2022年12月09日

Business productivity vs. Tax collection

前回お話しした通り、今週水曜日/木曜日にSingaporeで開催されたE-Invoice Exchange Summitに参加しました。私がE-Invoiceに関して本格的に取り組むようになったのはここ3年間弱ですが、今回、初めて関連する人たちと対面で会うことができました。

もっとも、もちろん会うことだけが目的ではありません。二日間のセッションを通じ、様々な国が今何を目的にどのように取り組んでいるのかについて理解を深めることができました。

これらセッションを通じ、改めて理解を深めることができたのが、そもそもなぜE-Invoiceに取り組むのか、大きく二つのアプローチがあるということ。二つのアプローチとは、E-Invoice推進の目的が、事業者の業務効率向上(Business productivity)にあるのか、あるいは、付加価値税の徴税効率化(Tax collection)にあるのか。これらは、必ずしも排他的ではなく、両方とも目的になりうるのですが、完全に並列というよりはどちらかが主目的ということが一般的です。以前本ブログでもお話ししたイタリアのE-Invoiceは明らかに後者(付加価値税の徴税効率化)ですね。一方で、結果的にインボイスが電子データとしてやり取りされるが故に、業務の効率化にもつながっているとは聞いています。

今回のセッションの中では、インドの事例がなかなか興味深かったです。インドの場合は、送信者(売り手)がE-Invoiceを送信する前に、税務当局にそのデータを提出して確認を受け、そのインボイスに対し、一意の番号の発行を受ける必要があります。その番号を付加したE-Invoiceを改めて受信者(買い手)に送信するという流れになります。これによって、税務当局は発行された全てのE-Invoiceを把握することが可能になります。つまり明らかに、後者、付加価値税の徴税効率化が目的です。イタリアの事例と違うのは税務当局は送信者(売り手)と受信者(買い手)のやり取りの間には入らないということです(イタリアのように間に入るモデルはCentralized exchangeもしくはCentralized reporting、インドのように確認を受けるモデルはClearanceという言い方をします)。

逆にE-Invoice推進の目的が、事業者の業務効率向上にあるのが今回のホスト国であるSingapore。私が最初にヒアリングをした2020年3月の時点から、SingaporeとしてのPeppol推進の目的は事業者のProductivityであり、Efficiencyの向上にあるということを明言していました。付加価値税の徴税については既に高い効率性と公平性を確保できており、そのためにE-Invoiceは必要ないとのこと。

では、今後Peppolを活用していく日本はどうなのか。これはSingaporeと同じく、事業者の業務効率向上です。そもそも、私がSingaporeの話を踏まえ、日本では事業者の業務効率向上を主眼に置くべき、そのためにはSingaporeでも採用されたPeppolを日本でも採用しようと考えたことがEIPAによる平井大臣への提言につながっていますから。

事業者の業務効率向上(Business productivity)か、付加価値税の徴税効率化(Tax collection)かは、E-Invoiceをどこまで強制するかとも密接に関係します。Tax collectionを目的とするのであれば、そもそもE-Invoiceを義務にしないと効果が生まれません。実際、イタリアもインドも基本的には義務です。

これに対し、日本では、インボイス制度に対応すること自体は法令であり義務ですが、デジタルインボイスはあくまでも任意です。逆に言えば、デジタルインボイスの普及の鍵を握るのは、いかに事業者の業務効率を向上させられるのかにかかっています。同様なアプローチをとるSingaporeは、いかに民間を巻き込むか、そして事業者に業務効率化というメリットを実感してもらうのかについて様々な工夫をしているということを今回改めて理解することができました。日本においても、この努力は欠かせません。弥生をはじめとする個社からも発信していくのはもちろんですが、EIPAを通じて社会全体に対し、しっかりと発信が必要だと考えています。
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2022年12月07日

It's so nice to finally see you in person.

先週の米国出張の目的について語らずじまいですが、実は今週はSingaporeに来ています。こちらについては最初から訪問目的をお話しすると、今日からSingaporeで開催されているE-Invoice Exchange Summitに参加するためです。

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E-Invoice Exchange Summitは、E-Invoice(日本ではデジタル化という観点からデジタルインボイスと呼ぶようにしています)の普及に向けて、様々な国の行政機関やサービスプロバイダー、Peppolの管理団体であるOpenPeppolなどが集まり情報を共有し、意見交換を行う場です。年に数回、ヨーロッパ、米国、アジアなどで開催されていますが、今回は海外との行き来がしやすくなったこと、また、日本から比較的行きやすいSingaporeでの開催ということで、参加することにしました。

私がE-Invoiceについて関心を持つようになったのは、2019年にイタリアを訪問し、イタリアで運用されているE-Invoiceについて調査をしたことがきっかけです。その後、SingaporeがPeppolによるE-Invoiceの運用を始めたということで、これも調べなければとSingaporeを訪問しようとしたのが2020年3月。Singaporeでは日本で言えばデジタル庁にあたるIMDAという行政機関がPeppol Authorityとして活動しているため、IMDAを訪問する予定でした。しかし2020年3月と言えば、新型コロナウイルス感染症が日本でも脅威として捉えられるようになった時期。ということで、このタイミングでのSingapore/IMDA訪問は残念ながら見送りとせざるを得ませんでした。

物理的に訪問することは叶いませんでしたが、急遽Web会議を設定し、IMDAへのヒアリング自体は行うことができました。その後IMDAとは何回も打合せは行ってきましたが、すべてWeb会議。今回、当初の訪問予定から実に2年半経ってようやくリアルで会うことができました。

2020年12月に日本のデジタルインボイスとしてPeppolをベースとした標準仕様を策定することを平井卓也デジタル改革担当大臣に提言し、2021年1月には正式にOpenPeppolとの議論が始まりました。OpenPeppolとはかなりの頻度(基本的に2週間に一度)で議論を続けてきましたが、それらも全てWeb会議です。今回のSingaporeでのE-Invoice Exchange Summitでようやくリアルで会うことができました。

It's so nice to finally see you in person. ようやく対面で会えてうれしいです。

何回もWeb会議で顔合わせしている人と、初めてリアルで顔合わせするというのはちょっと奇妙な感覚ですね。実際に会うこと、そして握手するのは初めて。ただ、Web会議で何回もやり取りしているだけにすぐに打ち解けることができます。少し不思議に思うのは、実際に会った際に、イメージ通りの人もいれば、イメージと全く違う人もいるということ。今回のケースで言えば、IMDAの人たちは概ねイメージ通りでしたが、OpenPeppolの人たちはだいぶイメージが違いました。一人に至っては、言われなければ誰だか全くわからないほど(失礼)、Web会議の時のイメージと違いました。もちろん、話し出せばすぐに打ち解けるのですが。イメージ通りか、イメージと違うのか、何が影響しているんでしょうね。
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2022年11月22日

