2016年09月15日

保護くん

2016091501.JPG

これは保護くん。保護くんと書いて、「まもるくん」と読みます。一瞬何に使うのかわからないかもしれませんが、機密書類を安全に廃棄するための機密書類回収箱です。この箱に機密書類をどんどん投函しておくと、一定周期(弥生の場合は概ね月に一回)で回収され、機密性を保ったままリサイクルされる仕組みになっています。機密性を保つために、一度投函すると取り出すことができなくなっていますし、回収からリサイクルまで一貫した管理がされるようになっています。

私がこの保護くんと出会ったのは2000年のこと。ボストン コンサルティング グループに入社すると、この保護くんが鎮座していました。経営コンサルティングという仕事は、非常に機密性の高い情報を扱いますので、当然、その情報の廃棄にも万全を期す必要があります。そのための保護くん。

私が弥生に入社した際には、まだ保護くんはなく、皆シュレッダーで機密書類を処分していました。しかし、ご存知のように、シュレッダーは結構時間も手間もかかります。数枚なら一瞬ですが、数十枚、数百枚ともなるとシュレッダーの前に張り付いている必要がありますし、その間にシュレッダーダストが満杯となると、ため息をつきたくなりますよね。

できれば保護くんを入れたいと思いつつ、ランニングコストもあって躊躇していたのですが、プライバシーマークの取得にあわせて2年ほど前に導入しました。いざ導入してみると、ランニングコストも思った程大きい訳ではなく、もっと早く導入すればよかったと感じています。

もちろん、そもそも紙の廃棄をしないのが一番。弥生では、全会議室にプロジェクター or ディスプレイが設置されていますので、会議で紙を配ることは基本的にありません。とはいえ、頂いた資料など、紙をゼロにはできない。そういった時にはとても有益なサービスだと思います。仕事がら紙を扱うことの多い会計事務所にも適しているのではないかと思います。昨年はマイナンバーが鳴り物入りで導入されましたが、今年の年末調整ではいよいよ実運用が始まります。安全に管理することも大事ですが、不要になったら安全に廃棄できるよう準備もしなければなりません。

弥生で利用している投函ボックス形式のものは、一定周期での回収が前提となりますので、それなりに廃棄する紙のボリュームがある場合に最適です。そこまでボリュームがない場合は、段ボールを宅配便で回収する形式のもの(例えばこちらとか、こちらとか)の方がいいかもしれません。ただし、この形式の場合、投函したが最後取り出すことができないという機密性は確保できないので、投函から回収までの機密性確保には注意を要します。
posted by 岡本浩一郎 at 22:18 | TrackBack(0) | 業務

2016年03月15日

最終日 2016

今日3/15(火)は、平成27年分所得税の確定申告の申告期限日です。やよいの青色申告 オンライン/やよいの白色申告 オンラインの利用状況を見ていると、申告書作成完了の割合が着実に上がっており、最後の週末で皆さんそれなりに目処は立ってきたのかな、という状況です。サーバーへの負荷状況という意味でも、ピークは先々週末(3/5&6)で、最後の週末となった先週末(3/12&13)はそれよりは若干落ち着いたアクセス状況でした。

一方で、足元でも新規でのサインアップが結構な勢いで続いています。ある程度計画的に完了させる派と、ギリギリ駆け込み派の二極化が進んでいるような気がします。特に白色申告の方は直前駆け込みが多め。白色申告の場合は、全て紙で作成していた時でも直前の突貫工事で何とかなったので、ソフトウェアを使うようになってもその傾向が変わらないということかもしれません。

弥生としては、計画的に済ませることを推奨はしていますが、そうは問屋が卸さないことも重々承知しています。だってにんげんだもの。

ということで、毎年定番の内容になってしますが、申告期限日に頑張っている方向けへのポイントを二つほど(昨年と同じ内容を再掲)。必要に応じ以前の記事も参考にして下さい。

1) 提出方法ごとのデッドライン
郵便での場合、当日消印が必要です。最寄りの大規模郵便局(夜間窓口のある局)で何時まで当日消印が得られるか確認してみましょう。e-Taxは真夜中の24:00で一律に締切です。e-Taxは、証明書の期限切れなど、思わぬ障壁にぶつかる可能性があるので、事前に送信の一歩手前まで辿り着けるか確認しておきましょう(そこで問題を確認したら、すぐに諦めましょう)。大穴は、税務署への持参です。翌朝職員の方が確認する前に、時間外収受箱に投かんすれば大丈夫(のはず)。ただし、これはあくまで抜け道であって保証はないので、自己責任で。

2) 間に合わない、書類が揃わない時
とりあえず出しましょう。もちろん確信犯的に、ほぼ白紙の申告書を出すのは絶対にダメですが、例えば、あの領収書が見つからないけど、という時は、その分は省いて一旦提出しましょう。必要に応じて再度申告することも可能です(修正申告、更生の請求については、木村先生のこちらの記事が参考になるかと思います)。

また、本日は、今年は白色申告で、来年から青色申告にしようという方が青色申告承認申請書を出すための期限でもあります。これも本ブログで度々ご紹介していますが、青色申告は税金上圧倒的に有利ですし、青色申告承認申請を提出しつつ、実際は白色申告で申告することも可能なので、迷わずとりあえず出しておきましょう。これも今日日付の郵送で大丈夫です。青色申告承認申請書については、こちらの記事を参考にして下さい。

泣いても笑っても今日限り。最後の最後まで諦めずに頑張ってください!
posted by 岡本浩一郎 at 14:01 | TrackBack(0) | 業務

2015年11月18日

マル扶へのマイナンバー記入

給与を支払う際に、配偶者控除や扶養控除を反映させた金額で源泉徴収を行うために必要とされる給与所得者の扶養控除等(異動)申告書、略してマル扶。前回お話ししたように、マル扶は、その年の初めての給与支払い(の前日)までに全従業員から提出を受けることとされていますが、実務上は、その前年末の年末調整の準備の際に翌年分のマル扶を収集することが一般的です。つまりまさに今この時期。

2015111801.png

今回、翌年分、すなわち平成28年分のマル扶にはマイナンバーの記入欄が設けられました。ただ、これも前回お話ししたように、実は今年中であれば、記入する必要はありません。これは、国税庁の源泉所得税関係に関するマイナンバーのFAQを見ればはっきりと書いてあります。

まず、Q1-1「扶養控除等申告書には、いつから従業員等の個人番号を記載してもらう必要がありますか」の回答は「扶養控除等申告書は平成28年1月以後に提出を受けるものについて、従業員本人、控除対象配偶者、控除対象扶養親族等の個人番号を記載してもらう必要があります」。ややわかりにくいですが、逆に言えば、平成27年12月までに提出を受けるものについては、記載の必要がないということになります。Q1-3Q1-4の回答の冒頭でも、「平成27年中に提出する扶養控除等申告書については、法令上、個人番号の記載義務はありません」と書かれています。

平成27年中に提出する扶養控除等申告書については、マイナンバーを記載する必要がないとしても、マイナンバーの利用が正式に始まる平成28年に入ったところで、追記が必要となるのでは? これはQ1-6「平成27年中に個人番号の記載のない扶養控除等申告書を受領した場合、平成28年中に従業員に補完記入してもらう必要はありますか」で「平成27年中に個人番号の記載のない扶養控除等申告書を受領した場合、平成28年以降、従業員に従業員等の個人番号を補完記入してもらう必要はありません」と明確に回答されています。

