2021年09月28日

日本もPeppolに参加

デジタル庁のウェブサイトでひっそりと取り上げられていますが、9/14(火)にデジタル庁がOpenPeppolのメンバーとして加入しました。これまでにもお話ししてきましたが、OpenPeppolというのは、Peppolという電子インボイスの仕様を管理し、国際的なネットワークを運営している管理団体です。

日本においてPeppolをベースとした電子インボイスの仕組みを運営するためには、原則として国内における管理主体(Peppol Authority)が必要となります。この管理主体はその国の行政機関が担うことが一般的であり、日本の場合はデジタル庁がPAとして機能することとなり、その第一歩としてデジタル庁がOpenPeppolにメンバーとして加入したということになります。OpenPeppolのサイトにおいても、日本におけるPAとしてデジタル庁の名前が既に掲載されています。

これまでEIPAではデジタル庁(内閣官房)と協力しながら、OpenPeppolと日本におけるPeppolの利用に向けた検討を進めてきましたが、あくまでも議論/検討フェーズ。議論はまだまだ続くのですが、今回のデジタル庁のOpenPeppol加入は、正式な運用に向けての第一歩ということになります。

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電子インボイスは欧州を中心に導入/利用が進んでいますが、日本もようやく正式にこの電子インボイスの世界にデビュー(?)したことになります。今日からウィーンでE-INVOICING EXCHANGE SUMMIT VIENNAという電子インボイスに関する国際会議が開催されており、今日開催された"Global Developments in Peppol"というセッションでは、デジタル庁から2名が登壇し、日本におけるPeppol導入に向けた取組みを発表しました。

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実は私も明日の"OpenPeppol Developments"というセッションで、EIPAの立場から、日本におけるPeppol導入に向けた取組みを発表することになっています。ウィーンでの会場開催とリモート開催のハイブリッドなので、日本からも参加できるのですが、1セッションのためだけに参加するには少々お高いんですよね(リモート参加でEUR900なり)。私の持ち時間は15分だけですので、さすがにそのためにEUR900払って見てくださいとは言えません(苦笑)。資料については、後日EIPAのウェブサイトで共有できると思います。

ちょっと意外かもしれませんが、海外ではこの種のカンファレンスがもう普通に開催されるようになってきています。私もよければウィーンでとお誘いを受けたのですが、行くことはできても帰ってからの隔離措置があるため、泣く泣く断念しました。ウィーンは行ったことがないので、行ってみたかったなあ、というのが正直なところです(笑)。
posted by 岡本浩一郎 at 23:28 | TrackBack(0) | デジタル化

2021年09月16日

月締請求書と月まとめ請求書

前回までにお話ししてきたように、Peppolをベースとした電子インボイスの日本標準仕様(JP Peppol)では、日本で一般的な商慣習である合算請求書(一般的には月締請求書)をサポートします。都度請求書では、1納品書 = 1請求書となりますが、合算請求書はN納品書 = 1請求書。合算請求書では、月末など所定のタイミングでN通(複数)の納品書を合算して請求書を発行します。

一方で、同じN通の納品書を基に作られる「請求書」ですが、実態として合算請求書と大きく異なるパターンがあります。正式名称はないのですが、ここでは便宜上月まとめ請求書と呼びます。このケースでも、納品後すみやかに納品書を発行し、月末など所定のタイミングで複数の納品書を合算して月まとめ請求書を発行します。

ん、合算請求書(月締請求書)と月まとめ請求書で何が違うの?と思われるかもしれません。というか、そう思いますよね。

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違いは、合算請求書(月締請求書)の場合は、インボイス(適格請求書)は合算請求書であるのに対し、月まとめ請求書は実はインボイス(適格請求書)ではないということです。この場合は、納品書がインボイスも兼ねているのです。つまり合算請求書(月締請求書)の場合には、納品書はインボイスではなく、合算請求書がインボイスとなるのに対し、月まとめ請求の場合には、納品書がインボイスとなり、月まとめ「請求書」は実はインボイスではないということです。

では、月まとめ請求書は何なのか、というとこれは支払案内という位置付けになります。一定期間の間にこれだけの納品があり、それぞれに対し納品書(兼請求書)で請求済みです。ただ、念のために、期間合計を再度送付しますので、お支払いの程お願いします、というものです。

なかなか難しいですね。EIPA標準仕様策定部会でも、この点でかなり悩んだので、ある意味悩んで当然です。これをすっきりと理解するためには、そもそも何がインボイス(適格請求書)なのか、ということを理解する必要があります。次回は、何がインボイス(適格請求書)なのかという点について改めてお話ししたいと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 22:00 | TrackBack(0) | デジタル化

2021年09月14日

合算請求書は何が違うのか

前回電子インボイス推進協議会(EIPA)として、Peppolをベースとした日本標準仕様(JP Peppol)の策定を進めるにあたって、まずは日本の商慣習を確実にサポートするために、日本で必要とされる業務プロセスの整理から着手したとお話ししました。結果的に、事前の想定通り、月締請求書など、合算型のインボイス(Summarized Invoice)がギャップであることを確認したこと、その上で、JP Peppolにおいては、合算型のインボイスをサポートすべきと結論付けた、とお話ししました。

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前回お話ししたように、現状のPeppolは納品書と請求書が1:1に対応することが前提となっています。これは日本でも存在する業務プロセスです。明確に区別するために、これを都度請求書と呼ぶことにします。都度請求書では、1納品書 = 1請求書となり、納品後すみやかに請求書を発行することになります。実務としては、納品書がないケースも、逆に納品書が請求書を兼ねており、明示的な請求書がないケースもあります。ただ、ここで重要なのは、請求の対象が一回の納品に限られているということです。

これに対し、合算請求書はN納品書 = 1請求書となります。合算請求書は一般的には月締請求書と呼ばれることが多いと思いますが、合算するサイクルは必ずしも月締めではない(例えば、2週間に一回、あるいは2ヶ月に1回)ため、汎用的な名称としてこれを合算請求書と呼んでいます。合算請求書では、月末など所定のタイミングで複数の納品書を合算して請求書を発行します。

都度請求書の場合には、請求の対象が一回の納品に限られているため、その納品が確かになされているかを確認すれば支払の是非を判断することができます。これに対し、合算請求書の場合には、請求の対象が複数の納品にまたがるため、支払の是非は、合算請求書上の明細がどの納品に由来しているかを識別し、その納品が確かになされているかの確認が必要になります。

支払の是非をシステム的に判断し、処理を自動化できるようにするためには、都度請求書の場合には、請求書単位で由来となっている納品書が(納品書番号などで)特定できれば大丈夫です。これに対し合算請求書の場合ではどうなるか。合算請求書は請求の対象が複数の納品にまたがるため、特定のための納品書番号が複数になります。これを請求書単位で由来となっている納品書番号を複数持つという考え方もありますが、どの明細がどの納品由来なのかが一意に特定できず、処理としては難しくなります。どの明細がどの納品に由来しているかを一意に特定できるようにするためには、明細単位で由来する納品書番号を持てるようにする必要があります。