デジタルインボイスで生まれるさらなる価値

10/28に開催したデジタルインボイス推進協議会(EIPA)による発表会について3回にわたって熱くお話ししてきました。これまでにもお話しした通り、デジタルインボイスというのは、インボイス制度という法令改正のためだけではなく、業務のデジタル化によって業務の圧倒的な効率化を実現する手段です。ここでいうデジタル化による効率化というのは、インボイスを紙ではなくデジタルでやり取りするということだけではなく、請求から入金まで、一連の業務を圧倒的に効率化するということ。それによって事業者の皆さんが業務がシンプルになった、楽になったということを実感できるようにしたいと考えています。

実はデジタルインボイスで実現したいことにはさらにその先があります。これもイベント中の私の基調講演でお話ししたのですが、デジタルインボイスの活用により、さまざまな新しいサービスであり、新しい価値を生み出すことができると考えています。その一つとして、事業者の資金繰りを抜本的に改善するサービスが実現できるのではないかと考えています。

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事業者はデジタルインボイスを発行すると同時に、そのデジタルインボイスを金融機関に共有する。すると、金融機関はデジタルインボイスに基づいて、リアルタイムで与信判断をし、融資を実行する。つまり、これまでは請求書を発行してから、それに対する入金を受けるのに1〜3ヶ月かかっていたものが、デジタルインボイスを発行すると即座に資金回収ができる、という世界を作れるのではないかと考えています。即座に資金回収すれば、その資金で次のビジネスに向かうことができます。

今回のイベントは複数のメディアで取り上げていただきましたが、日経の記事ではこの観点も取り上げていただき(図まで引用いただきました)、期待されているな、と実感しました。

あ、実に我田引水ですが、デジタルインボイスをもとに金融機関が与信判断をする際には、アルトアがお手伝いできるはずです。アルトアは既に会計データを活用した与信エンジンを金融機関に提供していますが、扱えるデータは会計データに限られるわけではありません。デジタルインボイスは事業者の資金調達を圧倒的に容易にしうると同時に、金融機関の与信精度と与信コストを大きく改善しうる力を持っていると考えています。ご関心をお持ちの金融機関の皆さま、是非アルトアと議論しましょう。
posted by 岡本浩一郎 at 19:30 | TrackBack(0) | デジタル化

2022年11月18日

EIPAイベント(その3)

これまで、デジタルインボイス推進協議会(EIPA)が10/28に開催した、デジタルインボイス利活用に関する発表会「請求から『作業』をなくそう。〜今だから考えるデジタルインボイスの利活用」についてお話ししてきました。今回のイベント開催を通じて改めて感じたのが、今回のデジタルインボイスに対する取組みはこれまでにないものであり、もっと言えば奇跡的だということ。

一つには、多くの民間のソフトウェアベンダーが集まり、「競争」ではなく、「共創」を実現できていること。もともと会計ソフト業界というのは、会社間であまり仲がいいとは言えませんでした(苦笑)。もちろん喧嘩腰という訳ではないのですが、お互いに不干渉というか、あまり関わろうとしてきませんでした。それが今回はデジタルインボイスを当たり前のものにする、それによって日本の事業者の業務を圧倒的に効率化する、という共通の想いのもとで、皆で協力して進めることができています。また、会計ソフトベンダーだけではなく、SAPやインフォマート、ROBOT PAYMENTなど、これまでは連携することの少なかった会社とも同じ想いの下でしっかりと共創することができています。

二つ目としては、政治と行政による一貫した牽引力。今回のイベントでは河野デジタル大臣からビデオメッセージを寄せていただきましたが、このメッセージ中、デジタルインボイスはデジタル庁のフラッグシッププロジェクトというご発言がありました。実はこれはもともとはEIPAによる提言に対し、平井初代デジタル大臣(当時はデジタル改革担当大臣)に仰っていただいたことです。この二年間でデジタル大臣は平井大臣、牧島大臣、そして河野大臣と変わってきましたが、その間一貫してデジタル庁のフラッグシッププロジェクトとして着実に進めていただきました。実務としては今回のイベントでパネルディスカッションのモデレーターを務めていただいたデジタル庁の加藤さんの一貫した牽引力には本当に感服させられっ放しです。また、加藤さんをしっかりバックアップいただいているMさん、そして、デジタルインボイスだけではなくもっと広い観点で社会的システムのデジタル化に向けて発破をかけていただいているAさん(猟師でもあるとの噂)の力なしにはここまで来れていないでしょう。

そして最後には、官と民が共創できているということ。この取組みは民間だけでは実現できていないことですし、また、政治や行政だけが動かそうとしてしても動きません。政治が方向性をしっかりと示し、行政が土台を作る、そしてその上で民間こそが実際に価値を生み出す。このサイクルをしっかり回せているのが今回の取組みだと思います。

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これらが揃った今回の取組みは本当に奇跡的だと思いますし、これを成功させることで、今後のさらなる社会全体のデジタル化につながるものだと考えています。もっともデジタルインボイスに関して、民間が実際に価値を生み出すという点はまだまだこれから。来年10月に向けて民間の力をしっかり示さなければなりません。
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2022年11月15日

EIPAイベント(その2)

前回お話しした通り、10/28にデジタルインボイス推進協議会(EIPA)は、デジタルインボイス利活用に関する発表会「請求から『作業』をなくそう。〜今だから考えるデジタルインボイスの利活用」を開催しました

発表会は二部構成。第一部では、河野デジタル大臣によるサプライズ・ビデオメッセージの後に、私が基調講演を行いました。私が基調講演で強調したのは、デジタルインボイスというのは、インボイス制度という法令改正のためだけではなく、(誤解を恐れずに言えば、もっと重要なのは)業務のデジタル化によって業務の圧倒的な効率化を実現する手段であるということ。ここでいうデジタル化による効率化というのは、インボイスを紙ではなくデジタルでやり取りするということだけではなく、請求から入金まで、一連の業務を圧倒的に効率化するということです。それによって事業者の皆さんが業務がシンプルになった、楽になったということを実感できるようにしなければなりません。

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この想いは、EIPAの代表幹事である弥生だけが抱いているものではありません。EIPAの会員共通の想いです。それがしっかりと表現されたのが、第一部後半のパネルディスカッションではないでしょうか。パネルディスカッションでは、EIPA幹事の4社(インフォマートTKCマネーフォワードROBOT PAYMENT)が登壇し、デジタル庁の加藤さんがモデレーターを務められました。この4社は、どういった事業者をターゲットとするか、また、サポートする領域の違いはありますが、単純に紙を電子データにするというだけではなく、デジタル化、つまり、業務の見直しによって圧倒的な業務の効率化を目指すという点では一致しています。各社の特徴を明らかにしつつ、共通点もしっかり示す加藤さんのモデレーションは実に見事でした。

