一度価格の見直しをご検討いただきたいと思います。

いよいよ滑り出した軽減税率制度。レシートの読み込み精度が落ちるなど既に明らかな問題もあれば、キャッシュレス・ポイント還元の処理の問題、さらには、今後決算の時に利益が減った、あるいは、消費税の納税の際に、納付額がこんなに増えたという今後明らかになってくるであろう問題もあります。お客さまの事業に支障がでないよう、弥生としてしっかりと情報発信し、サポートしていきます。
posted by 岡本浩一郎 at 17:39 | TrackBack(0) | 税金・法令

2019年10月04日

キャッシュレス・ポイント還元の悩み

昨日は、全体に対し値引きがされたレシートの扱いが難しいということをお話ししました。問題がさらに複雑になるのが、10月から始まったキャッシュレス・消費者還元事業以前お話ししましたが、2019年10月から2020年6月までの期間、本事業に登録済みの中小・小規模事業者で商品・サービスをキャッシュレスで購入すると、基本的に5%分のポイントが還元されるというものです。

そもそもポイントというのは、会計上の扱いが難しい存在です。例えば、10,000円の消耗品を買って、1,000円分相当のポイントを受け取ったという場合。色々な考え方がありますが、一般的には、(少なくとも一旦は)ポイント分を無視して計上することが多いのではないかと思います。仕訳で言えば、(借) 消耗品費 10,000 / (貸) 現金 10,000として、ポイントは一旦無視する。

この処理をする理屈付けとしては、大きく二つのポイントがあります。一つはポイントを受け取ったからといって、使うとは限らないということ。お金に失効という概念はありませんが、ポイントは失効しうるので、財産的価値が確定していない、だからこそ、少なくとも受け取った段階では会計上認識しないという考え方です。

もう一つは実務的な問題ですが、法人そのものが購入するのではなく、従業員が立替払いをすることが多いというもの。従業員が代理で購入した場合、ポイントが従業員に帰属するのか、あるいは法人に帰属するのか。法人のポイントカードを出してポイントを受け取った場合は迷うことはありませんが、一般的にこの種のポイントカードは個人のみを対象にしていることが多いため、個人のポイントカードを使うことが普通ですし、結果的に個人にポイントが帰属することが多いのではないかと思います。正直微妙なラインですが、あまり細かく言っても管理が面倒になるだけなので…というのがよくあるケースかと思います。

一方で、ポイントを利用して購入した場合は、無視するわけにもいきません。何分、無視をすると貸借がバランスしなくなるので。例えば、今度は5,000円の消耗品を買って、その際に4,000円分は現金で、1,000円分はポイントで支払ったというケース。これを(借) 消耗品費 5,000 / (貸) 現金 5,000としてしまうと、実際に支払った現金は4,000円ですから、現金のバランスがあわなくなります。この場合、(借) 消耗品費 4,000 / (貸) 現金 4,000というポイントを値引きとしてとらえて処理するケースと、(借) 消耗品費 5,000 / (貸) 現金 4,000、(貸) 雑収入 1,000として、ポイントを雑収入として処理するケースがあります(こちらのスモビバの記事もご参照ください)。あくまでも個人的に、ですが、費用としてはあくまでも5,000円発生していると考え、後者の方がベターかなと思います。

ただ、いずれにせよ処理が面倒くさいので、会社の経費にするものは、ポイントを利用しない、というのが、一番あるあるな処理方法なのではないかと思います(こちらの記事でもそういったトーンになっていますね)。結果的に、ポイントの獲得にせよ、ポイントの利用にせよ、会社の会計上は認識しないということになります。なお、念のためですが、そう処理すべき、ですとか、その処理でいい、ということではなく、おそらく実務的にはそう処理されていることが多いのではないかということです。

ここで問題となるのが、キャッシュレス・ポイント還元。キャッシュレスで購入すると、基本的に5%分(一部2%)のポイントが還元されます。これがポイントが付きますというだけであれば、これまでのクレジットカードで払った時にポイントが付与されるのと同様の処理になるかと思います。ただ、今回のキャッシュレス・ポイント還元では、主にコンビニを中心に、その場で還元されたポイント分を差し引くということも行われています。

