2022年07月25日

モリゾウからの手紙

少し前になりますが、あの「モリゾウ」から直々にお手紙をいただきました。あ、このモリゾーではなく、こちらのモリゾウです。そう、トヨタの豊田章男社長です。直々にとは言っても、私だけに出された手紙ではなく、おそらく1万人以上の方に出された手紙ではあるのですが。

本ブログではあまり趣味の話はしないようにしている(その割には最近はトライアスロンとかトレーニングの話が多いですが、笑)ので、ほとんど触れていませんが、私はクルマが好きです。18歳で初めて自分のクルマを持つようになってから、もう30年以上。所有歴は10台以上ですが、ずっとそれなりに拘りの強いクルマ選びをしてきました。しかし実は、トヨタのクルマは所有したことがありません。

若い時のトヨタのイメージというとおじさんのクルマ。ある程度年をとってからのイメージは普通のクルマ。いずれにせよ、トヨタ車を欲しいと思ったことはありませんでした。そんな私ですが、ここ一年ほどかなり惹かれるクルマが。それがGRヤリスです。トヨタのコンパクトカーであるヤリスがベースではあるものの、モータースポーツで勝てる車両を目指してほぼ全てが新規開発されたクルマ。そしてそのGRヤリスをベースとしてそのまま競技に出れるレベルにまで強化されたクルマがGRMNヤリス。発売されるのは僅か500台という超限定車です。

この冬に申し込みが開始され、私もダメもとで申し込んだものの、抽選結果は残念ながら外れ(なんでも1万人以上の申し込みがあったようです)。そろそろ納車が始まるということで、最近GRMNヤリスの試乗記事が増えていますが、読むたびにああ欲しかったなあ、と涙目になっています(笑)。

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そんな傷心の主に届けられたモリゾウからのお手紙(親しみを込めてあえて敬称抜きの「モリゾウ」と書いています)。GRMNヤリスに対する熱い思いをモリゾウ自身の声で語っています。

これって本当に素晴らしいことだと思います。ダントツの日本一であり、今や世界一の座を争うメーカーの社長が、自社の製品にとことん思い入れて、熱く語る。売上や利益、マーケットシェアについて語るのではなく、クルマを走らせることの楽しさを語る。その熱さや想いが、これまでずっとトヨタに見向きもしなかったクルマ好きも振り返させる。豊田社長は、トヨタのクルマであり、会社そのものを変えていっていることを実感します。

トップの熱い想いがトヨタという巨大な会社を変えていっている。トヨタほどの巨大な会社が変われるのであれば、弥生はもっと劇的に、もっと早く変われるはずです。製品も全く違いますし、そもそも会社の規模も全く違いますが、想いでは負けないようにしないと。
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2022年07月19日

数字を疑う(その4)

これまで、弥生が事業承継ナビを立ち上げた背景として、日本の事業者の約2/3は、「引退」の二文字が視野に入る年齢になりつつある一方で、その半数は引退 = 事業の廃業になりかねないということをお話ししました

一方で、2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3になるという主張は、本当なんだろうか、という疑問があり、その検証を行ってきてきました。前々回は、2005年および2015年の法人経営者の年齢分布(元データは帝国データバンク)をもとに2025年の年齢分布のシミュレーションを行い、結果として、2025年に中小企業・小規模法人の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3というのは非常に疑わしいという結論を得ました。また前回は、2005年および2015年の個人事業主の年齢分布(元データは総務省「労働力調査(基本集計・長期時系列データ)」)をもとに2025年の年齢分布のシミュレーションを行い、2025年に個人事業主のうち70歳を超える人が全体の2/3というのも非常に疑わしいという結論を得ました。

どうして2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3になるという話になったのでしょうか。ヒントは出典となっている中小企業庁の資料の2ページ目にありました。右側の図の出所を確認してみると、平成28年度総務省「個人企業経済調査」とあります。この調査結果の概要がこちら(pdf)。詳細は割愛しますが、この調査では、2016年時点の(調査対象の)個人事業主のうち70歳以上が42%、70歳未満が58%でした。さらにこの時点で60歳以上が73%、60歳未満が27%でした。調査対象が全く変わらず約10年(正確には9年)経過すると、この割合がそのままスライドし、2025年時点で70歳以上が73%、70歳未満が27%ということになります。仮にこの割合が正しいとすると、少なくとも個人事業主については、70歳を超える人が全体の2/3ということになりそうです。

ちなみに、前回シミュレーションに使用した個人事業主の年齢分布のもとになっているのは総務省「労働力調査」。こちらでは2015年時点の60歳以上が45%、60歳未満が55%という数値でした。この割合を単純に10年スライドすると、2025年時点で70歳以上が45%、70歳未満が55%ということになります(これは基本的に前回の極端なシミュレーションのパターンです)。

同じ総務省が発表している二つの調査ですが、一方では、2025年時点で個人事業主のうち70歳以上が3/4近くに達しうるという結果、もう一方では半分もいかないという結果とかなりの差があります。おそらく「中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3になる」というのは前者の数字がベースになっているのではないかと思います。

ちなみに、前者の「個人企業経済調査」というのは「個人企業の経営の実態を明らかにし,景気動向の把握や中小企業振興のための基礎資料などを得ることを目的」に毎年行われているそうですが、その調査対象は、「全国の個人企業のうち、次の産業を営むものの中から,一定の統計上の抽出方法に基づき抽出した約 4,000 事業所を調査対象としている」となっています。また調査方法としては、「統計調査員が調査事業所に調査票を配布し、事業主に記入していただき、記入された調査票を取集する方法により行っている」とされています。つまり必ずしも様々な産業を反映しておらず、サンプル数も約4,000と限られる、また、調査員による調査票の配布・回収に協力できる個人事業主が対象となっており、サンプリング・バイアスが起きやすい調査のように見えます。念のためですが、だからこの調査がダメだという気はありません。どんな調査にも(全数調査でない限り)、一定のバイアスはあります。ただ、その調査の結果は調査方法(とその結果どれだけ誤差が生まれやすいか)に応じて扱うべきかと思います。

一方で、総務省「労働力調査」もやはりサンプリング調査です。こちらはサンプル数が約40,000世帯(対象となる15歳以上の世帯構成員としては約10万人)と一桁大きく、また標本の抽出方法、結果の推定方法、さらに推定値の標本誤差までかなり詳細に解説されており、サンプリング調査の限界を踏まえた上で、正しく活用されるようにかなり意識した調査に見受けられます。

どちらの数字がより確からしいかは何とも言えませんが、サンプリング調査の限界を適切に踏まえているという意味で、「労働力調査」の方が「個人企業経済調査」よりまだ妥当な結果に思えます。

ということで、個人的な結論ですが、2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3になるというのは疑わしいと言わざるを得ません。ただし、推計のベースになる調査の選び方次第では、そういった結論になることもありうる、ということかと思います。

思った以上にこのテーマに深入りしてしまいました(苦笑)。で、結局何を言いたいのかですが、わかりやすい(往々にしてキャッチーだったり、扇動的だったり)数字に飛びつくべきではないということです。このテーマのタイトル通り、わかりやすい数字であればあるほど、それを疑うことも必要だということです。

本ブログでは以前FACTFULNESSという本を取り上げました。アメリカのSATという(日本で言えばセンター試験のような)テスト結果から、男性の方が女性よりも数学が得意だ、という結論が得られそうだが、本当にそうなんだろうか、というエピソードについてご紹介しましたが、これもある意味わかりやすい数字を疑うということかと思います。

2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3になるというのは実にセンセーショナルな数字です。ただ、少なくとも私の感覚的には、70歳を超える人が増えることは間違いなくても、あと3年で全体の2/3になるというのはどうしてもしっくりきません。数字に安直に踊らされず、自分が感じる違和感を放置せず、本当なんだろうかと考えることも必要なのではないでしょうか。
posted by 岡本浩一郎 at 21:45 | TrackBack(0) | ビジネス

2022年07月15日

数字を疑う(その3)

これまで、弥生が事業承継ナビを立ち上げた背景として、日本の事業者の約2/3は、「引退」の二文字が視野に入る年齢になりつつある一方で、その半数は引退 = 事業の廃業になりかねないということをお話ししました

一方で、2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3って、本当だろうか、という疑問があり、その検証を行ってきています。前回は、2005年および2015年の法人経営者の年齢分布(元データは帝国データバンク)をもとに2025年の年齢分布のシミュレーションを行い、結果として、2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3というのは非常に疑わしいという結論を得ました(なお前回記事に一部ミスがあったため修正していますが、メッセージは変わりません)。