続く第二部では、15社のEIPA会員による各社製品・サービスのピッチイベント。1社あたりの持ち時間はわずか3分ということで、ちょっと心配していましたが、皆さんしっかり持ち時間の中で各社の特徴であり、想いをプレゼンされていました。この種のイベントで15社が一気にプレゼンをするというのもなかなか珍しいのではないかと思いますが、EIPA会員(正会員)は実に191社に達しており、今回登壇したのはごく一部です。191社の中には、ユーザー企業や事業者を支援する会社(コンサルタントや税理士法人・監査法人など)も含まれるため、全社がシステム・ソリューションを提供するという訳ではありませんが、それでも今回の15社ではまだまだ紹介しきれていません。今後も、各社による情報発信の機会を作っていきます。

前回もご紹介しましたが、本イベントの様子はYouTubeで公開していますので、是非どうぞ(第一部第二部)。
posted by 岡本浩一郎 at 22:00 | TrackBack(0) | デジタル化

2022年11月11日

EIPAイベント(その1)

前回お話しした通り、デジタル庁が「わが国の『デジタルインボイス』の標準仕様(JP PINT)」として、Peppol BIS Standard Invoice JP PINT Version 1.0を公開した10/28に、デジタルインボイス推進協議会(EIPA)は、デジタルインボイス利活用に関する発表会「請求から『作業』をなくそう。〜今だから考えるデジタルインボイスの利活用」を開催しました。

発表会は二部構成。第一部では私が基調講演を行い、その後、EIPA幹事4社のパネルディスカッションを実施しました。その後第二部では、EIPA会員15社による、サービス紹介のピッチを実施しました。

実は第一部の冒頭では、河野デジタル大臣によるサプライズ・ビデオメッセージが寄せられました。サプライズということで、このメッセージそのものは公開できないのですが、デジタルインボイスの普及に向けた熱い想いと期待を語っていただきました。

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このビデオメッセージの後に、私は20分ほど基調講演を行いました。私の基調講演を含めイベントの様子はYouTubeで公開しています(第一部第二部)。

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私が基調講演で特にお話ししたかったのは、デジタルインボイスというのは、インボイス制度という法令改正のためだけではないということ。インボイス制度(適格請求書等保存方式)というのは、確かに法令改正であり、法令である以上これを守らなければならない。ただ、法令改正対応はできたけれども、業務は複雑になった、業務の負担が重くなったというのでは、事業者としては嬉しくありません。法令だから渋々対応はするものの、何のメリットも感じられない。実際、紙を前提としてインボイス制度に対応しようとすれば、そうなりかねません。でも、デジタルを前提とすれば、それを変えることができる。法令改正対応をしつつ、業務のデジタル化によって、むしろ業務がシンプルになった、楽になったということが実現できるのです。

ここでいう業務が楽になったというのは、デジタルであれば、紙の請求書を印刷し、封筒サイズに折り畳み、封入して、切手を貼って、ポストに投函してという手間がかからないということだけではありません。むしろ楽になるのは、それ以降です。デジタルでインボイスを受領すれば、買掛の仕訳を自動で計上できる。また、その買掛の仕訳をトリガーとして、支払の処理を自動化できる(支払という特性上、人間の最終確認は必要ではありますが)。そして。デジタルでインボイスを発行すれば、売掛の仕訳を自動で計上できるのはもちろん、入金がどの請求に対応するものなのか、すなわち入金消込業務を自動化することができます。

つまり、デジタルインボイスのメリットは、単にインボイスを紙ではなくデジタルでやり取りするということだけではありません。請求から入金まで、一連の業務を圧倒的に効率化できるということなのです。(続く)
posted by 岡本浩一郎 at 23:00 | TrackBack(0) | デジタル化

2022年11月09日

バトンは再び民間に


思い起こせば約2年前の2020/12/14、デジタルインボイス推進協議会(EIPA, 当時は電子インボイス推進協議会と呼称)は、平井卓也デジタル改革担当大臣に提言を行いました。提言の骨子は、インボイス制度を機に、業務のデジタル化と効率化を実現するデジタルインボイスの普及を図ること、 そのために、Peppol(ペポル)と呼ばれる国際規格をベースとして日本標準仕様を策定すべきであるということ、また、日本標準仕様の策定に向け政府が積極的な役割を担うこと。

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これに対し、平井大臣には提言に全面的に賛同いただくと同時に、今後発足するデジタル庁の「フラッグシッププロジェクト」になるとまで言っていただくことができました。この時点で、デジタルインボイスの普及に向けてのバトンは、民間からデジタル庁に託されたわけです。

ただし実際にデジタル庁が正式に立ち上がったのは2021年の9月。それまではデジタル庁の前身となる内閣官房の力も借りながら、EIPAとして標準仕様策定に向けて活動は行っていたのですが、いかんせん牽引力不足は明らかでした。議論がより深まり、明確に前進するようになったのは、デジタル庁が立ち上がってから。内閣官房からデジタル庁に活躍の場を移したKさんの牽引力の賜物です。

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そして今回、デジタル庁からいよいよPeppol BIS Standard Invoice JP PINT Version 1.0が公開された訳です。つまり日本におけるデジタルインボイス、Peppolはいよいよ実用化のステージに入ったということです。これと共に、デジタルインボイスの普及に向けてのバトンは、デジタル庁から再び民間に託されました。あとは、弥生を含め、民間の各社が実際に活用できるサービスを提供し、実際に業務効率化を実現する段階です。

そんな想いを込めたイベントをEIPA主催で10/28に開催しました。イベントに向けてはかなりの突貫工事となり、無事に開催できるのかひやひやしましたが(苦笑)、EIPAメンバー(特に広報部会)の会社の枠を超えてのチームワーク、そしてデジタル庁のバックアップもあり、何とか無事に開催することができました。このイベントについてはまた次回お話ししたいと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 23:40 | TrackBack(0) | デジタル化

2022年11月07日

イベントの秋

前回は、先月10/20から会計事務所向けのカンファレンス、弥生PAPカンファレンス 2022 秋を開催しており、前半戦が終了しましたとお話ししました。今日は大阪会場で開催し、これで全10回中、ちょうど半分となる5回が終了しました。実は10月は、弥生PAPカンファレンス以外にも、様々なイベントでの登壇がありました。

秋だからという訳ではなく、やはりインボイス制度開始まで一年を切ったこのタイミングだから。これを反映し、登壇は弥生の代表ではなく、デジタルインボイス推進協議会(EIPA)の代表幹事である弥生の代表(ややこしい、笑)としての登壇がほとんどになっています。