つまり、マル扶は、今年中(平成27年中)に提出してもらう限りにおいては、マイナンバーを記載する必要がありませんし、一旦提出された申告書に平成28年に入ってから追記する必要もありません。FAQ内にはたびたび「平成28年分の源泉徴収票(税務署提出用)には、従業員の個人番号の記載が必要になりますので、源泉徴収票を作成するまでに、別途従業員から個人番号を取得する必要があります」と記載されていますが、平成28年分の源泉徴収票を作成するのは、基本的には来年末になりますから、実質上は一年後(平成29年分のマル扶)までマイナンバーの記載を引き延ばすことができるということです。平成28年中の退職者に源泉徴収票を交付するなど例外もありますが、例外については個別に個人番号を取得することで対応が可能なのではないかと思います。

ということで、今回のマル扶(平成28年分)について、マイナンバーによる面倒を避けるためにも、今年中に従業員から提出してもらいましょう。

なお、同じ平成28年分でも、平成28年に入ってから提出を受ける際には、マイナンバーの記入が必要となります。ただ、FAQのQ1-9で「扶養控除等申告書の個人番号欄に「給与支払者に提供済みの個人番号と相違ない」旨の記載をすることで、個人番号の記載に代えることはできますか」という質問に対し、「給与支払者と従業員との間での合意に基づき、従業員が扶養控除等申告書の余白に「個人番号については給与支払者に提供済みの個人番号と相違ない」旨を記載した上で、給与支払者において、既に提供を受けている従業員等の個人番号を確認し、確認した旨を扶養控除等申告書に表示するのであれば、扶養控除等申告書の提出時に従業員等の個人番号の記載をしなくても差し支えありません」との回答が示されています。つまりマイナンバーの収集を行った後であれば(収集によって、例えば弥生給与 16でマイナンバーの一元管理ができていれば)、マル扶にマイナンバーを記載しないという運用が可能になるということです。

もともとマル扶は個人情報の最たるものですから、マイナンバーが記載されていようがいまいが、安全に保管しなければなりません。ただ、マイナンバーが記載された紙を保管することは一定のリスクを生むことになりますので、平成28年以降については、(少なくとも源泉徴収業務関連については)平成28年の年末調整の時期(ざっくり一年後)までのどこかでマイナンバーを収集し、弥生給与 16などのソフトウェアでマイナンバーの一元管理することによって、マル扶へのマイナンバーの記載を避けるというのが望ましい運用になるではないかと考えています。
posted by 岡本浩一郎 at 19:17 | TrackBack(0) | 業務

2015年11月17日

扶養控除等(異動)申告書

今年も多くの方が扶養控除等(異動)申告書を記入する時期がやってきました。この書類は正式名称が「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」とあるように、記入する対象者は給与所得のある方ということになります。ちなみに、あまりに長い名称なので、会計事務所では、書面の右上にあるマークから「マル扶」と呼ぶことが多いようです。

2015111601.png

当たり前のように記入しているマル扶ですが、何のために必要なのでしょうか。これは、給与を支払う際に、マル扶に記載された情報を基に、配偶者控除や扶養控除などを反映させた金額で源泉徴収を行うためのものです。一般的に給与の源泉徴収は年末調整時に追徴が発生しにくい(むしろ若干の還付が発生する)ような金額となるようになっています。年間を通じての所得税が30万円だとすると、30万円÷12の毎月25,000円に加えて、+αを源泉徴収しておくといったイメージです。この「+α」×12は、結果的に年末調整時に還付になります。源泉徴収によって痛税感を軽減しつつ、税金を支払い過ぎていたものが戻ってきたにも関わらず、還付で何となく得した気持ちになるという実にうまくできた仕組みです(笑、ただし実際には賞与にも源泉徴収が発生するため、賞与の金額等によって結果的に追徴になるケースもあります)。

追徴ではなく確実に還付になるようにするためには、上の+αの部分を大きくすればいいわけですが、とはいえ、あまり多く源泉徴収し過ぎるのも考えものです。ということで、予めマル扶で、配偶者や扶養親族について申告しておけば、配偶者控除や扶養控除を考慮した(結果としてより少ない)金額の源泉徴収で済ませてあげますよ、となっています。

事業者が給与所得から源泉徴収する際に税額を決定する「源泉徴収税額表」というものがあるのですが、マル扶が提出されている場合には甲欄で、マル扶が提出されていない場合には乙欄で計算するようになっています。こちら(pdf)は来年からの源泉徴収に利用する「給与所得の源泉徴収税額表(平成28年分)」ですが、例えば、給与(正確にはその月の社会保険料等控除後の給与等の金額)が168,000円の場合、マル扶を提出していれば、扶養親族等が1名で源泉徴収税額は2,000円となります。一方で、マル扶を提出していなければ乙欄から算出し、11,400円の源泉徴収税額となります。乙欄の金額は扶養親族等の数を考慮していないこともあり、結果的に甲欄の金額よりは遙かに高額になっています。

2015111702.png

ということでマル扶は、毎月の源泉徴収税額が少額で済む甲欄の適用を受けるために記入するわけですが、マル扶の記入と提出はいつでもいい訳ではありません。マル扶は、その年の初めての給与支払い(の前日)までに全従業員から提出を受けることとされていますが、実務上は、その前年末の年末調整の準備の際に翌年分のマル扶を収集することが一般的です。つまりまさに今この時期ということです。

この時期は同じような書類を2枚渡されて、何が違うのか戸惑われる方もいらっしゃるかと思いますが、よく見て頂ければ、1枚は「平成27年分」、もう1枚は「平成28年分」となっているはずです。平成27年分については、一年前に記入して提出済みのものですが、これから事業者が年末調整作業を行うにあたって、扶養状況に変更がないかを確認する、という位置付けです。例えば、この一年間で結婚して、控除対象となる配偶者ができた場合には、このタイミングで追記をし、それに基付いて年末調整を行います。

一方で、平成28年分は、基本的に白紙です。これは上で述べたように、平成28年(来年)に入ってからの給与支払いの際に源泉徴収税額が少額で済む甲欄の適用を受けるために、予め記入するのです。

さて、先ほどは「同じような書類」と書きましたが、今回記入する平成28年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書は、平成27年分と大きな変更点がありますので、さすがに違うことがすぐにわかるかと思います。そう、平成28年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書には、マイナンバー(個人番号)の記入欄が新設されています。そういった意味で、今回のマル扶は、いよいよマイナンバーがやってきた、と多くの方が実感するきっかけになりそうです。

では、マイナンバーの記入欄がある以上、全従業員(とその扶養親族等)のマイナンバーを早速記入してもらわなければならない? そこは慌てる必要はありません。端的に言えば、この年末までに、マル扶を全従業員にキチンと提出してもらう限りにおいて、マイナンバーを記入する必要はありません。

年末までに、というのがミソです。長くなってしまったので、この理由は次回改めてお話ししたいと思いますが、まだマイナンバーの通知も進んでいない、ましてや、マイナンバーの収集にも着手できない中で、現実的な対応としては、年内にマイナンバーなしで提出を受けるのが望ましいと考えています。

実はマル扶は、従業員から提出を受けてもすぐに税務署に提出する必要はありません(基本は事業者側で保管し続けます)。このため、上記のように、年末に翌年分のマル扶の提出を受けるのではなく、年末の年末調整に際し、初めてマル扶の提出を受ける(要は本来よりも一年遅れて提出してもらう)ケースも結構あるようです。ただ、マル扶がないのに、甲欄で源泉徴収を行うのは、本来は法令違反です。来年1月からはマイナンバーの記入が必要となり、何かと扱いが難しくなります。これまでがそういった運用だったとしても、この機会に本来あるべき事前の記入/提出に切り替えることをお勧めします。
posted by 岡本浩一郎 at 18:34 | TrackBack(0) | 業務

2015年05月29日

マイナンバーは秘密の鍵?