うむむ、何かを見過ごしていないでしょうか。「2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3」のソースとなっている中小企業庁の資料の2ページ目のうち、前回は左下のグラフに関して検証を行ったわけですが、今回は、右側の図を見てみましょう。右側の図の出所を確認してみると、「平成28年度総務省「個人企業経済調査」、平成28年度 (株)帝国データバンクの企業概要ファイルから推計」とあります。後段は左側のグラフと共通ですが、前段が追加されています。

そう、左側のグラフはあくまでも法人の話なのですが、右側の図に関しては、法人と個人事業主を合わせて表現しているということです。つまり、法人の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3ということはなくても(前回の現実的なシミュレーションでは1/3ぐらいではないかと推計しました)、個人事業主も合わせて考えると、70歳を超える人が全体の2/3という可能性はあります。もっとも、法人で1/3ぐらいであるものが全体で2/3となると、個人事業主のうち70歳を超える人が3/4超といったような極端な分布になっている必要がありますが。

ということで、個人事業主の年齢分布を探ってみると、2019年版の小規模企業白書の第2-1-3図に、「年齢階級別に見た自営業主の推移」というデータがありました(ここでいう自営業主とは、個人経営の事業を営んでいる者という定義)。今回もこの第2-1-3図から、2005年と2015年のデータだけを抜き出してみました(法人の時と同様、例えば50歳〜54歳は中間地点である52.5として表現)。なお、縦軸を以降のグラフと揃えるためにやや見にくいグラフになっているのはご容赦ください

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個人事業主においても2005年から2015年にかけて、グラフが右にシフトしています。55〜59歳だったピーク値が70歳以上になっていることがわかります。このデータでは70歳以上が一まとめになってしまっている(法人では70〜74歳、75〜80歳、80歳以上となっていた)ため、ピーク値が10歳以上ずれてしまっているのかと思います。

今回もまずは極端なシミュレーションを行ってみたいと思います。2015年時点の個人事業主が、皆単純に10歳歳をとったとします。この場合2015年時点で60歳以上だった個人事業主は一人残らず2025年時点では70歳以上ということになります。ただ、この場合、15〜20歳の層と20〜25歳の層が誰もいなくなってしまう(皆10歳歳をとって2つ右の層に移ってしまう)ので、この2つの層に関しては仮に2015年時点と同じ数の個人事業主が新たに生まれてくると想定します。この極端なシミュレーションの結果はこちら。

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そうすると確かに2025年時点では70歳以上の層に極端なピークが立つことがわかります。その数201万人。ただ、確かにピークとしては高いのですが、70歳未満が245万人に対し、70歳以上が201万人ですから、これでも70歳を超える人が全体の2/3とはなりません。

次に、法人の時と同様にもう少し穏当なシミュレーションをしてみます。30〜34歳、35〜39歳といった各年齢層ごとに、10年経過する中での目減り率を設定します(廃業したなどの要素を考慮)。それと同時に、各年齢層ごとに10年の中で新たに個人事業主となる人の数を設定します。緻密なシミュレーションではなく、あくまでもざっくりとしたものですが、結果はこういった感じになります。

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上の極端なシミュレーションよりは、まあこんなものかな、という結果になっていますね。このシミュレーションでも70歳以上にかなり高いピークが立っています。ただし、その数は127万人と極端なシミュレーションよりは少なくなっています。このシミュレーションでは70歳未満が293万人に対し、70歳以上が127万人ということで、70歳以上の人が2/3どころか、むしろ70歳未満が2/3となります。

ということで、ここまでの一旦の結論なのですが、2025年に中小企業・小規模事業者(法人および個人事業主)の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3というのはやはり非常に疑わしいということになります。随分引っ張ってしまっていますが、次回はこれまでの検証をまとめてみたいと思います。実は70歳を超える人が全体の2/3となっている理由も想像はできているので、その点もお話ししてみたいと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 19:06 | TrackBack(0) | ビジネス

2022年07月13日

数字を疑う(その2)

これまで、弥生が事業承継ナビを立ち上げた背景として、日本の事業者の約2/3は、「引退」の二文字が視野に入る年齢になりつつある一方で、その半数は引退 = 事業の廃業になりかねないということをお話ししました

一方で前回は、2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3って、本当だろうか、という疑問も呈しました。本ブログでも以前紹介した帝国データバンクの調査では、2021年時点での社長の平均年齢は60.3歳。この平均年齢は大体年に0.1歳から0.3歳ぐらいの幅で上昇しているので、仮に2021年から2025年まで、毎年0.3歳平均年齢が上がるとしても、2025年時点では61.5歳。全体の平均は62歳だけれども、全体の2/3が70歳以上ということはありうるのでしょうか。

これは理論上はありうるとお話ししました。ただし、それは分布に極端な歪みがある場合です。例えば、40歳の人が100万人、70歳の人が200万人いたら、平均は60歳だけれども、70歳以上の人が全体の2/3ということになります。

ただ、これは明らかに現実的ではないですよね。ということで、実際の数字を追って検証してみたいと思います。「2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3」というのは中小企業庁が発表している資料に基づいています。この資料の2ページ目、まずは左側のグラフから確認していきますが、このグラフの出所は「平成28年度 (株)帝国データバンクの企業概要ファイルを再編加工」とあります。そう、本ブログの「社長の平均年齢」という記事で取り上げたのと情報源は同じです。これは2018年版の中小企業白書、第2-6-2図に同様なデータがありました。

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ここでは、2018年版の中小企業白書、第2-6-2図から、2005年と2015年のデータだけを抜き出してみました(ここでは例えば50歳〜54歳は中間地点である52.5として表現)。確かに2005年から2015年にかけて、グラフが右にシフトしており、55〜59歳だったピーク値が65〜69歳になっていることがわかります。ただし、このグラフから計算した(例えば、50歳〜54歳は全て52.5としているためあくまでも簡易的な計算)2005年時点での平均は58.3歳、2015年時点での平均は60.1歳であり、1年に1歳平均年齢が上がるということはなく、年に0.2歳ぐらいの上昇ということになります。

ここで、極端なシミュレーションをしてみましょう。2015年時点の社長が、皆単純に10歳歳をとったとします。この場合2015年時点で70歳以上だった社長は一人残らず2025年時点では80歳以上ということになります。ただ、この場合、30〜34歳の層と35〜39歳の層が誰もいなくなってしまう(皆10歳歳をとって2つ右の層に移ってしまう)ので、この2つの層に関しては仮に2015年時点と同じ数の社長が新たに生まれてくると想定します。この極端なシミュレーションの結果はこちら。

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2015年時点で70歳以上だった社長は一人残らず2025年時点では80歳以上となる結果、ピークは一気に80歳以上にシフトしています。計算上の平均年齢は68.0歳。2015年時点での平均である60.1歳からは一気に増えたことがわかります(30〜34歳の層と35〜39歳の層に新たな社長が生まれてくることを想定しているため、平均は単純に+10にはならない)。でもまあ、どう考えても極端なシミュレーションですよね。こんな極端なケースでも、70歳未満が61.7万人、70歳以上が65.4万人となり、確かに70歳以上の方が多くなりますが、それでも全体の2/3といった極端な結果にはなりません。

次に、もう少し穏当なシミュレーションをしてみます。30〜34歳、35〜39歳といった各年齢層ごとに、10年経過する中での目減り率を設定します(廃業した、あるいは社長交代したなどの要素を考慮)。それと同時に、各年齢層ごとに10年の中で新たに社長に就任する人の数を設定します。緻密なシミュレーションではなく、あくまでもざっくりとしたものですが、結果はこういった感じになります。上の極端なシミュレーションよりは、まあこんなものかな、という結果になっていますね。このシミュレーションではピークは70〜74歳になっています。

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このシミュレーションで平均を計算してみると62.0歳。上でお話しした2021年時点での社長の平均年齢は60.3歳、ここから導き出される2025年時点での平均年齢は62歳弱というのと整合していますね。このシミュレーションは、相当ざっくりではありますが、それでも当たらずと言えども遠からずなのではないかと思います。少なくとも極端なシミュレーションよりははるかに実態に近いはずです。

では、この穏当なシミュレーションで、70歳未満と70歳以上の数を確認してみるとどうでしょうか。結果は、70歳未満が88.8万人、70歳以上が43.3万人と、70歳以上の人が2/3どころか、むしろ70歳未満が2/3であることがわかります。
[7/15追記: 一部計算ミスがあったため本文を修正、グラフを更新しています。ただし、基本的なメッセージは変わりません。]

ここまで検証した結果としては、2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3というのは非常に疑わしいということになります。うむむ、これは一体どういうことなのでしょうか(続く)。
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2022年07月06日