これらのイベントは現状では会計事務所向けが中心となっています。10月には会計事務所向けのイベントで2回登壇しましたが、今後、同じく会計事務所向けのイベントで11月にも1回、12月にも1回の登壇の予定が入っています。一般の事業者にとっては、インボイスという単語や2023年10月という期日は知っていても、まだまだピンとこない部分も多いかと思います。それに対し、会計事務所にとっては、今後の繁忙期(この年末から来年春まで)を考えると、来年10月はもはや今そこにある危機。弥生PAPカンファレンスでも実感しているところですが、会計事務所については、これまでのとりあえずの情報収集から、具体的に対応方法を検討するフェーズに変わってきています。

一方で10月には一般事業者向けのイベントにも登壇する機会もありました。幕張メッセで開催された会計・財務EXPOです。この種のイベントの参加者は弥生のお客さま(従業員数で~20名程度の法人および個人事業主が中心)よりは大き目の会社の方が多いので、弥生自身が出展することはないのですが、会場はなかなかの盛り上がりでした。コロナ禍の影響もあり、私自身幕張メッセに行くのも久し振りでしたが(ちなみにトライアスロンではすぐそばで泳いで漕いで走っていたりするのですが、笑)、イベントのワクワク感はいいですよね。

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私は、「デジタルインボイスが変えるバックオフィス業務のこれから」というテーマで、デジタル庁 1名、ユーザー企業2名 + 私が、それぞれでの発表+皆でのパネルディスカッションというセッションで登壇しました。全体で90分というかなり長いセッションだったのですが、コーディネーター役を引き受けていただいたデジタル庁加藤さんの力もあり、充実しつつもあっという間に終わった90分となりました。

お蔭さまで参加いただいた皆さま(300名超)にも好評だったようで、参加者アンケートでは「デジタルインボイスの本質を理解することができた。更なる業務効率の推進のきっかけになることも認知できた。」「デジタルインボイスが実現する業務効率化による解決できる課題や会計処理のDX における最新動向を知る事ができ、大変勉強になりました。」という嬉しい声をいただくことができました。

弥生であり、デジタルインボイス推進協議会が目指すのは、単なる法令改正対応ではなく、デジタル化によって、圧倒的に業務を効率化すること。今後も様々な形で情報発信を続けていきたいと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 17:42 | TrackBack(0) | デジタル化

2022年10月24日

EIPAイベント

この10月でいよいよインボイス制度の開始まで一年を切りました。また、法令としてのインボイス制度への対応を果たすと同時に、デジタル化による業務の効率化をもたらすデジタルインボイス「Peppol(ペポル)」の標準仕様もまもなくv1.0として公開されます。

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デジタルインボイス推進協議会(EIPA)は、今週金曜日(28日)にデジタルインボイスの普及に向けたイベントを開催します。イベントは二部構成となっており、第一部ではEIPAの代表幹事として、私が基調講演を行います。私の基調講演ではEIPAが目指すこと、そしてデジタルインボイスが実現することについてお話しさせていただきます。EIPAが目指すことは、インボイス制度という法令改正への対応はもちろんですが、それ以上にデジタル化によって業務の圧倒的な効率化を実現すること。デジタル化によって、どのような業務がどのように効率化されるのかをお話ししたいと思います。

第一部の後半では、実際にデジタルインボイスのサービスを提供する4社によるパネルディスカッションを行います。また、第二部では、これから提供されるサービスのピッチを怒涛(笑)の15社連続でお届けします。

このイベントは、会場とオンラインのハイブリッドで開催します。オンラインについては、人数の制約はありませんので、一般事業者の方、また、会計事務所の皆さまは是非オンラインでご参加いただければと思います。もちろん参加費等はかかりませんが、事前登録が必要になります。多くの方にデジタルインボイスの今をお伝えしたいと思っています。
posted by 岡本浩一郎 at 23:15 | TrackBack(0) | デジタル化

2022年10月03日

あと一年

先週土曜日は10/1。弥生は新年度(FY23)に入りました。また、今年も残り3ヶ月ということで、うかうかしていると今年もあっという間に終わってしまいそうです。

今年の10/1は例年にない大きな通過点でもあります。それは、来年10月1日のインボイス制度開始のちょうど一年前ということ。正直に言って、インボイス制度はまだまだ先だと思っていました。社会的システム・デジタル化研究会が立ち上がり、インボイス対応をデジタルを活用してどのように進めるべきかという議論が始まったのが、2019年12月のこと。この時点ではインボイス制度開始までに4年弱ありましたから、まだまだ余裕はあると考えていました。そして実際に、皆が活用できる標準的なデジタルインボイスの仕組みの構築を目指してデジタルインボイス推進協議会(EIPA、発足当初は電子インボイス推進協議会)を設立したのは2020年7月。この時点でもまだ3年以上ありましたから、余裕とは言わないまでも、時間はあると思っていました。

平井卓也デジタル改革担当大臣(当時)を訪問し、Peppol(ペポル)と呼ばれる国際規格をベースとして、デジタルインボイスの日本標準仕様を策定すべきであると提言を行ったのが2020年の12月。翌月の2021年1月からは、Peppolの国際管理団体であるOpenPeppolとの議論が始まりました。日本標準仕様の策定は徐々に進んできましたが、明確に進捗するようになったのは、2021年9月にデジタル庁ができてから。デジタル庁が立ち上がるのとほぼ同時に、日本におけるPeppolの管理主体(Peppol Authority, PA)として登録され、以降はデジタル庁が司令塔として日本標準仕様の策定を強力に推進してきました。EIPAは民間の立場からその支援を行ってきています。

直近では日本標準仕様がJapan PINT Invoice Version 0.9.3として公開されていますが、もうすぐ正式バージョン(Version 1.0)となると聞いています。つまり、標準仕様の観点からは、日本のデジタルインボイスはもう(ほぼ)readyということです。

一方で、時間は着実に経ち、インボイス制度の開始まであと1年。実際にPeppolをベースとしたデジタルインボイスが、ベンダーを問わず自由にやり取りできるようになるためには、弥生をはじめとしたソフトウェアベンダーの対応が必要です。お客さまでの対応準備を考えると、来年の9月末、制度開始の直前にソフトウェアの準備ができるというのでは遅すぎます。遅くともこの先半年ぐらいで、対応の目途を付ける必要があります。

まずは法令改正としてのインボイス制度への対応、さらには業務効率化をもたらす、デジタルインボイスへの対応。残された時間は少ないですが、しっかり対応を進めていきます。
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2022年07月29日

デジタルインボイスの今

前回デジタルインボイス推進協議会(EIPA)の「デジタルインボイス推進の取り組み」がMM総研大賞で「話題賞」を受賞したことをお話ししました。また少し前には電子インボイス推進協議会からデジタルインボイス推進協議会へ名称を変更したこともお話ししました。

