2020年01月28日

ついにゲット!

昨日1/27朝に自転車で(寒かった…)地元の神奈川区役所へ。予約は9:30だったのですが、気合が入っていたためか9:20頃には到着。幸いにして、9:30まで待たずともすぐに受付してもらえました。これはすぐに終わるかも、と淡い期待を抱いたものの、持参した書類(交付通知書と通知カード)の確認と本人確認後はしばらく待つことに。それなりに待った後に暗証番号(パスワード)の設定作業を行い、ようやくマイナンバーカードを手にすることができました。

暗証番号は、タッチパネルを使い、自分で入力します。マイナンバーカードに設定される暗証番号は、(1)署名用電子証明書/(2)利用者証明用電子証明書/(3)住民基本台帳用/(4)券面事項入力補助用の4種類。(1)署名用電子証明書の暗証番号は、「インターネット等で電子文書を作成・送信する際に利用します」ということで、代表例がe-Taxです。(2)利用者証明用電子証明書の暗証番号は「インターネットサイトやキオスク端末等にログイン等をする際に利用します」ということで、代表例で言えばマイナポータルにログインする際に利用するようです。では、(3)/(4)はというと…、正直よくわかりません。

(1)は、「英数字6 文字以上 16 文字以下。英字は大文字のAからZまで、数字は0から9までが利用でき、いずれも1つ以上が必要」となっています。いわゆる一般的なパスワードの様式ですが、英字小文字が使えないのは驚きました。タッチパネルで入力させる際に、大文字と小文字を使い分けるのが難しいという判断なのでしょうか。より強力なパスワードということで、記号など使える文字種を増やす方向にある中で、(ダメとはいいませんが)ちょっとどうなのかな、と思います。

(2)/(3)/(4)は、数字4桁。「同じ暗証番号を設定することもできます」とのことですが、実際に設定する際には、デフォルトでは、同じ番号を使うようになっていましたので、「希望する場合には別々の暗証番号を設定することもできます」という方が正しいように思います。私自身はどうしようかと思ったのですが、(3)/(4)をどういったケースで使うのか見えない中で、別々に設定しても忘れるだけと判断し、今回は三つとも同じ番号としました。

結局マイナンバーカードを受領したのは9:50前。都合30分ぐらいはかかったことになります。政府としては、全国民にマイナンバーカードを持たせたいようですが、肝心な交付がこのスピードだと、皆に行き届くのはいつになるのやら、という感じです。もっとも、交付の際に本人確認がきちんとされることが大前提ですから、とにかく早ければいいということでもないと思いますが。

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ということで、私のマイナンバーカードはこちら。噂の(笑)マイナンバー自体は見えなくする目隠しスリーブに入れて渡されます(マイナンバーは右側(下側)の写真の磁気ストライプの下の灰色目隠しの下に記載されています)。一方で、注意が必要なのは、右側(下側)の写真の左下にある模様。この写真ではマスキングしていますが、実際にはQRコードが印刷されています。このQRコードの正体はマイナンバーそのもの。スマホで読み取ればまさに個人番号そのものですから、調子にのって、そのまま写真を公開しないように気を付ける必要があります。数字のマイナンバーは目隠ししつつ、QRコードは目隠ししない理由はこちらだそうです。うーん、わかったようなわからないような、という感じです。

個人的には、そもそもマイナンバーはIDであって、パスワードではない以上、マイナンバーを隠す必要自体がないと考えています。ただ、立場上あまり無茶をできないので(苦笑)、今回の写真は目隠しした状態です。

計1ヶ月半と長かったマイナンバーカード取得の旅もこれで終わりですが(笑)、実際の旅はこれから。そう、いよいよ確定申告の時期が近付いてきました。既に弥生では、デスクトップアプリは先週に、クラウドアプリは今日から、2019年(令和1年)分の確定申告機能を提供開始しています。来月からは、今回取得したマイナンバーカードを利用して、実際の申告書作成とe-Taxによる電子申告をレポートしてみたいと思います。
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2020年01月24日

通知カードがない!場合

今年の確定申告に向けて、弥生の社内でe-Taxで申告しようというキャンペーンを行っています。あくまでも私が個人的に言っているだけで、何の強制力もありませんが(笑)。取締役のIさんは、やる気はあるようですが、マイナンバーカードの通知カードが見当たらないとのこと。以前本ブログで、「これ(通知カード)が送付されたのが、2015年の秋ごろ。もう4年も前ですから、『あれどこに行ったっけ?』という方も多そうですね」と書きましたが、まさにこのケース。そういえば引越しもありましたから、引越し荷物のどこかに紛れ込んだのでしょうか。

ということで、通知カードがない場合にどうするか、について調べてみました。方法としては二つ。一つ目は、市区町村の窓口で交付申請書を新たに発行してもらう方法。二つ目は、「手書き交付申請書」を使用して申請する方法です。

一つ目ですが、横浜市の場合、住んでいる区の区役所戸籍課窓口に本人または同一世帯の方、本人の代理人が行けば、交付申請書を新たに発行してもらえるようです。この際には、本人確認書類が必要になるとのこと(+代理人の場合には委任状)。この交付申請書には、個別の申請書IDが記載されるため、以前お話ししたようなPC/スマホでの申請や街中の証明写真機での申請が可能になります。

二つ目の手書き交付申請書は、こちらからダウンロードすることができます(PDF)。

[注意喚起] ただ、本ブログのように個人で運営しているブログ等で、直接PDFファイルなどにリンクされているものをそのまま使うのは、一般的に言って危険です。悪意を持ったブログ運営者が不正なPDFファイルに誘導する可能性もありますし、ブログ運営者には悪意がなくても、第三者によってPDFファイルが置き換えられている可能性もゼロではありません。例えば、今回のPDFファイルで言えば、申請書送り先を偽の住所に置き換えて、個人情報を詐取する可能性もあります。このようなケースでは自分で「マイナンバーカード 手書き交付申請書」などと検索し、素性が明らかになっている正規のサイトからダウンロードすることが望ましいです。

この手書き交付申請書を見ればわかりますが、この申請書を埋めるためには、肝心のマイナンバー(個人番号)を記載する必要があります。でもマイナンバーが…、通知カードがないとわからない…、となりそうですが、大丈夫。自分のマイナンバーを知りたいという場合に、住民票(の写し)をマイナンバー記載入りで発行してもらうことです。ただし、住民票には何も指定しなければマイナンバーは記載されませんので、マイナンバーの記載をリクエストする必要があります。

まあ、正直どちらにしても面倒くさいですね。とりあえず今週末通知カードの発掘を試みて、ダメだったら上記のいずれかではどうでしょうか > Iさん。
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2020年01月22日

中小企業の財務改善ノウハウ

本ブログでもご紹介した「借入は減らすな!」「その節税が会社を殺す」を執筆された松波先生が「税理士が知っておきたい中小企業の財務改善ノウハウ」という新著を出されました。これまでの二冊はキャッチーなタイトルでしたが、今回は、地味と言えば地味な(失礼!)タイトル。今回は、資金調達相談士協会の先生方の共著で、松波先生は編著および監修ということから、これまでとは少しトーンが異なるようです。

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明確に異なるのは、想定する読者。これまでは経営者に向けた内容でしたが、今回は、「税理士が知っておきたい」というリードが示すように、会計事務所向け。実際に内容は、難しいとは言いませんが、結構ディープです。

本書の前半は、顧問先の意思決定をどうサポートするかにフォーカスしています。前半でそうそうと頷くのは、「経営者としては、『経営判断に使うため』の財務諸表を作ってほしい」というくだり。経営者にとって、財務諸表は手段に過ぎません。目的は事業をすること、そのために経営判断をすること。本書では、経営者の意思決定に使える月次試算表作成の具体的なノウハウが語られています。

経営者の意思決定に使えるためには、実態を正確に反映している必要があります。実態をいかに正確に反映するか。よくありがちな誤解としては、実態を表すために勘定科目を細かく設定すること。例えば、新聞図書費ではなく、新聞は新聞費、本は書籍費にわける。そうすると確かに厳格ではありますが、費用の性格としてあまり変わりませんから、正直意味がありません。一方で、一般的な交通費と通勤費はどうか。後者は実質的に人件費ですから、これは分ける意味があります。本書では必要以上に勘定科目を増やさないことを説きます。むしろ大事なのは、継続性をもって、同様な経費が同じ勘定科目で計上されること。