前回、JP Peppolは合算請求書(月締請求書)をサポートしますと書きました。これは、都度請求書と合算請求書のデータ構造(データモデル)は全く一緒とした上で、明細単位で納品書番号への参照情報を持てるようにしたことによって、参照する納品書番号が1つであればそれは都度請求書、複数あればそれは合算請求書として処理できるようにしたということです。
posted by 岡本浩一郎 at 23:37 | TrackBack(0) | デジタル化

2021年09月02日

業務プロセスの整理

電子インボイス推進協議会(EIPA)では、昨年12月の平井大臣への提言を経て、2021年1月に標準仕様策定部会を組成し、Peppolをベースとした日本標準仕様(JP Peppol)の策定を進めてきました。

具体的に策定作業を進めるにあたっては、かなりの作業量が見込まれることから、部会の中で、検討作業に一定の時間を費やすことができる会員をボランティアとして募集し、コアチームを組成、このコアチームが、Peppolの国際管理団体であるOpenPeppolと協議をしながら策定を進めてきました。また同時に、行政側の受け皿となる内閣官房IT戦略総合室と連携を取りながら進めてきました。内閣官房IT戦略総合室といえば、そう、昨日正式に発足したデジタル庁の母体となった組織です。

標準仕様の策定にあたっては、最初から詳細仕様の検討を行うのではなく、まずは日本の商慣習を確実にサポートするために、日本で必要とされる業務プロセスの整理から着手しました。

Peppolは元々の名前(Pan-European Public Pocurement Online: 汎欧州公共調達オンライン)が示す通り、欧州発祥の仕組みです。このため、Peppolの土台には、EN16931-1という欧州の電子インボイス標準規格が存在します。コアチームでは、まずこのEN16931-1で定義されている12の業務プロセスを検証し、日本の商慣習とのFit/Gapを分析を実施しました。

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結論としては、これは事前の想定通りですが、月締請求書など、合算型のインボイス(Summarized Invoice)がギャップであることを確認しました。欧州等でも複数の納品書をもとに合算された合算型のインボイスは存在しますが、一般的とは言えません。このため、現状のPeppolでは、合算型のインボイスはサポートされていません。つまり、現状のPeppolは納品書と請求書が1:1に対応することが前提となっています。これに対し、月締請求書をサポートしようとすると、納品書N通をまとめて1通の請求書とするというN:1の関係性をサポートする必要があります。

ここで考えるべきは、そもそも本当に月締請求書が必要なのかどうか。これはまた改めてお話ししたいと思いますが、デジタルを前提として考えると、業務効率の向上と早期の業績把握を通じた経営のリアルタイム化の観点から、日本においても請求業務は合算型から都度型に変わっていくべきであると考えています。しかし一方で、2023年10月の時点において電子インボイスが一般的に利用される状態を目指すためには、一旦は概ね現状の業務プロセスのままでも電子インボイスを利用できるようにすべきと考えました。このため、JP Peppolにおいては、合算型のインボイスをサポートすべき、と結論付け、検討を進めてきました。

そうです、JP Peppolは月締請求書をサポートします。欧州発の仕組みを日本で活用するという中で、ある意味わかっている人ほど(海外では月締請求書が一般的でないとわかっている人ほど)、月締請求書はどうなるんだ、と心配されていました。実際、その懸念は妥当だった訳ですが、OpenPeppolにも合算請求書の必要性を理解してもらい、晴れてJP Peppolでサポートすることとなりました。
posted by 岡本浩一郎 at 21:38 | TrackBack(0) | デジタル化

2021年08月31日

JP Peppol

先週金曜日にお話しした通り、電子インボイスの日本標準仕様のドラフト第一版について、まずは電子インボイス推進協議会(EIPA)内で公開しました。まずはEIPA内でフィードバックを受けた上で、9月中にEIPAからデジタル庁に提出する予定です。その後デジタル庁による確認を経て、デジタル庁から広く一般に公開される予定です。

既にお話ししている通り、電子インボイスの日本標準仕様は国際的に利用が進んでいるPeppolという仕組みをベースとしています。このため、電子インボイスの日本標準仕様は、Peppolの日本版ということで、JP Peppolと呼んでいます。あくまでも仮の名称で、将来的に正式版として公開される際には、ニックネームが付くのかもしれませんが。ちなみに、シンガポールもPeppolをベースとした電子インボイスを推進しており、当初は"Peppol E-Invoicing"という名称でしたが、その後既に普及している電子決済の仕組みPayNowにあやかってInvoiceNowというニックネームが付けられたようです。

さて、JP Peppolを策定するために、まずは基本的なポリシーを確立した上で、検討を進めてきました。それはまず何よりも、今あるものを最大限活用し、安直な拡張は行わないということ。Peppolをベースとしながらも、日本ではあれも必要、これも必要と拡張を続けると、結果的にPeppolとはだいぶ異なるものにもなりかねません。しかし、そもそもの話として、ヨーロッパを中心に既にグローバルの30ヶ国以上でで活用が進んでいる仕組みだからこそ、Peppolをベースとして採用した訳です。安直な拡張は、国際標準との乖離を生むことになり、海外との取引での活用を困難にすると同時に、今後のPeppolの発展に追従することが困難になります。

一方で、日本標準仕様として策定しながら、それが実際に活用されなければ意味がありません。現状の日本の業務プロセスとかけ離れた仕様では活用されません。そのため、日本で広く活用されるために、日本において必要とされる最小限の拡張は行うこととしています。

一方では、安直な拡張は行わない。しかしその一方では、日本において必要とされる最小限の拡張は行う。これはなかなか微妙なバランスです。だからこそ、必要な時間はかけて何が本当に必要なのか議論を行い、単純に今ある業務プロセスを漫然とサポートするのではなく、デジタル化が進む中で業務プロセスがどのようにあるべきかを精査し、拡張は最小限にとどめる努力をしてきました。

結果的に、JP Peppolにおける請求書のデータモデル(データ項目の一覧)は、ベースとなったPeppolからわずか2項目の拡張にとどまっています。しかもこの2項目は、日本だけのための拡張ではなく、将来的に他の国でも活用しうる項目として拡張しています。つまり、日本標準仕様を国際標準仕様とほぼ同一のものにすることができた、ということです。まだ現時点ではドラフト第一版であり、まだまだ見直しが入る可能性はありますが、本当の意味で国際標準仕様に基づいた日本標準仕様を策定するという意味では、よい第一版にはできたのではないかと思います。

次回以降、少し時間をかけながら、どういった検討を行ったのか、結果的にどのような日本標準仕様になっているのかをお話ししたいと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 21:42 | TrackBack(0) | デジタル化

