前回お話しした通り、今週水曜日/木曜日にSingaporeで開催されたE-Invoice Exchange Summitに参加しました。私がE-Invoiceに関して本格的に取り組むようになったのはここ3年間弱ですが、今回、初めて関連する人たちと対面で会うことができました。
もっとも、もちろん会うことだけが目的ではありません。二日間のセッションを通じ、様々な国が今何を目的にどのように取り組んでいるのかについて理解を深めることができました。
これらセッションを通じ、改めて理解を深めることができたのが、そもそもなぜE-Invoiceに取り組むのか、大きく二つのアプローチがあるということ。二つのアプローチとは、E-Invoice推進の目的が、事業者の業務効率向上(Business productivity)にあるのか、あるいは、付加価値税の徴税効率化(Tax collection)にあるのか。これらは、必ずしも排他的ではなく、両方とも目的になりうるのですが、完全に並列というよりはどちらかが主目的ということが一般的です。以前本ブログでもお話ししたイタリアのE-Invoiceは明らかに後者(付加価値税の徴税効率化)ですね。一方で、結果的にインボイスが電子データとしてやり取りされるが故に、業務の効率化にもつながっているとは聞いています。
今回のセッションの中では、インドの事例がなかなか興味深かったです。インドの場合は、送信者(売り手)がE-Invoiceを送信する前に、税務当局にそのデータを提出して確認を受け、そのインボイスに対し、一意の番号の発行を受ける必要があります。その番号を付加したE-Invoiceを改めて受信者(買い手)に送信するという流れになります。これによって、税務当局は発行された全てのE-Invoiceを把握することが可能になります。つまり明らかに、後者、付加価値税の徴税効率化が目的です。イタリアの事例と違うのは税務当局は送信者(売り手)と受信者(買い手)のやり取りの間には入らないということです(イタリアのように間に入るモデルはCentralized exchangeもしくはCentralized reporting、インドのように確認を受けるモデルはClearanceという言い方をします)。
逆にE-Invoice推進の目的が、事業者の業務効率向上にあるのが今回のホスト国であるSingapore。私が最初にヒアリングをした2020年3月の時点から、SingaporeとしてのPeppol推進の目的は事業者のProductivityであり、Efficiencyの向上にあるということを明言していました。付加価値税の徴税については既に高い効率性と公平性を確保できており、そのためにE-Invoiceは必要ないとのこと。
では、今後Peppolを活用していく日本はどうなのか。これはSingaporeと同じく、事業者の業務効率向上です。そもそも、私がSingaporeの話を踏まえ、日本では事業者の業務効率向上を主眼に置くべき、そのためにはSingaporeでも採用されたPeppolを日本でも採用しようと考えたことがEIPAによる平井大臣への提言につながっていますから。
事業者の業務効率向上(Business productivity)か、付加価値税の徴税効率化(Tax collection)かは、E-Invoiceをどこまで強制するかとも密接に関係します。Tax collectionを目的とするのであれば、そもそもE-Invoiceを義務にしないと効果が生まれません。実際、イタリアもインドも基本的には義務です。
これに対し、日本では、インボイス制度に対応すること自体は法令であり義務ですが、デジタルインボイスはあくまでも任意です。逆に言えば、デジタルインボイスの普及の鍵を握るのは、いかに事業者の業務効率を向上させられるのかにかかっています。同様なアプローチをとるSingaporeは、いかに民間を巻き込むか、そして事業者に業務効率化というメリットを実感してもらうのかについて様々な工夫をしているということを今回改めて理解することができました。日本においても、この努力は欠かせません。弥生をはじめとする個社からも発信していくのはもちろんですが、EIPAを通じて社会全体に対し、しっかりと発信が必要だと考えています。