実態を正確に反映するという観点で本書が一番拘っているのは、売上とそれに対する費用を月次ベースでしっかりと対応させるというところでしょう。当たり前といえば、当たり前の話ではありますが、本書では減価償却費も月次ベースで計上すべきと説きます。設備負担が重くない業種については、そこまでやる必要はないようにも思いますが、確かに設備負担が重い製造業において、月次ベースで収益状況を可能な限り正確に実態を把握するとなると、その意味があるのではないかと思います。

また、会計基準より意思決定を優先しようというくだりは、会計の原理主義的な方からすると眉をひそめそうな気もしますが(笑)、会計は何のためなのかを考えれば、合理的な判断だと感じます。

実態を正確に反映した財務諸表だからこそ、経営者の意思決定にも使えるし、金融機関への交渉にも活用できます。本書の後半は資金調達をどうサポートするかにフォーカスしています。資金調達のサポートは、資金調達相談士協会が得意とするところですし、松波先生の十八番とも言える領域。そういった意味では、特に後半は、これまでの二冊を踏まえ、さらに内容を実務的に、具体的にしたものと言えます。

本書は、広く会計事務所の方におススメしたいと思います。ここまで経営者のニーズにしっかりと向き合ってより高い付加価値を提供する会計事務所が増えれば、より健全な、もっと言えば生き残れる事業者はもっと増えるはずです。ただ、あえて言えば、これだけの付加価値を提供するには、手間もかかります。ですから、薄利多売ではなく、付加価値に見合う対価をしっかりいただく(逆にそれができないお客さまはお断りする)という経営判断がなければ成り立たないとも思います。

本書は一般の法人の経理担当者にもおススメしたいと思います。会計業務が徐々にではありますが自動化する中で、経理担当者の仕事はなくなるのか。そんなことはありません。社長の右腕として資金繰りを、もっと言えば事業そのものを支えていく。そのヒントが本書には詰まっているように感じます。
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2019年12月20日

FACTFULNESS(その2)

前回FACTFULNESSという本についてお話ししました。

人はもともと自分の見たいものを見てしまいます。良いはずだ、良くあって欲しいという思いが強ければ、あるデータ群を見ても、良い部分だけが見えてしまうし、逆に、状況が悪いのでないかという不安が強ければ、悪い部分が目立ってしまう(昔話で言えば、柳もお化けに見えてしまう)。要は自分自分のフィルターを通して物事を見ているということです。

今回、本書を通じて、人間は悪いものや怖いものを見てしまう傾向が強いということを再認識しました。本書で言うところのNegativity InstinctやFear Instinctです。特にFear Instinctは人間の進化の過程を考えると、ある意味自然とも言えるものです。怖いと感じ、それを避けてきたからこそ生き延びることができた。これらのフィルターが組み合わさることによって、世界は全体として大きく改善してきているにも関わらず、それが正しく認識されていない。それが明瞭に出るのが、冒頭の12問に対するあまりに低い正答率です。

もちろん、全てにおいて改善している訳ではないし、世界に問題はまだまだ残っています。ただ、正しく課題をとらえ、最適な打ち手を講じるためには、良い面も悪い面も可能な限り正しく把握する必要があります。

重要なのは、フィルターや罠の存在を意識し、冷徹に数字を見極めるということ。一方で、この本が素晴らしいのは、数字だけでもダメだと言い切っていること。なぜならば、数字自体が誤っている可能性も否定できないから。本書(原書)P191で著者は、以下のように語っています。

I don't love numbers.  I am a huge, huge fan of data, but I don't love it.  It has its limits.
(私は数字を愛してはいない。私はデータの大、大、大ファンだけれども、盲目的に愛することはない。なぜならば、データには自ずと限界があるから。)

この後に続く、かつてのモザンビークの大統領、Pascoal Mocumbi氏のエピソード - GDPの数字は見てはいるけれども、必ずしも正確ではない、その代わりに年に一回行われるパレードで皆が何を履いているか、そして国中を回る中で、建築がどのように進んでいるかを注視している - は非常に示唆に富みます。

数値(統計)が必ずしも正確ではないのは、発展途上国ではよくあること。現場をしっかりと見る方が、よほど正しい状況を把握できるかもしれない(もちろん、一部だけを見て全部同じと思わないといった注意は必要です)。現代のビジネスにおいても、希望する全ての数字が入手できるわけではありません。そんな中では、数字を妄信するのではなく、まず何らかの方法(多くの場合は現場を見ること)によって、現実を理解するように努めることが必要です。

The world cannot be understood without numbers, and it cannot be understood with numbers alone.  Love numbers for what they tell you about real lives.
(世界は数字なしには正確に理解することはできないし、数字だけで正確に理解することもできない。数字が現実の人生を正しく語っていることを愛そう。)

ビジネスという観点でも様々な学びがありますし、世界を正しく理解し、自らと周囲の人生をより良い方向に向けるためにもとても有益な本だと思います。
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2019年12月18日

FACTFULNESS(その1)

オーストラリアへの出発前の成田空港の書店で、ふと手にとったのが、「FACTFULNESS」という本。日本でも今年前半に話題になりました。軽い気持ちで買ったのですが、読んでみると、なるほど話題になるだけのいい本です。

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読み始めると、最初に12(+1)問の質問に答えることになります。例えば、「世界中の低所得国において、小学校を卒業する女の子の割合は?」という質問。選択肢はA: 20%、B: 40%、C: 60%。世界中で同じ質問をしたところ、国によって正答率にバラつきが見られるものの、どの国でも正答率が極めて低かったそうです。平均すると12問中2問のみ正解。回答は3択ですから、ランダムに答えれば正答率は33.3%のはず。つまり、人間はランダムに選ぶであろうチンパンジーにも劣っているということになります。人間はたまたま間違えているのではなく、何らかの構造的な要因で間違えている。

本書では、人間が構造的に間違える理由を、人間が無意識に持っている10種類の傾向で解説します。例えば、こちらは先進国、あちらは後進国のように、物事を二分して考えがちなGap Instinct、良いことより、悪いことの方に目が行ってしまうNegativity Instinctなど。

詳しくは是非本書を読んでいただきたいのですが、日頃から自分が考えていること、気を付けていることが実例をもって明確に、かつ平易に語られており、そうそう、と頷くポイントが多々ありました。例えば、グラフの縦軸の罠や平均値の罠。例えば、本書(原書)P40には、アメリカでSATという(日本で言えばセンター試験のような)テストを受けた男女の数学の平均値をプロットした図が示されています。1965年からずっと、男性の方が女性を明らかに上回っています。このグラフをもって、男性の方が女性よりも数学が得意だ、という結論が導けそうです。ただ、よく見てみると、このグラフの縦軸は0スタートではないため、差が極端に強調されています。絶対的な数値で言えば、直近の2016年の数値で男性が527、女性が496ですから、その差は約6%に過ぎません。ですから、男性の方が女性よりも数学が得意だという、二分化をしたがるGap Instinctによって生まれがちな一般化には無理があることがわかります。

とはいえ、平均値で男性は527、女性が496という差があるのは事実。ただ、この2016年の得点の分布を男女別にプロットしてみる(P41)と、面白い真実が見えてきます。男性と女性の分布はほとんど重なり合っていますが、女性の方が約500点を中心としたきれいな釣鐘カーブになっているのに対し、男性は600点から800点を取る優秀層の存在により、若干ですが、右側に偏ったカーブになっています。結果的に単純に平均を出せば男性の方が女性を上回る訳ですが、実際には標準的な人で言えば、男性も女性もほとんど変わらないということになります。平均値は分布を示さないという平均値の罠の一つの例と言えるかと思います。

身近な(?)平均値の罠の実例と言えば、アルトアの融資実績。アルトアが融資する際の平均金利は実績として約8%なのですが、実は8%台の方はあまり多くありません。アルトアの金利は会計データをAIで分析して得られたスコアによって決まりますが、実際の分布で見てみると、4~5%を中心とした一山、そして10%前後を中心としたよりなだらかな一山で構成された非対称のフタコブラクダになっているのです。物事の分散はだいたい釣鐘カーブになっており、平均付近が一番多いという思い込みも、人間が構造的に間違える要因の一つでしょう。