2021年08月27日

ドラフト第一版

本日、電子インボイス推進協議会(EIPA)では、会員向けに電子インボイスの日本標準仕様のドラフト第一版を公開しました。これまでにもお話ししたように、電子インボイスの日本標準仕様としては、既に国際的に利用されているPeppolをベースとして検討を進めてきました。つまりPeppolの日本版(JP Peppol)ということになります。

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今日時点ではEIPA内での限定公開であり、まずは9月上旬にかけてEIPA会員によるレビューを行います。その後、9月中を目途にEIPAからデジタル庁に提示する予定です。広く一般に対する公開は、デジタル庁での検証を経て、デジタル庁から行われる予定です。

EIPAには既に100社以上が会員として参加していますが、活動としては標準仕様策定部会と広報部会という二つの部会を中心に進めています。6月に公開したEIPAのウェブサイトは広報部会の手によるものです。今回のJP Peppolドラフト第一版は標準仕様作成部会の中に設置されたコアチームでこの1月から検討を進めてきました。コアチームに参加しているのは、ミロク情報サービスPCASAPTKCワークスアプリケーションズ、そして弥生の6社です。やることは山積みですが、人数が多すぎても同期をとることが難しくなるため、あえて少数精鋭で進めてきました。

EIPA自体が会社のカベを超えて日本における電子インボイスの利用を促進するための組織ですが、標準仕様策定部会のコアチームはまさにその象徴として、6社(+アドバイザー+Peppol側のカウンターパート)が会社や組織のカベを超えて一緒に検討を進めてきました。正直最初はやるべきことの多さに圧倒され、本当に終わるのか不安でしたが、チームワークで着実に検討を進め、まずはドラフト第一版を公開するところまで漕ぎ着けることができました。コアチームの皆さま、本当にお疲れさまでした。

とはいえ、現時点ではまだドラフト第一版。この先来年春に向けてドラフト第二版、その後に正式版を予定しており、やるべきことはまだまだ残っています。これからEIPAに参加しようという方、その中でもコアチームで汗を流そうという方、是非お待ちしております。
posted by 岡本浩一郎 at 21:59 | TrackBack(0) | デジタル化

2021年08月25日

本当のDXとは

前回はデジタル化を進めていかなければならない、とお話ししました。デジタル化というとDX(デジタル・トランスフォーメーション)というキーワードを聞かない日はありません。率直に言って、最近はDXが完全に流行り言葉になっているように感じます。あっちでもこっちでもDX。ただ、世の中で喧伝されているDXは、ほとんどの場合、IT化を意味しているようです。「ウチのサービスを使えば、はい御社もDX」といった宣伝もよく目にしますよね。

ただ、私はDXはもっと本質的、かつ不可逆な変化をもたらすものだと考えています。私なりにDXを定義すると、「デジタルを前提として、〇〇〇のあり方を根底から再定義すること」となります。会社や事業のDXであれば、「〇〇〇」に「会社や事業」が入ります。社会的システム・デジタル化研究会で取り組んでいるのは、「デジタルを前提として、社会的システムのあり方を根底から再定義すること」です。

DXを考える時に、私が一番の好例として引き合いに出すのが、Amazon.comです。Amazonって何業でしょうか。小売業? IT業? 物流業? Amazonが1995年に創業した際には、オンラインの書店としてスタートしました。書店ですから小売業ですね。ですが、20年以上経った今、もはやAmazonを何業と定義することは難しいのではないでしょうか。

2002年にはAmazon Web Services (AWS)をスタートし、今やAWSは多くのITベンダーにとってなくてはならないものとなると同時に、この10年間の爆発的なベンチャーブームの立役者でもあります。AWSだけを見れば、小売業という痕跡は一切残っていません。また、最近のAmazonは巨大な物流業という側面も強くなっています。巨大な倉庫を何ヶ所も運営し、アメリカでは自社で多数の貨物飛行機を運行しています。日本でも、気がつけばヤマト運輸などの物流業者ではなく、自社で配送する割合も増えています。

小売業だったらどこに店舗を構えるかが最も重要、ITサービスを提供するためには自社でサーバーを構築しないと、物流業は全国をカバーするのが当たり前。そういった常識をデジタルで否定する。デジタルを前提として、小売業のあり方を、IT業のあり方を、物流業のあり方を再定義する。それこそがAmazonが猛烈な勢いで進めていることです。

そう考えると、Amazonが無人の店舗をAmazon Goとして運営したり、高級スーパーマーケットであるWhole Foods Marketを買収したりということも実は一貫性があることがわかります。直近でも百貨店のような小売店を出店すると報道されました。Amazonがオンライン書店からスタートしたからと言って、Amazonは別に全てがオンラインであるべきだとは考えていないのだと思います。オンラインでも実店舗でも、デジタルを前提としてそのあり方を見直しているだけ。オンラインでの再定義がある程度進んできた中で、今度は実店舗のあり方の再定義にも取り掛かっている(なおかつオンラインと実店舗の相乗効果も狙っている)と見るべきではないでしょうか。

単なるIT化やオンライン化ではない。Amazonが進めているのはデジタルを前提として、小売業、IT業、物流業…のあり方を根底から再定義すること。本当の意味でDXというからには、そこまで踏み込まなければならないのだと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 22:34 | TrackBack(0) | デジタル化

2021年08月23日

デジタル化は一年にしてならず 2021

昨日私の地元である横浜市の市長選挙が行われました。私は週末は所用があったため、水曜日のワクチン接種のついでに期日前投票で投票を済ませておきました。今回の選挙の最大の争点は横浜市へのIR誘致の是非でしたが、IR誘致賛成としていた候補者(2名)の合計得票率が17.2%。これに対しIR誘致反対としていた候補者(6名)の合計得票率が82.8%という結果でした。IR誘致の是非という観点では明確に民意は示されたということかと思います(ただし前回より10%以上上がったとはいえ、投票率が49.05%にとどまるというのは残念なところです)。

横浜市の市長選挙はあくまでも地方選挙であり、横浜市の将来をどう考えるかかと思います。その点国政選挙とは明確に分けて考えるべきものです。ただ、なかなかそうは割り切れない部分はありますし、結果を見れば、やはり影響はあったのかと思います。ここから先、政治的にはかなり流動的に状況になるのでしょうか。

政治的に流動的な状況になるにしても、それによって歩みを止めたくないのはデジタル化です。奇しくもこの環境下で来週9/1(水)にデジタル庁が発足します。今こそデジタル庁を司令塔として日本のデジタル化に取り組まなければならない中で、政治の思惑に左右されないことを願っています。

約一年前に「デジタル化は一年にしてならず」という記事を書きました。「一年でできることをさっさとやることは構いませんが、紙の電子化で仕事をした気になるのではなく、5年、下手をすれば10年かかるかもしれない抜本的な見直しにこそしっかりと取り組むべきだ」とお話ししました。実際に約一年経ってどうか。正直何かが変わったと実感することはないですよね。デジタル庁そのものがまだ発足していないという事情はあるにせよ、一年という限られた時間で本質的な成果を出すことは容易ではありません。