数字を疑う(その1)

前回は、弥生は今回立ち上げた事業承継ナビを通じて、中小企業の経営者が事業のバトンをしっかりと渡して引退できるようにしたい、とお話ししました。その背景としては、日本の中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が、全体の約2/3に相当する約245万人にのぼる、なおかつその約半数の127万は後継者が未定。つまり、日本の事業者の約2/3は、「引退」の二文字が視野に入る年齢になりつつある一方で、その半数は引退 = 事業の廃業になりかねないということをお話ししました。

一方で、本ブログをまめに読んでいただいている方であれば、この数字には多少なりとも違和感を持つはずです。2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち70歳を超える人が全体の2/3って、本当だろうか、と。実は本ブログでは2014年に社長の平均年齢という記事を書いています。元データは帝国データバンクの2013年の調査ですが、日本の社長の平均年齢が58.9歳という記事でした。これを出発点として考えると、2025年に中小企業・小規模事業者の経営者のうち「60歳」を超える人が全体の2/3というのはあり得るように思いますが、「70歳」を超える人が2/3ですよ。

確かに2013年から2025年と考えると12年経過していますから、全く同じ人の集団でそのまま12歳年齢を重ねれば平均年齢が70歳になっているということも考えられます。しかし実際には、若い方で起業して社長になる方もいますし、一方で、年を経て引退する人もいますから、同じ集団のままで12歳年齢を重ねるということは考えられません。実際、2014年の記事では平均年齢は「毎年0.1歳から0.3歳ぐらいの幅で上昇しているので、このままいくと、2020年ぐらいには60歳の大台に到達しそうです」と書いています。実際のところ、今年発表になった帝国データバンクの調査では、2021年時点での社長の平均年齢は60.3歳(前年比+0.2歳、ということは2020年には60.1歳だったわけですから、2014年時点の「2020年ぐらいには60歳の大台に到達しそうです」という読みは大正解でした)。

仮に2021年から2025年まで、毎年0.3歳平均年齢が上がるとしても、2025年時点では61.5歳。全体の平均は62歳だけれども、全体の2/3が70歳以上ということはありうるのでしょうか。

理論上はありえます。極端なケースで考えると、40歳の人が100万人、70歳の人が200万人いたらどうなるか。この場合平均年齢は60歳になります。と同時に、70歳以上の人が200万人/(100万人+200万人)ですから、2/3ということになります。40歳の人は、人数としては半分でも平均値からの差(60-40=20)が大きいので、人数が倍の70歳の人(平均値からの差は70-60=10)と釣り合うということですね。そういった観点では、取りうる値としては30歳の社長はあり得ますが、90歳の社長はゼロでないにせよ数としては少ないでしょうから、取りうる値の分布的に平均を左にシフトさせる傾向はあるのだと思います。

毎年金融広報中央委員会が調査・発表している二人以上の世帯の平均貯蓄額(金融資産保有額)が、過大に見える(2021年で1,563万円, pdf)ことが話題になりますが、これは、取りうる値の下限が0円(貯蓄なし)であるのに対し、上限はない(1億円でも10億円でもありうる)ので、平均をとると右に引っ張られるためです。このため、この調査では中央値も公表していますが、平均値では1,563万円が中央値では450万円と大きく変わります。

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ちなみに、上でお話しした40歳の人が100万人、70歳の人が200万人という極端なケースでは、平均値は60歳である一方で、中央値は70歳ということになりますね。なおかつ平均値には誰もいない。これは本ブログでも何回かお話ししている平均値の罠です。

ただ、今回のケースでは、さすがに40歳の人が100万人、70歳の人が200万人という極端なケースではないはずです。となるとまだ見えていない別の要因がありそうです(続く)。
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2022年06月08日

米国の空港にて

新型コロナウイルス禍の中で2年半以上日本を脱出できておりませんでしたが、日本の水際対策が緩和されたことを受け、4月から5月にかけて2回(1回目: Los Angeles、2回目: Arkansas)もアメリカに行ってきたとお話ししました。緩和されたとは言え、(米国/日本それぞれの)水際対策は厳然と存在しており、日本出国前のPCR検査、日本帰国前のPCR検査、日本帰国時の抗原検査と結構な手間(+PCR検査は自己負担なのでコストも)でした。それでも、全ての検査が陰性となり、またそれ以外の大きなトラブル等もなく、2回とも無事に行って帰ってこれてホッとしています。

大きなトラブル等はないと言いましたが、実はArkansas(アーカンソー)に行った際、かなりヒヤッとした出来事がありました。ただこれは日本人的感覚からはトラブルかもしれませんが、米国人的感覚からはよくあることかもしれません。

それはArkansasでの全ての予定を終え、目的地(Fayetteville)最寄りのNorthwest Arkansas Regional Airport(XNA)に辿り着いた時のことでした。今回は娘の部活が世界大会に参加する際の引率役だったわけですが、座席の確保の関係で予約は団体(生徒+私以外の保護者)と私とで別々になっていました。まずはただでさえ時間がかかる団体のチェックインから。色々とバタバタしながらも無事にチェックインが完了。これで皆、日本に帰れる。

いや、まだ私自身のチェックインが終わっていないということで、団体を先にゲートに向かわせた上でチェックインの列に再度並びましたが、なかなか進まない。どうやら何らかの理由で飛行機に乗れなかった老夫婦が、善後策を相談しているようで、処理が全く進みません。それでもまだ時間の余裕があると高を括っていたのですが、列はなかなか進みません。フライトの時間が迫りさすがに焦ってきます。

ようやく自分の番になったのですが、係員の方が少し手続きを進めたところで、荷物の受付時間が過ぎたので、もう乗れない、ついてはこの番号(コールセンター)に電話して次のフライトを予約しろと言い出しました。おいおい、私以外は既にチェックインを済ませており、引率係である私が乗れないというのでは困ります。それにそもそも、列で延々と待たされたからこそ時間が迫っているわけです。

さて、ここでどうするか、ですが、引き下がってはいけません。自分には日本への乗継ぎのフライトがある、だからこのフライトに乗らないといけない、そもそも待たされたのが問題だろうと反論し、結果的には何とか無事にチェックインすることができました。ゲートまで走ってギリギリでの搭乗。その後Dallas Fort Worthでの乗り継ぎも色々とありつつも無事に済ませ、何とか日本に皆で無事に帰りついて引率役の使命を果たすことができました(ちなみに、受付時間が過ぎたと言われた荷物も無事に日本で出てきました)。

予定していた飛行機に乗れないといったことはアメリカの空港ではよくあることです。向こうではそもそもキャパシティ以上の予約を取るオーバーブッキングは当たり前。その際には、適当な理由をつけて、もう乗れないと言われることはよくあります。今回が実際にオーバーブッキングだったのかどうかは定かではありませんが、何らかの理由で乗れなかった人が出る → カウンターで揉める → 待ちの列が進まない → 乗れない人がさらに出る → 揉める、という悪いループに入っているのは確かでした。

こういった時は諦めたら終わり。交渉あるのみです。そもそもこちらに非はなく、先方もこれで諦めてくれたらラッキーぐらいの感覚なので、交渉の余地は十分にあります(交渉が必ずしも実るとも限りませんが)。結果的に待っている人をさらに待たせてしまうのはとても心苦しいのですが、諦めてカウンターを離れたらその瞬間に終わりです。実際に今回は、現場責任者に対応してもらい、少し強く主張したところ、無事にチェックインすることができました(となると逆に荷物の受付時間云々は何だったんだという感じですが)。

もっとも、実はむしろさっさとコールセンターに電話すべきというケースもあります。それはフライトがキャンセルされた場合(これもアメリカでは結構あります)。この場合は、そもそも乗るフライトがなくなったわけですから、交渉の余地はありません。なおかつ、キャンセルになったフライトの次の便には皆が殺到しますから、新たな予約は早い者勝ち。この時、早く対応できるのはコールセンターです。

日本でも現実問題としてオーバーブッキングは存在しますが、自分で電話して何とかしろという突き放された対応を求められることはありません。ただまあ、これも少し前にお話しした期待値の違いですね。アメリカでは、搭乗する人数が少なければ急遽フライトがキャンセルになったり、逆に多すぎればオーバーブッキングで乗れなかったり。良くも悪くも合理的です。郷に入っては郷に従えということで、カウンターでしっかり交渉するなり、さっさと電話で次のフライトを確保するなり、こちらも合理的に判断して対応することが必要です。
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2022年05月27日

Walmart

前回は、先週水曜日から一週間、Arkansasに行ってきたとお話ししましたが、現地最終日に半日ほど空き時間があったため、バスをチャーターし、一行でちょっとしたショッピングと観光に行ってきました。