ちなみに、グラフの縦軸の罠は本ブログのこちらで、あまり突っ込んで書けてはいませんが、平均値の罠については、こちらで少し触れています。
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2019年12月04日

電子化からデジタル化へ

今日午前中に、ヤヨイヒロバでとある勉強会の第一回目を開催しました。まだその具体的な内容やメンバーについてはお話しできないのですが、驚くほど充実したメンバーです。この業界に多少は知見はある人が聞けば100人が100人驚くであろう豪華な顔ぶれ。正直、自分でもよくここまでの方々に参加していただくことができたな、と感動しています(笑)。

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税の電子申告(e-Tax)が始まったのが、2004年のこと。もう15年以上経過したことになりますが、電子申告は着実に普及しています。また社会保険の手続きなども、電子申請が徐々に広がりつつあります。

ただ、これらはあくまでも電子化であり、デジタル化ではありません。ん、電子化とデジタル化って、何が違うんだ、と思いますよね。現時点ではあくまでも個人的な定義なのですが、電子化というのは、あくまでも紙を電子化するということ。その前提となる業務は、紙が前提になったままです。つまり業務のあり方は変えずに、媒体だけを電子データにしたのが電子化。一方で、業務のあり方自体も見直すのがデジタル化と定義しています。

昨今事業のDX、デジタルトランスフォーメーションの必要性が叫ばれています。ご承知の方も多いと思いますが、これはもっとITを活用しましょう、や、Webで商品を売りましょう(どちらも手段が変わっただけ)といった単純な話ではありません。デジタルを前提とし、組織や業務のあり方、もっと言えば事業のあり方まで変えていこうというのがDXです。電子化≠デジタル化、という考え方にも相通じるものがあるのではないでしょうか。もっとも、DXという用語もややバズワード的でこの先が心配ではありますが(笑)。

弥生が事業者のお手伝いをしている確定申告や年末調整、あるいは社会保険の手続き。これらは全て昭和の時代の仕組みです。あくまでも紙を前提とした仕組み。それこそ当初はコンピュータを使うこともできなかった時代の仕組みです。確かにこれらの業務の電子化は進んできましたが、デジタル化は進んでいません。

そんな問題意識を色々な方にお話ししたところ、官民を問わず賛同していただく方が多く、今回、皆で何ができるかを考えようという勉強会が立ち上がりました。極めて大きなテーマですし、短期的に成果が出るとも思っていませんが、一歩ずつ前に進めていきたいと思っています。
posted by 岡本浩一郎 at 19:36 | TrackBack(0) | ビジネス

2019年11月22日

会計事務所の生産性

今週水曜日は福岡でPAPカンファレンスの千秋楽。10/16の仙台を皮切りに、ちょうど5週間で仙台、札幌、東京、大阪、名古屋、広島、福岡の7会場で開催。その合間にオーストラリアへの出張もあり、また新製品の発表会もあり、なかなか慌ただしい一ヶ月ちょっとでした。体調を崩すこともなく、また、今回は全会場(+オーストラリア+製品発表日)とも天気に恵まれ、雨男疑惑が晴れた(?)ことが何気に一番嬉しいかもしれません。

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今回のPAPカンファレンスのテーマは会計事務所の生産性。このテーマの第一人者ということで、名南経営コンサルティング亀井さんに基調講演をお願いしました。結果的に亀井さんにもこの強行軍にお付き合いいただいてしまったことになり、感謝、感謝です。

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会計事務所は基本的にはサービス業ということで、製造業と異なり、生産性という概念が馴染まないようにも思えますが、実際には、サービス業でも生産性の考えは非常に重要です。生産性は、何かを生産する時の効率性を意味しますから、「生産性 =  成果 / 投入リソース」と表現することができます。ただ、この式のままでは直接的に働きかけることが難しいので、

生産性 = (有効時間 / 労働時間) × (付加価値 / 有効時間)

と分解します。こうすると、時間効率と(生産した付加価値をそれによって得られる対価で表すとして)時間単価の二つの要素があることがわかります。ここまでは一般的な話ですが、亀井さんのお話しが実践的だと感じたのは、ここから。

まず時間効率ですが、亀井さんによれば、会計事務所は一般的に稼働率(有効時間の割合)は十分に高いのだそうです。ただ一方で、過去の成果を処理する時間や何の成果も生まない時間に(ある意味で無駄に)費やされている時間も多いとのこと。稼働率を無理に上げようとするよりは、無駄な時間を削減し、その分、将来につながるいわば投資の時間に充てるべきとのことでした。

時間単価については、目安とすべき時間単価をはっきりと述べられていました。この目安を下回っているようであれば、目安まで引き上げる努力をすべきとのこと。上記のように、時間単価は、付加価値を表す対価 / 有効時間という割り算で示されますから、時間単価を上げるためには、分母を下げる、もしくは、分子を上げる必要があります。つまり、同じ付加価値を生むために必要とされる時間を削減する、もしくは、付加価値に対して得られる対価を引き上げる努力をする(もちろん両方もあり)。

何にどう時間を割いているという現状把握をどう進めるのか、また現状把握を踏まえ、分母の低減や分子の増加などをどのような順番でどのように進めるのか、これまで数多くの会計事務所と向き合ってきたからこそ得られる実践的なノウハウがみっちりと詰まった一時間でした。個人的には、最初から完璧を求めないといった点は特にうんうんと頷けるところでした。

残念ながら今回PAPカンファレンスに参加できなかったという場合には、こちらの本でじっくり語られていますので、是非どうぞ。

実際には、会計事務所の価値のあり方は多様ですし、付加価値の定義も様々だと思います。そういった意味で、今回のお話が全ての会計事務所に全く同じように適合するとは言えません。ただ、実践の方法は様々だとしても、生産性を考えることは必要ですし、その一つのフレームワークとしては非常に参考になるのではないかと思います。
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2019年11月06日

システムトラブル

先週前半はオーストラリア出張でした。月曜日はシドニー、火曜日と水曜日はメルボルン。シドニーでは、中心部から30分ほど離れた郊外での打合せのため、空港でレンタカーを借ります。今回は、朝7時前に到着。入国審査/荷物のピックアップを経て、8時前にはレンタカーの事務所へ。まだ朝早いので、他にはお客さまはいません。ラッキー。

レンタカー会社の会員になっているので、免許証の確認など最低限のやり取りですぐに出発できるはずなのですが、今回は様子が普段と異なります。どうも話を聞いてみると、システムがダウンしているとのこと。こんな時のために、という訳ではないのですが、予約情報を印刷して持参しているため、それを見せると、クルマ自体は用意できている模様。ただ、借り出しの手続きを紙で行う必要があるとのこと。

見ていると、こちらの予約情報を参照しながら、所定の用紙に手で記入していきます。それなりの時間をかけて手書きで書類が出来上がったところで、こちらが確認してサインして手続きは完了。30分はかかったでしょうか。国際線ターミナル、かつ、まだ朝比較的早めの時間ですので、待ちもなく、何とか支障のない時間で手続きを済ませることができましたが、これがピークの時間だったらと思うと、ぞっとします。

ただ、このようなシステムトラブルは決して珍しくはない模様。係員は大変なんだよ、とぼやきつつ、それなりに慣れた感じでしたし、実際に、こんな時のために紙が用意され、それで実際に処理ができていました。

その時に思い出したのが、昨年のオーストラリア出張。深夜便での帰国だったので、街中で夕食を済ませ、夜10時ぐらいに空港に向かおうとした時のこと。タクシーをつかまえると、カードが使えず現金払いになるがいいか、と確認されました。何でもカードの処理センターが止まっているとのこと。そういえば、食事の際にもカードが使えないと言われ、慌ててATMで現金を下ろしたのですが、同じ原因だったようです。

ITが生活のあらゆる面を支えている中で、システムトラブルが与える影響は格段に広がりつつあります。ただ、私自身はシステムを提供する側だからこそ、システムを問題なく運営することの大事さは十分に理解しつつ、そこに完璧さを求めるべきでもないと考えています。なぜならば、完璧さを求めることは、コストの圧倒的な増加につながるからです。コストを2倍投入して、信頼性が2倍に向上するのであれば、それは合理性がありますし、やるべきこと。一方で、信頼性99.9%から信頼性99.99%、さらには99.999%に向上させようとすると、コストは爆発的に増加します。