ただ、この一年間、まだ具体的な成果には至っていませんが、社会的システム・デジタル化研究会として、また、電子インボイス推進協議会として、多くの方の支援を受け、日本の社会的な仕組みのデジタル化に向けて着実に前進することができました。この過程において、政治も行政も民間も様々な方とお話ししてきましたが、デジタル化に向けて問題意識がこれ程共通化されたことはいまだかつてなかったのではないかと思います。これだけ皆の問題意識がしっかり噛み合っている中で、ここで動くことができなければ、永遠に動くことができない。まさにNow or Neverだと感じています。

政治がどのように動くのにせよ、デジタル化の歩みを止めない。デジタル庁を司令塔として、5年、10年という時間軸で日本の社会をデジタルを前提として作り替え、圧倒的に効率的な(もちろん大事なのは、それによって皆が幸せになる)社会を実現していかなければならないと考えています。もちろん、社会的システム・デジタル化研究会としても、電子インボイス推進協議会としても、弥生としても、私個人としても、そのための協力は引き続き惜しまないつもりです。
posted by 岡本浩一郎 at 19:17 | TrackBack(0) | デジタル化

2021年07月16日

CSAJからSAJへ

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私が理事を務めているコンピュータソフトウェア協会(CSAJ)はこの7月よりソフトウェア協会(SAJ)へと名称を変更しました。「第四次産業革命ではあらゆるモノにソフトウェアが使われる時代になり、デジタル化によってソフトウェアの重要性がますます増してきています。第三次産業革命で使われていたコンピュータという名称に限らず、すべてのソフトウェアを対象とし、デジタル社会を推進するという意味を込め、ソフトウェア協会とすることとしました」というのが名称変更の背景です。ソフトウェアはもともとはハードウェアのおまけとして扱われてきたという歴史がありますが、近年はむしろソフトウェアが主役になりつつあります。私的に咀嚼すれば、今回の名称変更は、ソフトウェアが、コンピュータというハードウェアから真に独立し、むしろ主役になるという象徴的な意味があるのだと思います(一方で、ソフトウェアとハードウェアはお互いに必要としあう関係であることには変わりはありませんが)。

名称変更にあわせ、ウェブサイトは"saj.or.jp"ドメインに変更となっています。ちなみにSAJと言えば個人的には全日本スキー連盟を思い浮かべます(もっとも私はSIA派でした)。よくドメイン名が空いていたなと思いますが、全日本スキー連盟は"ski-japan.or.jp"なんですね。なるほど。ただ、大正14年に結成されたという歴史のある団体だけに、"SAJ"と検索すると全日本スキー連盟の存在が圧倒的です。新生ソフトウェア協会はSEOという意味では苦労しそうです(笑)。

私がSAJ(CSAJ)の理事に就任して約3年が経ちます。理事としてどこまで貢献できているかは正直疑問です(空気を読まない発言も度々ですし…、ただそれも一種の貢献でしょうか)が、お蔭さまで視野は広がったと思います。ここ一年半ほどは、社会的システム・デジタル化研究会(BD研究会)電子インボイス推進協議会(EIPA)での活動に力を入れていますが、これらの活動はSAJで得られた経営者同士の信頼関係があってこそ成り立ったものです。

今後もBD研究会やEIPAの活動はもちろん、SAJの「(あえて)空気を読まない」理事としての活動もしっかりと継続していきたいと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 21:25 | TrackBack(0) | デジタル化

2021年07月08日

EIPAの広報活動(続きの続き)

EIPAデーとなった先週の木曜日、まずは午前中に平井大臣を訪問し、経過報告を行ったとお話ししました。終了後は、横浜に移動。私は横浜在住なので、帰宅して在宅勤務と思いきや、今回はみなとみらいで開催されていたODEX TELEXでの登壇のための移動です。とはいえ、実際には一旦帰宅して時間調整。午後3時前からみなとみらいのパシフィコ横浜で登壇ということで、午後2時に家を出て移動。

パシフィコ横浜は家の近所で、普段ランニングでもすぐ近くを走るのですが、イベントの登壇で入るのは初めて。まだ新型コロナウイルス禍の影響は顕著であり、なおかつ当日は結構な雨ということで集客状況を心配していたのですが、状況を考えればまずまずの入り。私の講演にも多くの方に参加いただくことができました。地元の知り合いが見に来ているということはないのですが、それでも地元での講演ということで、少々誇らしい気持ちでした。

この横浜での講演の様子は、ODEX TELEXのオンライン展示会ということで、7/12(月)から7/16(金)の期間、特設サイトで見ていただくことができるようです。電子インボイスって何?という方にこそ是非ご覧いただければと思います。

ちなみにこの展示会、来年は東京での開催のようです。今年はオリンピックで東京の会場を使えないので、ということなのでしょうね。個人的には横浜の方が嬉しいのですが(笑)。

30分の講演を終えて、自宅にとんぼ返り。午後4時からはEIPA標準仕様策定部会のコアチームの定例です。近所ですから、充分間に合いました。コアチームはMJS/PCA/SAP/TKC/弥生の有志(+アドバイザー)で構成されていますが、当初からZoom上でのやり取りです。従来型の対面での打合せであれば、移動も必要となりこれだけの会社のメンバーのスケジュールを合わせるのは大変だったと思いますが、Zoomであれば会社を超えた共同作業もスムーズです。私自身、オフィスからでも家からでも、それこそ出張先からでも都合のいい形で参加できています(実際、この一週間前の大阪での登壇の際には、淀屋橋の大阪カスタマーセンターに移動し、そこでコアチーム定例に参加、その後帰路につきました)。

ちなみに、コアチームの中には、コア of コア(CoC)チームが存在し、CoCチームは週に1〜2回のペースで協議を行っています。木曜日夕方のコアチーム定例は、CoCチームの成果を確認すると同時に、今後の進め方のすり合わせが中心となっています。さらにこれらとは別に、二週間に一度はPeppolの国際管理団体であるOpenPeppolのメンバーと協議を行っています。こうやって改めて振り返ると、結構な密度で検討・協議を行っています。インボイス制度が導入されるのは2023年10月。まだ2年以上あるとは言え、2023年10月の時点で電子インボイスが当たり前のように使える環境を作るとなると、時間は足りません。正直かなりの負荷はかかっていますが、ここが頑張りどころだと考えています。
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2021年07月06日

EIPAの広報活動(続き)

前々回は、電子インボイス推進協議会(EIPA)の広報活動に力を入れ始めたこと、そして前回は、電子インボイス推進協議会(EIPA)の広報活動の一環として、EIPAのウェブサイトを立ち上げたということをお話ししました。

先々週に引き続き、先週もEIPAの広報活動を行いました。特に先週の木曜日はEIPA関連の活動が続くEIPAデーとなりました(もちろん、常時EIPAの仕事をしている訳ではなく、たまたま一日に集中したということです)。