一方で、EIPAが実際にどういった活動をしているのかについてはお話しできていませんでした。EIPAは2020年7月に発足し、その年の12月にはグローバルな標準仕様である「Peppol(ペポル)」をベースとした日本におけるデジタルインボイスの標準仕様を策定すべきという提言を平井卓也デジタル改革担当大臣に行いました。これに対し平井大臣から全面的な賛同を受けたことから、実際の標準仕様の検討を進めてきました。昨年秋にデジタル庁が発足して以降は、デジタル庁が日本におけるデジタルインボイスの標準仕様の策定主体として活動を開始しており、EIPAは民間の立場からその支援を行ってきています。現時点では、この標準仕様がJapan PINT Invoice Version 0.9.3として、Peppol全体の運営主体であるOpenPeppolのウェブサイトで公開されています。Version 0.9.3ということで、まだ正式版ではないのですが、内容としてはほぼ固まっており、この仕様に基づいて、日本でPeppolのサービスを提供しようとするベンダーが各社開発に取り組んでいる状況です。

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EIPAでは、ベンダーが開発を進める際の補助資料として、開発者に向けた日本語でのリーダーズガイドである「テクニカルドキュメント」とデータのセット方法に関する「ガイドライン」という二つのドキュメントを作成し、EIPA会員向けに公開しています。これらのドキュメントもまだ正式版ではなくWork-in-progessなのですが、各社が実際に開発を進める中で活用いただきつつ、そこで生じた疑問などを取り込んで今後もブラッシュアップしていきます。

ご承知の通りインボイス制度(適格請求書等保存方式)は来年10月に始まりますが、事業者としては、来年10月1日から対応を開始すればいいわけではありません。来年10月1日の時点で、インボイスの発行、受領、保存が業務として既に定着している必要があります。これをデジタルで実現できるよう、デジタルインボイスのサービス自体はできるだけ早めに提供を開始したいと考えています。実際のサービス開始の時期は、サービスを提供する各社によって異なりますが、早ければ今年の秋にはサービスを開始する会社が出てくる見込みです。
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2022年07月27日

MM総研大賞 2022

MM総研が主催しているMM総研大賞 2022で、デジタルインボイス推進協議会(EIPA)の「デジタルインボイス推進の取り組み」が「話題賞」を受賞したということで、EIPAを代表して、シェラトン都ホテルで開催された授賞式に参加してきました。

MM総研大賞は、ICT分野の市場、産業の発展を促すことを目的に2004年に創設された表彰制度です。MM総研大賞では複数の部門で表彰されますが、最高賞となる大賞は「FIWAREを活用したスマートシティ」ということで、実際にスマートシティのサービスを実現している高松市、富山市と、オープンソースのデータ連携基盤「FIWARE」を活用してそれを支援しているNECが受賞されました。今回EIPAが受賞したのは、話題賞。話題賞とは、その名の通り、ICT産業に大きなインパクトを与え、大きな話題を集めた製品・サービスが対象となっています。

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授賞式では授賞者ごとに審査委員から表彰いただくのですが、審査委員の中に見慣れた顔が。そうです、弥生の社外取締役である林 千晶さん(当たり前ですが、林さんが弥生の社外取締役であることと、今回のEIPAの受賞は何の関係もないはず、笑)。表彰を林さんからしていただければ、すごい巡り会わせだと思いましたが、EIPAの表彰の少し手前でプレゼンターが交代。同じく審査員であるジャーナリストの西田さんに表彰いただきました(西田さん、有難うございました)。

今回は代表幹事として私が授賞式に参加しましたが、賞を受賞したのはあくまでもEIPA。EIPAはデジタルで社会を効率化するという想いを共有する会社が集まって活動しています。普段は競争することもある会社同士が同じ目標に向かって活動していることが、今回こうして評価されたことはとても嬉しいことです。今の時点ではまだデジタルインボイスというサービス自体がまだ提供されていないということもあり、今回は話題賞ということになりましたが、一年後にはデジタルインボイスのサービスも立ち上がり、利用しているソフトが異なっても自由にデジタルインボイスのやり取りができるようになっているはずです。

ということで来年は話題賞ではなく、是非大賞を受賞したいと思います。来年はMM総研大賞にとって20年目という節目の年。その記念すべき年に栄えある大賞を獲得し、(その時点で)目前に迫ったインボイス制度の運用開始に向けて勢いを付けたいところです。ということで、今回のタイトルは思わせぶりに「MM総研大賞 2022」としてみました、笑。
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2022年06月06日

デジタルインボイス

先週6/1より、電子インボイス推進協議会は、デジタルインボイス推進協議会へと名称を変更しました

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電子インボイス推進協議会を立ち上げたのは、約2年前となる2020年7月(改めて時間が経つのはあっという間です)。この際には、まず、もともと欧州で一般化しているE-Invoiceがあり、その普及を図る組織ということで、E-Invoice Promotion Associationという英語名称が先に決まり、その日本語訳として「電子インボイス推進協議会」という名称(略称EIPA)となりました。

一方で、本ブログでもたびたびお話ししていることですが、今日本において必要とされているのは電子化ではなく、デジタル化です。業務のあり方を変えずに、紙の電子化を図るということは着実に進んできています。その代表例が電子申告(e-Tax)ですし、昨年末に話題になった電子帳簿保存法も、基本的に電子化です。

しかし、業務のあり方の見直しまで踏み込まないと、本当の意味での業務の効率化は実現されません。単純に紙を電子化するのではなく、その前提となっている業務のあり方も見直す。それがデジタル化です。電子化(Digitization)ではなく、デジタル化(Digitalization)。

インボイス制度の開始まであと1年ちょっととなり、インボイス制度への注目は着実に高まっています。10社で立ち上げたEIPAも既に正会員だけでも170社超となりました。そういった中で、EIPAとして様々なセミナーやイベントに登壇する機会も増えており、その際に、目指すのは電子化ではなく、デジタル化ということを必ずお話ししています。

そうなると困るのが、電子化ではなくデジタル化だ、と言いながら、「電子インボイス」を推進する「電子インボイス推進協議会」としてお話しすること。目指すのは、電子化なのか、デジタル化なのか、どっちやねん、と突っ込みたくなります。そこで、EIPAとして目指すのはデジタル化であることを明瞭に示すために、今回、名実ともに「デジタルインボイス」を推進する「デジタルインボイス推進協議会」と名称を変更しました。

デジタルインボイスは、電子データでインボイスをやり取りするという意味で電子インボイスの一部ではありますが、標準化され、構造化されたデータとしてやり取りすることが特徴です。例えば一般的なPDFとしてやり取りするのは、PDFという標準化されたフォーマットですから、やり取りの容易さは実現できても、構造化されたデータではないため、後工程の効率化が実現できません(ただし、海外ではPDFに構造化データを埋め込むというやり方も存在しています)。今回デジタル庁が主体となって進めているグローバルな標準仕様「Peppol(ペポル)」をベースにした、日本におけるデジタルインボイスの標準仕様は、標準化されているからこそ、誰から誰へも支障なくやり取りが可能になります。また構造化されているからこそ、そのデータを会計業務や支払業務、入金消込業務などの後工程に活用することができ、業務の効率化が実現されます。