どれだけのコストをかけて、どこまでの信頼性を要求すべきかは、用途によって異なります。つまり、これが常に正しいという絶対解はありません。ただ、いずれにせよ100%はありえません。そうであれば、やみくもにコストをかけて極限まで100%に近付けることを目指すよりも、100%でないことを前提にバックアップの策を用意したほうが合理的なのではないかと考えています。

この話には余談があります。今回の最終日も深夜便での帰国ということで、やはり10時頃にタクシーで空港へ。今回は、カードも無事使えたのですが、いざ空港に着いてみると、見たこともないような行列になっています。

話を聞くと入出国審査のシステムが全面的にダウンしており、チェックインの手続きができないとのこと。それでもあるところから行列が進み始めました。自分がカウンターにたどり着いたところで聞いたところ、システムでの審査をやめ(システムを切り離し)、人手での確認プロセスに切り替えたとのこと。結果的にいつもよりはだいぶ並ぶ時間は長かったのですが、無事に搭乗することができ、フライトもほぼ予定通りの時間での出発となりました。

もちろんシステムにトラブルがないのが一番。私たち自身も、システムを提供する立場として、トラブルがないように万全を期しています。ただ、100%はあり得ない中で、それでもどれだけコストをかけてでも100%を目指すのか、あるいは、いざという時の代替を考えるのか。日本は100%に拘る傾向が強いと思いますし、それも頭から否定されることではないと思います。一方で、オーストラリアの、問題はあるもの、問題があれば代替手段、という割り切りも一つの考え方なのではないでしょうか。
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2019年08月21日

キャッシュレス・消費者還元事業

消費税率の10%への引上げと軽減税率への準備を進めなければならないと書きましたが、ひとまず優先していただきたいのが、キャッシュレス・消費者還元事業への登録です。これは、2019年10月から2020年6月までの期間、本事業に登録済みの中小・小規模事業者で商品・サービスをキャッシュレスで購入すると、基本的に5%分のポイントが還元されるというものです。

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ここでいうキャッシュレスとは、最近はやり(というよりもバブルな気もしますが)のQRコード決済ももちろん含まれますが、クレジットカードやSuicaなどの電子マネーでの支払いも含まれます。

誤解されることがありますが、この事業は軽減税率に対する対策事業ではなく、消費税率10%への引上げによる景気悪化を防ぐための施策なので、ポイント還元となる商品・サービスは多岐にわたります(軽減税率のように飲食料品に限られるわけではありません)。7月末で既に登録が済んでいる事業者のリストが公開されていますが、この手の施策への感度が高いのか、いわゆる電気店が多いように見受けられます。もちろん電気店に限られるということではなく、一般的な小売店から飲食店、サービス業までが対象となりえます。

なかには、会計事務所で本事業への登録を済ませたという事例もあるようです(笑)。会計事務所は一般的に毎月の顧問契約で、支払いは口座引落しが多いかと思いますが、場合によってスポットでのコンサル契約の支払いをキャッシュレスとすれば、ポイント還元もありえることになりますね。

ただ、注意が必要なのがポイント還元を受けるためには、事業者側での事前の登録が必要となるということ。実は10月から対象となるためには、7月末までに登録を、と呼びかけられていました。これからの登録で10月に間に合うかどうかはわかりませんが、おそらくこれから駆け込み的に登録が増えるでしょうし、そうなれば登録がずるずると遅れる可能性もありますので、一日も早く登録を済ませてしまうことをお勧めします。

残念ながらこの制度が限られた準備期間の中で進めてられていることもあり、何をどうすればいいのか、情報は十分とは言えません。事業者向けのWebサイトがこちらですが、まだ「よくあるお問い合わせ」も公開されていません。問い合わせ窓口も用意されているようですが、いずれにせよ登録自体は利用している決済事業者を通じてになるということですので、直接決済事業者に問い合わせをするのが手っ取り早いのではないかと思います。対象となる中小・小規模事業者の定義、また還元対象となる商品・サービスに関しても注意が必要なので、ひとまず決済事業者に問い合わせてみることをお勧めします。

現時点でクレジットカード等の支払いを受け付けていない場合は、PaypayやLINE Payなど、この機会に自分でも使ってみてもいいかなと思える決済方法についてまずは調べてみると良いのではないでしょうか。

情報不足は消費者向けも同じで、5%還元というのがクレジットカード利用でこれまで得られていたポイント(ですとかマイル)とは別に5%となるのか、あるいは、それらも込みでの5%となるのか、判然としません。おそらく走りながら色々と明らかになってくるのだと思いますが、この還元事業が期間限定だけに混乱が収束した頃には還元も終わりとならないか少々心配です。
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2019年06月26日

会社は株主のもの?

会社は誰のものか。ビジネススクールで当然のこととして教え込まれるのは、「会社は株主のものである」。ただ、これは日本人としてはすんなりとは受け入れがたい部分があります。会社は株主のための金儲けの道具なのか、あるいは、会社はお客さまに価値を提供し、ひいては社会に価値を提供するための公器なのか。さらに日本の場合には、従業員という疑似的家族、多くが従業員出身である経営者も含めて「自分たち」のものであるという意識も強いかと思います。

それでも資本主義の原理からは、会社は株主のものであるということを明確にした、という意味で今回のLIXILの株主総会は大きな転換点になるような気がします。会社の舵取りを担う取締役は株主が選任する。教科書的には当たり前のことですが、日本においてはこれまでほとんどの場合、会社側(現経営陣)が選定した取締役候補を株主総会で当たり前のように追認することが多かったのも事実。それが、今回のLIXILの株主総会では、会社側(創業家主導)と前経営者(瀬戸さん)それぞれが取締役候補を提案し、その一人ひとりを株主が選ぶということになりました。結果的に瀬戸さん陣営が取締役会の過半を占め、瀬戸さんがCEOに復帰するという劇的な結果となりました。

ただ、会社は100%株主のものかと言い切れるかというと、私はそう単純ではないと思っています。会社はある意味においてはお客さまのものでもあるし、また、従業員のものでもある。これらは矛盾する概念ではなく、むしろこれらを同時に成立させるからこそ、良い会社として存在しうるのだと思います。従業員がオーナーシップを持ち、「自分の会社」という誇りと愛着を持つからこそ、良い製品やサービスを提供できる。お客さまがそれら製品やサービスを良いものだと判断し、利用していただけるからお金をいただくことができる。そしてお客さまにお金をお支払いただくことによって、売上と利益が生まれ、結果的に株価や配当という形で株主に還元することができる。これらは全てつながっています。

そういった意味で、今回の一連の騒動は、資本市場の原理として、株主が一義的には会社のオーナーであるということを明確に示せたという意味では意義がありますが、一方でLIXILの今後という意味では、大きなダメージが残っているのではないでしょうか。この8ヶ月間の騒動は、お客さまからの信頼、あるいは従業員の誇りや愛着という意味では極めて大きなダメージだと思います。株価や配当という形で株主に報いるだけでなく、(むしろそのためにも)従業員の誇りや愛着、そしてお客さまからの信頼をどう取り戻すのか。課題は多いと思いますが、プロ経営者が本当の意味で企業を変革に導き結果を残したという良い事例となるよう、是非頑張っていただきたいと思っています。
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2019年01月25日

右脳思考

私がBCG(ボストン コンサルティング グループ)時代にお世話になった内田さん(現在は早稲田大学ビジネススクール教授)が出された新著が「右脳思考」。タイトルでピンと来た方もいらっしゃるかと思いますが、「仮説思考」、「論点思考」に続く、「思考シリーズ」の新作ということになります。

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ただ、前作2作に関しては、「BCG流 問題発見・解決の発想法」そして「BCG流 問題設定の技術」と「BCG流」の看板がありましたが、今回はBCG流は封印(?)。それもそのはずで「ロジカルシンキングの限界を超える観・感・勘のススメ」「優れたビジネスマンは勘で仕事する」と優秀を自認する経営コンサルタントであれば目を剥きそうなコピーです。