まずは午前中にEIPAとして平井卓也デジタル改革担当大臣を訪問しました。昨年12月にも、電子インボイス推進協議会(EIPA)で、平井大臣を訪問し、電子インボイスの日本標準仕様について、Peppol(ペポル)と呼ばれる国際規格をベースとして策定すべき、そして電子インボイスの普及を官民連携で進めるべきという提言を行いました。これを受けてこの1月より、内閣官房およびPeppolの管理団体であるOpenPeppolと協働で日本標準仕様の策定作業を進めており、その経過報告をさせていただきました。

今回は経過報告ということで、全てがこのように整理できました、というものにはまだなっていません。ただ、何をすべきか、何が課題なのかについては概ね整理ができました(資料については、EIPAのウェブサイトで公開しています)。

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平井大臣からは、民間団体であるEIPAの取組みに感謝の意を表していただくと同時に、政府としても、9月に立ち上がるデジタル庁がしっかり取り組んでいくとご発言いただきました。電子インボイスを日本の事業者が当たり前のように使うようになるには、民間だけでも、逆に行政だけでも力不足です。民間主導で電子インボイスによる業務効率化を実現していく、それを行政としてしっかり後押ししていく、つまり、民間と行政の両輪で牽引しなければなりません。

平井大臣訪問後は横浜に移動。私は横浜在住なので、帰宅して在宅勤務と思いきや、今回はみなとみらいで開催されていたODEX TELEXでの登壇のための移動です。(続きが続く)
posted by 岡本浩一郎 at 23:24 | TrackBack(0) | デジタル化

2021年07月02日

これもEIPAの広報活動

前回は、そろそろ電子インボイスの広報活動に力を入れていかないといけませんと書きました。EIPAの広報活動という意味では、実は先月半ばにEIPAのウェブサイトを公開しています。これまでは事務局業務を委託しているSAJ(ソフトウェア協会)のウェブサイトに間借りしていたのですが、内容はかなり限定的でした。

ということで、独自のドメイン(eipa.jp)を取得し、ウェブサイト(https://www.eipa.jp/)を立ち上げようということで、春から準備を進めてきました。EIPAの会員は100社を超えており、おそらく会員それぞれはウェブサイト構築に軽く何千万円というお金をかけているものと思います。ただEIPAとしては、収益活動は行っていませんので、潤沢に資金があるとは言えません。活動資金として会員から年間12万円の会費をいただいてはいるのですが、今後活動が広がっていくことを考えると、ウェブサイトに多大なお金をかけることはできません。

最小限のお金で何とか、ということで、幹事法人であるTKCさんの関係会社であるアイ・モバイルさんのホームページ制作・運営サービスを特別価格(!?)で提供いただきました。実際のページ制作にあたっては、インフォマートさんなど、広報部会のメンバーに手弁当でご協力いただき、今回晴れて公開となりました。ビジネス上はぶつかることもある複数の会社が集まって一つの目的のために協力するというのは、このような活動の醍醐味ですね。弥生としてもとても刺激になっています。

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ウェブサイトのコンテンツは、現段階では必要最小限というところです。トップページにあるNEWSというコーナーは、電子インボイスに関連する掲載記事や政府動向などの情報を掲載していますので、電子インボイスを取り巻く直近の環境を理解いただけるのではないかと思います。
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2021年06月30日

EIPAの広報活動

昨年12月には、電子インボイス推進協議会(EIPA)で、平井大臣を訪問し、電子インボイスの日本標準仕様のベースとしてPeppol(ペポル)と呼ばれる国際規格をベースとすべきという提言を行いました。そしてその後今年に入ってから、実際に日本標準仕様の策定を進めてきました。日本標準仕様が固まるまでにはまだまだ先は長いのですが、ある程度進捗してきたこと、また、今年の10月にはインボイスの発行事業者としての登録が始まることから、そろそろ電子インボイスの広報活動に力を入れていかないといけません。

やらないといけない、と思いつつ、なかなか動けていなかったのですが、この二週間は立て続けにイベントでお話しすることになりました。

先週火曜日には、「日本の経理をもっと自由に」プロジェクトの「日本の経理をもっと自由にサミット 2021」で、電子インボイスとEIPAの活動について簡単にお話しさせていただくと同時に、パネルディスカッションにも参加させていただきました。

また先週木曜日には、ODEX TELEX(第1回 電子化・オンライン化 支援EXPO)の大阪会場で、やはり電子インボイスとEIPAの活動についてお話しさせていただきました(こちらは30分)。コロナ禍ということで、来場者は本来集まったであろう人数よりはやや少ないのかな、と感じましたが、それでもこういった展示会の活気は久し振りに味わうもの。

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この種の展示会で講演するのも久しぶりです。展示会会場での講演は周囲のノイズが大きいので、やや話しにくい(自分の声がどれだけ聞こえているのかがわかりにくい)のですが、ああ、そういえば、こんな感じだったんだな、と少し懐かしさも感じました。

ODEX TELEXについては、実は明日の横浜会場でも登壇することになっています(セッションYT-12、14:45〜15:15)。明日は結構な雨のようなので、どれぐらいの方がご来場されるのか、心配ではあります。ただ、今回のコンテンツは7/12(月)〜7/16(金)の期間でオンライン展示会特設サイトとして公開されるようなので、後日オンラインで見ていただく、というのでもいいかもしれませんね。

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ODEX TELEXの大阪会場は南港のインテックス大阪。そうです、弥生の大阪カスタマーセンターは、2015年に現在の場所(淀屋橋)に移転する前は、インテックス大阪に隣接するワールドトレードセンターにありました。もう6年になるんですね、懐かしい。
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2021年06月14日

シャウプ氏の遺言

6月頭に6社共同で発表した「デジタル化による年末調整の新しいあり方に向けた提言」は、年末調整制度という「昭和の仕組み」を、デジタルを前提として業務プロセスの根底から見直すデジタル化によって、業務そのものをシンプルにし、社会的コストの最小化を図ろうという提言です。前回は、そのための一つの方策として、年末調整を年始に実施することを提言しているとお話ししました。年末調整で所得金額の見積りが必要とされるのは、所得金額が確定していない年内に年末調整手続きを行うから。それであれば、年末調整手続きを年明けに実施することによって、所得金額が確定した状態とし、所得金額の見積りを不要としようというのが、業務の見直しをともなうデジタル化の発想です。

業務の見直しという観点では、実はもっと大胆な提言も行っています。それは、年末調整の計算(年税額および過不足額の計算)の主体を見直すというもの。現在、年税額および過不足額の計算は基本的に年末に事業者が行っていますが、これを年始にするだけではなく、行政(国税庁)が設置・運用するシステムにおいて一元的に計算する方式も選択肢になりうると考えています。これによって、事業者の負担を大幅に低減することが可能になります。

実は、年末調整業務の主体を事業者から行政に移管することを70年以上前に提言した方がいました。その名はカール・シャウプ氏。そうです、あのシャウプ勧告のシャウプ氏です。シャウプ勧告は、GHQの要請によって1949年に結成された、シャウプ氏を団長とする日本税制使節団(シャウプ使節団)による日本の租税に関する報告書であり、その後の日本の税制に多大な影響を与えました。いわば日本の戦後税制のバイブルとも言えるものです。