なお、蛇足ですが、海外ではE-Invoiceという表現は定着しているため、E-Invoice Promotion Associationという英語名称であり、略称であるEIPAは変わりません。インボイス制度まで1年ちょっととなり、今年秋から来年にかけてEIPA会員各社が提供する「デジタルインボイス」のサービスが続々とリリースされていく見込みです。インボイス制度という法令改正によって、業務が複雑化した、面倒になった、ではなく、デジタル化によって業務がむしろ効率化したと言えるように。これから来年秋にかけてがEIPAであり、EIPA会員各社の力の見せどころです。
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2022年03月16日

DX推進フォーラム2022

申告期限日から一晩明けて、社内も少しだけホッとした空気が流れているような気がします(私自身がリモート勤務なので、「気がします」にとどまります、笑)。

昨日お話しした通り、一昨日からe-Taxの接続障害が発生しており、結局そのまま申告期限を迎えてしまいました。しかし今朝には、弥生側から見えるエラーログも激減していることを確認できました。その後今日16時には、国税庁から「16 日(水) 14 時現在において、自宅等からの e-Tax による受信は遅滞なく行われています」というアナウンスが出されました。

これも昨日お話ししたように、今回の接続障害を受け、申告書の特記事項欄に「e-Taxの障害による申告・納付期限延長申請」である旨を記載した上でe-Taxを送信することによって、期限内の申告として認められるようになっています。いつまでこの延長申請が認められるかは発表されておらず、まだ時間はあるものと思いますが、もう再送信を試されてもいいのではないかと思います。

なお、申告は済ませたはずだけれど、本当に申告が受け付けられているかどうか不安という方は、e-Taxのメッセージボックスを確認すれば、申告が正常に受け付けられているかどうかの確認ができます。メッセージボックスを確認し、万が一申告が正常に受け付けられていないようであれば、上記のように「e-Taxの障害による申告・納付期限延長申請」と補記した上で再度申告を行いましょう。

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さて、今日はちょっとした告知を。直前での告知になって恐縮なのですが、明日17日(木) 13:00-16:30にオンラインで開催されるDX推進フォーラム2022というイベントで登壇します。全体のテーマが「中小企業が変わる、日本が変わる」となっていますが、私は基調講演の第2セッションとして、「デジタルインボイスが目指す商取引のDX(Digital Transformation)」というタイトルで30分ほどお話しします。ちなみに基調講演の第1セッションは、初代デジタル大臣の平井議員による「デジタル田園都市国家構想と日本企業のDX戦略」です。

今回の私の登壇は、弥生の社長としてというよりは、電子インボイス推進協議会(EIPA)の代表幹事としてということになります。インボイス制度の開始が来年の10月に迫り、そのうち考えようという将来の話から、そろそろ準備を始めなければならない話になってきました。ただ、このインボイス制度を単なる法令改正対応で終わらせるのはもったいないと考えています。単なる法令改正対応は、どちらかと言えばやりたくないこと、でも法令だから対応せざるを得ないこと。そういった法令改正対応で終わらせるのではなく、デジタルを活用することにより、業務の圧倒的効率化を実現する大きなチャンスだと考えています。

EIPAが商取引をどのようにデジタル化しようとしているのか、そしてどうやって業務効率化を実現しようとしているのか。是非聞いていただければと思います。DX推進フォーラムは無料のイベントですが、こちらで事前登録が必要になっています。後半のパネルディスカッションでは、BCG時代の同僚の高津さん(IMD 北東アジア代表)も登壇されるようなので、こちらも楽しみです。

# たった今地震がありました。震源が福島県沖ということで、とても心配です。
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2022年01月17日

シンプルな解法

私はトライアスロンのトレーニングも兼ねて、週に1〜2回スポーツクラブに通っているのですが、最近、ハッと気が付く出来事がありました。

私が通っているスポーツクラブでは、プラスチックカードの会員証があり、これを提示して入館します。その後、ロッカーにこの会員証を差し込んで利用するようになっています。会員証を差し込まないとロックできないようになっているのです(ちなみにロックの際には物理的な鍵に加えて、暗証番号も設定できるようになっています)。

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この仕組みがこの正月に変わりました。もうロッカーに会員証を差し込まなくてもよくなったのです。これは会員証をプラスチックカードではなく、入館の都度スマホの画面で表示するようにする、という変更を行うことになり、プラスチックカードがなくなっていく以上、ロッカーの仕組みを変えなければならないということのようです。

ロッカーの仕組みの変更の告知自体は昨年12月からあり、お正月で切り替わるとのことでした。これを見た私は、年末年始で数日間休館日があるにせよ、短期間で全てのロッカー(男女合計で400個ぐらい?)の仕様変更をするのは大変だな、と感じていました。大規模システムに携わってきた経験から、年末年始こそ大きなリリースのチャンスということはわかっているのですが、年末年始返上での対応の大変さもまだわかっています。

しかし私の思い込みは、年が明けて、今年の初泳ぎの際に見事なまでにひっくり返されました。どうなっていたかわかりますか?

ロッカーは見た目何も変わっていません。何ら工事があったようにも見えません。ロッカーを開けてみると…、既に会員証らしきものがロッカーに差し込まれています。そうです、ロッカーに会員証の差し込みを不要とするという仕様変更は、何ら工事を伴わず、全てのロッカーに予め会員証と同じものを差し込んでおくことによって実現されていたのです。

お恥ずかしながら、これには衝撃を受けました。そうか、こんな解法があるのかと。私はあまり考えることなく、それなりに大掛かりな工事が必要だと思い込んでいたのですが、こんなシンプルな解法があったのです。

ちなみに完璧な解法とはいかず、既に差し込まれている会員証(と同じもの)を自分の会員証と間違えて持って帰ってしまうケースが(おそらく)頻発したようです。それに対する解法としては、先週末行った際には、差込口をテープでふさぎ、抜くことができないようにするという物理的な対応がなされていました(笑)。

今、弥生としても私個人としても、スモールビジネスの業務であり、もっと言えば社会全体のデジタル化に取り組んでいます。その際には、ついつい大掛かりな仕組みの変更を考えがちです。しかし、実のところ、物事にはもっとシンプルな解法があるのではないか、常にその観点を忘れてはならない、そう思わされた出来事でした。
posted by 岡本浩一郎 at 19:04 | TrackBack(0) | デジタル化