私は、理系出身(僭越ながら内田さんの後輩) & ビジネススクール修了 & 経営コンサルタント出身なので、ロジックの塊と思われがちです。本書で言えば、「左脳型」ということになります。ただ、私は実際にはかなり「右脳型」。もちろんロジックは大事ですが、それ以上に、想いやストーリーを重視しています。もっともこれがはっきりしてきたのは、やはり弥生の社長になってからでしょうか。ロジックは大事だけれども、それだけでは人は動きません。自分自身はもちろん、社員みなを動かすのは想いやストーリーだと思っています。

ロジックは成功させるための必要条件だけれども、十分条件ではありません。社内で提案があり、それがロジカルだとしても、そこに提案者の想いがなければ答えはノーです。どんなにロジックを積み上げても、100%の成功を保証することはできません(仮に100%の成功が保証されているのであれば既に誰かがやっているはず)。学生時代の試験と違って、100%の正解はない。むしろ大事なのは、自らの行動によって、いかに正解とするか、成功させるか。その時に必要なのはやり抜こうとする想いです(以前も「正解なんてない」という記事でもお話ししました)。そういった意味でロジックが弱い/想いは強い提案と、ロジックは強い/想いは弱い提案とどちらがいいかと言えば、前者です。ロジックは補強できますが、想いはなかなか補強できません。

もう一つ、ロジックとしては成り立っているけれど、答えがノーになりがちなパターンは、大きな流れを見失っているケースでしょうか。ある一定の範囲内においては、ロジック的に正しいけれど、大きな視野で見ると最適ではない、というケース。むろんリソースが無限大であれば、ありとあらゆることに手を出すこともありでしょうが、実際にはリソースが限られますから、できるだけ大きな成果を出せる領域に絞り込んでいく必要があります。その時に必要なのは時代の流れを読み、ストーリーとして組み立てる力です。

流れの裏には必ずそれを動かす要因があるので、実はロジカルではあるのですが、必ずしもわかりやすい調査データがある訳ではないので、パッと見、感覚や勘に見えてしまう。私が弥生の社長に就任した際に、弥生はクラウドに取り組むと宣言しました(当時はSaaSという言い方しかありませんでしたが)。周りからは、流行りにのっている、ですとか、ノリで言っていると見られていても全く不思議ではありませんが、テクノロジーの流れを踏まえれば、私としては当然の判断でした。BCG的に言えば、メガトレンドとなるでしょうか。

最終的にアウトプットを生むためには必要なのは、やり抜く力。そしてそのやり抜く力を生むためには、左脳(ロジック)だけではなく、右脳(観・感・勘)も必要です。左脳と右脳のキャッチボールで実効性のあるビジネスプランを構築し、それを自らの意志で(自らを腹落ちさせ)やり抜く。本書は、ロジックに自信のない方はもちろん、ロジックに自信のある方にとっても、ブレークスルーのきっかけになりうるのではないでしょうか。
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2018年12月18日

PayPay祭り

既に終わってしまったので、ややタイミングを逸した気がしますが、私もPayPay祭りに参戦しました。11月の終わり頃に20%還元、総額で100億円を還元という太っ腹なキャンペーンを知り、これは利用せねばと、キャンペーン開始前の週末にアプリをインストール。キャンペーン開始(12月4日)を待ちわびていました。

弥生の本社は秋葉原ですから、家電量販店は選びたい放題ですが、オフィスのすぐ隣にはビックカメラがあります。朝から行きたいのをぐっと我慢して、仕事が終わったところでビックカメラに。フロアによっては、だいぶ長い行列ができていました。私が目指したフロアの行列はそこまで長くはなくて一安心。お目当てのものを見つけて、早速レジに並びます。待つことしばしでようやくお会計。

結構ドキドキしながらPayPayアプリを立ち上げて、お店のバーコードを読み込み。ただ…何回もタイムアウト…。当日のお昼も取引が集中し、サービスが中断したようですが、夜になってもサービス中断とはいかないまでも、パフォーマンスが劣化していたようです。そうこうしているうちに、レジに並ぶ人も増え、背中に刺さる視線に耐え切れなくなってきたところで、ようやく支払処理を済ませることができました。その場で20%還元も確認できて、ホクホクです。ちなみに週後半には、ファミリーマートでも使ってみましたが、この時はサクッと支払い完了。昼夜を問わず突貫で取引処理能力を引き上げたのかもしれませんね。

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100億円というと一般的には巨額ですが、何十万?/何百万?の人が還元を受ければ、あっという間だろうなと思っていました。個人的には、週末の12月9日ぐらいには終わるかなと思っていましたが、実際には、12月13日で終了。「皆様に予想を上回るご愛顧をいただきまして」とのこと。

もっとも問題は、キャンペーン終了後も利用が続くかどうか。実際問題私は、キャンペーン終了後一回も使っていません(スミマセン…)。使ってみての感想としては、うーん、これだったら操作もいらないSuicaの方がいいな、というのが正直な感想。ただ、Suicaの場合、お店側の対応コストが重く、だから使えるところが限られる訳で、PayPayのようなQRコード決済の場合、どこまで利用できるところを増やせるかが鍵を握るような気がします。

そういった意味で、今回のキャンペーンで一つ工夫されていると感じるのは、20%の還元が行われるのが、即時ではなく、翌月の10日(前後)ということ。私は今回、総額で14,000円ぐらいの還元を受けたのですが、これが使えるのは実際にポイントが付与される来年1月以降。即時還元であればその20%ですぐにもう一度買い物をすることによって、実質的な還元を増やせてしまうという課題を避けたかったというのもあるのだと思いますが、一定期間に渡って繰り返し利用してもらう、結果的に利用を定着化させることを狙っているのかな、と思います。

それにしても、10日間で100億円を還元となると、取引額では(抽選で全額キャッシュバックになった人も考慮すると)400億円ぐらいにはなったのでしょうから、日本のキャッシュレス市場においては、歴史的な出来事と言っていいかと思います。さすがソフトバンクですね。
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2018年11月28日

プロ経営者の賞味期限

以前、社長の賞味期限という記事を書いたことがありますが、今回はプロ経営者の賞味期限というお題で。私はプロ経営者として取り上げられたことがあると本ブログでも2回ほどお話ししたことがあります(その1, その2)。プロ経営者の定義は色々ありうるかと思いますが、外部から招かれて(時には全く異なる業種から)、「企業を変革に導き結果を残すことのできる経営者」という意味では、私は結果という意味ではまだまだだとは思いますが、(僭越だとは思いますが)プロ経営者としての自覚と誇りは持っています。

そんな私が気になるニュースが相次ぎました。RIZAPでの松本COOの退任LIXILグループでの瀬戸CEOの退任、そして極めつけは日産でのゴーン会長の逮捕/解任。いずれも私とは次元の違うプロ経営者ですが、やはり気になります。松本さんに関しては、その後RIZAPが買収した子会社の業績不振により赤字転落することを発表する中で、グループの構造改革に専念するためということが判明し、必ずしも一部報道にあったようなプロ経営者を生かし切れず、ではないことがわかってきました。

一方で、(LIXILの)瀬戸さんに関しては、正直悔しいだろうな、と心中を察してしまいます。プロ経営者として「席を譲れと言われれば譲る」と公言されてきた瀬戸さんですが、プロ経営者といっても、結果を出すためには一定の時間は必要です。出血を止めることは短期間でできても、再成長軌道に乗せるためには一定の時間が必要。私の場合も、これは結果につながってきた、と実感できるまでには2年かかっています。弥生の規模でもそうですから、LIXILグループという巨体ではもっと時間がかかっても不思議ではありません。瀬戸さんは就任されてから3年弱。戦線を縮小するなど、前向きではない、それでも必要な手を打ってきて、ようやく結果につながるという段階で引導を渡されるのは本意ではないでしょう。ある意味、創業家が汚れ仕事だけを瀬戸さんにまかせて、これからという時に「美味しいとこ取り」をしたと見られても不思議ではないと思います(ちょっと言い過ぎですかね…)。