マイナンバー(個人番号)。TVでのCMも流されているようで(実は私はほとんどTVを見ないので、見たことがないのですが…)、その詳細はともかくとしてマイナンバーなるものがこの秋からスタートすることを認知している人の率は高くなってきているかと思います。最近は新聞でもマイナンバーについて取り上げられる機会が増えました。今朝の日経一面トップも「株の納税、マイナンバーで 配当など申告簡単に」という記事でした。

このマイナンバーは、行政の効率化を進める上では大きな意味のある制度ですが、特定個人情報として法令に則って扱う必要があります。平易に言えば、最高レベルの機密情報として扱わなければいけません。一方で、マイナンバーは、視認性を持っています。この10月から交付が開始される通知カードには個人番号が記載されています。また、来年1月からは身分証明書としても利用ができる個人番号カードの交付が始まりますが、この個人番号カードの裏面にはやはり個人番号が目に見える形で記載されています。

カードという物理的な媒体に、目に見える情報として記載されているものを、最高レベルの機密情報として扱わなければならない。ここに、マイナンバーの難しさであり、あえて言ってしまえば、矛盾があります。この10月以降、事業者は、従業員に(その扶養家族の分も含め)通知カードの提示を求め、その個人番号を収集します。収集された情報は最高レベルの機密情報として扱わなければならないのですが、一方で、収集の際には、担当者の目には触れます。番号の並びが良ければ、記憶してしまうかもしれません。それでも、最高レベルの機密情報として扱わなければならないのです。SFではないのですが、記憶を消さなければならない?

マイナンバーをここまで機密情報として扱わなければならないのはなぜでしょうか? マイナンバーは万能の秘密の鍵だから? 冒頭の日経の記事では、「今年10月から番号を割り当て、16年から番号を記載した個人番号カードを配る。役所の窓口で番号を伝えれば他の身分証明書の提示は不要になる」と記載されています。つまり番号はその人のパスワード???

しかし、これは本来は誤りのはずです。マイナンバーは誰かを特定する識別情報(ID)ではありますが、本人であることを証明する認証情報(パスワード)ではありません。上の記述で言えば、「役所の窓口で番号を伝えれば」、手続きをしようとしている対象となる人を特定することはできますが、その番号を伝えた人がその人本人であることの証明にはなりません。より正確にいえば、「役所の窓口で個人番号カードを提示すれば」裏面に記載されている個人番号によって、手続きをしようとしている対象となる人を特定し、なおかつ、個人番号カードを所有することによって、その本人であることの証明となります。

繰り返しになりますが、マイナンバーはパスワードではなく、あくまでもID。実際、個人番号カードの交付を受ける際には、4桁の数字と6桁以上の英数字の組み合わせの2種類のパスワードを設定しなければなりません。これらパスワードこそが、本人であることを証明する「本当の」パスワードなのです。上の例でも、万全を期すには(落し物の個人番号カードを第三者が使えないようにするためには)、個人番号カードを提示するだけではなく、本人しか知らないはずのパスワードを入力すべき、ということになります。

もちろん、IDだからと言って、マイナンバーを適当に扱っていい訳ではありません。法律で定められているわけですから、法令に則って、機密情報として扱うべきです(これから登場する弥生製品もそのためのお手伝いをします)。ただ、機密情報として扱うべきというイメージが強まることによって、本来はIDであるものがパスワードのように捉えられる、場合によって、パスワードであるかのように運用されるのではないか。「役所の窓口で番号を伝えれば」となってしまわないか。心配性かもしれませんが、私はこの点を危惧しています。

再び繰り返しになりますが、マイナンバーはパスワードではなく、あくまでもIDです。そもそも、所詮目に見える、視認性を持った番号です。それこそ個人番号カードを落としてしまえば、一発で(ひと目で)情報は流出します。つまり視認性を持っていれば、100%安全はありえません。逆に言えば、より安全性を高めたいのであれば、本当はマイナンバーは視認性のないものとすべきです。

視認性のある、100%安全はありえないマイナンバーですが、それでも絶対安全という前提に立つのか。すなわち、ありとあらゆる手段とどれだけのコストをかけても機密性を守ることに全力をそそぐのか。はたまた、仮にマイナンバーが見えてしまっても、致命的な問題にならないような仕組みを作るのか。

5/10付けの日経新聞の記事がそのヒントを示唆しているように思えます。「マイナンバー、そんなに心配? 使いこなすのは国民自身(核心)」という記事で、番号制度の活用について世界最先端を走るバルト海沿岸の小国エストニアの事例が紹介されています。曰く、「(一人がひとつ持つ)番号は意外にも公開されている。番号それだけではただの番号にすぎず、カードと厳重なパスワードがそろわないと用を成さない」。

マイナンバー制度は紆余曲折を経てようやく始まろうとしています。この紆余曲折の中で、本来はIDであるマイナンバーをあたかもパスワードのように扱うことが必要になりました。もっとも、マイナンバーは生まれたばかりの(より正確に言えば、生まれようとしている)制度ですから、当初は矛盾や無理が発生することもやむを得ないことです。ただ、本当にその効果を生むためには、制度を冷静に分析し、必要に応じて改善していくべきだと考えています。今後、本ブログでは、日本の中小事業者がこのマイナンバーにどのように対処すべきか発信していくと同時に、マイナンバー制度のより良い在り方についても、冷静に考え、発信していきたいと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 20:16 | TrackBack(0) | 業務

2015年04月01日

引上げ延期への対応

昨日、3月31日に、2015年度税制改正の関連法が国会で成立しました。これによって、今年10月に予定されていた消費税率10%への引き上げは、2017年4月に延期されることが正式に法律として決定しました。

あれ、引上げ延期はもう決まっていたのでは、と思われる方も多いのではないかと思います。昨年12月の衆議院選挙では、この引上げ延期が争点の一つになっていましたし、その選挙で自公両党が勝利し、安倍総理の続投が決まった段階で、この引上げ延期は「ほぼ」決まったのは事実です。一方で、日本は法治国家ですから、正式に決まるのは、あくまでも法律として成立してから。実は昨日までは法律上は2015年10月に引上げとなったまま。昨晩の2015年度税制改正の関連法の国会可決で、ようやく2017年4月引上げが正式に決定したということになります。

とはいえ既定路線ということで、昨晩の関連法可決に関するメディアの扱いも小さいもの。引上げ延期となると本来は新聞一面を飾ってもよいぐらいインパクトのある話ですが、実際には記事を探すのも難しいほどでした。

既定路線ではあるのですが、今回の関連法成立は、弥生としては今か今かと待ちわびたもの。というのも、弥生が提供する業務ソフトウェアは、全てその時点での法令に基づいていますが、上でお話ししたように、これまでは引上げ延期という方向性と実際の法律(引上げは2015年10月のまま)に乖離があったため、お客さまへのご説明が非常に難しかったためです。

衆議院選挙を受け、昨年12月11日には、「消費税率10%への引き上げの実施日が、2015年10月から延期および見直しされる方向です。本見直しに伴い、弥生製品も見直し内容に応じた対応をいたします」というお知らせを公開したものの、「対応時期や対応内容の詳細は、今後の国会で提出される改正法案の成立後に、対応内容についてご案内いたします」と具体的に何がどうなるかはご説明が難しい状態でした。今回、関連法が成立し、ようやくはっきり具体的にご説明することが可能になります。