実はこのシャウプ勧告(Appendix D C.2.b.(5))では、事業者による年末調整業務は、税務当局による対応が困難であるための措置と位置付けられており、税務当局が対応できるようになり次第、年末調整業務は税務当局に移管すべきとされている(“The process should be shifted, however, to the Tax Offices as soon as such a shift is possible.”)のです。

私も最初にこの事実を知った時にはとても驚きました。私が年末調整に大きな問題意識を感じていることは本ブログでしばしばお話ししてきましたが、その問題点を70年前に指摘した方がいたとは。

シャウプ勧告は日本の戦後税制のバイブルになりましたが、年末調整業務に関しては、勧告が実践されることはありませんでした。シャウプ氏は2000年に亡くなられたのですが、年末調整業務に関する勧告は、いわば遺言として残ったままになっている訳です。年末調整業務は事業者にとって、年末という一般的に業務繁忙とされる時期に、多大な時間を要する負荷の大きい業務です。ただ、それだけに、業務を見直さずに単純に行政に移管するのは物理的に不可能でした。

しかし、それは業務を見直さなければの話。これまでは紙を前提としていたからこそ、従業員から紙で情報を収集することは事業者でなければ難しかった。では、デジタルを前提として見直したらどうでしょうか。年末調整に必要な情報は全てデジタルで収集される。後は、それらの情報を元に一定のロジックで計算をするだけだったら。そうです、それはもう純粋にコンピューターに任せればいいだけの話です。税務署の職員が事業者の代わりに計算するのではなく、あくまでも行政のシステムが一元的に処理ということであれば、不可能が可能になるはずです。

今回の提言はかなり野心的なものです。その実現は一筋縄では行かないと思っていますし、少なくともそれなりの時間はかかるでしょう。しかし、この提言が実現した暁には、事業者の負担を大幅に低減すると同時に、70年前の遺言がついに実現することになるのです。
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2021年06月10日

年末調整を年始に

前回は、先週6社共同で発表した「デジタル化による年末調整の新しいあり方に向けた提言」(年調提言)の背景をお話ししました。年末調整制度は、戦後に税制のあり方が賦課課税から申告納税へと根本から変わる中で導入されたものであり、その際には、コンピューターが一般に利用できない時代を反映し、当然のことながら、全てが紙を前提とした業務として整備された。それから70年(!)以上が経ち、昭和、平成を経て令和の時代になっても、「昭和の仕組み」を引きずっている、とお話ししました。

このように制度は昭和の仕組みのままなのですが、一方で、近年、税制の複雑化とともに、年末調整が極端に複雑化しています。これは、確定申告は年間の所得額が確定した状態で行うのに対し、年末調整では所得金額の見積額を用いる必要があるため。具体的には、近年の税制改正により、配偶者(特別)控除や基礎控除の適用に当たって給与所得者本人の所得金額の見積りが必要となりました。また、配偶者に関しても、共働きの増加により基礎控除額の水準以上に所得を有することが一般化し、見積りにより精度を求められるようになりました。

本ブログでは、2018年末に配偶者(特別)控除の件について「率直に言って、かなり複雑になりました。配偶者特別控除の対象となりうる配偶者の所得額上限が引き上げられるなど、必ずしも増税ではありませんし、この改正が一概に悪いという気はありません。それでも、制度が複雑化しすぎていることは事実かと思います。業務ソフトを開発している弥生の社内ですら、今年の申告書を記入するのは大変という声が上がっている中で、一般の事業者において全社員が正しく理解し、正しく運用するのはなかなか難しいのではないかと危惧しています」とお話ししました。個人的に年末調整制度が限界を迎えた、抜本的な見直しが必要と痛感したのは、まさにこのタイミングです。

前回お話ししたように、年末調整は、確定申告の簡易版として戦後に生まれました。確定申告の簡易版ですから、確定申告より簡単であるべきです。しかしどうでしょうか、簡易版であるはずの年末調整ですが、ここ数年は確定申告より処理が複雑となっています。

年末調整業務は、全国の膨大な数の事業者で、年末という一般的に業務繁忙とされる時期に、多大な時間をかけて業務が行われています。一方で、税制がより複雑化する中で、事業者の税制に関する知識が十分とは言えない状況も生まれています。結果的に、年末調整業務が必ずしも正しく実施されていない可能性も大きくなっています。これに対し、行政でその正確性を検証するのは、事業者と行政での二度手間です。つまり民間、行政両者で多大なコストを要しているのが現状の年末調整業務です。

これをどのように見直すのか。そのカギを握るのは、電子化ではなく、デジタル化であるということ。つまり、今ある業務をそのままに紙を電子化するのではなく、業務そのものを見直すということ。昨年末から提供開始された国税庁による「控除申告書作成用ソフトウェア」はもちろん意味のあることだと思いますが、所詮紙の電子化に過ぎません。

詳細は今後お話ししますが、今回の提言では、年末調整を年始に実施することを提言しています。上でお話しした所得金額の見積りが必要とされるのは、所得金額が確定していない年内に年末調整手続きを行うから。それであれば、年末調整手続きを年明けに実施することによって、所得金額が確定した状態とし、所得金額の見積りを不要としようというのが、業務の見直しをともなうデジタル化の発想です。
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2021年06月08日

昭和の仕組み

先週6社共同で発表した「デジタル化による年末調整の新しいあり方に向けた提言」(年調提言)は、社会的システム・デジタル化研究会(BD研究会)として2つ目の提言となります。昨年6月に発表した「社会的システムのデジタル化による再構築に向けた提言」(全体提言)では特定の制度や業務領域に限定せず、社会的システム全般として、デジタルを前提として業務プロセスの根底から見直すデジタル化によって、業務そのものをシンプルにし、社会的コストの最小化を図るべきとしました。

全体提言の第2章では、紙を前提とした旧態依然とした社会的システムの例として年末調整業務について取り上げました。ただ、この際には、こういった点が課題だと指摘はしつつ、解決の具体的な方策にまでは踏み込んでいませんでした。その後、昨年後半から一年近くかけて、年末調整をどのようにデジタル化し、社会的コストを最小化するのかについてかなり具体的な議論を積み重ねてきた結果が今回の年調提言という訳です。

誤解のないようにお話しすると、年末調整制度がそのものがダメだという気は全くありません。実際問題として、今回の提言の中では、年末調整制度の必要性を改めて検討し、「社会的コストの最小化という観点からは、年末調整制度は、パターン化された所得税申告を高い効率で処理するという意味で有効である」と結論付けています。制度としては今でも有効だけれども、業務のあり方が昔から抜本的に見直されていないことが問題だと考えています。