ショッピングはWalmart。超巨大なホームセンター兼スーパーマーケットです。ある意味最もアメリカらしいお店ですからね。せっかく自然豊かなArkansasに行ったのに、Walmartか、と思われるかもしれませんが、実はArkansasだからこそだったりします。

前々回に写真を掲載しましたが、実はArkansasはWalmart創業の地であり、今でも本社があるのです。具体的にはBentonvilleという街。Arkansasは決して人口が多い州ではありません(約300万人弱ですから茨城県ぐらい)が、そのArkansasで10番目に大きい街がBentonvilleなので、決して都会とは言えません。

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そのBentonvilleの街の中心に広場があるのですが、その広場(ちなみにBack to the Futureに出てくる広場にそっくり)に面して、最初のWalmart(当時の名前はWalton's 5&10)があります。1950年オープンの小さな小さなお店。それが70年後の今、Walmartは世界24ヶ国に10,000以上の店舗を構える世界最大の小売業となっています(出所: wikipedia)。

せっかくなのでWalmartの本社にも行ってみました(中学生/高校生を連れて、笑)が、新型コロナウイルス禍でWalmartの本社もここ2年はほとんど出社しない状況だったそうです。ただ、実はコロナ後を見据えて新本社を建築中とのこと。この新本社の敷地があまりに巨大でスケールの違いを感じました。

アメリカの小売業は、ネット通販におされて青息吐息。米国ではTower Recordはなくなり、Toys-R-usもなくなり(その後一部復活)、有力百貨店のJC Penneyも民事再生中です。そんな中で気を吐いているのがWalmart。オフライン(実店舗)にオンラインのサービスを組み合わせ、Amazonの有力な対抗馬と看做されているのがWalmartです。ただ巨大なだけではない、常に変わり続けているからこそ今のWalmartがある。そのWalmartの原点を見ることができ、とても刺激になりました。
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2022年05月19日

期待値の違い

引き続きアメリカでの話。今回の主目的はビジネススクール(UCLA Anderson School of Management)のReunion(同窓会)に参加することですが、もう一つの目的はDisneyland Resortに行くこと。家族的にはこちらの方が主目的ですね。

さすが夢の国で、とても楽しかったのですが、印象的だったのが、乗り物がしょっちゅう壊れること。乗り物に並んでいると、列が全然進まなくなることがちょこちょこあるのですが、それは乗り物が壊れて一旦止まっているから。最悪の場合、一時閉鎖となってまた後で来てくださいとなることがあります。Disneyland Resortでは、Lightning Laneという時間帯予約の仕組み(FastPassの代わりに導入された仕組み)が導入されており、このLightning Lane予約については、別の時間帯への振り替えという救済措置があるのですが、普通に並んでいる(Stand-by Line)場合には、何の救済措置もありません。ですので、1時間並んでもう少し乗れるというところで、乗り物が一時閉鎖になると1時間を棒に振ることになります。

ある意味、もっと印象的だったのが、誰も文句を言わないこと。意外かもしれませんが、列が動かなくなっても大人しく(というよりはワイワイと賑やかに会話しながら)待ち続けますし、一時閉鎖になって待ち行列を解散させられても文句を言う人はいません。日本だったら、どうなっているんだ、とか、何とかしろよ、となりそうなんですけどね。

根底にあるのは、期待値の違いなのではないかと思います。アメリカの場合、壊れるのが当たり前。壊れるのが当たり前だから、文句を言ってもしょうがないよね(実際、そこに居合わせたスタッフに文句を言っても、自分の責任じゃないし、知らんがな、と言われて終わりです、笑)。

日本の場合、完璧に動くのが当たり前。新幹線で、到着が数分遅れただけで、「遅れて申し訳ございません」とアナウンスが入る国ですから。ATMが止まればニュースになる。日本のディズニーランドの場合、スタッフは自分では何もできなくても、とりあえず「申し訳ございません」とお詫びしますよね。完璧に動くのが当たり前だからこそ、問題があったらとりあえずお詫びする。

面白いなと思ったのが、壊れることが当たり前であり、それに対する備えも一定程度されていること。今回行きたかったStar WarsエリアのGalaxy's EdgeにはMillenium Falcon: Smugglers Runというアトラクション(あのMillenium Falconの操縦ができる!)があり、このアトラクションでは、まずHondo Ohnakaというキャラクター(Clone Warsというアニメシリーズでたびたび出てくる憎めない海賊)からミッションの説明を受けます。

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しかし、何回か乗ったうちの一回は、このロボットが壊れたようで、ロボットの上に布が被され、見えないようになっていました。その代わり、ビデオで「今日はそこにいれないのが残念だが…」というセリフが流れます。つまりロボットである以上、一定の頻度で壊れる、壊れた時はその場にいないことにして、代わりのビデオを流そう、と予め設計されているわけです。

日本の通販は、完璧なものが届くために全力を尽くす一方で、Amazonは何かあったらすぐ交換(問題は一定の確率で起きると割り切る)という違いも、やはりこの期待値の違いから来ているような気がします。

壊れるのが当たり前か、完璧に動くのが当たり前か。これは良し悪しですね。完璧に動くのが当たり前の国から壊れるのが当たり前の国に行くと、イライラするのも確かです。ただ、完璧に動くのが当たり前にするために、国全体としてかけているコストを考えると、もっと大らかでもいいのではないかとも思います。
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2022年05月17日

米国キャッシュレス事情

2年以上振りに国外脱出を果たし、アメリカに行ってきた感想としては、とにかく何でも高かったとお話ししました。一方で、高いと思いつつ、意外にも(?)あまり実感がなかったのが正直なところ。

もちろん負担感は確実にあるのですが、99%の支払いがキャッシュレスなので、ピンとこないというのが正直な感想です。お札で払えば物理的にお札が減ることを実感しますが、キャッシュレスの場合、良くも悪くもレジやレシートに表示された数字に過ぎません。まあ、それが実際に口座から引き落とされて、激しく実感することになるわけですが(苦笑)。

改めて感じたのが、ますますキャッシュレスが進んだな、ということ。もともとアメリカはクレジットカードおよびデビットカードの利用が一般的であり、ほとんどの場所で使えますが、それがさらに進んだように思います。なおかつ、今回はほとんどの場合、タッチ決済(アメリカの表現ではTap)ができるようになっていました。日本でも一部のクレジットカード&一部のお店でタッチ決済ができるようになってきていますが、今回アメリカではかなりの確率でタッチ決済で済ませることができました。タッチ決済は端末に触れる必要もありませんから、新型コロナウイルス禍において、普及が進んだということもあるのでしょうね。

タッチ決済は便利なので、日本でも広がってほしいと思いますが、暗証番号を求められないので、万が一カードを落とした場合がちょっと心配です。落としたとわかった瞬間にカードを止めないと、被害が大きくなりかねない。特にデビットカードは銀行口座から直接引き落とされますから。ただ、その分、デビットカードの方がセキュリティのチェックは厳しいようで、特にネットの決済では支払いが通らないことも。そういった時のために、カードは複数持っていないと困るケースもあるように思います。

意外かもしれませんが、アメリカではいわゆるQRコード決済はほぼ存在していません。中国はQRコード決済大国になりましたが、アメリカにおいては、もともとクレジットカード/デビットカードが浸透しているので、QRコード決済ならではのメリットを示せないのではないかなと思います。アメリカの場合、クレジットカードはリボルビング払いが基本で、カード発行会社にとって高い金利収入が見込める分、多少低い信用力でもクレジットカードが発行されやすいとか、そもそもデビットカードであれば支払いの銀行口座の残高の範囲内でしか使えない(要は所持金以上に使うことができる信用力供与=クレジットが提供されていない)ので、入手が容易、といった事情もあるのでしょうか。

キャッシュレスが進んで困るのは、現金の入手が難しくなっていること。現金の用途は限られており、今回の旅行でもせいぜい数十ドルしか使っていませんが、必要な時は必要。用途としては、基本的にはチップです。レストラン等はカードで支払う際にチップの金額を上乗せすればいいのですが、荷物を運んでもらった時、預けていたクルマを出してもらった時、ハウスキーピング(毎朝)には現金でのチップが必要です。ホテルにチェックインする際に、小額紙幣に崩しておかないと、チップが払えないと慌てることになるので、注意が必要です(なおかつ$100紙幣はあまり一般的に使われていないので、ホテルですら両替を断られることがあるので注意が必要です。万能なのは$20紙幣ですね)。