2021年09月28日

日本もPeppolに参加

デジタル庁のウェブサイトでひっそりと取り上げられていますが、9/14(火)にデジタル庁がOpenPeppolのメンバーとして加入しました。これまでにもお話ししてきましたが、OpenPeppolというのは、Peppolという電子インボイスの仕様を管理し、国際的なネットワークを運営している管理団体です。

日本においてPeppolをベースとした電子インボイスの仕組みを運営するためには、原則として国内における管理主体(Peppol Authority)が必要となります。この管理主体はその国の行政機関が担うことが一般的であり、日本の場合はデジタル庁がPAとして機能することとなり、その第一歩としてデジタル庁がOpenPeppolにメンバーとして加入したということになります。OpenPeppolのサイトにおいても、日本におけるPAとしてデジタル庁の名前が既に掲載されています。

これまでEIPAではデジタル庁(内閣官房)と協力しながら、OpenPeppolと日本におけるPeppolの利用に向けた検討を進めてきましたが、あくまでも議論/検討フェーズ。議論はまだまだ続くのですが、今回のデジタル庁のOpenPeppol加入は、正式な運用に向けての第一歩ということになります。

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電子インボイスは欧州を中心に導入/利用が進んでいますが、日本もようやく正式にこの電子インボイスの世界にデビュー(?)したことになります。今日からウィーンでE-INVOICING EXCHANGE SUMMIT VIENNAという電子インボイスに関する国際会議が開催されており、今日開催された"Global Developments in Peppol"というセッションでは、デジタル庁から2名が登壇し、日本におけるPeppol導入に向けた取組みを発表しました。

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実は私も明日の"OpenPeppol Developments"というセッションで、EIPAの立場から、日本におけるPeppol導入に向けた取組みを発表することになっています。ウィーンでの会場開催とリモート開催のハイブリッドなので、日本からも参加できるのですが、1セッションのためだけに参加するには少々お高いんですよね(リモート参加でEUR900なり)。私の持ち時間は15分だけですので、さすがにそのためにEUR900払って見てくださいとは言えません(苦笑)。資料については、後日EIPAのウェブサイトで共有できると思います。

ちょっと意外かもしれませんが、海外ではこの種のカンファレンスがもう普通に開催されるようになってきています。私もよければウィーンでとお誘いを受けたのですが、行くことはできても帰ってからの隔離措置があるため、泣く泣く断念しました。ウィーンは行ったことがないので、行ってみたかったなあ、というのが正直なところです(笑)。
posted by 岡本浩一郎 at 23:28 | TrackBack(0) | デジタル化

2021年09月16日

月締請求書と月まとめ請求書

前回までにお話ししてきたように、Peppolをベースとした電子インボイスの日本標準仕様(JP Peppol)では、日本で一般的な商慣習である合算請求書(一般的には月締請求書)をサポートします。都度請求書では、1納品書 = 1請求書となりますが、合算請求書はN納品書 = 1請求書。合算請求書では、月末など所定のタイミングでN通(複数)の納品書を合算して請求書を発行します。

一方で、同じN通の納品書を基に作られる「請求書」ですが、実態として合算請求書と大きく異なるパターンがあります。正式名称はないのですが、ここでは便宜上月まとめ請求書と呼びます。このケースでも、納品後すみやかに納品書を発行し、月末など所定のタイミングで複数の納品書を合算して月まとめ請求書を発行します。

ん、合算請求書(月締請求書)と月まとめ請求書で何が違うの?と思われるかもしれません。というか、そう思いますよね。

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違いは、合算請求書(月締請求書)の場合は、インボイス(適格請求書)は合算請求書であるのに対し、月まとめ請求書は実はインボイス(適格請求書)ではないということです。この場合は、納品書がインボイスも兼ねているのです。つまり合算請求書(月締請求書)の場合には、納品書はインボイスではなく、合算請求書がインボイスとなるのに対し、月まとめ請求の場合には、納品書がインボイスとなり、月まとめ「請求書」は実はインボイスではないということです。

では、月まとめ請求書は何なのか、というとこれは支払案内という位置付けになります。一定期間の間にこれだけの納品があり、それぞれに対し納品書(兼請求書)で請求済みです。ただ、念のために、期間合計を再度送付しますので、お支払いの程お願いします、というものです。

なかなか難しいですね。EIPA標準仕様策定部会でも、この点でかなり悩んだので、ある意味悩んで当然です。これをすっきりと理解するためには、そもそも何がインボイス(適格請求書)なのか、ということを理解する必要があります。次回は、何がインボイス(適格請求書)なのかという点について改めてお話ししたいと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 22:00 | TrackBack(0) | デジタル化

2021年09月14日

合算請求書は何が違うのか

前回電子インボイス推進協議会(EIPA)として、Peppolをベースとした日本標準仕様(JP Peppol)の策定を進めるにあたって、まずは日本の商慣習を確実にサポートするために、日本で必要とされる業務プロセスの整理から着手したとお話ししました。結果的に、事前の想定通り、月締請求書など、合算型のインボイス(Summarized Invoice)がギャップであることを確認したこと、その上で、JP Peppolにおいては、合算型のインボイスをサポートすべきと結論付けた、とお話ししました。

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前回お話ししたように、現状のPeppolは納品書と請求書が1:1に対応することが前提となっています。これは日本でも存在する業務プロセスです。明確に区別するために、これを都度請求書と呼ぶことにします。都度請求書では、1納品書 = 1請求書となり、納品後すみやかに請求書を発行することになります。実務としては、納品書がないケースも、逆に納品書が請求書を兼ねており、明示的な請求書がないケースもあります。ただ、ここで重要なのは、請求の対象が一回の納品に限られているということです。

これに対し、合算請求書はN納品書 = 1請求書となります。合算請求書は一般的には月締請求書と呼ばれることが多いと思いますが、合算するサイクルは必ずしも月締めではない(例えば、2週間に一回、あるいは2ヶ月に1回)ため、汎用的な名称としてこれを合算請求書と呼んでいます。合算請求書では、月末など所定のタイミングで複数の納品書を合算して請求書を発行します。

都度請求書の場合には、請求の対象が一回の納品に限られているため、その納品が確かになされているかを確認すれば支払の是非を判断することができます。これに対し、合算請求書の場合には、請求の対象が複数の納品にまたがるため、支払の是非は、合算請求書上の明細がどの納品に由来しているかを識別し、その納品が確かになされているかの確認が必要になります。

支払の是非をシステム的に判断し、処理を自動化できるようにするためには、都度請求書の場合には、請求書単位で由来となっている納品書が(納品書番号などで)特定できれば大丈夫です。これに対し合算請求書の場合ではどうなるか。合算請求書は請求の対象が複数の納品にまたがるため、特定のための納品書番号が複数になります。これを請求書単位で由来となっている納品書番号を複数持つという考え方もありますが、どの明細がどの納品由来なのかが一意に特定できず、処理としては難しくなります。どの明細がどの納品に由来しているかを一意に特定できるようにするためには、明細単位で由来する納品書番号を持てるようにする必要があります。