こちらに、弥生からの正式なお知らせを公開していますが、弥生では今月中に、今回成立した法律に基づいた対応を行い、現行製品である弥生 15 シリーズをご利用のお客さま全てにオンライン・アップデートで提供いたします。弥生オンライン(やよいの店舗経営 オンラインやよいの白色申告 オンラインやよいの青色申告 オンライン)に関しては、今後のリリース・スケジュールにあわせ、早期に引上げ延期への対応を行います。

今日はエイプリルフールということで、様々なネタが各所で披露されています。私も昨年見送っただけに、今年こそは復活と思っていたものの…。こんな日に「マジメか!?」と言われてしまいそうですが、やはり、お客さまの業務と事業をお預かりする身として、お客さまにとって大きな影響を与える話を優先せざるを得ません。

今回の消費税率引上げ延期という判断が正しかったのかどうかは、最終的には歴史を振り返ってみないとわからないことです。ただし、国としてそれを判断した以上、弥生は、お客さまがお客さまの事業と業務を、法令に基づき、かつ効率的に進めることができるよう、全力で支えていきます。

残念ながら、エイプリルフールネタはお預けですが、来年再利用…できるかな。
posted by 岡本浩一郎 at 17:11 | TrackBack(0) | 業務

2015年03月16日

駆け込みセーフを目指す方に

いよいよ3月16日。平成26年分の所得税確定申告は本日が期限です。一週間前(3/9)の時点では、やよいの青色申告 オンライン/やよいの白色申告 オンラインをご利用中のお客さまのうち、61%は確定申告書の作成に着手済みで、そのうち半分以上(全体の34%)の方は既に申告書の作成を完了されていました。現在、今朝時点でのデータを分析中ですが、この週末の追い込みで、かなりの割合の方が申告書の作成を完了されたのではないかと思います。

ちなみに、このようにほぼリアルタイムでお客さまの進捗度合が見えるのはクラウドならではです。面白いところでは、青色申告のお客さまと白色申告のお客さまでは、白色申告の方がギリギリになってから動き出すという傾向も見えます。

申告期限が近付く中で、やよいの青色申告/白色申告 オンラインを利用される方が急激に増えており、これにあわせて、システムリソースの増強も継続的に続けています。システムの稼働状況は24時間監視しており、システムの負荷が一定以上に高まった際には、速やかにリソースの増強を行っています。一方で、明日以降は利用が一気に落ち着くでしょうから、過剰となったリソースを開放することになるかと思います。ここらへんもクラウドならでは、ですね。

さて、多くの方が申告書の作成を完了したとは言え、まだ最後の突貫作業中という方もいらっしゃるかと思います。頑張ればまだ間に合います。毎年申告期限の日に書いていますが、注意すべきポイントを2つほど(以前の記事も参考にしてください)。

1) 提出方法ごとのデッドライン
郵便での場合、当日消印が必要です。最寄りの大規模郵便局(夜間窓口のある局)で何時まで当日消印が得られるか確認してみましょう。e-Taxは真夜中の24:00で一律に締切です。e-Taxは、証明書の期限切れなど、思わぬ障壁にぶつかる可能性があるので、事前に送信の一歩手前まで辿り着けるか確認しておきましょう(そこで問題を確認したら、すぐに諦めましょう)。大穴は、税務署への持参です。翌朝職員の方が確認する前に、時間外収受箱に投かんすれば大丈夫(のはず)。ただし、これはあくまで抜け道であって保証はないので、自己責任で。

2) 間に合わない、書類が揃わない時
とりあえず出しましょう。もちろん確信犯的に、ほぼ白紙の申告書を出すのは絶対にダメですが、例えば、あの領収書が見つからないけど、という時は、その分は省いて一旦提出しましょう。必要に応じて再度申告することも可能です(修正申告、更生の請求については、木村先生のこちらの記事が参考になるかと思います)。

また、本日は、来年から青色申告にしようという方が青色申告承認申請書を出すための期限でもあります。これも本ブログで度々ご紹介していますが、青色申告は税金上圧倒的に有利ですし、青色申告承認申請を提出しつつ、実際は白色申告で申告することも可能なので、迷わずとりあえず出しておきましょう。これも今日日付の郵送で大丈夫です。青色申告承認申請書については、こちらの記事を参考にして下さい。
posted by 岡本浩一郎 at 16:37 | TrackBack(0) | 業務

2014年12月18日

通勤手当の非課税限度額の引上げ

年末のこの時期と言えば、年末調整の時期。弥生のカスタマーセンターにも、多くのお問合せを頂く時期です。昨日/今日は全国的に大荒れの天候で、大雪の中、札幌カスタマーセンターで通常通りお問合せに対応できるか心配しましたが、結果的には大きな影響はありませんでした。今日一日では、5,658件のお問合せに対応させて頂きました。

何分年に一回の業務ですので、どうやるんだっけというところから始まりがちな年末調整ですが、弥生給与/やよいの給与計算 14で導入した「年末調整ナビ」の効果もあってか、ご利用のお客さまの数は増えている一方で、お問合せの絶対数は若干減ってきています。お客さまにとっては、問い合わせる必要なく業務がスムーズに進むのが何よりです。

ただ、今年は新たな課題もあります。それは通勤手当の非課税限度額の引上げ。通勤に公共交通機関を利用している場合には、その運賃額を通勤手当として支給する分には原則的に非課税となります。一方で、自家用車などで通勤している場合には、通勤手当の金額は会社独自のルールで構わないのですが、非課税となる金額には上限があります。例えば、通勤距離が片道15キロメートル以上25キロメートル未満である場合には、非課税の限度額は11,300円。

今回、この非課税限度額が引上げになりました。上記の片道15キロメートル以上25キロメートル未満である場合には、非課税の限度額は11,300円だったものが、12,900円に。引上げの背景にあるのは、この4月の消費税率の引上げです。消費税率引上げによって、ガソリン代なども上がることを考慮し、非課税の限度額を引上げるという訳です。

しかし、非課税限度額が引上げになること自体は結構なことなのですが、実はこの引上げ、10/17(金)に公表(政令の公布)され、それを適用(施行)するのが10/20(月)から。金曜日に公表されて、翌週の月曜日から適用って、さすがにかなり無理がありますよね…。 さらに、施行は10/20(月)からですが、4/1以後に支払われるべき通勤手当に遡って適用というかなり無茶なことに…。実際には、4月以降の通勤手当は既に異なる(低い)限度額で計算され、支給されてしまっていますから、新たな限度額で再計算し、税金を納め過ぎてしまっているとなった場合には、調整しなければなりません。その調整をどこで行うかというと、そうです、年末調整。ただでさえ大仕事な年末調整で考慮すべき点が増えてしまったということです。

弥生では、この引上げが公表されてすぐに対応を検討し、直前までいっていた年末調整対応版のリリースを一旦ストップ。急遽この法令改正への対応も含めた上で、改めて年末調整対応版を開発し、年末調整に間に合うよう、11/17(月)にオンライン・アップデートで提供を開始しました。

色々と注意が必要となる法令改正ですので、FAQも用意し、また、調整額を計算するための補助ツールもご用意しました。幸いにして、公共交通機関のみで通勤している従業員は今回の改正の影響は受けませんので、全てのお客さまに影響が出たわけではありません。そんなこともあって、冒頭でお話しした通り、お問い合わせの件数は落ち着いて推移しています。少々心配していただけに、ホッとしています。