基本的にはキャッシュレス先進国ですが、現金でのチップもあり(そういった意味では小切手も今でも現役ですし)。そういったまだら模様がアメリカらしいと言えばアメリカらしいように思います。ただ、最近ではVenmoZelleなどの個人間送金アプリでチップを払うということもあるようですし、逆にお店がservice feeやresort feeを請求することで、個々のチップを不要にするという動きもあり、現金でチップというのもいずれはなくなっていくのかもしれません。
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2021年11月04日

私の履歴書: 吉野さん

日経新聞で私が毎日楽しみにしているのが、「私の履歴書」です。どれぐらい好きかというと、ざっと1面を確認したら、すぐにひっくり返して私の履歴書をチェック、その後1面に戻って、以降2面、3面と読み進めるというのが、私の毎朝のルーチンです。

もう終わってしまいましたが、先月はノーベル賞受賞者である吉野彰さんの「私の履歴書」でした。吉野さんと言えば、リチウムイオン2次電池の開発者。ノートPCにせよ、スマホにせよ、あるいは電気自動車にせよ、リチウムイオン電池があってこそ成り立つもの。私たちの生活を大きく変えた存在です。

一ヶ月間毎朝楽しみに読んでいたのですが、ビビビッと強烈に響いたのが、連載も最終盤の29回目。技術によって当たり前のものとなる「三種の神器」に対し、IT革命によって廃れていく技術としての「三種の鈍器」(これは吉野さんの造語)についてのくだりで、その一つとして銀塩写真について書かれていました。記事全体の一部なので、そのまま引用させていただくと…。

銀塩写真はなぜ廃れたのか。多くの人は「デジタルカメラが出現したから」と答えるだろうが、それは違う。銀塩写真は画質に優れ、100年以上も色あせず、価格も手ごろで、性能面でデジカメに劣るわけではなかった。

ではなぜか。価値観が変化したのだ。「写メール」の登場で銀塩写真は一気に窮地に追い込まれた。

2000年、カメラ付き携帯電話が登場した。これにより「写真は撮ってプリントする」から「撮ってメールで送る」と、価値観が一変した。アルバムではなく携帯電話に保存し、友達や知人同士で見せ合うようになったのだ。

技術に関わるものとして、これはまさに常日頃から考えていること。弥生の手掛けている会計ソフトについても、まさにこの考え方が大事だと思っています。デジカメ/銀塩写真と会計ソフトがどうつながるのか、大事なテーマなので次回じっくりとお話ししたいと思います(すごい前振り)。

それにしても私の履歴書、面白い人と、そうでもない人に正直わかれますね。吉野さんの前の山本耀司さんもそうでしたが、やはり自分で新しいモノを生み出してきた、世界を切り開いてきた方は面白いですね。それに対し、あくまでも傾向値ですが、サラリーマンとして積み上げてしっかり社長を務めたという方は、さらっと読んであまり印象に残らないように思います。新しいモノを生み出してきた、世界を切り開いてきた方は、それだけ失敗や挫折もされている訳で、読む立場からすると、ある意味失敗や挫折こそが面白いのかもしれません。

私が将来私の履歴書を書くような立場になるとは思いませんが、失敗や挫折こそ書き留めておくべきなのかもしれません(笑)。
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2021年05月28日

事業継続力と競争力を高めるデジタル化

前々回前回2021年版中小企業白書を題材にお話ししてきました。今回の中小企業白書は、中小企業が新型コロナウイルス禍による危機に直面する中で、「危機を乗り越える力」が大きなテーマになっており、デジタル化が「事業継続力と競争力を高める」としています。

実は、今回の中小企業白書で一番ご紹介したいのは、P242にある、事例2-1-9: 株式会社トオセヨという「トランザクションレンディングを活用し、資金繰りに余裕を持たせる企業」の事例です。はい、そうです、トオセヨさんはアルトアのお客さまです。アルトアのオンライン融資サービスは行政機関からも注目されており、今回の中小企業白書でその事例を紹介したいということで、アルトアからご紹介したという経緯があります。

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「そうした中、利用していた会計ソフト「弥生会計」からメールで案内を受けたのが、アルトア株式会社のオンライン融資サービス(以下、「アルトア」という。)であった。申込みに当たっては「弥生会計」の会計データだけ用意すればよく、面談も不要で、金融機関に比べて融資も迅速だという。24 時間インターネット上から申し込めるので、店を閉めた後の夜間の時間を使って利用できるのも大きなメリット。同サービスを活用して手元資金に余裕を持たせることで、本業に集中できるようになった。」

前回は、デジタルで懇親会のあり方を変えたnonpi foodboxというサービスを紹介しつつ、同時に、「誤解のないように申し上げると、何でもかんでもデリバリーすればいいとは思っていません。またデジタルはあくまでも有効なツールであって、全てがデジタルであるべきだとも思いません」とお話ししました。外に食べに行く飲食店がなくなり、全てがデリバリーになってしまったら、それこそ味気のない世界です。飲食店には、普段と違う空間で楽しい時間や美味しいものを共有するという喜びがあります。

もっとも、だからといってデジタルは無縁ということではありません。むしろ、普段と違う空間で楽しい時間や美味しいものを共有するという喜びを最大化するために、デジタルをどう活用するか。トオセヨさんの場合には、お客さまに楽しい時間や美味しいものを提供することに精一杯で、金融機関に相談に行くことも難しかった。そこで24時間インターネット上から申し込めるアルトアを活用したわけです。アルトアであれば、改めて書類を用意する必要もなく、日頃から記帳している会計データさえあればいい。これもデジタルを活用して事業継続力を高めた好例ではないでしょうか。


個人的に残念なのは、行きたい行きたいと思いつつ、新型コロナウイルス禍の影響で未だにトオセヨさんのお店(「満月」)にお伺いできていないこと。そう言っているそばから、緊急事態宣言が延長という報道があり、ため息が出ます。現状の新型コロナウイルス禍の状況を鑑みると、しっかりとした対策が必要であることに異論はありません。ただ、感染者増加に対する直接的な対策である医療体制の強化、また、感染者増加を未然に防ぐワクチン接種になかなか有効な手を打てていない中で、結果的に飲食店を中心として一部の事業者にばかり過大な負担を強いる策が本当に妥当なのかは疑問に感じています。
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2021年05月26日

危機を乗り越える力

前回2021年版中小企業白書についてお話ししましたが、今回の中小企業白書は、中小企業が新型コロナウイルス禍による危機に直面する中で、「危機を乗り越える力」が大きなテーマになっています。

市場に大きな変化(おそらくは不可逆な変化)が起きている中で、事業のあり方を見直せるかどうか。私が印象に残っているのが、オンライン飲み会用のケータリングです。弥生でも、ここ一年間はHalf Year Meetingや社員総会などで皆が物理的に集まることができていませんし、それに伴ってBeer Bustを開催することもできていません。昨年秋にCS本部総会を開催する際には、ホテルの宴会場を利用できないことは自明だったものの、例年お世話になっているだけに、多少なりとも貢献できればということで、ホテルにせめて食事を気の利いたお弁当のような形で数百人分用意してもらえないか聞いてみました。

私がホテルの経営者であれば、即答でもちろん喜んで、と回答するところですが、実際には、対応できないという返答でした。食べ物だけに食中毒の心配もあり、ホテル外では品質を担保できないという判断だったのかもしれません。ただ、それ以上に、我々はホテルだから、ホテルの中で最高のサービスを提供するのが、我々の仕事というある意味の思い込みがあったのではないでしょうか。

ホテルには断られましたが、人事総務部で引き受けてくれるところを一生懸命探し、CS本部総会でも社員総会でも、皆が同じ食事をするという経験を共有することができました。最近ではnonpi foodboxというオンライン飲み会に特化したフードデリバリーが好評で、弥生でも各部署のオンライン飲み会で利用するようになっています。このサービスは、デジタルで懇親会のあり方を変えたいい例だと思います。

誤解のないように申し上げると、何でもかんでもデリバリーすればいいとは思っていません。またデジタルはあくまでも有効なツールであって、全てがデジタルであるべきだとも思いません。実際問題として、あくまで私個人の感想ですが、最近は色々な部署でnonpi foodboxを利用するため、私個人としては少々飽き気味です(苦笑)。でも、おそらくまだまだ進化するサービスだと思いますし、その際にデジタルは大きな武器になるでしょう。

一方で、既存のホテルや飲食店が全て駆逐されることもないでしょう。やはり普段と違う空間で楽しい時間や美味しいものを共有するという喜びは絶対的に存在しますから。ただ、これまでもこうやってきたから、と漫然と同じことを続けることが成り立たなくなっていくのだと思います。ホテルやお店に拘るのであれば、空間だったり、雰囲気だったり、あるいは素材の新鮮さだったり、ホテルやお店である「必然性」をよりはっきりと示していかないといけないのだと思います。