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例えば、こちらのレシートでは、合計310円に対し、キャッシュレス還元額として6円、結果的に決済(iD決済)対象額は304円となっています。これを厳密に処理すると、(借) 消耗品費 304 / (貸) 未払金 304 (iDは最終的にクレジットカード決済なので未払金で計上)という還元は値引きとして処理するケース、もしくは、(借) 消耗品費 310 / (貸) 未払金 304、(貸) 雑収入 6という還元を雑収入として処理するケースが考えられます。

どちらにしても、(言い方は悪いですが)たかだか6円のために、余計な処理が必要となることになります。特に値引き処理の場合、なおかつ、この例のように標準10%と軽減8%が混在している場合には、前回お話ししたように、値引額6円を標準10%分と軽減8%分に按分処理する必要があります。これは実務上は成り立たないレベルの処理です。

ここで一点留意が必要なのが、販売者(この場合はファミリーマート)は還元額6円を負担はしていないということです。キャッシュレス・消費者還元事業は国の事業であり、還元額6円は最終的に国が負担することになります。ですので、販売者が認識する売上はあくまでも還元前の310円です。これは、レシートではなく、いわゆる領収書を発行してもらうとはっきりします。

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これは全く同じ取引内容で、後日買い物した際に今度は領収書として発行してもらったものなのですが、領収額は310円となっています。

また、今回のキャッシュレス・消費者還元事業でのポイントの即時充当処理は、国(キャッシュレス推進室)によると、「会計上は商品価格に変更はなく、一度ポイントが付与され、そのポイントが会計時に使用されたことになり、値引きとはなっていない」という建て付けになっていますから、この観点からも値引き処理にする必然性はないのではないでしょうか。

ということからすると、厳格に処理するとしても、雑収入アプローチ、つまり、(借) 消耗品費 310 / (貸) 未払金 304、(貸) 雑収入 6になるのではないかと思います。雑収入(還元額)を国からの補助金と捉えるのであれば、「一般的に対価として支払われるものではないから」消費税不課税とされており、この考え方に立てば、値引額の按分処理も避けられることになります。

ただ、それでも、相応に手間なのは事実です。事業者の立場からすると、手間を避けるために、あえてキャッシュレスで支払わないという、完全に本末転倒な行動すら誘引してしまうのではないかと思います。

そう考えると、本事業の目的、そして、来年6月までのわずか9ヶ月間しか実施されないという特殊性を鑑み、従業員が立替えた場合などに、還元額自体を収入とも値引きとも認識しないという取扱いを、あくまでも例外的取扱いにはなりますが、認めていただくことも検討に値するのではないかと思います。

なお、本ブログは私岡本個人の見解を記したものであり、会社としての弥生の見解とは必ずしも一致しません。また上記取扱いについて正しいことを保証するものでありません。ただ、この問題の影響の大きさを鑑み、こういった考え方もあるのではないかと問題提起するものです。いずれにせよ、どう扱うのかが不透明な状態が一番困りものです。早急に明確に、なおかつ実務上の負担を考え、無理のない形で取扱い方法が明確化されるべきだと考えます。
posted by 岡本浩一郎 at 22:29 | TrackBack(0) | 税金・法令

2019年10月03日

一括値引き

結果が惨敗だったレシートからの自動仕訳。改善を図るべく10月1日以降、軽減税率対象商品が入ったレシートを収集していますが、思った以上に対応が難しいケースがあることが見えてきました。特に対応が難しいのが、値引き処理の扱い。

レシート上の単品が例えば20%オフになっている、といったケースはあまり問題ないのですが、難しいのが全体に対し値引きが適用されているケース。例えば、10%対象が550円(税込)で軽減8%対象が540円(税込)、合計1,090円に対し、100円の値引きが適用され、最終的な支払額が990円となっているケース。これまでは単純に990円という金額さえ記録できればよかったのですが、今回から、税率毎の区分が必要になります。

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国税庁や商工会議所が例として示しているのが、このようなレシート。この場合には値引き後の10%対象500円、8%対象490円それぞれを記録する必要があります。つまり、これまでより確実に難易度が増します。とはいえ、必要な情報自体はレシート上に明記されているので、人での対応は(手間ではあるにせよ)可能ですし、機械での読み取りも(精度は落ちる可能性はありますが)対応できる範囲です。

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しかし稀に、合計や税率毎の対象額が計算された後に値引きが適用されているレシートが存在します。例えば、こちら(成城石井さんに対し他意はなく、むしろ気に入っているお店なのですが、例としてわかりやすいのであげさせていただきました)。