それにしても、10/17(金)に公表で、週明けの10/20(月)から適用、さらに過去分は遡って年末調整で調整というのはお客さまにとって負荷が大き過ぎると感じます。それこそ遡及する必要のないように、4月以前から明らかになっていれば何の問題もなかったはずです。
posted by 岡本浩一郎 at 22:41 | TrackBack(0) | 業務

2014年08月22日

不本意な未加入期間

最近複数のメディアで、厚生年金の加入逃れを阻止するための施策がとられるという報道がされています。私が目にしたのは、日経新聞のこちらの記事。曰く「政府は厚生年金に入っていない中小零細企業など約80万社(事業所)を来年度から特定し加入させる方針だ。国税庁が保有する企業情報をもとに厚生年金に加入していない企業を調べ、日本年金機構が加入を求める。応じない場合は法的措置で強制加入させる…」。

ご存知の方も多いと思いますが、厚生年金は公的年金制度の一部で、主に法人の従業員(および役員)が加入します。厚生年金は会社(事業所)で加入するのですが、一定の条件に該当する場合には、加入が義務付け(強制的に適用)となっています。具体的には、常時従業員を使用する株式会社など、一定の条件が当てはまる場合には必ず加入しなければなりません。ただ、年金保険料の会社側の負担も発生することから、実際には加入手続きを行っていない会社もかなりの数に上るようで、これが上記の報道につながっています。

この記事を目にして、個人的に思い出したのは14年前のこと。私はかつて、2000年の6月に株式会社リアルソリューションズという経営コンサルティング会社を起業しました(弥生の社長に就任する前の話です)。株式会社で、私は常勤ですので、厚生年金に加入する必要があります。では手続きをと、社会保険事務所に向かいました。そこで告げられたのは結構衝撃的な一言。

「今日は加入できません。」

話を聞いてみると、会社を立ち上げてもその後どうなるかわからないので、様子を見ます、ということでした。しばらく経ってから再度来てくれと言われ、その日はそのまま帰ることになりました。

加入は義務のはずなのに、なぜ?

おそらく、加入した後に年金保険料の滞納をされると困るので、ということでしょう。つまり年金保険料がキチンと納付されている「納付率」を下げたくないので、ということかと思います。国民年金では納付率が低いと問題になっていますが、おそらく厚生年金でも内部管理的に納付率を維持せよとの目標があり、そのために、滞納するかもしれない事業者はあえて加入させないということなのではないかと思います。

ただ、これは明らかに間違ったやり方ですよね。最終的に納付される年金保険料を最大化するのが本来の狙いのはず。それが、管理指標(KPI)としての納付率を高めるために、納付率を下げそうな事業者は加入させないというのは本末転倒かと思います。

私の場合は2ヶ月後に再度訪問し、今度は無事に加入を認めてもらいました。とはいえ、正直釈然としない気持ちは残ります。最近はねんきん定期便として年金の加入状況が送られてきますが、その記録を見ると、私は2ヶ月間だけ年金への未加入期間があります。ただ、それは望んでできた未加入期間ではなく、加入させてもらえなかったから。

もう14年も前の話ですし、当時こういったことが広く行われていたのか、あるいは一部の社会保険事務所に限られた話だったのかもわかりません。その後、社会保険事務所の親玉である社会保険庁は廃止され、日本年金機構が発足しました(このため、社会保険事務所は年金事務所に衣替えとなっています)ので、今はこういった話はないのかもしれません。ただ、今回の報道で、未加入の事業者が多く存在するとありましたが、中には私のように、最初は加入するつもりでも加入させてもらえず、結局そのままになってしまった事業者もあるのでは、と思います。
posted by 岡本浩一郎 at 23:10 | TrackBack(0) | 業務

2013年01月31日

復興特別所得税(まとめ)

この1月から課税が始まった復興特別所得税について、これまで何回かに分けてお話してきましたので、ここで一旦まとめておきたいと思います。

復興特別所得税の概要
復興特別所得税の注意点

また、弥生のウェブサイトで、法令改正情報として復興特別所得税の特集ページもご用意していますので、一度目を通して頂ければ。報酬などの金額がわかっていて、そこから源泉徴収する金額を計算するのは比較的容易ですが、源泉徴収後の金額から源泉徴収前の金額を割り出すのは少々面倒です。報酬などは、受け取る側が予め請求書を発行し、そこで自ら源泉徴収額を計算しておくことも多いので、源泉徴収前の金額が比較的わかりやすいですが、意外に面倒なのが利子。預金の利子は源泉徴収後の金額だけが通帳に記載されていることが多いので、そこから、所得税および復興特別所得税の金額、住民税の金額を割り出し、それらを合算してようやく源泉徴収前の金額を算出することができます。この方法についても、例を挙げてご説明しています

今日は1月の月末ということで、初めて復興特別所得税を考慮しての請求書を作成された方も多かったようです。Twitterでも税理士の方が面倒…と。税理士の方は(税理士法人を除き)個人事業なので、報酬・料金での源泉徴収が該当しますからね。これから25年間(!!)お付き合いしなければいけない税金なので、早くマスターしておきたいところです。
posted by 岡本浩一郎 at 23:08 | TrackBack(0) | 業務

2013年01月23日

復興特別所得税の注意点(その3)

早ければ今月にも復興特別所得税を納付するケースがいくつかあるということで、前々回は給与所得について、前回は個人事業主の報酬・料金についてお話ししました。今回は三つ目のケースとなる預金などの利子についてお話ししたいと思います。

個人事業主や専業主婦のように給与所得が存在しないケースは珍しくありませんが、預金口座を持っていない人はかなり珍しいと思いますので、今回お話しする預金などの利子への復興特別所得税は影響範囲としては最も広いのかもしれません。

さて、預金などの利子も立派な所得ですので、所得税(と住民税)の対象となります。ただし、一般的には一定額が源泉徴収されるようになっており、確定申告は必要ありません。これまでは、所得税が15%、住民税が5%の合計20%が源泉徴収されていたのですが、この1月からは、所得税が15.315%(15%*1.021、しかし細かいですね…)と住民税は変わらず5%で、合計20.315%が源泉徴収されることになります。例えば、利子が1,000円だったとして、所得税(復興特別所得税込み)が15.315%で153円(円未満は切り捨て)、住民税は5%で50円、合計203円源泉徴収され、手取りは797円となります。この例だと復興特別所得税で3円だけ多く源泉徴収されることになりますね。

ただ、昨今の超低金利によって預金の利子は微々たるものになっていますから、実際には影響がでないケースも存在します。例えば利子が300円だとすると、所得税(復興特別所得税込み)が15.315%で45.945円になりますが、円未満は切り捨てになりますので、45円。これはこれまでの15%と結果的に同じ金額になります。
posted by 岡本浩一郎 at 21:11 | TrackBack(0) | 業務

2013年01月17日

復興特別所得税の注意点(その2)

今年1月1日からスタートした復興特別所得税ですが、前回も書いたように今年(平成25年)からの所得税に所得税額の2.1%分の復興特別所得税が上乗せされます。上乗せのベースとなるのが平成25年の所得税ですから、金額として確定するのはあくまでも平成25年が終わってから、そして、確定した金額を納付するのは、平成25年分確定申告ということになります。つまり今から一年以上はあるということです。