そのためにもデジタルは有効な武器になるはずです。デジタルを活用することによって、業務を効率化する、そして時間を「必然性」を示すために使えるようにすることによって。
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2021年02月08日

税理士特集

前回はダイヤモンド・オンラインの「税理士サバイバル」という特集の一環で、私の取材記事が掲載されたことをお話ししました。ちなみにこの特集は紙面では本日発売の週刊ダイヤモンドに掲載されているのですが、紙面では1)会計士、2)コンサル、3)税理士の豪華3本立てとなっており、私の記事はページ数の関係でマルっと割愛されたようです(泣)。

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このような税理士特集は様々な雑誌で年に一回ぐらい組まれます。多くは、クラウドが来た、RPAが来た、税理士の仕事はなくなる、税理士の未来は暗い、という(言葉を選ばずに言えば)煽り記事。税理士という「士業」であり、独占業務を持っていることに対する妬みが根底にあるのではないかと思うぐらい極端な論調の記事も珍しくありません。

今回の特集に関しては、「クラウド&RPAの大波襲来」といったいかにも煽り的な部分もあるのですが(これまでにもお話ししているように、クラウドもRPAも所詮道具でしかないので)、それでも全体としては、この種の特集の中では比較的客観的に書かれていると思っています。実際、取材の際にも、意外に(失礼!?)客観的に見ていらっしゃるな、と感じました。

そもそも税理士には多様性があり、差別化の仕方、競合優位性の築き方は一つではありません(そこは規模を追求せざるを得ない監査法人と大きく異なります)。私の記事でも「税理士の先生方の生き残り策は、経営コンサルタントとして経営者の心理カウンセラーのごとく悩みを聞いてアドバイスすることや、税の種類に特化するという方法もあるでしょう。勝ち筋はたくさんあると思います」とお話ししています。それに呼応してということではないのでしょうが、特集の一つとして「税理士8タイプ生体図鑑」という異なる戦略が描かれています。注文を付ければ、「街の税理士」に対し、やや否定的に書かれているのはひっかかりますが。街の税理士は、いわば事業者のかかりつけ医。ここに書かれたような後ろ向きな街の税理士ももちろんいますが、前向きな街の税理士も沢山います。

ということで、この種の特集の中では、比較的読み甲斐があるのではないかと思います。税理士の先生方の感想も聞いてみたいところですね。

ところで、記事中で税理士法人ベリーベストがRPAの活用事例として紹介されています。ただ、税理士の先生方ならお分かりいただけるかと思いますが、会計ソフトから税務申告ソフトへの転記をRPAでというのもいいのですが、より重要なのは、会計ソフトへの入力の効率化です。この点に関しては、実は2018年秋のPAPカンファレンスで、税理士法人ベリーベスト代表の岸先生に記帳代行センターの立上げとスマート取引取込の活用について講演いただいています。

こちらのPAPカンファレンス開催レポートでは講演の概要がまとめられており、講演資料もダウンロード(PAPログインが必要)できますので、是非ご覧になってください。
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2021年01月26日

「電動車」の定義

先週、私が昨年秋に「電動車」を購入したと書きました。先般菅総理が、「2050年カーボンニュートラル」を改めて宣言し、そのための施策の一つとして、「2035年までに、新車販売で電動車100%を実現」することを表明されましたが、それを先取りしたことになります。

ただ、ここでいう電動車とは一体どんなクルマを含むのでしょうか、あるいは含まないのでしょうか。そこに混乱があり、それが前回お話ししたトヨタの豊田社長の「反旗」(というよりも抗議)につながっています。電動車について語る前に、電動車とは何かをしっかりと定義する必要があります。

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電動車と聞いて真っ先に思い浮かぶのは電気自動車(EV)でしょうね。メーカーで言えば、テスラ。電気モーターとバッテリーを搭載しており、バッテリーに蓄積された電気で電気モーターを駆動して走ります。未来のイメージはありますが、まだまだ圧倒的少数派です。

一方で、電動車を「駆動用の電気モーターを搭載している」と定義すると、いわゆるハイブリッド自動車(HV)まで含まれることになります。HVといえばトヨタ、そしてトヨタのHVと言えばプリウス(実際にはトヨタのほとんどの車種でHVが用意されていますが)。街中を一杯走っているプリウスは、この定義であれば立派な電動車ということになります。

EVとHV、この間には、プラグイン・ハイブリッド自動車(PHEV)が存在します。PHEVは、エンジン(内燃機関)と電気モーターの両方を搭載しており、石油燃料でも、電気でも、あるいはそれらを組み合わせて走ることができます。PHEVはHVと何が違うの、というのはよくある疑問ですが、HVはエンジンが主で、電気モーターはその補助にすぎません。このため、電気だけで走ることはできない(マイルドHV)、もしくは、電気で走れても発進時などごくわずかな距離に限られます(ストロングHV)。先ほど例に挙げたプリウスはここでいうストロングHVです。一方で、プリウスにはプリウスPHVというPHEVの車種も存在します。PHEVは外部からの給電ができ、なおかつ、その電力を貯める比較的大きなバッテリーを搭載しているため、それなりの距離を電気モーターだけで走ることができます。

逆にどんな定義でも電動に当てはまらないのが、内燃機関自動車です。内燃機関のことをInternal Combustion Engineということから、ICEという略称が使われます。正確に定義すれば、HVもPHEVも、ICEを搭載していますから、ICE「のみ」車と表現すべきなのかもしれません。

今回の日本の動きは海外の動きを追従するものですが、将来的なICE禁止について、昨年秋に具体的な動きを見せたのが、イギリス。ジョンソン首相が「緑の産業革命」の一環として2030年にHV含めICEの新車販売を禁止、2035年にはPHEVも禁止し、純粋なEVのみとすることを発表しています。つまり2035年には(あくまでもそれ以降の新車販売になりますが)EV 100%。

では、菅総理が表明した「電動車100%」で言う電動車の範囲は? 実はこれは明確には定義されていないのですが、一般的にEV/PHEV/HVと言われています。つまりエンジンを主、電気モーターは従であるHVも電動車に含まれる訳です。逆に言えば、日本において「ガソリン車廃止」という言い方は不正確ですし、非常に誤解を招く表現です。豊田社長が抗議をしたのもまさにこのポイントです。

ちなみに前回もお話ししましたが、今回私が購入したのはPHEV。現実主義者の私らしく(?)、EVとHVのいいとこどりを狙った訳です(しかしこれはどっちつかずで中途半端とも言えるのですが)。私自身はPHEVを選択し実際に3ヶ月近く乗ってみて、そしてまた購入してから(遅い!)色々と調べるにつけ、電動の良さも実感していますし、同時に課題もまた実感しています。結論から言えば、私は豊田社長と同様に、電動化は目指すべき、ただし拙速にではなく、日本という市場にあわせた方法と時間軸で、と考えています。
posted by 岡本浩一郎 at 21:40 | TrackBack(0) | ビジネス

2021年01月20日

2035年電動車100%

1/18に行われた施政方針演説の中で、菅総理大臣は、「2050年カーボンニュートラル」を改めて宣言し、そのための施策の一つとして、「2035年までに、新車販売で電動車100%を実現」することを表明しました。「2050年カーボンニュートラル」自体はこの場が初ではなく、昨年10月の所信表明演説で既に宣言されていましたし、電動車へのシフトも昨年末に公表された「グリーン成長戦略」で「遅くとも2030年代半ばまでに、乗用車新車販売で電動車100%を実現できるよう包括的な措置を講じる」とされていましたが、「2035年」という明確な期限を菅総理ご自身が表明したことには大きな意味があると思います。

一方で、2030年代半ばまでガソリン車廃止という報道が続く中で、トヨタの豊田社長が言葉を選びながらも、電動化 = ガソリン車廃止という見方に「『反旗』を翻した」ことも話題になりました。

これは実は他人事には思えない部分があります。数年前の「クラウド会計ブーム」を思い起こすからです。とにかく電動にせねば、とにかくクラウドにせねば。似ていませんか。ただ、電動もクラウドも手段でしかありません。電動は温室効果ガスを減らし温暖化を防ぐという目的のための手段。クラウドは業務を効率化し、事業を成功させるという目的のための手段。そういった手段がいつの間にか目的化することはありがちではありますが、当事者としては複雑な思いです。