合計531円の下に、袋代引2円というのが記載されているのがお分かりいただけるでしょうか。これはいわゆるエコバッグ割引で、包装用のビニール袋を断ればお会計から2円割引になるというもの。2円割引になって、実質的に529円なのですが、これを判定することは人間にはできても、機械では容易ではありません。

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異なるパターンとしては、ドン・キホーテで税込1,001円以上購入する際に、majicaという独自の電子マネーで支払うと、円単位の端数を切り捨てる(値引きとなる)「円満快計」というドン・キホーテらしいユニークなサービスがあるのですが、これは、税額の計算がされた後に値引きが適用されるので、税抜の小計と外税で計算された消費税の金額を足しても、この値引き分だけ合計額と合わないというものがあります。

いやいやでも合計額さえわかっていればいいのでは、と思うかもしれません。でも、もはやそれではダメなのです。どこから値引きされたのかが明示されていない場合、税率毎の対象額で、値引額を按分処理し、10%分の値引き金額と軽減8%分の値引き金額に分割しなければいけないとされています。例えば、上の例では、10%対象額が税抜998円、軽減8%対象額が税抜640円なので、値引きの8円は、10%分が8円×998 / 1,638 = 5円、軽減8%分は残りの3円ということになります(端数処理もやっかいですが、ここでは省略)。

そういった意味では、上記の成城石井の袋代引2円も、10%対象額が税込248円、軽減8%対象額が税込240円なので、厳密には10%分で1円の値引き、8%分で残りの1円の値引きと按分処理しなければならないことになります。

今回の軽減税率の導入にあわせ、レシート上で税率毎の内訳が示されるようになっていくと想定していましたが、現実は残念ながらそうではなかったということです。当面、この値引きの按分問題を回避するには、なんとも残念な対応ですが、標準税率分と軽減税率分を別々の会計にするという対応をおススメするしかないのが現状です。
posted by 岡本浩一郎 at 20:08 | TrackBack(0) | 税金・法令

2019年09月30日

いよいよ明日から

いよいよ明日は10月1日。明日には消費税率が10%に引上げとなり、同時に軽減税率が導入されます。もう数時間となる深夜から10月1日となるわけですが、実際に10%が適用となるケースは、業界や会社によって運用が異なるようです。ただ、いずれにせよ明日の朝には全て切り替わっているはずです。今晩は価格マスターの切り替えなどで夜間作業となる同業の方も多いのではないかと(皆、頑張りましょう!)。

もはや残り時間が少ないですが、弥報オンラインのこちらの記事が10月1日に向けて準備すべきことという観点でしっかりまとまっていますので、是非ご一読ください。「9月30日の営業終了後にやること」もしっかりとまとめられています。

ここ数日間、色々なお店でどんな変化が表れているのか、注意して観察しているのですが、やはり大手資本(もしくはそのフランチャイズ)ほど、しっかりと対応が進んでいるようです。

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こちらは、弥生のオフィスがある秋葉原UDXのファミリーマート。この、お客さまに「商品ごとに申告していただく」というオペレーションが実際にうまく回るかどうかはわかりませんが、しっかりと検討の上、準備はされていることが伝わります。

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一方で、今日たまたま目にしたこちらのお店。ラーメン屋さんなのですが、価格改定に伴う準備のため1日半お休みするというのは結構びっくりです(笑)。ただ、ひょっとしたら、原材料をしっかりと吟味して、原価をキチンと算出し、この機会に原価に見合った値付けをしようということかもしれません。さすがに1日半お休みすることをおススメするわけではありませんが、この機会に、しっかりと価格設定を考えることはとても大事だと思います。

仮に10月1日は一旦これまで通りの税込価格で続けるにしても、このままでいいのか、必ず、しっかりと考えていただきたいと願っています。いざ納税の際に「こんなはずじゃなかった」とならないように。
posted by 岡本浩一郎 at 20:07 | TrackBack(0) | 税金・法令

2019年09月27日

消費税の負担(その2)

前回は、事業者は実際には、消費税を負担しない、ただし、資金繰りには大きな影響を与えるとお話をしました。ご質問をいただいたので、もう少し解説したいと思います。消費税を負担するのは、あくまでも最終的な消費者。例えば、下の図の左側のケースのように、課税売上が2,000万円の小売事業者がいるとして、この場合は、現状であれば消費税8%分となる160万円を消費者から受け取って(預かって)いるはずです。預かっている消費税を納付するだけですから、事業者自身が負担しているわけではありません。