前回、JP Peppolは合算請求書(月締請求書)をサポートしますと書きました。これは、都度請求書と合算請求書のデータ構造(データモデル)は全く一緒とした上で、明細単位で納品書番号への参照情報を持てるようにしたことによって、参照する納品書番号が1つであればそれは都度請求書、複数あればそれは合算請求書として処理できるようにしたということです。
posted by 岡本浩一郎 at 23:37 | TrackBack(0) | デジタル化

2021年09月02日

業務プロセスの整理

電子インボイス推進協議会(EIPA)では、昨年12月の平井大臣への提言を経て、2021年1月に標準仕様策定部会を組成し、Peppolをベースとした日本標準仕様(JP Peppol)の策定を進めてきました。

具体的に策定作業を進めるにあたっては、かなりの作業量が見込まれることから、部会の中で、検討作業に一定の時間を費やすことができる会員をボランティアとして募集し、コアチームを組成、このコアチームが、Peppolの国際管理団体であるOpenPeppolと協議をしながら策定を進めてきました。また同時に、行政側の受け皿となる内閣官房IT戦略総合室と連携を取りながら進めてきました。内閣官房IT戦略総合室といえば、そう、昨日正式に発足したデジタル庁の母体となった組織です。

標準仕様の策定にあたっては、最初から詳細仕様の検討を行うのではなく、まずは日本の商慣習を確実にサポートするために、日本で必要とされる業務プロセスの整理から着手しました。

Peppolは元々の名前(Pan-European Public Pocurement Online: 汎欧州公共調達オンライン)が示す通り、欧州発祥の仕組みです。このため、Peppolの土台には、EN16931-1という欧州の電子インボイス標準規格が存在します。コアチームでは、まずこのEN16931-1で定義されている12の業務プロセスを検証し、日本の商慣習とのFit/Gapを分析を実施しました。

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結論としては、これは事前の想定通りですが、月締請求書など、合算型のインボイス(Summarized Invoice)がギャップであることを確認しました。欧州等でも複数の納品書をもとに合算された合算型のインボイスは存在しますが、一般的とは言えません。このため、現状のPeppolでは、合算型のインボイスはサポートされていません。つまり、現状のPeppolは納品書と請求書が1:1に対応することが前提となっています。これに対し、月締請求書をサポートしようとすると、納品書N通をまとめて1通の請求書とするというN:1の関係性をサポートする必要があります。

ここで考えるべきは、そもそも本当に月締請求書が必要なのかどうか。これはまた改めてお話ししたいと思いますが、デジタルを前提として考えると、業務効率の向上と早期の業績把握を通じた経営のリアルタイム化の観点から、日本においても請求業務は合算型から都度型に変わっていくべきであると考えています。しかし一方で、2023年10月の時点において電子インボイスが一般的に利用される状態を目指すためには、一旦は概ね現状の業務プロセスのままでも電子インボイスを利用できるようにすべきと考えました。このため、JP Peppolにおいては、合算型のインボイスをサポートすべき、と結論付け、検討を進めてきました。

そうです、JP Peppolは月締請求書をサポートします。欧州発の仕組みを日本で活用するという中で、ある意味わかっている人ほど(海外では月締請求書が一般的でないとわかっている人ほど)、月締請求書はどうなるんだ、と心配されていました。実際、その懸念は妥当だった訳ですが、OpenPeppolにも合算請求書の必要性を理解してもらい、晴れてJP Peppolでサポートすることとなりました。
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2021年08月31日

JP Peppol

先週金曜日にお話しした通り、電子インボイスの日本標準仕様のドラフト第一版について、まずは電子インボイス推進協議会(EIPA)内で公開しました。まずはEIPA内でフィードバックを受けた上で、9月中にEIPAからデジタル庁に提出する予定です。その後デジタル庁による確認を経て、デジタル庁から広く一般に公開される予定です。

既にお話ししている通り、電子インボイスの日本標準仕様は国際的に利用が進んでいるPeppolという仕組みをベースとしています。このため、電子インボイスの日本標準仕様は、Peppolの日本版ということで、JP Peppolと呼んでいます。あくまでも仮の名称で、将来的に正式版として公開される際には、ニックネームが付くのかもしれませんが。ちなみに、シンガポールもPeppolをベースとした電子インボイスを推進しており、当初は"Peppol E-Invoicing"という名称でしたが、その後既に普及している電子決済の仕組みPayNowにあやかってInvoiceNowというニックネームが付けられたようです。

さて、JP Peppolを策定するために、まずは基本的なポリシーを確立した上で、検討を進めてきました。それはまず何よりも、今あるものを最大限活用し、安直な拡張は行わないということ。Peppolをベースとしながらも、日本ではあれも必要、これも必要と拡張を続けると、結果的にPeppolとはだいぶ異なるものにもなりかねません。しかし、そもそもの話として、ヨーロッパを中心に既にグローバルの30ヶ国以上でで活用が進んでいる仕組みだからこそ、Peppolをベースとして採用した訳です。安直な拡張は、国際標準との乖離を生むことになり、海外との取引での活用を困難にすると同時に、今後のPeppolの発展に追従することが困難になります。

一方で、日本標準仕様として策定しながら、それが実際に活用されなければ意味がありません。現状の日本の業務プロセスとかけ離れた仕様では活用されません。そのため、日本で広く活用されるために、日本において必要とされる最小限の拡張は行うこととしています。

一方では、安直な拡張は行わない。しかしその一方では、日本において必要とされる最小限の拡張は行う。これはなかなか微妙なバランスです。だからこそ、必要な時間はかけて何が本当に必要なのか議論を行い、単純に今ある業務プロセスを漫然とサポートするのではなく、デジタル化が進む中で業務プロセスがどのようにあるべきかを精査し、拡張は最小限にとどめる努力をしてきました。

結果的に、JP Peppolにおける請求書のデータモデル(データ項目の一覧)は、ベースとなったPeppolからわずか2項目の拡張にとどまっています。しかもこの2項目は、日本だけのための拡張ではなく、将来的に他の国でも活用しうる項目として拡張しています。つまり、日本標準仕様を国際標準仕様とほぼ同一のものにすることができた、ということです。まだ現時点ではドラフト第一版であり、まだまだ見直しが入る可能性はありますが、本当の意味で国際標準仕様に基づいた日本標準仕様を策定するという意味では、よい第一版にはできたのではないかと思います。

次回以降、少し時間をかけながら、どういった検討を行ったのか、結果的にどのような日本標準仕様になっているのかをお話ししたいと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 21:42 | TrackBack(0) | デジタル化