誤解のないように申し上げると、手段としてのクラウドには弥生は大賛成です。弥生は既に10年以上前からデータをクラウドに保管し、どこからでもアクセスできる仕組みを提供していますし(そういう意味ではトヨタはハイブリッド車であるプリウスをもう20年以上前から手掛けていますから本当にすごいことだと思います)、現在最もクラウドが浸透している個人事業主向けのクラウド会計ソフトでは過半のシェアを占めるNo.1です。それでも、いつの間にかクラウドが目的化する、クラウドであればよくわからないけれど問題は解決するという短絡的な思考には抵抗を覚えます。ですから、電動化でありクラウドがメディアにもてはやされている中でそういう姿勢を見せることは賢明ではないのかもしれませんが、豊田社長のフラストレーションはとてもよく理解できます。

ちなみに私は2050年カーボンニュートラル自体には賛成です。決して容易なことではないですが、目指すべきことだと思います。だからという訳ではないのですが、実は昨年秋に電動車を購入しました。電動車にも色々ある(これが混乱のもとなのですが)のですが、プラグインハイブリッド(PHEV)というものです。エンジンでも走れるし、電気モーターでも走れる。現時点の日本においてはこれが最適解だと思い、PHEVを選択しました。

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それから約2ヶ月半、約1,400km走りましたが、電動車のいい面も実感する一方で、その課題もひしひしと実感しています。とてもいい面もありますし、個人的には気に入っていますが、このままでは普及は難しいだろうな、というのが正直な感想です。今後電動車を検討される方も増えてくるでしょうし、電動車のメリット/デメリットについて少しずつお話ししてみたいと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 21:44 | TrackBack(0) | ビジネス

2020年05月29日

インフラが必要とされなくなる時

少し前に通勤定期をどうしよう、というお話しをしました。私の今の通勤定期が5月末までなのですが、これまでリモートワークを続けている、さらに今後も一定程度リモートワークが続く中で、いつも通りに更新するかどうか。前回は、「一旦は6ヶ月定期を買うのだと思います」と書きましたが、その後もう少し考え、このタイミングでは買わない、ということにしました。

前回お話しした通り、「週3日の通勤であれば何とかトントン」。あくまでも個人的にですが、週3日出勤で週2日はリモートワークというあたりがまずまずいいバランスかなと感じていることもあって、一旦は買うかなと判断しました。ただ、ここには出張が考慮されていません。以前お話ししましたが、昨年の私の出張の回数は42回、日数にして67日、宿泊日数が38泊でした。実際には、これからは出張は減るのだと思います。その必要性は改めて問われることになるでしょう。ただゼロにはならない。減るにしても一定程度は出張があるとすると、オフィスへの出勤は週3日を切ることになります。また実際問題として、引き続きリモートワーク推奨としている中で、具体的なオフィス出勤の予定もない中で、今買わなくてもという現実的な判断もあります。

これはあくまでも私の個人的な判断ですが、皆が通勤定期を買わなくなったらどうなるか。これは鉄道会社にとっては恐ろしいシナリオだと思います。私は常々、JR東日本は素晴らしい会社だと思ってきました。羨ましいとも。単なる鉄道会社に終わるのではなく、Suicaという電子マネーを普及させ、駅ビルを高付加価値化し、そこに経済圏を生む(地元横浜でも、念願の駅ビルが間もなくオープンする予定です)。しかし、そもそも人が電車に乗らなくなったら。定期券は都度買うよりも割引になっていますが、前払いですから、キャッシュフロー的には大きなプラスになっているはずです。JR東日本に勤務している友人もいるので、非常に複雑な気分ですが、今回の新型コロナウイルスは社会のあり方に大きな変革をもたらしており、それは下手をすれば会社の土台を揺るがしかねないということを改めて感じます。

翻って弥生はどうか。弥生も、JR東日本とは規模感が全く違いますが、事業者のインフラであると自負しています。ただ、そのインフラ自体が必要とされなくなったら。これからはオフィスだけなく、ホームオフィス、サテライトオフィスとロケーションフリー化が進む中で、これまでと同様のオフィスに縛られたインフラであり続ければ、必要のないものとなってしまうかもしれません。幸いにして弥生は、クラウドアプリケーション(弥生オンライン)も提供していますし、デスクトップアプリケーション向けにもクラウドストレージ(弥生ドライブ)を提供しており、どこからでも業務を継続できるようになっています。ただ、物事の前提が大きく変わりつつある中で、弥生の提供する価値が引き続き必要とされることを、当たり前と思ってはいけないのだと思います。

これまでの当たり前が当たり前ではなくなる。新型コロナウイルスはそれだけ大きな変革をもたらそうとしています。
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2020年05月27日

さらなる支援策

月曜日の緊急事態宣言解除に関する記者会見の中で、安倍総理は、「感染を抑えながら完全なる日常を取り戻していくための道のりは、かなりの時間を要する」、「その出口に向かって、この険しい道のりを皆さんと共に乗り越えていく。事業と雇用は何としても守り抜いていく」と決意表明されました。この決意が反映された第2次補正予算案が今日閣議決定されました。その柱は、新型コロナウイルス禍で打撃を受けた企業の資金繰り支援の拡大。

政府系や民間の金融機関を通じた実質無利子・無担保融資など、従来から動いている施策の枠の拡大だけでなく、事業者の家賃支払いを支援する「家賃支援給付金」、休業手当を受けられない労働者に対する給付となる「新型コロナ対応休業支援金(仮称)」など、追加の施策もこの予算には正式に盛り込まれました。

家賃支援の対象は、1ヶ月の売上高が前年同月比5割以上の減少か、連続3ヶ月間で3割以上減少した事業者。前者の条件は基本的に持続化給付金と同じですから、持続化給付金の対象となった事業者はこの支援策も対象になると考えていいのではないかと思います。対象となった場合には、原則として家賃の2/3(月額の上限が法人50万円、個人事業主25万円)を6ヶ月分給付を受けられるようです。つまり最大300万円(複数店舗の場合には、最大600万円)。これは非常に大きいですね。家賃と言えば、固定費としてとても大きい存在ですから、この支援は非常に有効だと感じます。

本ブログでは以前、雇用調整助成金についてお話ししました。新型コロナウイルスの影響など、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業者が、従業員に対して一時的に休業を指示した場合には、従業員の生活を保護するため、休業させた所定労働日について、平均賃金の6割以上の休業手当を支払う必要があります。雇用調整助成金は、この休業手当の支払いに対し、事業者に助成する制度です。これまで段階的に助成率が引上げとなっており、また申請に非常に手間がかかるということで、申請の手続の簡素化も進められています。しかし、1日あたりの上限額が8,330円では低すぎるという声が強かったのですが、今回、1日あたりの上限額が15,000円に引き上げられました。

一方で、この休業手当が(少なくとも速やかに)支払われないケースが現実問題としてあることから、従業員が直接申請することによって、休業手当に相当する支援金を直接受け取れる、いわば雇用調整助成金のバックアップの仕組みとして用意されるのが、新型コロナ対応休業支援金(仮称)です。

一つひとつの施策はとても喜ばしいものではあるのですが、施策が増え続け、また個々の施策の条件も頻繁に更新されるため、事業者の方が自分に適した施策を見つけることがますます難しくなっています。弥生では、3月から「新型コロナウイルスに伴う支援情報」を整理して発信しています(今回の新しい支援策の情報も、制度が具体化するタイミングで追加します)。4月には大幅なリニューアルをしたばかりなのですが、増え続ける情報をよりわかりやすくお伝えできるよう、さらに知恵を絞らないといけないと感じています。

なお、念のためですが、特に法人を中心に、顧問の会計事務所がある場合には、まずは顧問の会計事務所に相談すべきです。どの会計事務所も、お客さまである事業者の資金繰りを支援するために、必死で戦っています。ある先生は、お客さまの支援が優先で、ご自身の確定申告をいまだに済ませていないとのこと。4/22の時点での話でしたが、さすがにもう終えられたのでしょうか > O先生。
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2020年04月06日

プランB

4月に入って一週間弱。新型コロナウイルス禍が広がる中、資金繰りの一つの山場である3月末を何とか超えたと思ったものの、4月に入っても事態は好転していません。報道によると明日にも緊急事態宣言が出されるのではということで、事態はむしろ悪化しているようにも見えますし、先の見通しが描けない状況です。

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先週金曜日は友人と行きつけの神田のイタリアンに行く予定だったのですが、状況を鑑みてとりやめ、その代わりに持ち帰りを用意していただきました。持ち帰りで美味しい食事を食べられることになった家族は大喜び。これもお気に入りのお店を支えるひとつの方法かと思います。ちなみに、外食を予定していた友人とは今晩これからリモート飲み会の予定です(笑)。