他方、衝撃的なのはゴーンさん。まだ実際に何が起こったのかは明らかではありませんから、憶測で物を言うことは控えたいと思います。ただ、様々な報道を見ている中で、ゴーンさんが半ば神格化していた、ということは事実なのではないかと思います。ゴーンさんが日産のCOOに就任したのが1999年、CEOに就任したのが2001年。経営危機に瀕していた日産を立て直し、ルノー・日産・三菱アライアンスによって世界最大の自動車メーカーの座を争えるまでにしたという功績を否定することはできないでしょう。ただ、そんなゴーンさんも20年近く経営権を握っている中で、(それが犯罪となるのかどうかは別として)当人にとっての当り前が世間の常識とかけ離れてしまう、そして神格化した存在を周りが止められない、ということが起こりうるのかと思います。

3年では短すぎる、でも20年だと長すぎる。社長の賞味期限も難しいですが、プロ経営者の賞味期限はより難しいですね。良くも悪くも(それこそ死ぬまで)自分の納得のいくまで続けることのできる創業者と違い、プロ経営者は結果を出して次にバトンを渡すことがミッション。この記事の「『自分がいなければ立ちゆかない』は業績ではない」(元記事では、"Mr Ghosn might look at Renault's and Nissan's share prices as evidence that he is indispensable. But the best bosses do not regard that as an achievement.")が身に沁みます。
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2018年08月28日

サマータイム (その2)

昨今導入の是非の議論が活発化しているサマータイムについて、前回は、ITの観点からは東京オリンピックに向けてという時間軸での導入は現実的ではないとお話ししました。弥生が提供しているアプリケーションは、内部的には絶対時間(UTCに変換できるシステム時刻)で管理されており、理論的にはサマータイムが導入されても動作するはずです。ただし、本当に理論通り動作するかはまた別の話。例えば弥生給与はタイムカードの仕組みと連動することができますが、サマータイムの終わりで時間を1時間戻すタイミングで退勤した場合、打刻された退勤時間は1時間進んだ時間なのか、1時間戻った時間なのか、どうやって判断するのか。外部の仕組みとも連動しながら、想定される通り動作するかは全て検証が必要ですし、それだけでも相当な工数が見込まれます。

もう一つのオプションとして、サマータイムは導入せずに、始業時間/終業時間などを皆一斉にずらす、というのもありでしょうか。例えば、4月から9月は、会社の始業時間は9時から8時に、店舗の開店時間は10時から9時にずらすなど。ただ、皆一斉にずらすとなると、法律で義務付けでもしない限り、難しそうです。もっとも、学校の登校時間は法律で決めることができるかもしれませんが、会社の始業時間や店舗の開店時間は本来自由に決められるはずですから、法律で義務付けることが妥当なのかどうか。

仮に皆で一斉にずらすとしても、今度は表示の問題があります。会社の始業時間はともかく、店舗の開店時間/閉店時間は店舗に表示されているのが普通ですから、これを全て書き換える。また、当然通勤のための公共交通機関も、9時に向けて本数を最大化するのではなく、8時に向けて本数を最大化しなければなりません。ダイヤとしては1時間単純にずらすとしても、時刻表などは全て書き換えになります。こう考えてみると、うーん、やはりあまり現実的ではありませんね。

東京オリンピックの暑さ対策という観点で残されたオプションは、競技の時間をずらすこと。それであれば日常生活への影響はありません。競技開始を朝5時とか、あるいは夜8時のように、日中を避ける。これでも、見る人は見る、というのは先般のサッカーW杯が証明したように思います(笑)。もともと昨今の国際的大会では、放映権の関係で、競技を行う現地の時間よりは、多く放映権を支払う消費地(やはり米国でしょうか)で見やすい時間が優先される傾向にありますから、日本の一般的な時間帯にこだわる必要もないように思います(もっとも、例えば米国で見やすい時間帯ということで、結果的に日本の真昼間になるようでしたら問題ですね)。

ただ、実は私個人としてはサマータイムに賛成です。あくまでも個人として、であって、弥生の社長という立場は反映されていませんが(笑)。それは、Daylight Saving Timeという正式名称が示すように、太陽を有効に活用できるから。太陽が早く上る季節は、早めに起床して、早めに仕事を開始し、そして、まだ太陽があるうちに早めに仕事を終える。私自身の米国での経験では、確かに時間を進める/遅らせるというのは面倒ですし、生活のリズム的にも若干の調整は必要です。ただ、それ以上に、太陽のある時間を有効に活用できるというのは大きなメリット。特に何をするということはなくても、仕事を終えた時/家に帰った時にまだ日があるというだけで、ウキウキします。

もちろん東京オリンピックに向けての実現は到底現実的ではありませんので、東京オリンピックというよりは、その先をにらんで、サマータイム/Daylight Saving Timeの導入の是非が議論されるといいなと思っています。
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2018年08月24日

サマータイム (その1)

サマータイム導入の議論がにわかに盛り上がっています。きっかけはあと2年に迫った東京オリンピック。確かに普通に生活するだけでもバテバテなのに、この暑さの中で限界まで運動することには危険性すら感じます。

全体的な反応としては、やはり反対論が多いようですね。もっとも多くは時間をある時1時間進める/戻すなんてやったこともないし大変そうという、変わることに対する抵抗感のようにも見えます。一方で、IT業界からは切実な反対論が出ています。サマータイムへの切り替え時に時間を1時間進めることで、存在しない時間ができ、また、サマータイム終了時に1時間戻すことで同じ時間が生まれてしまいます。前者はまだ何とかなりますが、問題は後者です。時刻はトランザクションの前後関係の管理に使われますが、サマータイム終了直前の取引と、サマータイム終了直後(時間が1時間戻った後)の取引を単純に時刻で比較すれば、順番が逆転しかねないからです。これはシステムの根幹に関わる大問題です。

とはいえ、海外ではサマータイムは一般的に行われている訳で、もちろんシステム上の解決法は存在します。それは、絶対的な軸を採用すること。時刻で言えば、UTC(協定世界時)を採用することです。もともと米国の場合は一つの国の中で時差があり、LAの午後5時は、NYの午後7時より遅い、つまりローカルタイムを時刻の比較には使えません。ですから、システムの内部的にはUTCという絶対的な時間で管理するようになっています。つまりLAの午後5時(サマータイム)はUTCで翌日の午前0時、NY(サマータイム)の午後7時はUTCで午後11時、ですからUTC同士で比較すれば、LAの午後5時はNYの午後7時より遅いと正しく順番を判定することができます。

ちなみにほとんどのコンピュータの時刻は既にUTCベースになっています。具体的には、内部的にはUTCで管理しており、それを表示する際にローカルタイムに合わせるようになっています(厳密にはUTCそのものではなく、UTCに変換できるシステム時刻で管理しています)。ですから、日本でサマータイムを導入しても、突然PCの動作がおかしくなるということはありません。問題はアプリケーションで、アプリケーションのロジックの中で、ローカルタイムベースでの管理・比較するケースが存在します。

これはある意味元号と西暦の関係に似ています。元号では、昭和30年と平成30年で「30年」が被ってしまいますから、年だけでの前後関係の比較はできません。それが西暦であれば1955年と2018年と前後関係の比較が可能になります。年に関しても、かつては元号で管理しているアプリケーションも存在していましたが、平成になった際に問題が認識され、既に西暦による管理が当然になっています。だからこそ、この先予定される改元は、そこまでの大ごとにはならないのです(以前お話ししたように、出力という観点では改修が必要になりますが、システムの根幹部分にまでは手を入れずに済むようになっています)。

現実問題として、東京オリンピックまでにありとあらゆるアプリケーションをUTCベースの管理にする(既にUTCベースになっているとしても、検証は必要です)というのは不可能でしょう。ですから、残念ながら東京オリンピックに向けてサマータイムを導入するというのは現実的とは思えません。
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2018年08月22日

キャッシュレス in the US

先週は夏休みで米国にいましたが、昨今キャッシュレスの話に関わっていることもあり、キャッシュレス化の状況について観察してきました(命の洗濯と言いつつ、仕事も忘れないのは好きだからでしょうか)。以前もご紹介したキャッシュレス・ビジョンによると、2015年時点での米国のキャッシュレス決済比率は45.0%。これはキャッシュレス化の先頭集団とまでは言えなくとも、同時点で18.4%の日本とは大きな差があります。

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(イメージ画像、笑)