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ただし、実際には、預かっている160万円を丸々納付するわけではありません。前回も少しお話ししたように、仕入の際に支払った消費税額を控除(仕入税額控除)し、その差分を納付することになります。例えば、この事業者の課税仕入が1,200万円だったとすると、その仕入に際し、消費税96万円を払っているはずですから、実際の納付額は、預かった160万円から、既に支払っている96万円を控除し、差分となる64万円を納付することになります。

10月1日から、消費税率が10%になるとどうなるか。上の図の右側のケースとなりますが、課税売上2,000万円は変わらないとして、消費者から預かる消費税は200万円になります。これに対し、課税仕入1,200万円に対し支払っている消費税が120万円になりますから、納税額はその差分の80万円となります。課税売上/課税仕入の額は変わりませんが、納税額が64万円から80万円に1.25倍に増えるということです。

繰り返しになりますが、これはあくまでも預かっている消費税を納付するだけですから、事業者の収益性には影響を与えません。ただし、資金繰りという観点では、いざ納付という際に、あれ手元資金がない、と慌てるケースが多いのが実際です。

さらに、今回は軽減税率が導入される訳ですが、食材の仕入は軽減税率になる一方で、売上は標準税率となる外食では、納税額がさらに増えることになります。

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左側はこれまで。先ほどと同様で、課税売上が2,000万円/課税仕入が1,200万円のケースで、納税額は64万円。右側は10月以降で、課税売上が2,000万円/課税仕入が1,200万円は変わらないものの、仕入のうち、600万円が食材の仕入であり軽減税率の対象であるとすると、仕入に際して支払っている消費税額が合計で108万円となるため、納税額は92万円となります。つまりこれまで(64万円)よりも1.44倍に増えることになります。

やや蛇足ですが、どんな事業者であっても(外食でなくても)、多少は軽減税率対象の経費は発生します。お客さま用にお茶やペットボトルのお水を買うことはほぼどんな事業者でもありますからね。厳密に言えば、額は小さいのですが、これも納税額に影響します。

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もう一点注意が必要なのは、移行期の納税額。消費税は、前期の確定消費税額に応じ、中間納付が求められるのですが、当期が8%、翌期が10%となる場合に、中間納付額が過少(実際には10%なのに、前期の8%基準で計算されるため)となるため、結果的に期末での納付税額が膨らむケースがあります。

なお、実際には課税売上が2,000万円の場合には、簡易課税を選んでいるケースも多いと思いますので、上の説明はあくまで一般論として理解いただきたいのですが、いずれにしても、納税額は意外に大きくなるということには注意が必要です。

三たび繰り返しますが、消費税は消費者が負担するものを事業者が変わって納付するだけなので、事業者の収益性には基本的には影響はありません。ただ、資金繰りには大きな影響が出ますので、注意が必要です。もっとも、事業者の収益性には影響がないというのは、消費税率のアップ分を、お客さまに転嫁できてこその話。価格の見直しについてお話ししましたが、税込価格だし、まあ、そのままでいいやとしてしまうと、消費税のアップ分を事業者が負担することになります。先ほどの飲食業の例で言えば、税込価格を変えないでいると、納税額の増加分28万円をお客さまから預かったおカネではなく、自らの利益から捻出することになってしまいます。つまり、収益性に大きな影響があり、なおかつ資金繰りにも大きな影響が出るということです。

納税時にこんなはずじゃなかったと後悔しないためにも、10月1日以降の価格についてどうするのか、しっかりと考えなければなりません。
posted by 岡本浩一郎 at 17:59 | TrackBack(0) | 税金・法令

2019年09月25日

消費税の負担(その1)

消費税というのは様々ある税金の中でも、最も理解が難しい税金なのではないかと思います(それが軽減税率でますます難しくなるわけですが)。

消費税を納めるのは、あくまでも消費者。例えば、私がレストランで食事をして、そのお代が税抜10,000円だったとすると、10月以降は消費税が10%課され、1,000円で合計11,000円支払うことになります。あくまでも消費税を支払っているのは消費者としての私ですが、この時に支払っている先は税務署ではなく、食事をしたレストランであるというのがミソ。納税者である消費者が直接に納付するのではなく、事業者を通じて納付する。だからこそ、間接税と呼ばれます。