ただし実際には、早ければ今月にも復興特別所得税を納付するケースがいくつかあります。一つは、前回も書いた給与所得です。給与所得として、年間の所得が確定し、所得税+復興特別所得税の金額が確定するのは、年末調整もしくは来年の確定申告になります。しかしその前にも、毎月の給与の支払時に、源泉徴収という形で所得税と復興特別所得税を納める必要があります。

二つ目のケースは、個人事業主が報酬・料金を受け取る際です。ご承知の方が多いと思いますが、個人事業主に特定の報酬・料金等の支払いを行う場合には、支払う側が一定額を源泉徴収し、納付する必要があります。個人事業主側からすると、源泉徴収後の金額で受け取ることになるわけですが、この源泉徴収にも復興特別所得税が反映されますので、これまでよりも多く源泉徴収されることになります。

ただ、これも前回ちょっと書きましたが、復興特別所得税が上乗せされるのは、あくまでも今年の所得からですから、個人事業主が昨年12月に行った業務(=所得としてはあくまで昨年の分)については、例えその請求書の発行や売掛金の回収が今年になったとしても、復興特別所得税は課せられません。逆に言えば、この1月に行った業務から、復興特別所得税が課されることになりますので、タイミングとしては、今月末の請求書作成時に考慮が必要になるケースが多いのではないかと思います。

源泉徴収額は、これまで支払金額が100万円以下であれば、10%、100万円超であれば、100万円を超える部分の20%+10万円と決まっていました。これが復興特別所得税込みとなることによって、100万円以下であれば、10.21%、100万円超であれば、100万円を超える部分の20.42%+102,100円となります。要はこれまでの額+2.1%ということですね。報酬・料金での源泉徴収額は、支払を受ける側が請求書上で予め明記しておくのが一般的です。このため、請求書などを作成・印刷するソフトであるやよいの見積・納品・請求書 13では、源泉徴収の自動計算に対応しており、復興特別所得税込みでの金額で計算できるようになっています。

ただし、実は司法書士への報酬など上記の源泉徴収額算出式が当てはまらないケースがあります(厳密には司法書士、土地家屋調査士及び海事代理士)。この場合には、やよいの見積・納品・請求書では、源泉徴収税額をご自身で計算して頂き、金額を直接入力する必要があります。

さて、三つ目のケースは預金などの利子ですが、ちょっと長くなってしまったので、これは「その3」で。
posted by 岡本浩一郎 at 19:27 | TrackBack(0) | 業務

2013年01月11日

復興特別所得税の注意点(その1)

今年最初のブログ記事でも書いたように、今年1月1日から、復興特別所得税がスタートしています。復興特別所得税については、昨年11月にも解説していますが、いざスタートしたということで、改めて整理してみたいと思います。

この復興特別所得税は、いわゆる復興増税のうちの一つです。復興増税は、所得税だけでなく、法人税、住民税で実施されますが、復興特別所得税はこの1月からスタートし、今年から実に25年間に渡って課税されることになっています。

復興特別所得税は単純に言えば、通常の所得税への2.1%の上乗せということになります。間違えられやすいのですが、税率が2.1%増える(例えば所得税率10%が10%+2.1%=12.1%になる)ということではありません。所得税額が2.1%増えるということです。例えば、所得税が20万円であれば、その2.1%、すなわち4,200円が復興特別所得税として課税されます。税率として表現すると、所得税率が10%の場合には、10%×102.1%=10.21%となるということですね。

復興特別所得税は、今年以降(平成25年から平成49年!!)の所得に対して課税されます。このため、例えば、個人事業主が昨年12月に行った業務については、例えその請求書の発行や売掛金の回収が今年になったとしても、所得としてはあくまで昨年(平成24年)の分ですから、復興特別所得税は課せられません。個人事業主の昨年(平成24年)の所得については、今年の3月15日までに所得税の確定申告をする必要がありますが、今回の確定申告に関しては、復興特別所得税は全く関係がないことになります。

一方で、少々注意が必要なのは、給与所得です。ご承知のように給与を支給する場合には、源泉徴収が必要となりますが、いつ支払いの給与から復興特別所得税込みでの源泉徴収が必要になるのか。これは基本的に今年1月1日以降に支払われた給与は、復興特別所得税の対象となります。

ん、でも、1月に支払われる給与は12月の労働に対してなのでは?、と思われるかもしれませんが、所得税上は、支給日が定められている給与については、その支給日がその給与の収入とすべき時期とされているのです。ですから、1月に払われるのは今年分の収入ということになります(実際、年末に配布される給与所得の源泉徴収票に記載されている「支払金額」は、その年の1月から12月末までに支給された金額の合計です)。

ということで、給与所得のある方は、今月の給与明細書は要チェックです。今月から所得税の源泉徴収額に復興特別所得税が含まれています。ここでの復興特別所得税はもともとの源泉徴収額の2.1%ということになりますが、機械的に2.1%加算されるのではなく、復興特別所得税が反映された新しい「平成25年分 源泉徴収税額表」に基づいて源泉徴収されます(最終的には年末調整で正確に2.1%上乗せに調整されます)。

上記は給与所得を受け取る側の話になりますが、支給する側は、この1月の支給分から、平成25年分 源泉徴収税額表に基づいて源泉徴収額を計算する必要があります。これまでの源泉徴収税額表(平成24年分)を使ってしまうと、本来源泉徴収すべき額より少ない額になってしまいますので、注意が必要です。弥生給与 13やよいの給与計算 13では、新しい平成25年分 源泉徴収税額表での源泉徴収額計算に対応しています(逆に言えば、12製品をそのまま使ってしまうと、計算を誤ってしまうので注意が必要です)。
posted by 岡本浩一郎 at 19:14 | TrackBack(0) | 業務

2013年01月09日

源泉所得税の納付の2つの特例

約2年前にも書いたことがありますが、法人や個人事業主が、従業員に給与を支払ったり、税理士などに報酬を支払ったりする場合には、支払いの際に所得税を源泉徴収する必要があります。これはあくまでも国に代わって徴収しているわけですから、徴収した金額を期限までに国に納付する必要があります。納付期限は原則的に支払いの翌月10日です。参考URLはこちら

ただし、小規模事業所(給与を支払う対象が常時10人未満)の場合には、事前の申請により、納付期限を半年に一度(1月と7月)とする特例(納期の特例)が認められています。この特例では、通常は翌月10日までに納付しなければならないものを7月10日(1月から6月に源泉徴収した分)および翌年1月10日(7月から12月に源泉徴収した分)までにまとめて納付することができるようになります。ただ、この特例(納期の特例)にはさらに特例(納期限の特例、違いはわかりますか?)があり、納期の特例に加え、納期限の特例についても届け出をすれば、1月10日の納期が1月20日になります。

今回、後者の特例(納期限の特例)が廃止されました。といっても実は、納期の特例による納期限が1月については1月10日ではなく、1月20日に変更されたため、納期限の特例が必要なくなったということです(書いていて改めて思いますが、極めてわかりにくいですね)。

要は、これからは、納期の特例の承認を受けていれば、7月10日(1月から6月に源泉徴収した分)および翌年1月20日(7月から12月に源泉徴収した分)までに納付すれば良いということになります。納期の特例を受けている方で、「やばい、明日(1/10)が納期限だ」と焦っている方は、今回から1/20が期限(実際には今年は1/20が日曜日なので1/21)になっていますので、ご安心ください。とはいえ、所詮6営業日伸びただけなので、抜本的な解決とはなりませんが… ちなみに、納期の特例の参考URLはこちら