今回の観察結果ですが、残念ながら(?)意外にまだまだ現金は活躍しているな、ということ。むろん、日本に比べるとクレジットカード/デビットカードで支払う人が圧倒的に多いのですが、それでも、観察していると、意外に現金で支払っている人もいることがわかります。傾向としてはやはりお歳を召した方が多いように思いますし、また日本と米国で異なる事情としてクレジットカードを作れない人が多いという背景もあるのかもしれません。

夏休みということで日本人の観光客も多かったのですが、やはり(?)現金で支払っている人が多い印象でした。日本でも現金で払っているので、海外でもそのまま現金で、ということでしょうか。私は日本では一定額以上はクレジットカード、それ以下は現金派ですが、海外では可能な限りクレジットカードです。その理由の一つは小銭の扱いが不要になること。日本円は慣れ親しんでいますから、どれが何円というのはパッと分かりますが、米ドルに関しては(2年間住んだ私でも)エーっと、どれが10セント(Dime)だっけと少し考えてしまいます。米ドルもそうですが、海外では25セント(Quarter)など日本と違う単位の硬貨があることも一因でしょうね。クレジットカードでは小銭の扱いが一切不要になりますから、その点ラクです。今回も日本から持参した数十セントの硬貨は結局使わずじまいでした。

一方で、米国の場合は現金がないと困るシーンも確実に存在します。それはチップ。荷物を運んでもらったり、クルマを出してもらったり、部屋を掃除してもらったり(ちなみに、一番チップの金額が大きいのはレストランでの支払い時ですが、これは飲食代と合わせてクレジットカードで支払うことができます)。クレジットカードがありますから$100札はいらなくても、チップのためには$1札がそれなりな枚数常時必要になります。私の場合、ホテルにチェックインする際に一定額を$1札に両替してもらうように心掛けています。

これはキャッシュレス化が進む上でどうなるんでしょうか。チップも例えばQRコードで支払えるようになるのか(ただチップはさりげなくスマートに渡すものなのに、スマートフォンでQRコードをかざすというのもどうかと思いますが)。チップ用のアプリというのも存在するようですが、あまり普及しているようには見受けられません。はたまた、キャッシュレス化の進展とともに、チップという習慣がなくなっていくのか(その分サービス料という形で一律で課金するのもありかと)。

逆に言えるのは、チップという習慣がない分、本来は日本の方がキャッシュレス化が進んでもおかしくはないということですね。短期間で世界最高レベルのキャッシュレス決済比率を目指すというのはあまり現実感はありませんが、米国レベルであれば十分可能なのではないかと思います。
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2018年07月26日

キャッシュレス化の光と影

キャッシュレス化を推進すべき(ただし課題は大きい)と書いてきましたが、では、私自身のキャッシュレス度はどうかというと、うーん、キャッシュレス化率は50%ぐらいでしょうか。ただ、一定額以上の支払いはほぼキャッシュレス(クレジットカード)なので、金額ベースで言えばキャッシュレス化率80%ぐらいにはなっているのではないかと思います。

そんな私ですが、先日思わぬことで一日間完全キャッシュレス生活を強いられることになりました。急用で出かけることになったのですが、急用過ぎたこともあって、財布を忘れるという失態(念のためですが、普段はそういったことはありません、笑)。持っているのはiPhoneのみ。気が付いたのは家を出て30分後で既に時間的に引き返せない状態。えーい、何とかなるか、と思ってそのまま出かけました。結論的に言えば、(ほぼ)何とかなりました。その気になれば、キャッシュレスで何とかなるものです。むろん、ちゃんとSuicaが使えるよね、と事前に確認したり、普段よりは少し気を使いましたが。

ただ、実は一つだけキャッシュレスでは何ともならないものがありました。冠婚葬祭に関わるものは、キャッシュレスとはいきません(人から借りるはめになりました)。少し前の日経新聞で「キャッシュレス先進国スウェーデンの光と影」という記事がありましたが、記事にもある通り、キャッシュレス化の影の部分にどう対処するかは大きな課題だと感じます。記事中に「長男のクリスマスのお祝いに日本のお年玉のように現金を渡そうと銀行の窓口に現金を引き出しにいったら、現金が不足していて1クローナ紙幣100枚しかおろすことができなかった。日本円にすると約1,300円」とありますが、銀行にそれだけの現金しかないというのは驚きです。既にキャッシュレス化が進んだスウェーデンとまだまだこれからの日本では状況は異なりますが、「やはり現金でないと」という用途があることは事実かと思います。

結果的に誰かを決済のネットワークから排除することにならないか、というのも、キャッシュレス化で慎重に考えるべきポイントです。上述の記事でも、やはりスウェーデンで「90歳になる祖母も困った経験をした。最近、自分の洋服を買おうとしたら、お店で受け付けてもらえず買い物ができなかったのだ」とありますが、これは当然日本でも起こりうる話です。ある意味近い話としては、最近は中国でキャッシュレス化が進んでいるために、中国を訪問する外国人にはむしろ不便になっているということを聞きます。

あまり話題にはなりませんが、障碍者の方にとってキャッシュレスがどのようなインパクトを持つのかも慎重に考えるべきかと思います。コインは大きさと形で識別がつくようになっていますし、あまり意識することはありませんが、紙幣にも識別マークがついています。

もちろん、今のままがいいと言うつもりはありません。そもそも今のように汎用的に利用できる紙幣が日本で普及したのはせいぜい150年前のこと。今の常識は、ここ150年ほどの常識に過ぎません。お年玉やお祝儀の常識も時代と共に変わっていくでしょう。とはいえ、キャッシュレス化の「光」だけではなく、「影」の部分もキチンと認識し、現実的な対処を考えていくべきだと思います。
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2018年07月24日

キャッシュレス化の方策

前回は、キャッシュレス化の意義はある一方で、実際に推進する上ではカベが存在するとお話ししました。キャッシュレス支払いができるお店でも現金を好むという消費者側のカベと、キャッシュレス支払いを受けられる設備はあるお店でも、実際には現金での支払いを好む店舗側のカベ。なおかつ、これらのカベは一方を崩そうとすると、他方のカベをさらに高くする可能性があると。

例えば、消費者側のインセンティブを増やそうとポイントによる還元を増せば、店舗側の手数料を増やすことにつながり、結果的に、店舗側のカベ(ディスインセンティブ)を増やしかねないというジレンマがある訳です。

このジレンマを解消する、もっと言えば、社会的な仕組みを大転換するためには、やはり国の役割が大きいのではないかと考えています。ヒントは韓国にあります。実は韓国は、世界でも有数の(というよりトップの)キャッシュレス先進国。少し前にもお話ししたように、2015年時点での日本のキャッシュレス決済比率が18.4%なのに対し、韓国は実に89.1%です。キャッシュレス・ビジョンでも解説されていますが、韓国では1999年から2002年というごく短期間のうちに、クレジットカード発行枚数を2.7倍に、そしてクレジットカード利用金額を6.9倍に急拡大させることに成功しました。

その方策は是非キャッシュレス・ビジョン(P14)をご覧いただきたいのですが、個人的に注目しているのが、年間クレジットカード利用額の20%の所得控除を認めるという制度(ただし、上限あり)。何と、クレジットカードで支払うとそのうちの一定額が税金を計算する上での控除対象となる(=節税になる)のです。つまりクレジットカードで支払うことに対して、店舗側に代わって、国がインセンティブを提供している訳です。これであれば、ジレンマに陥らないですよね。

とはいえ、それでは国にとってのメリットは何なのか? 国にとってのメリットがなければ、インセンティブを出す意味がありません。色々な解釈が成り立つと思いますが、この韓国のクレジットカード支払い推進には、1) 消費の活性化、2)脱税の防止という二つの目的があったと言われています。この時期は韓国では通貨危機からの脱出を図っている時期であり、消費を活性化させるためには手段を問わずという状況だったのかもしれません(ただ、この反面、2000年以降家計負債が増え続けていることが韓国経済のリスクとも言われています)。

興味深いのが、脱税の防止という目的です。上述の所得控除を認めるために、クレジットカードで支払いをする度に、それがデータとして国に送信されるという仕組みになっています。つまり、消費者にクレジットカード支払いのインセンティブを提供することによって、一定の税収減は許容しつつ、脱税を防止することによって、全体として税収を増加させようということです。