いやいや、事業者だって、仕入する時に消費税を支払っているよね。例えば、上記のレストランのケースで食材が3,000円かかっているとして、10月以降は消費税が軽減税率となる8%課され、消費税240円を払っていることになります。確かに支払っている。ただし、これは基本的には支払ったままとはなりません。というのは、上記の消費者から預かった消費税を納付する際に、この240円を差し引いて納付することができるからです。これを仕入税額控除といいます(もちろん店舗の家賃等でその他支払った消費税額も差し引くことができます)。つまり一旦支払っても、後でそれを取り戻すことができるということです。

ということで、事業者は実際には、消費税を負担はしていません。消費者から日々預かっているものを、最終的に納付するだけなので、あくまでも左から右に行くだけのはず。ただ、現実問題として、預かった消費税が便利な運転資金として使われてしまっていることは決して珍しくありません。結果として、いざ事業者が消費税を納付する段になると、おカネがない。そんな中で納付するだけに、重い負担感を感じるのは事実です。

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ここで注意が必要なのは、納付する時の負担感は、税率の変化以上に重くなるということ。例えば、消費税率は2014年4月に5%から8%に変わりましたが、これを機に納付する税額は1.6倍に増えました。今回は、8%から10%に変わるわけですが、納付する税額は1.25倍に増えることになります。8%から10%だと差は2%とそれほど大きくないように思えますが、納付する税額で考えると1.25倍ですから、相当大きなインパクトです。

もちろん、理論上は消費者から預かっているだけ。しかし、実際には事業者の資金繰りに大きな影響を与えます。10月の消費税率引上げに向けて、準備が必要ですが、10月1日を無事に迎えられればいい、だけではなく、その先の納税まで含めてしっかりと備えていく必要があります。
posted by 岡本浩一郎 at 17:28 | TrackBack(0) | 税金・法令

2019年09月20日

「※)は軽減税率(8%)適用商品」

今日は大阪に来ています。9月に入ってから、弥生カスタマーセンターへのお問合せが増えてきましたが、先週からはさらに一段とボリュームが増えています。今日は大阪でカスタマーセンター総会を開催し、今期の振り返りと来期に向けた情報共有を行うのですが、今年は例年とは異なった形での開催となります。例年は一年に一度だけ、営業時間を短縮し、総会を開催しているのですが、今年に関しては、これだけお問合せが集中している中で、営業時間を短縮することはできないと判断し、通常通り17:30までお問合せ対応を継続します。その後ようやく総会を開催ということで、例年よりはだいぶ短めの総会となりますが、その分中身の濃い総会にしたいと思っています。

さて、先週末はDean & Delucaというお店で惣菜を買って、それをつまみながら家で映画を見ました。このお店のお惣菜はとても美味しいのでおススメですが、お値段もまあまあ(クオリティを考えると、外食するよりは安いけれど、というレベル)。まあ、たまの贅沢です。話が逸れましたが、このお店のレシートで気になる表記が。

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そう、レシート下部に「※)は軽減税率(8%)適用商品」という表記があります。もちろんまだ軽減税率は導入前ですから、実際に「※)」が付いている明細はないのですが。おそらくレジの消費税10%・軽減税率対応は済んでおり、9月30日夜間に、商品マスターを更新すると、実際に「※)」が付き始めるのではないかと思います。その観点でこのレシートを改めて見ると、消費税の計算の欄が、

外税2対象額 8.00% ¥7,993
外税2 8.00% 639

となっています。おそらく10月以降は標準税率分が外税1となり、

外税1対象額 10.00% 3,000
外税1 10.00% 300
外税2対象額 8.00% 5,000
外税2 8.00% 400
合計 8,700
(内消費税等 700)

という表記になるのではないかと思います。実際には10月1日からとなるわけですが、「※)は軽減税率(8%)適用商品」という表記を見て、これはいよいよ来たな、と実感しました。

とはいえ、これだけしっかりと準備を進めているのはやはり大手だからこそ。イオンにしても、セブンイレブンにしても、10月1日にしっかりと対応してくるのだと思います。

一方で、弥生のお客さまである中小事業者の対応は正直まだまだ。最近は色々なお店に行くたびに、レジが気になってしょうがありません。ただ、見かけるのはほとんどが明らかに複数税率に対応していないだろう旧型レジ。レジはそうそう買い替えるものではありませんからね。現実問題としてレジを買い替えようとしても、もはや納期が10月に間に合わないケースもあると聞きます。

今から10月1日を延期するとなると更なる混乱を招くだけでしょうから、ここまで来たらこのまま進むしかないと思うのですが、当初の混乱はもはや避けえないと思いますし、行政当局としても、当初に関しては色々な面で大目に見るという柔軟な対応をお願いしたいところです。