これまでにもお話ししてきたことですが、確定申告制度、年末調整制度など、日本における現状の社会的システムの多くは、戦後に紙での処理を前提として構築されたものです。

年末調整制度は、戦後に税制のあり方が賦課課税から申告納税へと根本から変わる中で導入されたものです。原則としては申告納税であるものの、一般個人(給与所得者)には税制に関する知識が十分ではないこと、また、事務処理能力が十分でないことを踏まえ、事務処理能力が相応にあるであろう事業者が、給与所得者の実質的な申告事務を肩代わりすることになったという経緯があります。またこの際には、コンピューターが一般に利用できない時代を反映し、当然のことながら、全てが紙を前提とした業務として整備されました。

それから70年(!)以上経ちました。昭和は終わり、平成も終わり、時代は今や令和。しかしこの令和の時代になっても、「昭和の仕組み」(しかも昭和の前半)を引きずっているのが年末調整制度なのです。この間、コンピューターは当たり前のものになりましたし、インターネットによって、情報のやり取りも圧倒的に簡単になりました。そしてクラウドコンピューティングによって、システムの処理能力の圧倒的な拡張性も実現されました。それでも、年末調整制度の前提は昭和と変わらず、紙のままなのです。

確かに事業者においては、年末調整業務に際し弥生給与のようなパッケージソフトウェアを使うことが一般化してきました。また、保険料控除証明書の電子化も始まりましたし、国税庁による「控除申告書作成用ソフトウェア」の提供で比較的小規模な事業者でも、従業員による申告書作成の電子化も可能となりました。それでも、対象となる年末調整業務自体は、紙を前提とした昭和の仕組みから本質的には変わっていません。

翻って、現時点でデジタル化を前提として年末調整業務をゼロから考えるとすると、これまでとは同様な仕組みとはならないのではないか。これが今回の年調提言の出発点です。
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2020年12月24日

なぜ後工程からなのか

前回は、インボイス制度をきっかけにどのように業務効率化を実現しようとしているのかお話ししました。目指すのは、見積〜受発注〜請求〜支払/入金消込業務という一連の商取引がデジタルで一気通貫となる世界。社内にとじたIT化ではなく、社外ともデジタルでつながる世界。一方で、このビジョン自体は弥生として少なくとも5年前から掲げつつも、なかなか進んでいないともお話ししました。

なぜ、進んでいないのか。この一連の流れは、ざっくり言って、見積〜受発注〜納品という前工程と、請求〜支払/入金消込業務という後工程に分解することができます。このうち、これまで注目されてきたのは前工程です。商取引の中で、直接的に付加価値が生まれているところは、発注から納品が中心になりますから、そこにフォーカスが当たること自体不自然なことではありません。いわば日なたの存在。それに対し、後工程はどちらかというと、それの付随工程。いわば日陰の存在。

この種の仕組みは一般的にEDI(Electronic Data Interchange, 電子データ交換)と呼ばれており、大企業を中心に導入が進んでいますが、これらEDIは基本的に受発注が中心です。そして受発注を中心としたEDIは大企業を中心に業界単位では標準化されていますが、業界を超えて利用できる日本標準仕様は実現していません。これは受発注というプロセスには業界の固有性が大きいためです。例えば、電機製造業で必要とされる仕様と流通業で必要とされる仕様に差が大きい。このため、業界内では成立しても、業界を超えて利用できる標準仕様の策定が難しいということです。

これに対し、後工程は比較的業種による固有性が小さいのが特徴です。受発注は対象となるモノやサービスが多岐に渡り、標準化が難しいのに対し、請求〜支払は言ってしまえばおカネのやり取りですから、業種によるプロセスの差が大きくありません。だからこそ、業界単位ではなく、日本全体での標準仕様を策定しやすいと考えています。どちらかと言えば日陰の存在の後工程ですが、逆に日陰の存在であり、固有性が大きくないが故に標準化も実現しやすいと考えています。

もう一つ、電子インボイスという後工程から進めようとする理由は、電子インボイスの前提となるインボイス制度が2023年10月にスタートすることが決まっているから。標準化は望ましいものではあっても、明確な期限がなければ、なかなか意見がまとまらないもの。それに対し、電子インボイスについては、2023年10月という明確な期限があるため、個々の意見は脇において、皆で標準化を進めやすいと考えています。

とは言え、今回決めたPeppolをベースに、来年半ばまでに日本標準仕様を策定するまで(そしてそれ以降も)様々なハードルが待ち受けているものと考えています。ただ、この機会で誰でもが利用できる、利用することが当たり前の仕組みを作らないと、もう永遠に実現できないのではないか、という危機感も持っています。日本全体としてもデジタル化に対する機運が高まっているこのタイミングで、まずは後工程から、日本の商取引のデジタル化に取り組んでいきたいと思っています。

Happy Holidays!
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2020年12月22日

電子インボイスが実現する業務効率化

前回はインボイス制度についてお話ししました。そしてこれを単なる法令改正対応に留めるのではなく、電子インボイスを通じて圧倒的な業務効率化を実現したいということをお話ししました。どうやって業務効率化を実現するのか、まず現状を振り返るところから始めたいと思います。

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一般的な商取引(ここでは特にB2B取引を想定)では、特に中小企業においては、見積から請求、支払までの業務の多くが紙と手作業で成り立っています。見積書をFaxで送信し、それに対し発注書もFax。納品書は紙として納品物に添付し、請求書は別途郵送。請求に対し、入金がなされたかは、預金通帳の明細を逐次チェックして確認。ここでポイントになるのは、決してIT化されていない訳ではないということです。例えば、見積書や請求書は弥生販売Misocaで作成するというのは決して珍しいことではありません。つまり社内においてはIT化されている訳です。しかし、会社と会社の間では途端にアナログになってしまいます。これは会社と会社の間の見積や発注、あるいは請求といった情報をデジタルでつなぐための標準規格が存在しないため、誰でも確実に使えるアナログな標準規格であるFaxや郵便になってしまっているからです。

結果的に、社内のIT化は進んでも、業務効率はなかなか上がりません。売り手側には見積書のデータはある。ただ、それがデータとして買い手に渡ることはないので、買い手は、改めて発注データとして手で入力する必要があります。見積から支払、入金の消込まで、改めて手で確認する、入力するということが何回も繰り返される訳です。

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この一連の流れをデジタル化すればどうなるか。売り手から見積がデータとして買い手に渡る。それは(内容に問題がなければ)そのまま買い手の発注データになる。発注データは逆に買い手から売り手に渡り、売り手にとっての受注データになる。その後、納品と同時に、納品データも買い手に渡って検収データになる。請求データは買い手に渡って、支払データのもととなり、支払データは入金データになる。そして請求データと入金データをシステムで突合することによって、自動消込が可能になる。

全てがデジタルでつながる世界。この世界では、既に存在する情報を改めて手で入力するという必要がなくなります。そしてデジタルデータをもとに多くの業務が自動で処理できるようになります。

あれ、でもこの話どこかで聞いたことがあるな、という方。実に鋭い。実は2016年2月に弥生がMisocaを買収した際に、弥生がMisocaともに実現したいビジョンということでお話ししました。もう5年近く前の話になります(遠い目)。ただ、残念ながら、Misocaとともに掲げたビジョンを実現するには至っていません。

今回の電子インボイスで実現するのは、このビジョンのうち後ろ半分ということになります。すなわちまずは電子インボイスを通じて、請求〜支払/入金消込業務の一気通貫を実現することになります。この部分だけでも大きな業務効率化になるはずです。さらには、まずは電子インボイスが一般化することによって、後工程が自動化され、それが呼び水となって結果的には前工程、すなわち受発注もデジタル化すべきだという流れにつなげていきたいと考えています。

次回は、なぜビジョンの実現に時間がかかっているのか、そして今回なぜ後工程から進めていくのか、についてお話ししたいと思います。
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2020年12月18日

インボイスって?