以前にも書いた通り、この特例は納付の手間を1/6に減らすことができますし、「支払いは遅く」という商売の鉄則からしても積極的に活用すべきものです。ただ、6ヶ月分の金額が嵩むことで、いざ納付となって資金が足りないと慌てる方もいらっしゃるようです。我田引水にはなってしまいますが、ここは会計ソフト(もちろん会計ソフトと言えば、弥生会計ですね)を利用して、使って良いお金なのか、あくまでも預っている資金(預り金)なのかをキチンと管理しておくべきかと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 19:36 | TrackBack(0) | 業務

2012年03月21日

協会けんぽ、ついに10%の大台に

時節柄、2月中旬からずっと確定申告/青色申告に関連する話題を続けてきましたが、先週木曜日で確定申告が終了。確定申告時期は弥生のお客さま(個人事業主)にとって、非常に重要な時期だけに、無事に終わってホッと一息です。

さて、確定申告で盛り上がっている間にも、社会保険の料率改定がありました。既に弥生のウェブサイトではお知らせをしていますが、一つは健康保険料/介護保険料の料率改定。もう一つは雇用保険料の料率改定

健康保険料/介護保険料については、主に中小の法人が加入している協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険)の健康保険料率と介護保険料率が改定(引き上げ)になります。改定のタイミングは平成24年3月。実際には、翌月の給与から徴収する会社が多いと思いますので、手取りに影響が出るのは4月という方が多いと思いますが、早ければ(当月徴収の場合)この3月の給与から保険料が引き上げとなります。

医療費の増加により、もともと財政が厳しいところに、高齢者医療への拠出金が増えていることから、協会けんぽはここ数年、毎年料率を引き上げています。本ブログで最初に取り上げたのは約2年前の2010年2月ですが、この時は全国平均で8.20%から9.34%へと、大幅な引き上げでした(協会けんぽの実際の保険料率は各県によって異なります)。そして2011年には9.34%から9.50%への小幅引き上げ。そして今回2012年は、9.50%から10.00%へと引き上げとなり、ついに10%の大台にのりました。40才以上の方が対象となる介護保険料は2010年に1.19%から1.50%に、2011年には1.51%に、そして今回1.55%にとじわじわ引き上げとなっています。

もう一つの雇用保険料については、反対に引き下げとなります。これまでは、一般の事業所では被保険者(社員)負担が0.6%、事業主(会社)負担が0.95%の合計1.55%でしたが、この4月より、被保険者(社員)負担が0.5%、事業主(会社)負担が0.85%の合計1.35%となります。雇用保険料率はその時の雇用情勢と、積立金の状況を踏まえ、やや政治的に決まるようです。

ただ、折角の雇用保険料の引き下げも協会けんぽに加入している事業所では完全に打ち消しですね。ちなみに、今回の協会けんぽの料率引き上げ0.50%(全国平均で9.50%から10.00%)のうち、0.39%は特定保険料の引き上げです。特定保険料は「後期高齢者医療制度の支援金等に充てられる」保険料で、上で書いた高齢者医療への拠出金が増えているというのがこんなところにも現れています。逆に言えば、高齢化と医療費の増大が続く以上は、協会けんぽの保険料はまだまだ増えるということです。協会けんぽ自体、FAQとして「今後も保険料率は上がるのですか?」という質問に、「現状のままでは、今後も厳しい状況が続くものと考えられます。」と答えています。

社会保険についてブログ記事を書く度に思うのですが、さすがに全体の仕組みを見直さないとどうにもならないのではないかと強く危機感を抱きます。
posted by 岡本浩一郎 at 19:36 | TrackBack(0) | 業務

2011年10月13日

厚生年金はいつからもらえる?

弥生のウェブサイトでは既に8月からお知らせしていますが、この10月の給与から、厚生年金保険の料率が再び上がります。正確には、再びというよりも、毎年恒例。昨年9月に解説していますが、平成16年の年金制度改正によって、平成29年まで、毎年じわじわと上がっていくことが決まっています。

今回の料率改定は、16.058%から、16.412%への0.354%の引き上げです。料率ではわかりにくいですが、例として、給料(正確には標準報酬月額)が300,000円の方ですと、9月までが、300,000円×16.058% = 48,174円。これを会社(事業主)と従業員(被保険者)で半分ずつ負担しますので、従業員の負担額は半分の24,087円です。これが、10月の給与では300,000円×16.412% = 49,236円。従業員の負担額は半分の24,618円となります。その差、531円。一年間で、6,372円の負担増ということになります。

昨年お話しした通り、平成16年の改正前と平成29年の改正完了時点での保険料の増加は無視できないレベル(標準報酬月額が300,000円の人で、従業員負担分が年間で84,960円増加)ですが、そこはうまくできていて、毎年の負担増としては、まあなんとか耐えられるレベルです。実際問題、給与明細を見ておらず、気が付かない人も多いかもしれませんね。

既に決まっていることですし、厚生年金制度を健全に維持するためであればやむを得ないとは思いますが、最近は別の方面で気になる動きが出てきました。それは、厚生年金の支給開始年齢のさらなる引き上げです。実は、料率だけではなく、年金の支給開始年齢も段階的に引き上げられてきており、2030年までには男性も女性も支給開始年齢が65歳になります。この65歳への引き上げがもっと早まり(2021年?)、なおかつ支給開始年齢はさらに68歳〜70歳にまで引き上げられるという案(厚生労働省案, pdf)が検討されています。

今のところすぐにこの案が成立するということではないようですが、年金財政が悪化する中で、料率の引き上げだけでは将来の目処がたたないということでしょう。しかし、料率(=保険料)が上がる一方で、実際に支給される年齢が上がるのではふんだりけったりですね。私は今42歳ですので、年金の支給は早くても23年後。今は、68歳〜70歳への引き上げの検討ですが、そのうち75歳、いやいや80歳への引き上げが検討されたりすると、果たして本当に年金を受け取ることができるのかどうか。

以前も書きましたが、将来への不安こそが人々を委縮させ、経済を停滞させます。消費税にせよ、年金制度にせよ、目先の負担増は避けられなくても、将来が見通せるように是非なって欲しいと願っています。
posted by 岡本浩一郎 at 18:54 | TrackBack(0) | 業務

2011年06月20日

え、このタイミングで!?

6/16に本ブログでも提供開始をご案内した弥生給与/やよいの給与計算向けの算定基礎届「年平均による報酬月額」対応版ですが、現在提供を一旦ストップさせて頂いています。

というのも、日本年金機構のウェブサイトで「年平均による報酬月額」の計算方法が一部変更されたことが急遽告知(リンク先はpdfです)されたためです。6/16に提供を開始したバージョンは今回の告知以前に開発されていますから、当然のことながら、この計算方法変更には対応できていません。このため、急遽提供をストップし、改めて今回の計算方法変更に対応したバージョンを開発することにしました。現時点では確定したことはお伝えできないのですが、今週半ばから後半にかけて新バージョンをご提供できるように開発を進めています。

6/16のブログ記事でもちょっと書いたのですが、今回の法令改正の対象となる算定基礎届の提出期限は7月11日。つまりあと三週間です。三週間後に必ず提出しなければいけない書類(しかも決して簡単なものでなく、重要かつ複雑な書類)の仕様がこのタイミングで変更されるのは、さすがに、さすがに、厳しいです。対応するシステムを開発する弥生にとっても厳しいですが、お客さまにとっても、対応版を利用して書類を準備する時間が減ることになり、厳しい対応となってしまいます(今回の改正を反映しない形で算定基礎届を提出するのであれば、問題ありませんが、そうすると折角の改正のメリットを享受できない可能性があります)。