事業者の方としては、とにかくできるだけ早く準備を進めたいところです。レジを買い替えるというハード面での対応はもちろん、自社の商品/サービスで何が軽減税率の対象になるかを把握する。そして新しい税率での値付けを考えることもしっかりと進めたいところです。明日からは三連休。事業者の場合、三連休だからといってお休みではない(むしろその方が忙しい)ケースも多いのが悩ましいところですが、10月1日まであとわずか、やるべきことをしっかり進めていきましょう。
posted by 岡本浩一郎 at 17:36 | TrackBack(0) | 税金・法令

2019年09月13日

一体資産

先月、行きつけのお店で消費税率の引上げと軽減税率導入への準備が進んでおらず、心配だと書きました。このお店は割烹ですから、基本的に外食。外食については、前回お話ししたように、軽減税率の対象とはなりません。ですから少なくとも軽減税率の影響はない…と思いきや、そうではないのです。このお店では、煮豆や栗の渋皮煮(どちらも美味しいですよ)などを持ち帰り用に販売しているのですが、これはテイクアウトの扱いになりますから、軽減税率の対象となり、結果的に軽減税率への対応が必要になるのです。このお店のように、外食のお店でも、テイクアウトがあったり、あるいは出前などがあれば、外食自体は軽減税率の対象にはなりませんが、お店として軽減税率の影響はない、とはならないのです。

2019091301.jpg

我が家はもう何年もこのお店にお節をお願いしています。これがまあ、とんでもなく美味しい(数量限定なので、この記事が発端になって買えなくなると困ります、笑)。お節もテイクアウトですから、基本は軽減税率対象……なのですが、実は対象とならないケースもあります。弥生の消費税改正あんしんガイドでも解説していますが、重箱入りの高級お節は軽減税率の対象外となるケースがあります。

それはなぜか。重箱自体に価値がある場合、飲食料品とそれ以外の物品を組み合わせて「一体資産」として販売しているとされるからです。わかりやすい例が、おもちゃ付きのお菓子ですね。

このお店のお節は、しっかりとした白木の箱に詰めて販売されています。ただ、この箱に資産価値があるかというと、ないという理解でいいかと思います。要は、取っておくのが当然であれば資産価値があるということになりますし、基本的には使い捨て容器として捨てることが前提であれば、資産価値がないということになります。我が家の場合、最初はこの白木の箱を勿体ないと取ってあったのですが、何年かするうちに、結局使わないので、捨てるようになりました。ということは結局資産価値はないということですし、結果的に一体資産ではないということになります。

この点については、消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)では、「飲食料品の販売に際し使用される包装材料等が、その販売に付帯して通常必要なものとして使用されるものであるときは、その包装材料等も含め『飲食料品の譲渡』に該当します」と解説されています。飲食料品の譲渡に該当するということは、軽減税率の対象となるということです。

ということで、お節を詰めて販売するのに一般的に使用される木の箱であれば、軽減税率対象ですし、それ自体に価値がある豪華な重箱であれば、一体資産として軽減税率の対象外となるということかと思います。この観点で言えば、通販で買うことができるフグ刺しについては、プラスチックの皿に乗ったものであれば軽減税率の対象。それ自体に価値がある有田焼の皿に乗ったフグ刺しは一体資産として軽減税率の対象外となりそうです(そもそも高級食品であるフグが軽減税率対象って、という声もありそうですが…)。

ただし、一体資産だから自動的に軽減税率の対象外となるわけではありません。一体資産であっても、1) 一体資産の価格が少額(税抜1万円以下)のものであり、2) 軽減税率の対象となる飲食料品が主たる要素を占める(2/3以上)場合には、軽減税率の対象となります。ですから、おもちゃ付きのお菓子(税抜1万円以下)については、飲食料品の割合が2/3以上であれば、軽減税率対象である一方で、2/3未満であれば軽減税率対象外となります。具体的に言えば、ビックリマンチョコは軽減税率の対象、一方でミニカー付きのガム(←コンビニで見るとつい車種をチェックしてしまいます)は軽減税率の対象外となるようです。

この記事のために、改めて調べているのですが、実に複雑ですね。実務として、本当にこれが成り立つのか、正直、心配です。
posted by 岡本浩一郎 at 17:18 | TrackBack(0) | 税金・法令