月曜日に電子インボイス推進協議会(EIPA)を代表し、平井卓也デジタル改革担当大臣を訪問し、日本における電子インボイスの普及を通じた業務デジタル化に向けた提言を行いました。これを受け、翌日には平井大臣が記者会見において、EIPAの取り組みについて、「デジタル化を通じたバックオフィス業務の効率化の実現は非常に重要な課題でありますので、デジタル庁の設置を待たずして、官民連携の上、早急に進める必要のある、デジタル化のフラッグシッププロジェクトだと考えております」と言及いただきましたこちらの動画ニュースでも取り上げられており、私もしっかりと映り込んでおります(笑)。なお、蛇足ですが、このニュース中の「会計データを標準化」というのはミスリードで、正確には「会計データのもととなる電子インボイスを標準化」です(個人的には会計データの標準化も取り組みたい課題ではありますが)。

2023年10月のインボイス制度導入に向けて、大きな一歩を踏み出すことができた、と感じていますが、一方で、一般的な受け止め方としては、「そもそもインボイスって何だ?」ということではないでしょうか。

インボイスというのは、消費税法上、正式には適格請求書と言います。消費税を納めるのは、消費者。ただ、消費者が直接納税するのではなく、事業者が消費者から受け取った消費税から、仕入れ時に支払った消費税の差額を差し引いて納めるということは、以前お話しした通りです。仕入れの際に支払った消費税を差し引くことができるのは、仕入税額控除が認められるからです。

この仕入税額控除を認める条件を、適格請求書等を受領した場合に限るというのがインボイス制度です(適格請求書に加え、適格簡易請求書なども認められるため、適格請求書「等」と総称されます)。仕入税額控除というのはもちろんこれまでも存在したわけですが、これまではいわゆる一般的な請求書等でよく、その請求書は誰でも発行できます(厳密に言えば、軽減税率の導入を契機に、軽減税率の適用を明記する区分記載請求書等が必要になっています)。

これに対し、適格請求書については、発行できるのが、登録された課税事業者のみであるということ、また、記載すべき情報が明確に定められていることが特徴です。例えば、適格請求書には、発行した事業者の登録番号を必ず記載する必要があります。受け取った事業者は、この登録番号によって、発行事業者が確かに登録された事業者であるかどうかを確認することができます。

そういった意味で、インボイス制度は、これまでになかった全く新しいドキュメントが必要になるわけではありません。あくまでも今現在普通に存在している請求書の延長線上にあります。しかし、管理という意味では確実に煩雑になります。これまでは、請求書の発行者が課税事業者であるかどうかを意識する必要はありませんでしたが、今後は、課税事業者であるかどうかを明確に峻別する必要があります。

インボイス制度を法令改正という観点だけで見れば、事業者としては何も嬉しいことはありません。これまで以上にしっかりと管理する必要がある。まあ、一言でいってしまえば手間が増えるということです。これに対し、むしろ手間を減らし、業務の効率化を実現しようというのが、今回取り組む電子インボイスです。

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EIPAでは、EIPAが目指すべきこととして2つを掲げています。一つは、事業者が法令である「適格請求書等保存方式」に対応できるようにすること、ただそれ以上に重要だと考えているのが、二つ目である、デジタル化によって圧倒的な業務効率化を実現することです。では、どうやって圧倒的な業務効率化を実現するのか。次回以降じっくりとお話ししたいと思います。
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2020年12月14日

EIPAからの提言

本日12/14に、電子インボイス推進協議会(EIPA)を代表し、SAP内田会長、OBC和田社長と私の3名で、平井卓也デジタル改革担当大臣を訪問し、EIPAからの提言を行いました。

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EIPAでは、7月末の設立以来、毎月1回のペースで日本における電子インボイスの標準仕様に関する検討会合を続けてきましたが、先週12/9に、Peppol(ペポル)と呼ばれる国際規格をベースとして、日本標準仕様を策定すべきであると結論付けました。

Peppolは、電子インボイスなどの電子文書をネットワーク上で授受するための国際的な標準規格です。当初は汎ヨーロッパでの公共調達の仕組みとしてスタートしましたが、近年ではシンガポールやオーストラリアなどでも官民を問わず電子インボイスの仕組みとして活用されるようになっています。

Peppolは国際的な規格であり、これを日本でも活用するとなると、国の関与は欠かせません。良くも悪くも、民間だけではPeppolには対応できません。そのため、民間団体(65社の正会員と特別会員3団体、7名)の総意としてPeppol採用すべきと提言した上で、国の積極的関与をお願いしました。

平井大臣はご承知のように、デジタル改革の担当大臣。日本のデジタル化の旗振り役であり、来年に設置されると言われているデジタル庁の推進役でもあります。今回、その平井大臣から日本における電子インボイス普及に向けて全面的な賛同をいただけました。今後発足するデジタル庁の「フラッグシッププロジェクト」になるとまで言っていただくことができました。

社会的システム・デジタル化研究会であり、電子インボイス推進協議会の活動には、私自身が今年かなり時間を割いてきました。今回、日本における電子インボイスの普及に向けて、民間が一つにまとまり、さらに今回国としての全面的な協力も得られたことは大きな成果だと思っています。ただ、これはあくまでも出発点。Peppolを日本で実現するまでにはまだまだ山谷が予想されますし、それ以上に本当に目指すのはPeppolを動かすことではなく、事業者の皆さんが実際に活用し、業務効率化を実現すること。正直、長い道のりだとは思います。ただ、普段は競争することもある民間が一つにまとまったこと、そして国としてもデジタル化を最重要課題の一つと位置付け自ら動こうとしていることを考えれば、今度こそ、本当の意味での業務のデジタル化を成し遂げられるのではないかと考えています。

次回以降、電子インボイスの普及で目指すこと、そしてPeppolとはどういった仕組みか、お話ししたいと思います。

それにしても、私もブログで旬な話題を発信するように心がけていますが、今日は平井大臣に負けました(笑)。さすがデジタル改革担当大臣です。
posted by 岡本浩一郎 at 18:41 | TrackBack(0) | デジタル化