ただ、事態がまだ長引くだろうという判断のもとで、苦渋の決断をする事業者の方も出てきています。特に飲食業で顕著ですが、当面営業を休止するお店が増えつつあります。制約を受けつつも事業を継続するのをプランAとすると、一旦事業を休止するのはプランBと言えるでしょうか。判断の分かれ道は、営業を継続することによって多少なりともプラスに働くかどうか。特に飲食業の場合には、食材の仕入れがあり、(使いきれない分も含めての)仕入れ > 売上になりかねないため、事業を継続することが傷口を広げることにもなりかねません。

神田のお店も、今日/明日のランチ営業で食材を消費した上で、水曜日から一週間ほど営業を休止するとのこと。周りのお店でも、休業が増えてきたとのこと。本当に苦渋の決断だと思います。ただ、長い目で見れば、ここで出血を一旦抑えるのは有効な選択肢かもしれません。

お店を休むということで、その間は従業員の方には有給休暇をとってもらうという手もありますが、こういった事態を受け、国による最大限の支援体制が用意されています。それが雇用調整助成金。経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業者が、従業員に対して一時的に休業を指示した場合には、従業員の生活を保護するため、休業させた所定労働日について、平均賃金の6割以上の休業手当を支払う必要があります。雇用調整助成金は、この休業手当の支払いに対し、事業者に助成する制度です。制度自体は従前からあるものですが、今回、新型コロナウイルスの影響を受けている事業者については、助成率が最大で9/10(90%)にまで引き上げられています。ただし、1日あたり一人8,330円という金額の上限があります。例えば、平均賃金が10,000円で休業手当を最低限の60%支給した場合には、10,000円×60%×9/10=5,400円の支給額になり、15,000円に対し、80%支給した場合には、計算上は15,000円×80%×9/10=10,800円となりますが実際には金額上限を超えるため8,330円の支給額ということになります。

休業が短く終われば有給休暇の消化でもよいと思いますが、ある程度続くことを考えると、折角国の支援を受けられるのですから、この制度の活用も検討すべきだと思います(雇用調整助成金は支給限度日数は100日となっています)。通常は休業の事前の届け出が必要なのが、今回は事後提出でも構わないのも大きなポイントですね。

もちろん通常通り営業を継続できるのが望ましいとは思いますが、休業によって、仕入れを止め、なおかつ雇用調整助成金で人件費をある程度賄うことによって出血を止めるのも、長い目で見れば有効な選択肢となりうるかと思います。残る大きな費用項目である家賃に関しても、家主と交渉する余地はあるかもしれません(少なくとも支払いを待ってもらう、は交渉してもいいのではないかと思います)。

雇用調整助成金も含め、既に様々な支援策が用意されています。弥生ではこれらの情報を可能な限り網羅したページを作成し、継続的に更新しています。どんな可能性があるのか、一度ご確認頂ければと思います。
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2020年03月17日

早めの備えを

前回は確定申告を早めに終えましょうというお話しをしましたので、今回も「早め」というと同じ話と捉えられるかもしれません。しかし、今回は早めの「備え」の話です。

日本では新型コロナウイルスの感染が爆発的に広がる状況にはなっておらず、感染拡大が比較的抑制されているように見受けられます。ただ、それは様々な活動の抑制によって成り立っているのも事実。東京ディズニーリゾートは結局1ヶ月以上に渡って休園するようで、私が経営者だったらと思うと、本当に目まいがするような状況です(政府からの要請もあったのでしょうが、それにしても本当に勇気のある判断だと思います)。東京ディズニーリゾートのように休園とまではいかず、営業は続けていても、外出を控え、活動を自粛するムードの中で、いつもよりもお客さまが目立って減っているお店も多いのではないかと思います。

事業者にとっては本当に厳しい状況です。なおさら厳しいのは、終わりが見えないということ。1~2週間の集客減であれば、少し頑張れば取り返すこともできるかもしれない。しかし、今回の新型コロナウイルス禍で非常に難しいのは、その終わりが現時点では全く見通せないということです。

そういった中では、最悪の事態、すなわち、現状がこの先も当面は続くという想定で備えるべきです。それも速やかに。事業にとっての血液はキャッシュ(現預金)。帳簿上は黒字であっても、現預金が尽きれば、事業を続けることはできません。仮に今はまだ現預金に余裕があるとしても、この先3ヶ月間、ひょっとしたらもっと長い期間に渡って経済活動の停滞が続いたらどうでしょうか。それでもびくともしない事業者はかなり稀なのではないでしょうか。

もちろん政府も危機感を持っており、現在様々な支援策が講じられています。休日も含めて経営全般について相談できる窓口も用意されていますし、小学校等の臨時休業等により、仕事を休まざるをえなくなった方への支援、あるいは新たにテレワークを導入し、又は特別休暇の規定を整備した中小企業事業主に対する助成金なども用意されています。さらに、まさが今が佳境の個人事業主の所得税/消費税の確定申告についても、申告期限の延長だけではなく、新型コロナウイルス感染症の影響により納税が困難な場合には、納税そのものの猶予制度も用意されています。

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様々な支援策があるが故に全体を把握しにくい状況ですが、弥生ではこれらの情報を可能な限り網羅したページを作成し、公開しています。手遅れになる前に、まずはどんな可能性があるのか、一度ご確認頂ければと思います。弥生では今後も情報収集を続け、情報をアップデートしていきます。

弥生も情報発信を続けていきますが、事業者それぞれの個別の事情を踏まえ、最適な方策を一緒に考えてくれるのが、会計事務所です。備えは早めに。顧問の会計事務所にも早めに相談することをお勧めします。
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2020年03月02日

経済を回し続けよう

先週末は越後湯沢までスキーに行ってきました。毎年泊っているお気に入りの定宿でのんびり、ランチは毎年楽しみにしているイタリアン(つまりスキー自体は二の次ということです、笑)。我が家にとっては恒例行事です。

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ただ、今回は明らかに空いています。ゲレンデはガラガラとは言いませんが、快適と言える程度の人出。往復は新幹線で、特に帰りは毎年満席になるのですが、今回はかなり空席が目立ちました。今年は雪不足という事情もあり、確かに例年と比べると雪は明らかに少ない(それでも気持ちよく滑れるコンディションでしたが)。しかし足元で影響が大きいのは、新型コロナウイルスのようです。政府により学校の休校要請がされる状況とあって、外出を避ける影響が出ているようです。

先週には、これもひいきの神田のイタリアンにお邪魔したのですが、予約のキャンセルが多く出ており、目に見えて数字が悪化しているとのこと。累計で100人近いキャンセルが出ているそうですから、それは影響が出ますよね。念のためですが、このお店の味もサービスもこれまでと全く変わらず、私自身はゆっくりと美味しいものを堪能させてもらいました。

こういった現象は、東日本大震災の時もありました。計画停電もあり、ガソリンや日常物資の供給も十分でない中で、とにかくモノを買い込んで家に籠る。皆不安でしたし、何よりも余震の懸念もありましたから、これ自体否定される話ではありません。今回も、自分の感染を防ぐため、また感染の急拡大を防ぐためにも、不要不急な外出は控えるべき、ということを否定するつもりはありません。

ただ、皆がその方向に走ってしまえば、別の生き物が存亡の危機に立たされます。それは、全国津々浦々の事業者の皆さんであり、ひいていえば日本経済。この勢いで日本全体が自粛モード一色になれば、日本の経済が止まってしまうという危機感を持っています。

だからと言って、何も考えずに外に出て、好きなように振る舞えという訳ではありません。新型コロナウイルス感染による致死率は高齢者や基礎疾患のある方で明確に高い傾向がありますから、こういった方や同居の家族は可能な範囲で外出を控えるべきだと思います。また、現時点で最も怖いのは、治療を要する感染症患者が急増することによって、医療システムが維持できなくなることですから、誰であっても、新型コロナウイルスに限らず、普通の風邪やインフルエンザも含めて、感染しないように十分な注意が必要です。

あくまでその上で、ですが、むしろ意識して外に出て、積極的にお金を使うことも必要なのではないでしょうか。大人数での宴会では、どうしても距離が狭くなるのでリスクが高いのであれば、この機会に少人数でゆったり、じっくりと話しましょう。

一方、事業者としても、この荒波がいつ終わるのかは見通せない中で、波風が過ぎるのをただ待つだけではなく、生き残りに向けて、しっかりと備えましょう。可能な範囲で手元資金を厚めに維持しましょう。今すぐに借り入れる必要はなくても、必要な時に、どこから借り入れできるか、準備はしておきましょう。

既に国からも資金繰り支援策が発表されています。国による支援策は、こちらの経済産業省がまとめているページが参考になると思います。
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