とにかく弥生としては一刻も早く今回の変更への対応版を提供できるようにベストを尽くします。今しばらくお待ち頂きますようお願い申し上げます。
posted by 岡本浩一郎 at 20:41 | TrackBack(0) | 業務

2011年06月14日

弥生と会計事務所を結びつけるもの

5月から会計事務所に関して色々とお話ししてきました。会計事務所の仕事って何があるんだろう、会計事務所はどのように差別化しようとしているんだろう、といった点です。そして前々回は、企業(顧問先)にとっての「自計化」の意味についてお話ししました。

そもそもこれらの記事の発端となったのは、弥生のパートナーである会計事務所が4,000を超えたということ。この記事において、「弥生にとって、会計事務所は志を共にするパートナー」と書いたのですが、実はここに「自計化」というキーワードが深くかかわってきます。

弥生とそのパートナーである会計事務所が共にする志は何か。それは、一社でも多くの中小企業に元気に活動してもらいたいという想いです。ここで言う企業は法人か、個人事業かは問いません。何かを成し遂げようという想いで起業される方を全力でバックアップしたい。懸命に成長しようという企業の後押しをしたい。そして生き残ろうという意思のある企業には絶対に潰れて欲しくない。

企業を立ち上げ、成長させ、何があっても潰さない。そのために必要なことは何か。もちろん色々とありますが、まず必要なのは現状を正確に把握すること。自計化を通じ、自社が今どんな状況にあるかを正確に、かつタイムリーに把握することが必要。そういった強い信念で結ばれているのが、弥生とPAPと呼ばれるパートナー会計事務所です。

差別化戦略の記帳代行よろず経営相談で書いたように、お客さまへのアピールとしては記帳代行の方がわかりやすい。一般的に顧問先は会計についてあまり詳しくない中で、「帳簿付けから全部面倒見ます。お客さまは事業に専念して下さい」というのは非常にわかりやすいメッセージとなりますから。それでもあえて、「お客さま自身がちゃんと理解しないとダメです。だからまずは自分で帳簿を付けましょう」と言うのが弥生のパートナー会計事務所です。

もちろん、一つの型を万人に押しつけるのが正しいとは限りませんので、例えば、最初は記帳代行で受けるけれども、ある程度慣れたら自計化に移行しましょうという会計事務所もあります。それでも、根底にあるのは、本来は企業のためにも自計化すべきだという考えです。

もう一つ付け加えると、自計化は、企業と会計事務所の役割分担という意味でも副次効果を生みます。すなわち、企業側で記帳を行うことによって、会計事務所は労働集約型の作業から解放され、より付加価値の高いサービスを提供することが可能になります。

先ほどの記事で、弥生のパートナー制度はむやみに数を追わないと書きました。これは揺るぎのない想いです。まず中小企業、個人事業主、そして起業家を支えるという志を共にする。それが全ての原点です。
posted by 岡本浩一郎 at 19:25 | TrackBack(0) | 業務

2011年06月09日

自計化の意味

前回お話しした通り、「自計化」というのは自社で記帳することです。会計事務所のアドバイスを受けながらも、基本的には自社で会計ソフトを使って記帳する。そしてそのデータを会計事務所と共有し、会計事務所は申告やよろず経営相談など会計事務所ならではの付加価値を提供するという流れになります。

「自計化」というと大袈裟に聞こえるかもしれませんが、会計事務所に「記帳代行」として丸投げした場合の「代行」という言葉が示すように、本来、自社(顧問先)でやるべきことです。それは何故か。それは、自社が今どんな状況にあるかを正確に、かつタイムリーに把握するために必要だからです。

車の運転を考えてみましょう。余談ですが、私は車が好きなので、レンタカーを含めて色々な車に乗ったことがあります。これまで、タコメーター(回転速度計)がない車は見たことがありますが、さすがに速度計(スピードメーター)がなかったり、燃料計がない車というのは見たことがありません。そりゃそうですよね。何キロで走っているのかわからない、あとどれぐらい走れるのか見当もつかない車で走るのはとても危険ですし、日本では車検に引っ掛かって走ることすら認めてもらえないでしょう。

会計というのは、自動車でいうところの速度計であり、燃料計です。自社で記帳し、自社の数字をキチンと見えるようにするということは、自分の事業が今何キロで走っていて、あとどれぐらいの燃料があるのかを把握するということです。事業には通常は免許も必要ありませんし、車検もありませんが、速度計や燃料計を持っている、そしてそれをちゃんと活用していることは、当然必要なことです。

もちろん、事業を進めていく上で、速度はある程度体感できるでしょう。売上が順調かどうか。でも、それが適切な速度なのか、どうか。黒字倒産というものがありますが、これは儲かっているのに、倒産してしまうことです。なぜこれが起きるのかというと、簡単に言えば、現金がなくなったからです。自動車で言えば、ガス欠。うわーっ、調子いいな、と思って飛ばしていたら、突然のガス欠。燃料計に目をやっていれば、少しスピードも落としていたでしょうし、早めにガソリンの補給もできたでしょう。

調子がいい時以上に、悪い時にこそ速度計や燃料計を逐次チェックすることが必要です。思ったほど速度が出ていない、でも燃料は刻々と減っていっている。この場合、目的地を変更する必要があるかもしれませんし、場合によっては、車をより燃費の良いものに乗り換える必要すらあるかもしれません。

回りくどい例えになりましたが、自社で記帳を行い、自社が今どんな状況にあるかを正確に、かつタイムリーに把握すること。それが自計化です。
posted by 岡本浩一郎 at 22:04 | TrackBack(0) | 業務

2011年06月06日

顧問先にとっては?

間が一回あいてしまいましたが、これまで、会計事務所の差別化戦略についてお話ししてきました。会計事務所の4つの業務のうち、申告業務と税務調査立会は税理士独占業務でもあり、コア業務。一方で、それだけでは差別化できないので、残りの二つの業務である記帳代行もしくはよろず経営相談が差別化の鍵になるということでした。

会計事務所の観点から、記帳代行よろず経営相談という二つのオプションを比較してきたわけですが、顧問先(企業側)から見てはどうでしょうか。記帳代行は、本来は顧問先がやるべき記帳という業務を代行する、すなわち肩代わりしてくれるのに対し、よろず経営相談に重点を置く場合は、可能な限り記帳は顧問先に任せ、会計事務所は、より付加価値の高い業務に専念しようします。

一見すると、顧問先にとっては、記帳代行の方がよい仕組みに見えるかもしれません。しかし、実際は逆なのです。

自社で記帳することを「自計化」という言い方をします。会計事務所が自計化を勧める時、それは決して、会計事務所側にとって付加価値の低い業務を顧問先に押しつけるという後ろ向きな理由からではありません。それは、記帳代行の「代行」という言葉が示すように、本質的に顧問先がやるべきことだからです。本質的に顧問先がやるべきことは顧問先がやり、その一方で、会計事務所ならではの付加価値を提供しようとしているのです。

これは私が自分で起業した際の実感でもありますが、記帳をするという行為は、単純に帳簿を付けるだけではありません。自分で帳簿付けをすることによって、初めて自分の事業の今が見えます。細かいところで言えば、経費をひとつ入力する際にも、この経費は本当に有効だったんだろうかということを考えますし、売掛金を計上する際も、その売掛金を回収できるまでの資金繰りを確認する癖もつきます。自分でやるからこそ、タイムリーに、かつ、肌で感じることができるのです。次回はこの自計化の意味についてもう少しお話ししたいと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 22:03 | TrackBack(0) | 業務