ちなみに、韓国では2005年には現金領収書という制度が導入され、現金での支払いの際にも売上データは国に送信されるようになっています(この場合も消費者には所得控除というインセンティブがあります)。現金支払いではレバレッジという消費の活性化効果はありませんから、明らかに脱税の防止が目的になっています。

弥生は事業者の味方ですから、単純に事業者の税負担が増えるだけの制度には賛成できませんが、そもそもの話として課税は公正であるべきです。理想的に言えば、売上がデータとして捕捉されることによって公正な課税がなされ、同時に徴税コストが下がるのであれば、それを税額の控除や、もっと言えば税率の引き下げのような形で事業者に還元されるべきだと考えています。

しかし、残念ながら日本の税制は建て増しに終始しがち。ですから、この種の制度が短期間で導入されることは考えにくいでしょう。ただ、人口も減少し、より効率的な社会運営が求められる中で、単純にキャッシュレス決済比率を多少向上させるという発想ではなく、社会的な仕組みを大きく作りかえるぐらいの覚悟が必要なのではないでしょうか。
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2018年07月20日

キャッシュレス化のカベ

APIの話とキャッシュレスの話を行ったり来たりしていますが、今日はキャッシュレスについて。前回は、キャッシュレス化の意義についてお話ししました。キャッシュレス化の意義の一つは社会的なコストを下げること。そしてもう一つの大きな柱は、キャッシュレス化によって、データを収集し、新たな価値を生み出すこと。

だからこそ、キャッシュレス化を推進すべき。この方向性自体には私は全く異論ありません。ただ、その方法論となると、なかなか一筋縄ではいかないと考えています。よく言われることとして、日本ではクレジットカード(や電子マネー等)が使えないお店が多い、だからキャッシュレス化が進まない。これを打破するために、キャッシュレス支払いを処理する端末(CAT端末など)の導入費用を補助し、お店のクレジットカード等の受け入れを促すべき、といった議論があります。

このロジック自体、必ずしも間違ってはいないと思いますが、それだけで全てが解決するほど単純ではありません。

確かにカード等を使えない店舗の存在がキャッシュレス化へのハードルとなっているのは事実ですが、一方、カード等を使える店舗でも現金を選ぶお客さまが相当に多いという現実を無視するわけにはいきません。代表例が百貨店ですが、一般的に百貨店はクレジットカード支払いができるようになっていますし、種類にはよりますが、電子マネーを利用できることも珍しくはありません。つまり、キャッシュレス・レディー。にもかかわらず、現金で支払う方が多い。その理由は様々でしょう。現金に対する信頼か、拘りか、あるいは、キャッシュレスに対する不安なのか抵抗感なのか、はたまた、単純にこれまでの習慣を変えたくないのか。

これらの消費者側のカベに向き合わないことには、キャッシュレス化が大きく進むことはないでしょう。

同時に、店舗側のカベにも向き合う必要があります。店舗側のカベは、クレジットカード支払いを受けられる店舗であっても、現実には現金払いを好むという事実。よくありますよね。ランチは現金支払いのみとか、このお得なプランは現金払いに限るとか。店舗側の事情もよくわかります。クレジットカードの取扱手数料は一般的に3%前後と言われますが、特に利幅の薄い業態において、決して無視できないコストです。また、資金繰りの面でも現金で払ってもらった方が有利。こういった事情がある中で、単純にCAT端末の導入費用の補助を行っても、CAT端末自体は導入されるかもしれませんが、実際のキャッシュレス支払いは進みません。

今後キャッシュレス化を推進する上では、こういったカベに対する打ち手を積み重ねる必要があります。難しいのは、消費者側のカベに対する打ち手が、結果的に店舗側のカベを高くすることにつながりかねないということ。

消費者側のカベを崩すための一つの打ち手として、ポイントのようなインセンティブを強化することが考えられます。クレジットカード払いであれば、x%分のポイントが溜まるといったような。1%でもチリが積もれば山となるですが、これが例えば5%や10%になれば、クレジットカード払いを選ぶ消費者は確実に増えるでしょう。

しかし、です。これらポイントは何もないところから生まれる訳ではありません。消費者にインセンティブを提供するためには、当然、その原資が必要。そしてその原資は通常、店舗側にかかる手数料から賄われます。つまり、消費者側のインセンティブを増やそうとすれば、店舗側の手数料を増やすことによって、店舗側のカベ(ディスインセンティブ)を増やしかねないというジレンマがある訳です。

逆に店舗側のカベを崩すために手数料を下げようとすれば、当然消費者に提供するインセンティブを削る必要があります。これもまたジレンマ。

キャッシュレス化の意義は確かにありますし、だからこそキャッシュレス化は推進すべき。実際問題として、何もしなかったとしても、キャッシュレス支払の割合はじわじわと増えていくでしょう。ただ、短い時間軸の中でキャッシュレス化を急速に進めようとすると、正直なかなか難しいと感じています。

もっとも、あくまでも個人的に、ですが、策はあると思っています。このジレンマを解消するためには、国の役割が大きいと思っています。CAT端末の導入補助といった小手先ではなく、もっと大きな仕組みが必要だと考えています。その具体策についてはまた改めて。
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2018年07月13日

なぜキャッシュレスなのか

日本は現金社会。逆に言えば、キャッシュレス化が進んでいないと言われます。日本のキャッシュレス決済比率(= キャッシュレス支払手段による年間支払金額÷国の家計最終消費支出)は2015年で18.4%。お隣の韓国の89.1%は別格としても、イギリスやアメリカなどが50%前後ですから、キャッシュレス化という観点で大きく出遅れていることは事実かと思います。

一方で、この事実自体は、日本の長所を表しています。日本では偽札が問題になることはほとんどありませんし、盗難にあうリスクも諸外国と比べれば圧倒的に低い。そしてATMが全国津々浦々に存在し、いつでも現金を引き出すことができる。他国では、現金に対する信頼が低い、あるいは現金を持ち歩くことがリスクとみなされる、あるいは、現金を入手する手間が大きいといった要因があるからこそ、キャッシュレス決済が進んだという事情があります。つまり日本でキャッシュレス化が進まないのは、現金決済が安心で、利便性が高いから。これ自体はむしろ褒められるべきですよね。

ただ、現金社会であるために、実は社会全体として大きなコストが発生しています。野村総合研究所の試算では、現金支払のインフラを維持するために、社会全体として年間1兆円を超えるコストが発生しています。わかりやすいところでは、現金(紙幣・貨幣)の製造コストですが、これらは650億円に過ぎません。コストが大きくかかっているのは、ATMを設置し、維持・運営するコスト(合計で7,000億円近く)や小売店舗で現金を管理するための人件費(レジ締めなど、5,000億円)。みずほフィナンシャルグループでは、間接的な費用まで含めれば、コストは約8兆円に達すると試算しています。

確かに現金は、便利です。24時間365日、どこでもおろせるし、どこでも使える。しかしそのためには、膨大なコストがかかっているということです。一方で日本の人口は明確に減少を始めており、これまでは意識もされなかった社会的コストが徐々に問題として顕在化してきています。わかりやすいところでいえば、店舗のレジを担当するスタッフを確保することも難しくなってきています。

また、現金決済では、誰がどこでいつ、何にいくら支払ったのかを追跡することが困難です。現金決済ならではの匿名性は、長所といえば長所ですが、誰がどこでいつ、何にいくら支払ったのかをデータとして分析することによって、新しい価値を生み出すという観点からは大きな障壁です。データ分析を通じて、お客さまの行動を可視化することにより、お客さまにより良い商品やサービスを提供する。

しかし、行動が可視化されることに気味の悪さがあるのは事実です。データを入手し、お客さまに新たな価値を提供したいというのは、製品/サービスを提供する側の一方的な想い(いわばサプライヤーズ・ロジック)であり、それをお客さまがどう思うのかは別問題です。お客さまに納得頂くためには、どんなデータがどのように扱われ、それがお客さまにとってどんなメリットにつながるのかをしっかりと示す必要があるでしょう。

つまり、キャッシュレス化の意義の一つは社会的なコストを下げること。そしてもう一つの大きな柱は、キャッシュレス化によって、データを収集し、新たな価値を生み出すこと。とはいえ、現実にキャッシュレス化を進めるためには、まだまだ超えなければいけないカベが複数存在しています。カベの正体とその傾向と対策についてはまた次回に。
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